大富豪の花嫁
幼妻は淫らな指に蕩かされる

-
- 本販売日:
- 2019/09/17
- 電子書籍販売日:
- 2019/09/17
- ISBN:
- 978-4-8296-6882-5
- 試し読みについて
- 電子書籍のご購入について

私の妻が可愛すぎるっ!
結婚直後から二年間の別居生活を強いられていたアリエル。夫のデイモンは大富豪で素敵な人だけど、愛してはもらえないの? 悲しみに暮れていると彼が現れて「君を迎えに来た」心を閉ざしたアリエルを癒すように優しくキスしてくれて……! 「はじめて見たときからずっとこうしたかった」抱き寄せられ、たくみな愛撫でうぶな身体に快感を教え込まれる新婚ラブライフが始まる!

デイモン
貿易会社の経営者で大富豪。貴族ではないが、非常に紳士的で社交界でも人気がある。妬む輩が多いため、命を狙われたこともある。

アリエル
大地主の娘で、一通りの淑女教育は受けている。デイモンに好意を持ってプロポーズを受けたが、結婚から2年間放置されて拗ね気味。
アリエル・フォレストは村を見下ろす丘の上に立っていた。
風が吹き上げてきて、長い金色の髪がなびいている。深い緑の瞳はいつもと変わらぬ村の風景を眺めていた。
風が少し冷たい。思わず華奢な身体を震わせる。
アリエルは十八歳だが、もう結婚している身だ。こんな丘の上で一人のお供もつけず、まして長い髪もまとめずに散歩しているなんて常識外れと言う人がいるかもしれない。
しかし、元々、アリエルの存在自体が常識から外れている。
この土地に来て、もう二年も経つ。
あのとき、アリエルは白いドレスに身を包んだ幸せいっぱいの初々しい花嫁だった。いや、少し不安はあった。夫となったデイモンが自分を子供扱いしているような気がしていたからだ。
でも、結婚したんだから……。
わたし達、もう夫婦でしょう? これからは違うわよね?
十六歳だったアリエルは結婚生活に夢を抱いていた。なんといっても、デイモンはとても礼儀正しい紳士だった。
階級こそ紳士ではなかったものの、喋り方から物腰、雰囲気まで完璧だった。
最初こそ彼を怖いと思ってしまったアリエルだが、優しい言葉をかけてもらえ、すぐにほのかな恋心を抱いてしまった。
でも、それは彼の策略だったのかもしれない。
今、アリエルは田舎の小さな屋敷で暮らしている。夫はいない。恐らくロンドンだろう。彼はもうアリエルの夫とは言えない。形式的にはそうであっても。
でも……もういいの。
アリエルは大きく息を吸った。
わたしはここが好き。
村には牧師夫人を始め、いろんな人がいて、親しくしてくれている。アリエルが何者であっても、彼女達は一人の人間として扱ってくれる。
そう。わたしはもう子供じゃないわ。
わたしはもうこの暮らしに満足しているのよ!
大声でそう叫びたかった。
自分をこの村に置き去りにした夫デイモンに。
太陽がずいぶん上がってきて、光が眩しい。アリエルは眉をひそめ、手を翳した。再び村の全景を見渡す。
ここが、わたしの生きる場所。
何もかも満足している。
アリエルは踵を返して、屋敷へと戻る道を歩き始めた。
十六歳のアリエル・カーソンは夢見る乙女そのものだった。
父親は大地主で、母親はアリエルが子供の頃に亡くなっている。兄弟姉妹はいない。父は母が亡くなった後も再婚しなかった。
それなら一人娘のアリエルはさぞかし可愛がられただろうと思われるが、実際はそうではなかった。
父はとても冷淡な性格なのだ。
それが理解できるようになるまで、アリエルは父の関心を引こうと涙ぐましい努力をしていた。
でも、今は判っている。父親に何か悪気があるわけではない。ただ、人を愛するということを知らないのだろう。
誰に対しても優しいところなんてない。たまに父の気が向いたときに可愛がってくれるだけ、まだましだ。それくらいは関心を持ってもらっているという証拠だからだ。
そう。それだけでも幸運だと思わなければ。
アリエルは心の中に父に愛されたいという希望をまだ抱いていたが、それを表すことはしなくなっていた。そんなことをしても無駄だと、もう悟っていたのだ。
今は大地主の令嬢として、身に付けるべきマナーやダンス、教養や音楽などを家庭教師から習っている。乗馬の腕もずいぶん上達していた。
だって、そろそろ社交界にデビューする年齢ですもの!
父は何も言わないが、さすがに社交界のことは考えてくれているはずだ。良家の娘は夫を探すため社交界にデビューし、舞踏会などの催しに参加して、夫となる男性に見初められるのを待つのだ。
もちろん誰でもいいわけではない。
アリエルは素敵な若者が自分にダンスを申し込んでくれるところをよく空想していた。見目麗しく、育ちがよくて、マナーも完璧の優しい若者だ。
そんな男性が自分の前に跪き、薔薇の花束と共にプロポーズをしてくれて……。
幸せに包まれて、ウェディングドレスを着るのだ。
アリエルは勉強の時間にそういった空想遊びをしては、家庭教師に叱られていた。
そして、ある日の夜……。
ロンドンに出かけていた父は、一人の男性を伴って帰ってきた。
父の帰宅を大喜びで迎えたアリエルは、父が一人でないことに気づき、戸惑った。父が客人を連れて帰ることは滅多になかったからだ。
黒髪のその男性は長身で、妙に威圧感があった。年齢は三十歳くらいだろうか。大人の男性といった雰囲気で、肩幅は広く、スマートでありながらも筋肉質な体形をしていた。
顔立ちは粗削りでも整っている。特徴的なのはその眼差しで、眼光が鋭かった。アリエルは彼の青灰色の瞳に見据えられて、一瞬怖いと思ってしまった。
父は彼を振り返った。
「娘のアリエルだ。アリエル、彼はデイモン・フォレストだ」
彼は進み出ると、レディにするかのように礼儀正しく、恭しくアリエルの手を取った。
「アリエル……。デイモンと呼んでほしい」
彼の低い声が耳に響いて、ドキッとする。男性に手を取られたのも、レディのように扱われたのも初めてだったから無理はない。
「あの……初めまして、デイモン」
そのとき、彼は微笑みを見せた。
その微笑みがとても優しそうに見えて、ますますドキドキしてきてしまう。
最初に見据えられたように思ったのは、勘違いだったのかもしれない。こんなに礼儀正しく優しそうな人なのだから、初対面の少女を睨んだりするはずがなかった。
父は言う。
「今夜、デイモンは泊まることになる。夕食のときはおまえも同席するがいい。もっとちゃんとしたドレスに着替えてな」
アリエルは頬を赤らめた。
普段着のドレスは少しくたびれていて、客人の前に出るような格好ではない。もちろん、アリエルは父が帰ってきたから、着替えずにそのまま玄関まで出てきてしまったのだ。
「はい、お父様」
社交界にデビューはしていないが、ちゃんとしたドレスは何着か誂えてもらっている。近くの地主の家に招かれることもあるからだ。
アリエルは部屋に戻ると、自分の身の回りの世話を専門にしてくれている小間使いのメグを呼んだ。
「今夜、お客様との夕食に、わたしも同席していいんですって!」
メグはアリエルより三歳年上で、少女の頃からアリエルの子守りとして雇われていた。なので、気心が知れているし、アリエルからすると、メグは使用人ではあるものの、優しくも厳しい姉のような存在だった。
「まあ、お嬢様。お客様って、あの殿方ですよね? わたし、こっそり覗いちゃったんですけど、素敵な男性じゃありませんでした?」
「そうなの!」
アリエルは自分がはしゃいでいることに気がついて、ふと黙った。が、代わりにメグが明るい笑い声を上げる。
「お嬢様のお綺麗なところをお客様に見てもらわなくちゃいけませんね! だって、ひょっとしたら、お嬢様を見初めてくださるかもしれませんし」
「まあ、そんな……。わたしは別に……」
自分はまだ社交界にデビューもしていないのだ。
デイモンのような大人の男性が、果たして自分のような小娘を気にかけてくれるだろうか。そんなことを期待すること自体、間違っているのかもしれない。
「だって、わざわざ旦那様がお連れになったんですもの。そういう心積もりでいらしたのかもしれませんよ?」
メグはすっかり浮かれている。アリエルは、彼女の言うとおりならいいのにと思うだけだ。
おかしな期待を抱くのはやめよう。
父に褒められたい一心でやったことが、認められないばかりか、鼻で笑われることがよくあった。期待などしないほうがいい。期待しなければ、褒められなくても傷つかないし、思いがけなく褒められたら、嬉しさが増すからだ。
アリエルは子供の頃からの経験でそれを学んでいた。
デイモンのことも、自分に関心を持ってくれるかもしれないと期待しなければ、がっかりせずにいられるだろう。
そう思いつつも、アリエルの心には彼のあの青灰色の瞳がまだしっかりと刻みつけられているようだった。
彼のことを思い出しただけで、胸がドキドキしてくる。
わたしなんか、本気で相手にされると思っちゃダメ……。
「さあ、お嬢様。どのドレスになさいます? 髪形はどうしましょう?」
メグに尋ねられて、はっと我に返る。
ディナーの席に着られるようなドレスは少ない。それでも、アリエルは衣装戸棚に近づいて、一枚のドレスを選んだ。
薄いピンク色のドレス。
一番上等で、アリエルのお気に入りだった。
アリエルは早くもデイモンと同じテーブルにつくことを夢想していた。
少しでもいいから、わたしのことを見てほしい。
褒めてくれたらもっと嬉しいけれど……。
アリエルはそう思ったが、慌ててそれを打ち消す。期待は裏切られることがある。それを肝に銘じておかなければ、自分が傷ついてしまうかもしれない。
わたしは少し臆病なのかしら。
そんなことを思いつつ、アリエルは精一杯、着飾る準備を始めた。
ディナーは正餐室で行われた。
晩餐会などを開くときの広く豪華な部屋で、テーブルも長いのだが、その端のほうに三人の席が設けられた。なんだか滑稽だと思ったが、そんなことを口に出したら叱られてしまう。
アリエルはデイモンと向かい合わせの席に座り、顔を上げる度に彼と目が合い、思わず逸らしてしまう。
観察されているみたい……。
気のせいかもしれないが、やたらと彼はこちらを見つめている。
デイモンは紳士そのもののように見えたが、紳士階級ではないらしい。貴族でもない。ただ、貿易会社を経営していて資産がかなりあるのだと、父は何故か機嫌よさげにアリエルに告げた。
アリエルはそんな父に戸惑っていた。
父とデイモンはどうやって知り合ったのだろう。父は階級差には敏感で、早い話が差別意識が強い。『貴族や紳士階級でなければ我々と同じ人間とは思えない』という発言を、今まで何度も聞いたことがある。
だから、父がデイモンをこれほどもてなしているのには、何か理由があるのだろうと思った。
父とデイモンとでは年齢も違うし、友情を通わせているとは思えなかった。
そんなことを考えていると、父がアリエルのほうをちらりと見た。
「娘はダンスが得意で、ピアノも弾ける。歌もなかなか上手い。社交界でのマナーをちゃんと身に付けている。どこに出しても恥ずかしくない娘なんだ」
父の褒め言葉を聞いて、アリエルは嬉しかった。父が褒めてくれることは滅多にないからだ。きっと機嫌がいいからだろう。
しかし、客人の前で褒められるのは、少し気恥ずかしい。
デイモンは低い声でぼそっと言った。
「素晴らしい花嫁になりそうだな。……年が若すぎることを除けば」
「十六なら充分だ。いつでも結婚できる」
結婚……。
アリエルの胸はドキンと高鳴る。
父がデイモンに、アリエルと結婚したらどうかと勧めているように聞こえたからだ。
でも、まさかそんな……。
父の階級意識のことを考えると、やはりそれはないと思う。けれども、そのわりに、父の言動は不思議だった。デイモンを屋敷に連れてきたことも、そして夕食の席にアリエルを呼んだことも。
「おまけに器量よしだ。君もそれは認めるだろう?」
父の言葉に思わず目を上げると、デイモンの視線が自分に注がれる。アリエルは頬を染めて、またうつむいた。
「確かに……」
「性格は見てのとおり、内気だ。だが、女はおとなしいほうがいい。世の中にはおしゃべりな女が多すぎる」
「それは同意する」
デイモンはおしゃべりな女性が嫌いなのだろうか。
アリエルは確かに父の前ではあまり喋らないが、メグや友人とはよく喋る。内気そうに見えるのは、デイモンのような男性にはあまり慣れてないせいなのだ。
特に、彼から見られていると意識しているせいで、なかなか顔も上げられない。
食事はそんなふうに微妙な雰囲気で進んでいった。父とデイモンの会話は、別にアリエルのことだけではなかったが、他の難しい政治だの経済だのの話をしたかと思うと、またアリエルの話に戻っていく。
やがて、食事は終わった。デザートを食べた後、アリエルはお腹がいっぱいになり、眠気が襲ってくるのを感じた。
これから父とデイモンは男同士でお酒でも飲んで話をするのだろう。アリエルは父に、部屋に帰るように言われるのを待った。
ところが、父は一人で席を立つと、何も言わずにどこかに行ってしまった。
えっ……。
アリエルは驚いて、父が出ていったドアのほうを見た。ドアはしっかり閉まっている。男性と二人きりで同じ部屋にいてはいけないと言われているが、自分はまだ社交界デビューもまだだからいいのだろうか。
アリエルはどうしていいか判らず、思わずデイモンの顔を見てしまった。
彼は眉をひそめていたが、アリエルと目が合うと、微笑んだ。父には素っ気ない受け答えをしていたものの、自分にはこうして優しい顔を見せてくれる。
「あの……父はどうしたんでしょう。急に席を立ってしまって……」
「お父さんは私と君を二人きりにしようと思ったんだろう」
「え、でも……」
彼はふっと笑うと、立ち上がった。
「場所を変えないか? たとえば……居間はどうだろう?」
「あ、はい」
アリエルは慌てて立ち上がり、彼を居間へと案内した。
居間はアリエルが居心地良く整えた場所だった。家族が寛ぐための部屋だが、主にアリエルしか使っていない。父は書斎にいることが多いし、客は客間に通すからだ。たまに親戚などが入るくらいだった。
大きなソファにはクッションがいくつも置いてあり、テーブルには可愛らしい花が飾ってある。もちろんアリエルが自分のために飾っているのだ。
デイモンは急にアリエルの手を取った。そして、手を引いたままソファに座る。必然的に隣り合わせで座ることになってしまい、アリエルは戸惑った。
今日会ったばかりの男性と、こんなに近くにいてもいいのだろうか。
そもそも、同じ部屋で二人きりになるのもよくないと思う。けれども、父がそう仕向けたのなら、嫌だとは言えない。
デイモンはじっとアリエルを見つめてくる。
「君は……とても若い」
確かにそうだ。
「はい……。でも……」
「結婚はできる年齢だ。私の花嫁になってくれるかい?」
突然すぎるプロポーズだった。
アリエルは息が止まりそうになる。
プロポーズされるかもしれないという予感はあった。しかし、本当にされるとは思わなかったのだ。
だって、会ったばかりの人だ。彼はアリエルのことを知っているとは言えないし、アリエルもそうだった。
「ど、どうしてですか? 今日会ったばかりで……」
「私もそろそろ花嫁が欲しい。君のお父さんは私と君を結婚させたがっている。君は家柄がよく、気立てもよさそうだ。大人になったら、きっと美しく成長するだろう」
最後の一言に、アリエルはぽっと頬を染める。
だが、彼は淡々としていて、自分が想像していたプロポーズとはまったく違っていることにガッカリした。

ブラウザ上ですぐに電子書籍をお読みいただけます。ビューアアプリのインストールは必要ありません。
- 【通信環境】オンライン
- 【アプリ】必要なし
※ページ遷移するごとに通信が発生します。ご利用の端末のご契約内容をご確認ください。 通信状況がよくない環境では、閲覧が困難な場合があります。予めご了承ください。

アプリに電子書籍をダウンロードすれば、いつでもどこでもお読みいただけます。
- 【通信環境】オフライン OK
- 【アプリ】必要
※ビューアアプリ「book-in-the-box」はMacOS非対応です。 MacOSをお使いの方は、アプリでの閲覧はできません。 ※閲覧については推奨環境をご確認ください。
「book-in-the-box」ダウンロードサイト- ティアラ文庫
- 書籍詳細