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きまじめ竜騎士の子作り指南①
求婚編

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書籍紹介

あのっ、子種を分けていただけませんか!?

竜守一族のシルフィアは子孫を残すべく街へ赴き、騎士公爵リューンと出会う。いきなり子種をせがんで一度断られたものの、その後も世話を焼いてくれる誠実な彼にどんどん惹かれてゆく。やっぱり彼の子種が欲しい……。再び頼むと押し倒されて!? 「私の劣情を煽ってくれたお返しだ」巧みな舌で与えられる初めての愛撫は蕩けるほどに気持ちいい。身体の奥から甘い蜜が溢れて――!

ジャンル:
西洋 | ファンタジー
キャラ属性:
ワイルド・騎士・軍人
シチュエーション:
幼馴染・初恋の人 | 甘々・溺愛
登場人物紹介

リューン

レスヴィアーザ王国の騎士。現王太子の従兄にあたる。珍しい黒髪の持ち主。かつて竜騎士だった父に憧れ自らも志しているが……。

シルフィア

山奥の村で竜を守って暮らしてきた一族の娘。子孫を残したいと街へ赴き、リューンに出会う。

立ち読み

「……そんなに子種が欲しい? それがどういうことなのか、わかってる?」
「はい、もちろんです!」
 大きな窓の外に、茜色から紫色に移り変わる空の色が見えたが、シルフィアの目に映るのはリューンの艶やかな黒髪と、濃く深い緑色の瞳だった。
 ゆったりとした豪勢な革張りのソファに押し倒され、驚きに目を丸くして言葉もないままに、青年の凜と整った顔をみつめる。
 胸元にかかった彼の手がゆっくりと紐を解いていくのを感じた。
「リューンさま……?」
 なにをするの? そう問いかけたいのに、すこし苛ついた彼の目に射すくめられてしまい、言葉が出てこない。終始穏やかだったはずのリューンが、なんだか怖い顔をしてシルフィアを見下ろしているのだ。
 音もなく紐が解け、胸元が緩む。服をはだけられ、下着が覗く。
 そこまでは大丈夫だった。でも、リューンの指に下着を引き下ろされ、白いふたつのふくらみを露わにされて、ひどくうろたえてしまった。
 人間の、それも若い男性に身体を見せたことなどなかったから。
 リューンの動作が、やたらと緩慢に見える。
 彼は大きな手で覆うように、シルフィアの乳房をつかむ。力は入っていないけれど、熱い手にふくらみを握られると、心臓が急にドキドキと速度を上げて、気持ちが焦り出した。
「あ、あの、リューンさま……」
 思わず彼の手首をつかんで止めようとするが、シルフィアがつかんだくらいでは何の制止にもならず、リューンはふにゅふにゅと手の中のふくらみを揉みしだく。
「種をわけてほしいんだろう?」
「ですけど、でも、これは……」
 誰かにこんなことをされたのは当然初めてで、どう反応すればいいのかわからなかった。
「だが、こうしなければ種はやれない」
「ど、どうして……?」
「言ったろ? 心が伴わなければ無理だと。私の話を聞いていなかったのかい?」
 彼の唇が一方の胸に吸い寄せられ、きれいな色の頂にちゅっとくちづける。
 途端に、ひっくり返った声が喉に詰まった。
 触れられた瞬間、身体の芯がズキンと痛みに似た感覚を訴えたのだ。痛いことなんてされていないのに。
 リューンはシルフィアの身体が反応するのを確かめると、今度は硬くなった胸の先端に舌を絡め、それを口に含んで吸い上げた。
 途端に身体の奥がズキズキと疼き出した。まるで、彼の舌の動きに踊らされるように。
「ぁ……こんなの、わかりません……っ」
「だから教えている。君は男にもらう種が、花の種か何かだとでも思ってるの?」
 彼が顔を上げると、その唇と胸の先端が唾液の糸で結ばれる。
 シルフィアは羞恥にいたたまれなくなって目を逸らしてしまった。
 好きという気持ちをキスで表すことはあったが、身体を舐めるだなんて。
 でも、リューンは彼女のやわらかいふくらみを舐め、やさしく歯を立て、手のひらに握って形を変えながら、何度もくちづけてくる。
「や、ぁああ……」
 無意識に声が漏れた。ムズムズして、ズキズキして、うずうずして──
 リューンの熱い手がシルフィアの服をさらに脱がしていき、淡い色の肌を探った。肩や背中を撫でられ、くすぐったくて身をよじると、喉元を食まれ、そこにも胸と同じように舌を這わされた。
「んっ──!」
 口を開いたらヘンな声が飛び出しそうで、怖くて口を噤む。
 でも、リューンの手に触れられると、心臓がおそろしく高鳴り、その体温を心地よく感じてしまう……。
 内心でうろたえていると、耳たぶをやさしく噛まれた。
「ひゃっ」
 熱い吐息がかかって身体の芯に震えが走り、下腹部が疼き出す。
「こんなことをされても、まだ子種が欲しい?」
 リューンが声を低くして、耳もとに直接囁く。その声を聞いた途端、ぎゅっと疼く下腹部が熱く濡れた気がして、シルフィアはそっぽを向いてリューンの視界から逃げた。
 でも、子種をもらうのが目的で山を下りたのだ。それを果たせるのなら……。
「ほ、本当に、種をいただけるのなら……。村の未来が、かかって」
 それを聞いた彼は、苦笑したのか呆れたのか。
 小さく嘆息して身体を離すと、リューンは自分の白いシャツのボタンを外し、しなやかな肉体をさらけ出した。
「村のために、心もない相手に身を委ねるというのか。種さえ手に入れば、相手が誰でもいいと?」
 シルフィアは困り果てていた。
 そもそも種がどんなものか知らないし、それを欲することでリューンが怒る理由もわからない。どうして身体をこんなふうに、さわられているのかも。
 そして、触れられるたびに、身体が熱く震えてしまう理由も──
「ほ、本当に、種をわけてくださるなら……」
 ふっとリューンは笑い、シルフィアのスカートを捲り上げるなり、ドロワーズの上から女性の割れ目を指でなぞった。
「え──っ」
 厚い布越しにさわられ、なんとも言えないむず痒い気分になるが、その中はきゅうきゅうと、まるで脈打つように熱くなっていく。
 指を押し込まれると、身体の奥からあふれた蜜が滲み出した。
 シルフィアは身体を小さく縮めて、口元に手を当てる。リューンの手に下腹部を擦られ、胸を口に含まれて悪戯されて、頭の中が真っ白になっていた。
「男に子種をもらうということは、こういう淫らな真似をするということだろう? さあ、どうする? こんなことをされるのが嫌なら、今すぐここから逃げ出すといい」
 シルフィアが拒絶するのを望んでいるのか、リューンは意地悪く言う。
 でも、彼女は頭を左右に振った。長い白金色の髪がランプの炎を反射してまばゆくきらめく。
「種をもらうまでは、私……きゃっ」
 リューンの手が、ドロワーズを一気に引き下ろすなり、熱く疼く場所を直接指で触れた。そのまま割れ目に沿って、ゆっくり指を這わせる。
「あぁ──っ」
 途端、理性が溶けてなくなった。彼の指がそこを擦っていくと、これまでに感じたことのない違和感が全身を駆け巡ったのだ。
 彼の手には力なんて入っていないのに、とてもおとなしく受け入れることなどできない、とてつもない衝撃だった。
「や、リューンさま……っ、どうして──」
「種が欲しいんじゃなかったの?」
 秘裂の中を小さく揺らされると、身体ががくがくと大きく震える。リューンが指を動かすたびに、濡れた水音が大きく鳴る。
「ど、どうしてこんな、濡れて──あっ、ぁああん──っ」
 自分の身に何が起きているのかはわからないけれど、とてつもなく恥ずかしいと思った。
「男の種を受け入れるためだろう? ここに──」
 彼の指が角度を変え、シルフィアの身体の中に分け入ってきた。それを感じた途端、いたたまれなくなって、手で顔を覆ってしまう。
「ここに直接、子種を注ぎ込む」
「んっ、あぁ……っ、注ぐって、どうやって……」
「何も知らないで子種を欲しがっていたわけじゃないだろう?」
「だ、だって、教わったとおりに──」
 リューンは身体を起こし、腰のベルトを外して下衣を寛げると、中からシルフィアの見たことのない部位をさらけ出した。たちまち、彼女は目をまん丸に見開く。
「それ、なんです……!?」
 はっきりいって異変である、怪異である。
 男性の下腹部がそんな形をしているなんて、そもそも考えたことがなかった。シルフィアの周囲にいたのは村の三人のオジジだけで、もちろん、見たことはない。
 予想外の異形に、シルフィアの目は釘づけだった。
 これはもう、怖いもの見たさだ──。
 それは赤黒っぽい、不気味な色をしていた。リューンはこんなにも綺麗で整った顔をしているのに、対照的にそれはなんともいえない恐ろしげな形状をしていて、重力に逆らって上を向き、ひどく硬そうだ……。
「これを、君のここに挿れて」
 シルフィアの膝を大きく開き、リューンはさらに指を深く突き入れる。
「は、ぅっ……」
 腰がしなって、無意識に脚を開いてしまった。
 リューンは自身の肉の塊を手でつかみ、指を抜いた同じ場所に、先端を宛てがう。
「これで君の中を貫いて、身体の奥深くに種を吐く。知っているだろう? 男のこれを、身体の中に受け入れるんだ」
「あ、た、種って……」
「君のここを濡らしているのと同じ、男の一物から放たれる精液のことだよ」
 頭を殴られたような衝撃だった。こんな恥ずかしい真似をしなければ、男性の種をわけてもらえないなんて。
 そして、それを大勢の前で公言してしまったのだ……。
「心のある、愛し合った者同士ならこの行為は神聖だ。君に心はある? こんなことをされてもまだ、種が欲しい?」
 シルフィアは混乱して、悲鳴をあげた。

 

 

 

 ティルディアス一族の村は、険しい山岳地帯の中腹にある小さな山村である。
 かつては百人以上の住民と、たくさんの竜が暮らしていたが、年月とともに人も竜も数を減らしてきた。
 今はもう、ここに住む人間といえば、七十歳を超えた三人のオジジたちと、十九歳のシルフィアとがいるばかり。
 竜にいたっては、古竜グレヴァと、若い雄竜ツァイルのみだ。
「いずれワシらが死に絶えたら、シルフィアがひとり取り残されてしまうのう」
 薪を割りながら髭のオジジが言う。
「グレヴァの世話をする人間ものうなり、村も朽ち果てるのみよ……」
 坊主頭のオジジは腰を叩きながら切り株に座り、抜けるような青空を見上げた。
「あのかわいいシルフィアが、ひとりきりになってしまうのか……」
 垂れ眉のオジジが耕した畑に種を蒔きながら、深いため息をついた。
 村にいる若者は、シルフィアという少女ただひとりなのだ。
 かつて、彼女の両親ともう一組の若夫婦がいたが、シルフィアが幼い頃に落石に巻き込まれて亡くなっており、一族が存続する細い道はそこで潰えた。
 それから十六年。村の後継者問題はわかりきっていたことなのに、残された娘が幼かったこともあって、オジジたちはまだまだ遠い未来のことと先送りしてしまったのである。
 だが、老人の十六年と幼児の十六年では当然、年月の重みが違うのだ。
 結果、シルフィアが年頃になったときには、いつ召されてもおかしくない超高齢になっていたオジジたちである。
「しかし、純真無垢なシルフィアを街の穢れた男に委ねるなど……」
「考えただけでも気が狂いそうじゃ!」
「とはいえ、わしらもゆくゆくは天に還る身。あの子をこの村にひとりきりで置いて逝くことになるのじゃ……」
「そうじゃのう……ティルディアスはこの代でしまいじゃ。せめてシルフィアが子を産んでくれればのう」
「あの子に、子を産めと? 誰の?」
「嗚呼!!」
 のどかな昼下がり、裏の庭でなぜか嘆くオジジたちの声を聞いて、シルフィアは曇りのない菫色の瞳を瞬かせた。
 確かに、このままではいずれシルフィアは村にひとりきりになってしまう。オジジと別れなくてはならないのは悲しいが、それが自然の摂理だ。
 それでも彼女にはグレヴァとツァイルがいる。完全にひとりきりになるわけではない。竜と人間の寿命を考えたら、シルフィアだって彼らより先に召されるのだから。
 でも、その後はもう誰もいなくなる。
 ツァイルは若いからどこへでも行けるが、グレヴァはこの地で終焉を迎えることになるのだ。たったひとりきりで。
 彼を看取る人間がいないのは、ひどく切ない。
「私が子供を産めば、少なくともグレヴァのお世話をする人が増えますね」
 雌体である自分が子供を産めることは、なんとなく知っている。
「でも、どうやったら子供ってできるの?」
 首を傾げた彼女の目の前を、たんぽぽの綿毛がふわふわと舞っていく。新しく花を咲かせるために、新しい命を生み出すために種は飛ぶのだ。
 なぜかはわからないが、オジジたちはシルフィアが子供を産むことに積極的ではない。であれば、疑問を解決するために訪ねていく先はひとつしかなかった。
 シルフィアはひとり暮らしをしている小屋を迂回し、森を抜け、もっと山の方へと進む。この先の崖に洞窟があり、古竜グレヴァはそこに棲んでいるのだ。
 古竜というだけあって、彼が生まれてもう数百年が経過しており、シルフィアだけではなく村の住人たちにとっても、生き字引たる存在だ。
 オジジたちも相当な物知りだが、グレヴァはこの世界のことならなんでも知っている賢竜である。薬草の作り方も、イノシシの捌き方も、暦や太陽、世界の成り立ちだって!
「グレヴァ、起きてますか?」
 大きな入り口から奥へ進んでいくと、突然視界の開ける場所にたどりつく。眼前には深い穴があり、そこには緑色の鱗を持つ巨大な竜が眠っていた。
 背中の翼は折り畳まれ、老いて土色に変色しているが、胴体の鱗はエメラルドのように美しい艶を放っている。
 頭部だけでもシルフィアの身長の倍はある巨大な竜は、地面に丸くなって寝息を立てていたが、彼女の呼びかけで瞼を開けた。
『何用だ、人の子よ』
 グレヴァは低く重々しい声で答えたが、洞窟内にその声が反響することはない。グレヴァの言葉はすべて、シルフィアの頭に直接響いてくる思念の塊だ。
 そもそも、竜の口は人語を話す構造にはなっていないのである。
 だが、竜は非常に頭のいい生き物で、人間にはない魔力を持つので、信頼関係さえあればこうして意思の疎通も可能だ。
「教えてほしいことがあるんです。私、子供を産みたいのですが、どうしたら子供ができるのでしょう」
 グレヴァは重たい頭をすこし上げ、シルフィアの可憐な姿を視界に収めた。
『子を産みたいとは、唐突な。よいか、人の子よ。生物が命を生み出すためには、雌雄がそろう必要がある。そなたは雌体ゆえ、雄体から種をもらわねばならぬのだ』
「種、ですか?」
『人は、子種と呼ばれるものを雄体、つまり人間の男から分け与えられ、それを雌体の腹の中で育てること十月十日だ』
「十月十日、そんなに長い時間がかかるんですか。でも、人間の男の人から種をもらえばいいんですね。ありがとうございます、グレヴァ。さっそく種をもらいに行ってきます!」
 子供を産めば、オジジたちが嘆き悲しむ理由はなくなるし、ティルディアス一族をもうすこし永らえさせることができる。シルフィアの足取りは軽かった。

「──というわけで、私は子供を産むことにしました。グレヴァに聞いたところによると、人間の男の人から子種をもらえば、子を産むことができるそうなんです。オジジさま方から種をもらうことはできますか?」
 シルフィアの発言に、オジジたちがひっくり返ったのは言わずもがなである。
 オジジたちは誰ひとりとして、彼女に男女の営みを教えたことはない。知識がまるでないシルフィアを責めることもできず、互いに顔を見合わせ驚愕に打ち震えた。
「む、無理じゃ無理じゃ! わしらにはそのようなことはできんっ!!」
「なぜですか?」
 不思議そうにシルフィアは首を傾げ、菫色の綺麗な瞳でオジジたちを見る。
 さらさらと流れる白金色のまっすぐな髪は甘い艶を帯び、雪解けの清らかな水のように透明な、それでいて暁の空を思わせる菫色の瞳はまっすぐだ。
 その汚れのない純真な瞳を見てしまうと、オジジたちは生々しい男女の交わりを彼女に説明する勇気を持てなかった。
「種は──そう、若い男にしか与えられんのじゃ」
 髭ジイが言うと、他のふたりのオジジが髭の頭を叩いた。
(余計なことを言うでないわ、このボケジジイ!)
(す、すまぬ……! つい言い逃れるために……)
(この子は無駄に行動力があるのじゃぞ!)
 オジジたちの悶着など気にもせず、シルフィアはぽんと手を打った。
「若い男の人、ですか……。山を下りてビアレンの街へ行けば、若い男の人はたくさんいますよね?」
 シルフィアの発言に、オジジ三人衆はそろって青ざめた。
「いや、いかん! 街は恐ろしい所じゃ。ひとりであのような場所へ──ダメじゃ!」
「でも、このままではティルディアス一族が絶えてしまいます。それに私も、オジジさまたちがいなくなったら、ひとりで淋しい……」
 しゅんとしょげ返るシルフィアを見ると、オジジたちは嘆き悲しみ、おいおいと泣き崩れる勢いで彼女の肩や背中をたたいた。
「しかし、かわいいシルフィアや、街は本当に危険な場所なのじゃ。ついていってやりたいが、わしらはもう足腰が弱っておるでな」
「わしらに乗れる竜がいない今、山を下りるのは難しく、行ったら最後、ここまで戻ってこられんじゃろう」
「私ひとりで行けるから大丈夫です! それに子供の頃に一度、眉オジジさまと一緒にビアレンに行ったことがあるけれど、街はとても楽しい所でした。大勢の人がいて色んなものがあって、お金と交換すればなんでも買えるんですよね? もう一度行ってみたいと思ってはいたんです」
「しかし金など、ここには……」

「──グレヴァが宝石をたくさんくれました。これを街で売って、お金に換えればいいんだそうですよ!」
 翌日、シルフィアの手には、こぼれんばかりの宝石や金銀があふれていた。
(おおぅ……竜が光物好きだということを忘れておったわ!)
(グレヴァめ、すっかり世の中のことになど興味はないと言わんばかりじゃったが、しっかり貯め込んでおったんじゃなあ!)
(財宝に関してはケチなはずじゃが、グレヴァもシルフィアには弱いとみえる……)
 オジジたちの焦燥をよそに、シルフィアはにこにこ顔だ。
「それに、私がひとりだと心配なんでしょう? オジジさまたちが心労でポックリ逝ってしまっては困るので、ツァイルに同行してもらうことにしました」
 そう言ってシルフィアは、戸口の外にいたひとりの若者を呼んだ。
 それは人間の若い男で、炎のような赤毛と深い闇のような黒い瞳をしていた。背は高く、肌は褐色、とても男らしく鋭い顔立ちだ。しかし目つきはひどく剣呑で、じろじろと老人たちを上からにらみつけている。
「……ツァイルじゃと? この男が、あの火竜ツァイルなのか?」
「はい。街へ行くと言ったら、ツァイルも一緒に行くと言ってくれて。でも、今は麓のレスヴィアーザ王国に竜はとても少なくて、目立つのもよくないからと、グレヴァが魔法の力でツァイルを人間の姿にしてくれたんです」
 そう言って、彼の手首に嵌められた金の腕輪を示した。そこには大きく美しい赤い宝石が嵌め込まれている。
 ツァイルはティルディアスに住む若い雄竜で、シルフィアと一緒に育った。
 過去に人間にひどい目に遭わされたらしく、ティルディアスへやってきた当初は、全身は傷だらけで、深刻な人間不信だった。竜とともに暮らしてきたオジジたちすら、彼に近づくことはできないのだ。
 だが、当時八つだったシルフィアが懸命にツァイルの手当てをしたことから、彼女だけには心を開くようになった。
 以来、何をするにも一緒で、今では「人と竜」という垣根を超えた幼馴染同士である。
「この宝石にグレヴァが魔力を籠めてくれたんです。腕輪を外さなければ、ツァイルは人間の姿のままでいられますし、直接お話しすることもできるんですよ。ね、ツァイル」
 小柄なシルフィアより頭ひとつ分以上抜きんでた長身の若者は、彼女の頭を抱き寄せ、オジジたちを挑戦的に見下ろす。
「役立たずの耄碌ジジイども、なにアホなことやってくれてんだ」
 シルフィアが街へ行くと言い出した原因がオジジたちのせいだと看破し、ツァイルは詰った。その迫力たるや、オジジたちが物言えず固まってしまうほどだ。
「まあ、ツァイル。そんな悪い口を利いちゃだめですよ。オジジさまたちは私を実の子供のようにかわいがってくれているんですから」
「──だったら、なおさら大事に手許に置いておけってんだ、あ?」
 オジジたちを恫喝するツァイルを背中に押しやって、シルフィアは笑った。
「ね、ツァイルがいれば心配ないでしょう? 麓までは背中に乗せてもらいますし、ちょっと行って種をもらったらすぐに戻るので、心配しないでください」
(……心配しかありはせんわ)
(しかし、ツァイルのシルフィアへの偏愛はただごとではないからのう。よからぬ男なら追っ払ってくれるじゃろうて)
(シルフィアが街のよい男と巡り合えればそれでよいが、どちらかといえば悪い輩のほうが多いからのう。子を産んでほしい反面、あの子が見知らぬ男の毒牙に……無理じゃ!)
 ツァイルがいれば、シルフィアが街の男にどうこうされる心配はないだろう。
 こうして、『ツァイルの同行』という一同が納得する方法が採択され、シルフィアはさっそくレスヴィアーザ王国の王都レヴィーへと旅立つことにした。
 ……誰もが旅の失敗を祈っているとも知らず。
「よいかシルフィア。男なら誰でもいいわけではないのじゃ。若く健康で健全で、やさしく誠実で、嘘のない男を探すのじゃぞ」
「なおかつ身分もあれば申し分ない。なにしろ我らの始祖ティルディアスは、本を正せばレスヴィアーザの王族じゃ。世が世なら、おまえは王族の姫君じゃからなあ」
「もっとも、現在の王国にティルディアス一族のことが伝わっているとは思えんがな」
「無理をするんじゃないぞ」
「種をもらわずに戻ってきても構わぬからな」
 口々に忠告されてシルフィアは苦笑したが、それでもオジジたちの心配がうれしい。
「大丈夫です、ツァイルも一緒だから。必ず種をもらって帰ります!」
 軽食と宝石を詰め込んだ袋を鞄に入れたシルフィアは、オジジたちと一緒にツァイルの待つ崖へと向かった。
 切り立った崖のてっぺんからは、レスヴィアーザの王都レヴィーが遠くに一望できる。人間がたくさん住む街を、ときどきおとぎ話の世界のように眺めていたシルフィアだが、そこに足を踏み入れることになるのだ。
 逸る気持ちのまま、崖の上にいるツァイルの許に走り寄った。
「ツァイル、お待たせ! 街までよろしくね」
 そう言って竜の姿をした彼の、赤く美しい鱗の体を撫でた。
 ツァイルはまだ若くて、グレヴァのような巨体ではないが、娘ひとりを背に乗せるくらいわけはない。
 体高は彼女の身長の三倍ほどはあるし、大きな翼を広げるとなかなか圧巻だ。
『さあ、早く乗れ。あまりこの姿で人里には近づきたくない。麓に下りたら歩くぞ』
 シルフィアが火竜の背中に乗ると、オジジたちは不安そうにその様子を見守る。
「では、行ってきます! やさしくて誠実な若い男性から種をわけてもらいますね」
 シルフィアが言うと、ツァイルは地面を蹴って崖から滑空した。若く力強い竜は、ぐんぐんとティルディアスの村から遠ざかっていく。
「どうやって種をもらうのか、教えたのか?」
「……無理じゃった……」
「これはもう、ツァイルの人間嫌いに期待するよりほかあるまい……」
 若い世代に知識を継承する義務を放棄した老人たちは、遠くなる竜の姿を目で追った。
 一方、ツァイルの背中で眼下に広がる雄大な景色を眺めるシルフィアは、どんどん近くに迫って来る人間の街を見て、まぶしすぎる笑みをこぼした。
「子供の種って、どんな形なんでしょうね!」
 シルフィアの子づくり旅は、前途多難のうちに幕を開けたのだった。

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