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婚約破棄してください、王子様!

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書籍紹介

逃げたいなんて思わないよう、しっかり躾けてあげる

「君に一目惚れしたんだ」英雄で眉目秀麗な王太子ルイスの婚約者に選ばれたシェリーローズ。でも実は妹が彼のことを好きだと知って、婚約破棄を決意する! 嫌われようとわがままを言ったり束縛してみたけれど、優しく許されて胸キュンしてしまう。「オレから逃げられると思った?」思惑がバレて淫らなお仕置きを受けることに! "好きなのに嫌われたい"ドタバタな結婚物語☆

ジャンル:
西洋 | ファンタジー
キャラ属性:
王子・王族・貴族
シチュエーション:
甘々・溺愛 | 幼馴染・初恋の人
登場人物紹介

ルイス

ベルンハイム王国の王太子で戦争を終わらせた英雄。過去、ローズに慰められて一途に想うようになった。民や臣下に慕われ、なんでもこなす完璧王子。ローズが絡むとネジが少し外れることも?

ローズ(シェリーローズ)

公爵家の長女。しっかり育てられたものの、妹を大事にするあまり、自身を犠牲にしがち。妹のため、婚約破棄を画策することになる。

立ち読み

「お姉様……私、怖い」
「大丈夫、大丈夫よ」
 震えながら私に縋り付く妹の手を握る。
 戦争が終結してから二年という歳月が過ぎていた。
 私──シェリーローズ・アークライトは妹のラピスと一緒に公爵である父に連れられ、ベルンハイムの王城に来ていた。
 どうしてそんなことになったのかと言われれば、話は簡単。
 私と妹のどちらかをこの国の王太子、ルイス・ベルンハイム様の婚約者とするためだ。
 王太子、ルイス・ベルンハイム様は御年二十三。私より三つ年上、妹とは六つ年が離れている。
 彼は特に武に優れ、二年前のサディアスとの戦では、戦いの神もかくやという活躍を見せたらしい。前線に立ち続け、味方を鼓舞し、敵兵を屠り、ベルンハイムを勝利に導いた立役者。国の英雄とも謳われている。
 そんな彼は、今は軍事の最高顧問として、城内で忙しく働いているとか。
 仕事は、後進の育成もあるが、主に戦後処理。王太子自ら何度も戦地となった場所を訪れ、戦渦に巻き込まれた人たちの話を聞き、適切な支援を行っていると聞く。
 戦場にあれば、これほど恐ろしく頼もしい人はいないと言われた彼が、誰よりも率先して復興支援に力を入れている。その姿は部下達の感動と忠誠心を集め、今や軍部は国王ではなく王子が掌握しているという噂もある。
 話半分にしてもできすぎだと思うのだが、父曰く、これは全て事実らしい。そんな息子に、父親である国王が早く結婚して跡を継いでもらいたいと願うのも無理のないことで、戦後処理も片付き、そろそろ落ち着いてきた二年というこのタイミングで満を持して、息子に結婚話を持ちかけたとそういう話だった。
「だけど、どうして私たちなのでしょう」
 王城の廊下を歩きながら父に尋ねる。私の言葉に、妹のラピスがビクリと身体を震わせた。
 今回、白羽の矢が立ったのは私とラピスだ。実際の私たちを見て、王子がどちらと結婚するか決めるらしいが、何故私たちが選ばれたのか、それが不思議だった。
 もちろん、公爵家という地位にあるので、選ばれたこと自体に不審な点はない。だが、公爵家の令嬢など他にいくらでもいる。どうして私たちだったのかが知りたかった。
「私も知らぬ。陛下から呼び出され、お前の娘のどちらかを息子の婚約者としたい、と言われただけなのでな。だが、断ることは許されない。分かっているな」
「それは……ええ、分かっています」
 父の言葉に頷いた。
 私たちは、公爵家の娘だ。幼い頃から政略結婚の重要性を教え込まれているし、父や国王の命令が絶対であることも分かっている。
 結婚は個人の自由になることではないのだ。家と家の繋がりが何よりも優先される。当人の意見など考慮してもらえないのが一般的で、そうあるべきと育てられている。
 私もとうの昔に自由恋愛など諦めた。年の離れすぎたおじいちゃんとかはさすがに勘弁して欲しいな、くらいの希望くらいしか持っていないのだ。
 それは妹も同じ。だが、妹は先ほどから私の手を握ったままブルブルと震え続けている。
「ラピス……」
「お姉様……もし、私が選ばれたらどうしよう……」
 結婚相手は選べない。それを分かった上での妹の言葉を聞き、私は繋いでいない方の手を伸ばし、彼女の頭を撫でた。
 妹の気持ちは、分からなくもないと思ったからだ。
 ルイス王子は英雄として国民に語られている。その肉体はたくましく、筋骨隆々として、眼光は鋭い。そう、噂が広がっている。
 実際の容姿を知る人は少ない。何故なら王子はずっと戦後処理に追われていて、国民の前に殆ど姿を見せていないから。だから私たちは噂でその姿を推測するしかないのだ。
 戦争を終わらせた立役者と言われるくらいの人だ。がっしりとした体格をしていたとしても不思議ではなくむしろ納得なのだが、妹はその噂を信じ、震えていた。
 妹の好みは細身の爽やかで真面目な男性。王子のイメージとは逆。怯えるのも当然だった。
 妹のラピスは私よりもかなり背が低く、ちんまりとした小鳥のようなイメージの子だ。
 私と同じ色のダークグレイの瞳は常に濡れたような艶を帯びており、庇護欲を誘って止まない。流行の型に結い上げたプラチナブロンドの髪も美しく、我が妹ながら最高に可愛らしいと思う。今日、妹が着ている丸みを帯びたグリーンのドレスも実に愛らしく、彼女によく似合っていた。
 対して私はといえば、ラピスの姉というだけで、特筆するようなところもない。髪の色と目の色が同じなだけ。妹ほど着飾ることに興味もないし、今日着ている赤いドレスは、気の強そうな印象を与えることにさっき気づき、実は結構へこんでいる。
 髪型は、編み込み、サイドの高い位置で括っている。柔らかいウェーブが掛かっている髪質は妹とお揃いで気に入っていたが、妹とは違い、可愛らしい印象など露ほども与えない。
 そう、私が王子なら絶対に妹を選ぶと確信できるほど、私と妹には差があるのだ。
 とはいえ、それを悔しいとは思わない。妹は妹で、私は私だと分かっているから。
 両親も差別するような育て方はしなかった。可愛い妹のことが私は大好きで、妹も私を慕ってくれている。とても幸せで何の不満もない。
 ただ、私は姉なので、妹の世話をしてやらなくてはとは思っている。
 妹は甘えたがりなところがあり、何かあるとすぐに私を頼ってくるのだ。両親からも「お前は姉なのだから、妹を優先してやれ」と言われているし、私も妹に頼られるのは嫌いではないので、昔から妹の願いを優先して叶えてきた。それは、私にとっては当たり前のこと。
「きっと大丈夫よ。その……殿下が選ばれるということだから、私には何とも言えないけど、私もあなたが選ばれないように祈っていてあげるから」
「本当に? お姉様……」
「ええ、もちろん」
 妹の縋るような目に頷く。
 妹は、相当王子に選ばれたくないようだ。私も可愛い妹が不幸になるのは見たくない。だから、王子の好みとは違うだろうが、どうか彼が私を選んでくれますようにと思っていた。
 私は誰と結婚しようと構わないし、気にならない。そして妹か私という話なら私でも問題ないのだから、それなら皆のためにも私を選んでくれれば良いという考えだった。
 ──今更、結婚に夢なんて持たないもの。
 王子の年齢は私の三つ上。年の差はちょうどよい。それに王子が妹の思うような筋骨隆々のむさ苦しい男だったとしても、彼が国の英雄であることには違いない。
 サディアスとの戦。彼がいたから勝利できたとも聞いている。そんな国を救ってくれた彼に嫁げるというのは、幸せなことではないだろうか。
 ──ま、何とかなるでしょう。
 今悩んでも仕方ないと、私はどっしり気持ちを落ち着けた。未だ妹は震えている。本当に可愛らしい。ぜひ妹には政略結婚ではなく、恋愛結婚をさせてあげて欲しいと願ってしまう。もちろん、無理な相談だということは分かっているけれども。
「もうすぐ陛下が殿下と一緒にこちらにいらっしゃる。お前たちはここで待機だ」
 父に連れられて入った部屋は、応接室のようだった。
 室内には緋色の絨毯が敷かれ、壁には著名な画家が描いたと思われる絵がいくつも掛かっている。部屋の中央には白いテーブルクロスが掛けられた楕円形の長テーブルがあり、その上には真っ赤な薔薇が飾られていた。
 ──ドキドキするわ。
 初めて会う、自分の婚約者になるかもしれない王子がどんな人なのか、気になって仕方がない。
 ようやく私から離れた妹は、隣で必死に深呼吸を繰り返していた。
「……いらっしゃったぞ。言うまでもないが、無礼な真似はしないようにな」
 父の言葉とほぼ同時に、客室の扉が開けられた。
 妹と二人で深く頭を下げる。数人分の足音。
 その足音は私たちの前で止まった。声が掛けられる。
「面を上げるがよい」
 父ではない声に従い、顔を上げる。私たちに顔を上げろと命じたのは、この国の王であるベルンハイム国王だった。
 五十代の国王は、それを感じさせないほど若々しかった。だが、王者の風格があり、反射的に跪いてしまいたくなる。国王と初めてまともに対面した私は、とんでもなく緊張してしまった。
 チラリと隣を窺う。心なしか、妹もプルプルと震えていた。やはり国王の圧倒的な雰囲気が恐ろしいのだろう。気持ちはよく分かる。
 彼は私と妹を交互に見ると、その少し後ろにいた人物に声を掛けた。
「ふむ。ルイス。どちらだ」
 ルイス、という言葉に釣られ、そちらに目を向ける。
 一人の男性がこちらを見ていた。
 金髪碧眼の美しい面差しに引きつけられる。目が大きく、キラキラとして美しいと思った。一つ一つの顔のパーツがはっきりとしている。背が高く、身長がある私でも見上げるほどの高さがあった。体格は筋骨隆々という感じではなく、細身で引き締まっているという印象だ。男らしいのに、男臭さを感じさせない。後ろに従者らしき人物を連れていたが、私の目は王子に釘付けになっており、彼の方にまで意識を向けることができなかった。
 ──すごい。綺麗な人。
 なよなよしたところは全くない。綺麗という言葉がぴったりと嵌まる。強烈な美を意識させる男性だ。目に力があり、人を引きつけるオーラのようなものを感じた。
 前髪を上げているので形の良い額と意志の強さを感じさせる眉に目が行く。
 王子は、貴族がよく着るような丈の長い上衣と、その中にベストを着ていた。一目見ただけで、上質な生地が使われているものだと分かる。
 格好自体は一般的なものではあったが、それは王子によく似合っており、彼の魅力を上手く引き立たせていた。鍛えているからだろうか。特に姿勢が美しく感じる。すっと背を伸ばした王子は立ち姿さえも他の人たちとは違っているように見えた。
 さすが英雄と呼ばれる王子だ。存在感が違いすぎる。
 ぼーっと見惚れていると、王子と視線が合った。彼はにっこりと笑い、国王に告げる。
「彼女です。彼女をオレの婚約者に指名します」
 ──え、と思った。
 王子は間違いなく私を見て、私を婚約者に指名すると言っている。
 妹のことがあるから、私が選ばれれば良いなとは思っていたが、まさか本当に自分が呼ばれるとは思わず、目を瞬かせた。現実のことだとは思えなかったのだ。
 反射的に、ドレスの上から太股を抓る。
 ──痛い。
 ということは夢ではない。どうやら現実に起こっている出来事のようだ。
 私が混乱しているうちに、父と国王、そして王子の間で話が進んでいく。
「姉のシェリーローズでよろしいので?」
「シェリーローズ殿。赤いドレスを着た令嬢の方だな。間違いないな、ルイス?」
「はい、もちろん」
「それでは、アークライト公爵。そなたの娘、シェリーローズ殿と息子、ルイスとの婚約を進めたい。構わないな?」
「承知致しました。娘を殿下のお妃にとは光栄でございます」
 訳が分からないうちに話が決まっていく。国王に呼ばれ、文官が部屋にやってくる。彼は恭しい態度で、一枚の書面をテーブルの上に置いた。それを王子が確認し、サインをする。名前を書き終わった彼は、「はい」と私に羽根ペンを渡した。咄嗟に受け取り、王子を見る。
「えと……あの?」
「ここにサイン。君も書いて」
「あ、はい……」
 促されるままに署名をする。怒濤の展開すぎてついていけない私を余所に、国王と王子、そして父は満足そうに書面の確認をしていた。それを文官が回収し、部屋を出ていく。ほんの数分の出来事に、一体何が起こったのかと、私は終始混乱し続けていた。
 そんな私の側に王子がやってくる。彼は美しい顔をこちらに近づけ、私に言った。
「これで婚約は成立した。オレと君は今から婚約者というわけだ。よろしく」
「え……あの……え? 婚約者?」
「だって、今、署名しただろう?」
「……そ、そうですね」
 どうやら私が先ほどサインしたものは、婚約を締結する文書だったらしい。
 何も考えず署名してしまった自分を恥じつつ、ちらりと父を見ると、彼はとても満足そうな顔をしていた。
 ──どうやらお父様にも満足してもらえたようね。
 私が選ばれたことを父はどう思っているのだろうと気になったのだが、気にする必要もなかったようだ。ホッとしつつ、妹の様子を窺おうとしたものの、確認するより先に、王子に言われてしまった。
「父上。彼女をオレの部屋に連れていっても構いませんか? せっかく婚約者になったことだし、親交を深めたいと思うのですが」
「そうだな。それが良いだろう。アークライト公爵、構わないな?」
「もちろんです。娘はもう殿下の婚約者ですから。どうぞお好きになさって下さい」
「良かった。それじゃあ、行こうか」
「えっ、えっ……」
 あっという間に話が決まり、王子に手を握られる。今まで一度も異性に触れられたことがなかったので、そんな些細な動きにさえ反応してしまう。
 王子の手は温かく、力強かった。女性とは全然違う。硬い皮膚の感触が、彼が武人であることを示していた。
 ──男の人の手だ。
 それに気づき、恥ずかしさでじわじわと頬が赤く染まっていく。
「うう……」
「不安? 大丈夫。まだ君を襲うつもりはないし、ちゃんと同意を得るまで手は出さないから安心して」
「……えっと、はい」
 気づかってくれた王子には悪いが、襲われる心配以前の話だった。
 手を繋いだだけで恥ずかしく思っているなどとはさすがに言い出せず、曖昧に頷く。
 できればラピスの様子を確認したかったが、結局まともに話すことすらできず、部屋を退出する羽目になってしまった。
 強い力で引っ張られ、抵抗する間もなく外に出る。王子は私と手を繋いだまま、城の奥へと向かった。
 先ほど、王子は私を自分の部屋に連れていくと言った。つまり、王族たちが住むという、王族居住区の方に向かっているのだろう。
 王子に引っ張られるように歩いていると、彼はこちらを見ず、「ごめん」と言った。
「いきなりで驚いたと思う。だけどオレ、君に一目惚れして……」
「えっ?」
 ──一目惚れ? 私に?
 まじまじと王子の後ろ頭を見てしまう。彼の耳がほんのりピンク色に染まっていることに気づき驚いた。
 ──嘘でしょう?
 妹なら分かるが、私に?
 信じられない気持ちで王子を見る。彼は少し私を振り返ると、へにゃりと崩れた笑みを見せた。それを可愛いと思ってしまう。
「嘘じゃない。だから、オレは君がいいって言ったんだ。これから君にはオレのことを知ってもらって、好きになってもらえたらなと思ってる」
「はあ……」
 信じられないところではあるが、当然のことながら嫌な気持ちにはならない。むしろ誠実に接してもらったことで、かなり王子に対する印象は良くなっていた。
「その、私も殿下のことを知りたいと思います」
 婚約が自分の自由になることではないと諦めてはきたが、与えられた婚約者とできるだけ仲良くしたいとは思っているのだ。夫となる人と信頼関係が築けたら。そう、思っていた。
 だが、王子は私の言葉が気に入らないのか、不愉快そうな顔をする。
「殿下? どうなさいましたか? 何か、その、失礼なことを申し上げてしまったでしょうか?」
 何か彼の意に添わないことを言ってしまっただろうか。そう焦る私に、王子は「違う」と言い、足を止めた。
「その殿下って言うの、気に入らない。オレにはルイスって名前があるんだ。君はオレの婚約者なんだから、きちんと名前で呼んで欲しい」
「でも……殿下の御名をなんて」
 さすがに失礼ではないだろうか。だが、王子は引かなかった。
「ルイス、だ。それと君のことだけどシェリーローズって呼べばいい? それとも愛称がある?」
「家族はローズ、とそう呼んでいましたが」
 シェリーと呼ぶ人も中にはいるが、殆どはローズと呼ばれている。そう説明すれば、王子は頷いた。
「分かった。それならオレも君をローズと呼ぶことにしよう。君もオレのことはきちんと名前で呼ぶこと。分かった?」
「……はい」
 名前を呼ぶというのはかなり躊躇われたが、英雄とも見られている王子の言うことを無視できるわけがない。
 仕方なく同意すると、彼は「良かった」と笑った。
「妻になる人に、殿下、なんて呼ばれたくないから。あ、呼び捨てで頼むよ。敬称なんていらないから」
「……はい」
 ルイス様、と呼ぼうと考えていたところに釘を刺された。
 いくら婚約者とはいえ、世継ぎの王子を呼び捨てで呼ぶなんてと思ったが、彼は頑として退かない。溜息を吐きつつも了承すると、王子──ルイスはとても嬉しそうに笑った。
「良かった」
「っ!」
 その笑顔がとても綺麗で思わず視線が引きつけられる。何も言えないでいると、彼は私にキラキラとした目を向けながら言った。
「じゃ、練習しようか。オレのこと、呼んでみて」
「え……」
「いきなり本番じゃ、君も──ローズも失敗してしまうかもしれないし。練習をしておいた方が良いかなと」
「あ……」
 さりげなく、『ローズ』と愛称を呼ばれたことに気づき、頬が赤くなった。なんだか凄く恥ずかしい。そんな私の反応を見たルイスも同じく顔を赤くした。
「名前を呼んだくらいで恥ずかしがらないで欲しい。オレまで恥ずかしくなってきたじゃないか」
「す、すみません、でも……家族以外の男の人に、愛称で呼ばれることなんてなかったので」
 変な感じだったのだ。とはいっても嫌だとは思わなかった。
 こそばゆいような、照れくさいような、心の中が温かくなるような不思議な気持ち。
 正直に自分の今抱いている感情を告げると、ルイスは「そうか」と頷いた。そうして私の目を見つめ、促すように言う。
「君は? オレの名前を呼んでくれないのか?」
「え」
「大丈夫。恥ずかしいのは君だけじゃない。オレだって恥ずかしかったんだから、同じだ」
「同じって……」
 そういう問題ではないのではと思ったが、ルイスは聞き入れなかった。
 期待に満ちた目で、じっと私を見つめてくる。その視線に耐えきれず、私は小声ではあったが彼の名前を呼んだ。
「……ルイス」
「何? ローズ」
 ぱあっと表情を明るくし、ルイスが返事をする。私はといえば、恥ずかしさのあまり先ほどの比ではないくらいに真っ赤になってしまった。
 ──何、これ。恥ずかしい。
 自分の頬に両手を当てる。おかしなくらいに熱くなっていた。ルイスが嬉しそうに私の名前を連呼する。
「ローズ、ローズ。嬉しい。君がオレの名前を呼んでくれるなんて。ほら、もう一回俺の名前を呼んで。ローズ」
「も、もう……止めて下さい。恥ずかしくて死んでしまいます」
「ただ、名前を呼んだだけなのに?」
「そうです……」
 羞恥と顔の熱さが止まらない。プルプルと身体を震わせつつ懇願すると、ルイスは「仕方ないか」と止めてくれた。
「ローズが嫌がるから、これ以上は止めておこうか。でも、練習したんだから、次からはオレの名前を呼べるはず。楽しみにしてるから、ちゃんと呼んで欲しい。分かった?」
 間違いなく、「はい」の答えしか求められていない。
 そう理解し、私は羞恥に呻きながらも覚悟を決めて口を開いた。
「分かりました。ルイス。……その、これでいいですか?」
 できるだけ事務的な口調で言ったはずだ。
 なのにルイスはとても嬉しそうに目を細めて「なあに、ローズ」と、実に甘ったるい声で返事をくれたのだった。

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