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元悪役幼女は魔王様(破滅フラグ)に溺愛されています

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書籍紹介

我に全てを捧げ、快楽に堕ちてしまえ

冴えないOLだった私が、ゲーム世界の悪役幼女に転生!? 魔王ロデオンの贄となるはずなのに、大切に育てられて。いつしか私だけに愛を注いでくれるロデオンの事が好きになり――。成長したある夜、ついに初めてのキスを☆ 「ずっと喰らいたかったのだ」気持ちが昂ぶり彼の力が暴走しそうになるけれど、身も心も捧げて一線を越えたら極上のハッピーエンドが!? 甘すぎラブファンタジー!

ジャンル:
西洋 | ファンタジー
キャラ属性:
クール
シチュエーション:
甘々・溺愛 | お風呂・温泉 | 幼馴染・初恋の人 | 年の差
登場人物紹介

ロデオン

残虐な魔王と噂されていたが、実際は驚くほど草食系。リーンを溺愛していて、恋人にしたいとのたまうちょっぴり残念なイケメン。

リーン

冴えない日本人OLが転生した元悪役幼女。ロデオンに喰われる直前で前世を思いだし、抵抗したらなぜか溺愛されることになった。ツッコミ気質。

立ち読み

『その身体も、その血も、全てを我のモノに──』
 魔を纏う囁きと共に、リーンは寝台の上に押し倒されていた。
 軽い衝撃を受けた頭が枕に沈み、視界が揺れる。
 同時に、彼女は自分を組み伏せる存在を初めてしっかりと見た。
 この世のものとは思えぬ凜々しく美しい顔には邪悪な笑みが浮かび、艶やかな黒髪が窓から流れ込む風によって不気味に揺れていた。
 その髪の間からは、人ならざる者であることを示す立派な二本の角が伸び、背にも大きな黒い翼が生えている。
 そんな姿が、時折走る稲光に照らされるたび、リーンは恐怖に怯えた。
 目の前に迫る男の姿には、あまりに見覚えがあったからだ。
『さあ、我のモノになれ』
 血に餓えた真っ赤な瞳が、恐怖に引きつる顔を見据える。美しい唇が弧を描き、その合間からは鋭い牙が覗いた。
 その、美しくも恐ろしい姿はまさに────。
「ロ、ロリコン!!」
 とっさに浮かんだ言葉を、小さな拳と共に放つ。
 ぺしっという情けない音を響かせながら美しい顔に拳が当たると、リーンは「あれっ」と首をかしげる。同時に目の前の男も、少女をまねするように小さく首をかしげた。
「ろりこん……とは?」
「だ、黙りなさい! このロリコン!!」
 口からは勝手に言葉が飛び出し、彼女はさらに戸惑った。
(ロリコン? あれ? そんな言葉……言うつもりじゃなかったのに……)
 口にしたかったのは『魔王』という言葉だった。
 目の前にいる男は、魔族の王にしてリーンたち人間の宿敵だ。その中でも北の果てに住む『白夜の魔王』と呼ばれる残忍な王に違いないのである。
 なのに顔を見るたび、脳裏に増えていくのは『ロリコン』の四文字であった。それも頭に浮かぶ文字は、未だかつて見たことのない形状をしている。
(ロリコン……、ロリコン……? ……うん、ロリコンよねやっぱり)
 混乱する頭の中、ぐるぐる回るその四文字に戸惑っていると、文字ではなく覚えのない映像が頭の奥で弾けた。
 それは冴えない女の、冴えない人生の記憶だった。
 女の人生は平凡かつ地味で、彼女は小説や映画の中の恋愛に浸ることを生きがいにしていた。その上三十そこそこで、駅の階段から転がり落ちてあっけなく死ぬという間抜けっぷりである。
 輝くような世界で生きてきたリーンとは真逆の人生だ。
 貴族の家に生まれ、常に美しく着飾り人々の上に立つことだけを強いられてきた今の自分とはまるで違う。
 なのにこの女は自分だと強く感じた。
「……今、俺をぶったのか?」
 突然蘇る記憶に混乱していると、目の前のロリコン……いや魔王が尋ねる。
「それに、ロリコンとは?」
「あ、あんたみたいな奴のことよ」
「魔族の別称か」
「違う、私みたいな……ちっちゃくて可愛い幼女を襲うド変態のこと!」
「へ……へんたい?」
「変態よ! だって私、まだ五歳なのよ! なのに押し倒すなんてド変態でしょう!」
 怒鳴りつける声に、魔王が混乱した顔で固まる。
 そしてリーン自身も、自分の言葉に固まっていた。
(そうだ、私まだ五歳……少女どころか幼女なんだ)
 そこで改めて自分の生い立ちや境遇、そして突然思い出した謎の女の記憶を思い返して絶望する。
(あの記憶は……いえあの記憶の中の女こそ『私』だ。それにこれ……この身体とこの状況には覚えがある)
 美しい魔王と、それに襲われるリーンという少女。
 その姿が描かれた絵にはとても見覚えがあった。
「いやいやいや待って! これ、弟がプレイしてた幼女陵辱ゲーのイベントじゃない!?」
「ようじょ……りょうじょく……?」
「魔王は黙って!」
 うっかり怒鳴ると、魔王は言われた通り黙る。
 それどころか勢いに呑まれたように身を引き、彼女の横にちょこんと正座をした。
 そんな魔王のことも目に入らず、リーンは頭を抱えてもだえる。
(そうよ、これ……このシーン……。やっぱり記憶がある)
 思い出した記憶をたぐると、脳裏に浮かんだのは前世の自分と弟のやりとりだ。
 記憶が正しければ、リーンはこの光景を弟の手によって無理矢理見せられたのである。
『この後、リーンちゃんメチャクチャひどい目に遭うんだよね』
『そ、そんなの見せないでよ!』
『でもほんと可愛いから、是非この気持ちを共有したい』
『他の人としてよ』
『でも僕、友達いないし……姉さんしか趣味トークできる人いないから』
 同情を誘う寂しげな声にだまされて、渋々ゲームの映像を見て前世のリーンは深く後悔したのだ。
 弟──マモルが好きだったゲーム『フェアリズムナイト』は、男性向けの十八禁ゲーム。それも出てくる女の子たちは皆見た目が十歳から十三歳といういわゆるロリゲーだ。
 その中でも、弟が一番気に入っていたのは、ゲームの終盤で魔王に犯され殺される目つきの悪い少女である。
『リーンちゃん可愛いなぁ。なんで攻略キャラじゃないんだろうなぁ』
『このひどい目に遭ってる子、攻略できないの?』
『うん、この子はよくいる悪役令嬢ってやつ。ヒロインたちを虐めまくって、性格と性癖をゆがませて、ゲームを十八禁どころか二十禁レベルにするとっても良い子なんだ』
『それ、全然良い子じゃないから!!』
 弟に突っ込みながら見た映像の中で、言葉にできない残酷な仕打ちをされていたのはリーンと同じ顔の少女だった。年齢は、今の自分より少し上だったけど。
「つまりこれ、よくある『悪役令嬢に転生しました』的な奴!? っていうか私まだ五歳よ!? 悪役令嬢どころか悪役幼女じゃないの!!」
 その上記憶が蘇ったのは、破滅イベントの真っ最中という有様である。
(これじゃあ回避しようがない! それになんでもう破滅してるの? そもそもゲームの設定だと、あんなことやこんなことが始まる時間はまだ先なのに……)
 前世の記憶と共にたくさんの疑問が浮かんでは消え、リーンは混乱の中に突き落とされる。
 前世でオタクだった影響で『自分が悪役幼女に転生したらしい』ということは割とすんなり察したものの、思い出した自分の設定にパニックに陥っていた。
「……平気か?」
 そんなとき、お座りしていた魔王がもだえる小さな頭にそっと手を置く。
 ゲームの中ではそのまま幼女の頭をぐちゃっと握りつぶしていたのに、目の前の魔王はなだめるように頭を撫でてくれる。
 その手つきにうっかりキュンとしてしまったのは、異性から優しくされた経験が前世で全くなかったせいだろう。
 でも相手は魔王だ。これは破滅イベントなのだ。
 多分あと一分もせず、リーンは彼の手によって二度目の人生を終えるのだろう。
「今度こそ、恋愛小説みたいな恋がしたかったのに……」
 もしも生まれ変わったら素敵な恋をしてみたい。次こそ冴えない人生は二度と送らないと決めていたのに、その覚悟を思い出した数分後に死ぬなんてひどすぎる。
 絶望と戸惑いに、美しいグリーンの目から涙が一筋こぼれる。
「……恋を、したいのか?」
 リーンの涙を見つめながら、魔王がおずおずと尋ねてきた。
「したいって思ったら悪いの?」
 むっとした声で言い返すと、魔王がそこで何やら考え込む。
 自分を殺す相手だとわかっていても、無駄に凜々しい顔につい見とれてしまう。そうしていると彼がはっと目を見開き熱い視線を向けた。
「なら、俺とするか?」
「え、ロリコンは無理」
 思うまもなく飛び出た言葉に、リーンは絶望を重ねる。多分今、彼女は最後の生存フラグを自分の手でへし折った。
(今の絶対最後の選択肢だった……! 神様がくれた救済エンドへの切符だった!)
 ゲームにはそんなものなかったけど、絶対にそうに違いない。
 でもそれをつい勢いで折ってしまったと気づき、青ざめた顔を手で覆う。
「……もう、好きにして」
 殺して。できるだけ痛くないように一瞬で殺して。
 そんな言葉をブツブツつぶやいていると、そこで魔王が小さく笑う気配がした。
「わかった、なら俺の好きにする」
 そして魔王は小さな身体を抱き寄せた。
 思いのほか温かい腕の中で、今度こそ死を覚悟する。
「もし生きて帰れたら、今度こそ絶対……恋に生きるんだ」
 絶望のあまり死亡フラグ満載の台詞をうっかり口にしながら、リーンはぎゅっと目を閉じる。そんな彼女を、魔王が愛おしそうに見ていることなど気づかぬままに。

 

 

 

 ──フェアリズムナイト。
 百年に一度行われる残酷な儀式の夜を、人間たちはそう呼んでいた。
 フェアリズムナイトの夜に行われる儀式。
 それは魔力を持つ少女たちを魔王に捧げるというものだ。
 捧げられた少女たちはいわゆる贄だ。魔王たちに喰らわれ、その糧となる存在なのである。
 そしてその贄を捧げる代わりに、人間が治める国『グレンデール』は魔王から特別な加護をもらうのだ。
 残酷な儀式が行われるようになったきっかけは、三百年前に始まった人間と魔族の戦争だった。
 資源が豊富な魔族の領土を奪おうと、グレンデール国を中心とした人間の軍が魔王の領地を襲撃したのである。だが魔法が使える魔族に人間がかなうわけもなく、戦争は魔族側の完全勝利で終わった。それでもなお抵抗を続けたせいで人間たちの国は次々滅び、残ったのはただ一つグレンデール国だけという有様である。
 逆に魔族側は滅びた国の上に新しい国を作り、今や魔王と呼ばれる邪悪な存在は五人にまで増えてしまった。
 そんな魔王たちに、滅びかけたグレンデール国の王は慈悲を請い、生け贄を差し出す代わりに滅ぼさないでくれと訴えたのだ。
 王の訴えに最初の魔王は応え、人間たちの手によって滅んでしまった妖精族の粉を差し出した。
『この粉を六人の女に与えた後、子をはらませよ。そして生まれた赤子のうち、五人を魔王に差し出し残りの一人を人の王とせよ。そして百年の後、王の子孫から五人の子を差し出せ』
 渡された妖精族の粉には、人間に魔力を与える不思議な力があった。
 そして魔力を帯びた人間は、魔族──特に魔王と呼ばれるほど強大な存在にとっては生きる糧となるものだった。ゆえにグレンデール国の王に、その糧を差し出せと言ってきたのだ。
 だがそれで自分たちが殺されずにすむならと、当時の王はそれを快諾し、王女たちに粉を嘗めさせた。
 粉を嘗めた王女たちは魔力を持つ娘を六人産んだ。そして王は六人を競わせ、有能な一人を残して魔王に献上したのだ。
 その後百年ごとに、女王は次の儀式のために子をはらまされ、子は選別され、王の資質がない者から魔王の贄になることが決まる。そんな儀式が、グレンデールでは繰り返されてきた。
 儀式の日、贄の子供たちは美しく飾られ魔王の元に送られる。不思議なことに生まれてくるのは娘ばかりだったから、そのはかなさと美しさは妖精のようだった。
 その様子から、人々はいつしか儀式の夜をフェアリズムナイトと呼ぶようになった。
 贄たちが楽団の奏でるもの悲しい国歌に送り出される様子はあまりに哀れで、人々はフェアリズムナイトが近づくたび少女たちを思って心を痛める。

 そんな百年に一度の夜が、今年もやってきたのだが──。

「魔王ロデオン、心を込めて歌います」
 もの悲しくはあるが妙にチープな音源が、魔法によって動く蓄音機から流れ出す。
 魔族の間で流行っているというその歌は、前世を日本で過ごしたリーンにとっては演歌にしか聞こえない。
(……なんか色々、想像していたのと違うわね)
 無駄に良い声で、魔族の慕情を歌い上げているロデオン。
 その周りには配下の魔族たちが集まり、彼の歌に聞き入っている。切ない歌声に涙まで流している者もいる。
 そんな中リーンは何をしているかと言えば、演歌を切々と歌い上げるロデオンに抱えられている。いわゆる抱っこの状態だ。
 魔王だというのに、彼は右手にマイクを持ち、左手で十歳になったばかりの幼女を軽々抱えているのだ。
(好きにするとは言ってたけど、この状況は……何!?)
 城に連れてこられた五年前、なぜだかロデオンはリーンを殺さなかった。
 フェアリズムナイトの夜以外に少女が贄にされる──という展開はゲームになかったもので、齟齬のせいで自分は生きながらえたのかもしれない。本当のフェアリズムナイトがきたら今度こそ贄にされるのかもしれないと思いながら、リーンは生きてきた。
 だが本日──ついにやってきたフェアリズムナイトの日に開かれているのは、この間の抜けた宴である。
 ちなみに宴の趣旨は、この城で七十年勤め上げた料理長ワンさんの退職を記念してのものだ。
 ワンさんはリーン同様人間で、前の王の時代から城に勤めている。
 ロデオンが治める北の果ての国は、戦争で住む場所を失った者たちが集い作り上げた国で、人間も多く暮らしている。
 建国時から種族の隔たりがなかったせいか今も出自や身分に関係なく、それぞれの才能を生かした職に就くことができるのだ。故に様々な料理を作れる天才料理人であるワンさんは、人間でありながら魔王の専属シェフだった。
 そんな彼は日本食やイタリアン的なものまで作れるので、前世の料理を恋しがっていたリーンは、ワンさんの料理に何度も救われたものだ。
 だからお見送り会をするのは良いと思う。ワンさんには感謝の気持ちもある。
(でもなんだろう、釈然としないわ……)
 この日が来るのを怯えて過ごしてきたのに、フェアリズムナイトの夜に魔王の腕の中で演歌を聴く羽目になろうとは思わなかった。
 その上歌が終わってもロデオンはリーンを放す気配がない。というかこの魔王は、四六時中彼女にくっつき隙があれば小さな身体を抱き上げる。
 今も演歌をしっとりと歌い上げた後、「どうだ」という顔でロデオンが見つめてくる。その顔は、ご主人に褒められるのを期待する犬のようだ。
 彼が賛辞を得ようとするのは珍しいことではない。この魔王は、なぜだかリーンに褒めてもらったり、彼女を喜ばせるのが好きなのだ。
 考えがあまりにわかりやすく透けているものだから、どうにも無碍にできない。
「ロデオンは、歌が上手ね」
「ワンさんのために、一生懸命練習した」
「そ、そうなんだ……」
 演歌を一生懸命練習する魔王とは一体……と思わなくもないが、部下のために頑張る姿は微笑ましい。
 そして魔王の見事な歌によって宴は大盛況のうちに終わり、リーンはロデオンの手によって自室へと運ばれる。
 城の西の外れにある広めの角部屋で、この五年間彼女は暮らしている。
 もうずいぶんと夜も更けているが、窓の外はまだ明るく外に広がる城下町が一望できる。
 ロデオンの治める北の山岳地帯は白夜が続く土地で、暗い夜が訪れることはほぼない。
 それ故ロデオンは『白夜の魔王』と呼ばれ、その異名は人間たちに恐れられている。
 しかし当の本人は魔王らしからぬのほほんとした性格で、人間であるリーンにも無駄に優しく彼女の世話を焼くのが趣味という有様だ。
 ちなみにリーンの側にいたいという理由で彼の寝室は隣だが、寝るのは大抵彼女のベッドだ。子供用なのでかなり窮屈そうだが、身体を丸めて無理矢理一緒に寝ている。
 やはりロリコンなのか……!? と最初はいぶかしがったものだが、よくよく聞いてみると故郷を離れたリーンが寂しい思いをしないようにという配慮らしい。
 中身は三十歳のOLだし、小さな頃から一人で寝起きしてきたから彼の気遣いは必要ないのだが、逞しい腕にぎゅっと抱きしめられながら眠るのは心地よくていつもされるがままになってしまう。
(ロデオン温かいし、一緒だとよく寝られるのよね)
 前世ではお一人様が長かったし、今世では親からの愛情にあまり恵まれなかった。
 そのせいか、こうしたぬくもりに餓えていたのかもしれない。
 特に今世は、悪役キャラらしい愛に縁遠い人生を送ってきた。
 グレンデール国の侯爵家に生まれたリーンは、生まれたときから政治の道具だった。
 周りの人々は彼女の美しさや聡明さを褒めたが、両親はそれを当たり前のことだと言い、賛辞はもちろん愛情さえ向けられたことはない。
 躾はとにかく厳しく、少しの失敗も許されなかった。何か粗相をしようものなら激しく叱責され叩かれるのが普通だったのだ。
 そこまで厳しくされたのは、リーンが魔力を持って生まれてきたからだろう。
 グレンデール国では、魔力持ちの少女は女王の候補になれる。と言っても実際に選ばれるのは、王族の血を引く貴族の中からだが、リーンはその条件を満たしていた。故に両親は彼女を王にし国の実権を握ることばかり考えていて、娘に徹底的な英才教育を施し「他人を蹴落としてでも女王になれ」と教え込んできたのだ。
 そして悪役になるのが当然とも言える虐待と洗脳が日常的に行われた結果、リーンの神経は衰弱し心は完全に壊れかけていた。
 性格もゆがみにゆがみ、彼女は悪役に落ちる寸前だった。
(でも最初の悪事を大失敗したおかげで、私は今ここにいるのよね……)
 自分の黒歴史を思い出し、リーンはこめかみにある小さな傷にそっと触れた。
 ほんの小さな傷だけれど、この傷のせいで親から勘当され魔王の城に送られたのだ。
 そしてその原因は、あまりに間抜けだった。
 五歳になったばかりの春、女王候補たちをお披露目する宴の席でリーンは晴れの舞台から転がり落ちたのである。文字通り、ゴロゴロと。
 その夜、女王候補として集められた少女たちは十二人、そのうちの約半数が候補者──つまりヒロインとして選ばれるはずだった。
 リーンはヒロインではないが、悪役ポジションとして候補に選ばれるのは決定事項だったのに、最初の一手を見事しくじったのである。
 ゲームの設定では『どんな手を使っても絶対に女王候補に選ばれろ!』という親からの圧力に負け、女王候補の筆頭と言われる少女をこっそり舞台の階段から突き落とすという展開がある。
 リーンが悪役幼女となるその瞬間はゲームファンにも人気があり、可愛らしい顔が悪意にゆがむスチルはとても印象的で、弟のマモルもうっとりとした顔でよく見ていた。
 しかし現実では、少女を突き落とすどころか自分が階段から転げ落ちたのだ。
 その際頭を強く打ったので、なぜ自分が落ちてしまったのか詳しい状況は覚えていない。
 でも何かに焦っていたせいで階段から足を踏み外したような気がする。
 そして悪役幼女としての人生からも、リーンは転がり落ちた。
 宴での失態で女王候補から外れ、その上顔に傷まで作ってしまった娘を両親が見限るのは早かった。早々に切り捨てようとした矢先、娘を買いたいと申し出た『魔王の従者』を名乗る男に、我が子を二束三文で売り渡したのである。
 その結果ゲーム開始の五年も前に、彼女は早すぎる破滅エンドを迎えることになったのだ。
(いやでも、破滅……はなぜか回避しちゃったけど……)
 今日もちゃっかり横で眠っているロデオンの胸にそっと頬を寄せながら、リーンは穏やかに流れていく時間を不思議に思う。
 ここに来てからの日々は、実に平和だ。
 彼女が魔王の城に連れてこられてすぐ両親は流行病で亡くなったため、誰に邪魔されることもなく、初めて普通の子供らしい日々──城の人たちに遊んでもらったり、子供らしいお勉強をしたり──を送ることができたのだ。
 三十歳の記憶があっても、その年月以上に濃くて辛い五年間を体験したリーンにとって、子供らしい穏やかな生活は貴重で楽しかった。
 他人を蹴落とす必要もなく、ただ子供らしくいるだけで褒めてくれる。そんな日々を、ここに来てようやく手に入れたのだ。
 でもそれは終わりあるもので、フェアリズムナイトがきたらきっと自分は魔王の贄になるのだとも心の奥では考えていたのだが、実際に迎えた儀式の夜は、あまりに間の抜けたものだった。
(でもこれってつまり、破滅エンドは回避できたってことよね?)
 そのための努力を何もしていないため実感はないが、少なくともゲームで見た壮絶な最期は迎えずにすむということだろう。
(もしかして私、人並みに暮らせるのかしら? 恋とか、できちゃったりするのかしら?)
 前世では彼氏がいないまま死んでしまったが、今世ではまだまだチャンスがある。何せまだ十歳だし、見た目も可愛いし、ロデオンを筆頭に周りにはなかなかのイケメンがそろっている。
(もしかして、まさかの逆ハーとかもあり得る!? 悪役令嬢にモテ期がくる小説をネットで読んだことあったけど、ああいう世界に転生できたのかしら!?)
 恋もできず、寂しいまま死んだ前世の自分を神様が哀れに思ってくれたのだろうかと考えて、リーンは思わずニヤけた。

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