悪役令嬢な私と悪役王子な彼が、極甘ハッピーエンドを掴むまで

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- 本販売日:
- 2021/08/18
- 電子書籍販売日:
- 2021/08/18
- ISBN:
- 978-4-8296-6939-6
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死ぬまでお前を離さないからな、後悔するなよ?
悪役令嬢ヴィオラに転生した私。破滅ルートを避けるために頑張ったけれど、婚約破棄イベントへ進んでしまう。大勢の前で断罪されそうなところを助けてくれたのは悪役王子のアルバート。「ずっとお前を愛していた。オレの妻になってくれ」熱を孕んだ眼差しでプロポーズされて! 蕩けるようなキスと愛撫。ぬかるんだ蜜穴を剛直で貫かれる快感に、身も心も幸せで満たされて――!

アルバート
ウィロー王国の第一王子だが愛妾の子。厭世的な思考の持ち主で愛情に飢えている。ヴィオラに癒やされて以降積極的になっていくが…。

ヴィオラ
ウェッジソーン侯爵令嬢。転生者。破滅が待っているだけだったが、回避するため行動を起こす。……が結局流れは変えられず。アルバートと出会い、運命が動き出す。
──それは、十八歳の誕生日の夜のことだった。
両親に誕生日を祝ってもらい、自室に戻った私は、それまで作ってきた笑顔を一瞬で放棄し、憂鬱な顔でひとりで寝るには広すぎるベッドに倒れ込んだ。
「……信じられない」
私だけしかいない部屋に虚しく声が響く。
頭が軋むように痛かった。
自分の身に起こったことを信じたくない。
だけど、つい先ほど思い出したばかりの記憶が、容赦なくこれは現実なのだと訴えてくる。それを無視することはできなかった。
「私、転生してる……?」
呟いた声は酷く頼りなく、微かに震えていた。
転生。
それは生前の記憶を持ったまま、新たな存在へと生まれ変わること。
言葉自体は教養のひとつとして知ってはいたが、まさか自分が体験する羽目になるとは思わなかった。
しかも、しかもだ。
恐ろしいことに、私がした転生は、普通のものではなかったのだ。
こことは違う、全く別の世界からの転生。
私はどうやら、いわゆる異世界転生というものを果たしていたらしい。
私が前世で生きていたのは、『日本』と呼ばれる国。王侯貴族が当たり前に存在し、専制君主制を敷く今の世界とは全然違う。民主主義を掲げ、科学技術が発達したそこに生きていた私は、ゲームが趣味なだけの、どこにでもいる平凡な女性だった。
そんな私がなんの因果か異世界転生。しかもその転生した世界は、おそらく──。
「……は、はは。まさか、まさかね」
導き出した結論を信じたくなくて、首を横に振る。
あり得ない。妄想に決まっていると何度も思い直そうとしたが、私の立てた仮説は覆らなかった。
「……うう」
このままでは埒が明かない。
ようやくそう自分に言い聞かせることに成功した私は、ない気力を奮い起こし、のろのろとベッドから起き上がった。
いくら考えても答えは出ない。いや、本当は分かっているのだが、認めたくないのだ。
頼むから何かの間違いであってくれと祈りながら近くにあった姿見に己の姿を晒す。そこには金髪碧眼の、如何にも気の強そうな美少女が映っていた。
「……ああああああ、やっぱり」
膝から崩れ落ちそうになったが、なんとか堪える。鏡の中にいる美少女がこちらをじっと見つめていた。当たり前だ。自分自身なのだから。
「……」
複雑な気持ちで再度鏡を覗く。
驚くほど長い睫が上を向いていた。ビューラーをしたわけでもないのに、綺麗にカールしている。これが天然物だというのだから感心するしかない。
つり上がった目尻。アーモンド型の大きな目はくっきりとした二重を描いていた。キラキラした碧い瞳は、思わず覗き込んでしまいたくなるほど美しい。ぽってりとした魅惑的な唇は桜色だ。陶器のような滑らかな肌にはくすみひとつなく、自分のことながら感嘆の溜息が漏れるが、今は己の美貌に見惚れている場合ではなかった。
いや、本当に、そんな場合ではない。
「この顔……間違いない。ヴィオラ・ウェッジソーン侯爵令嬢……! いや、分かっていたけれどもっ!」
鏡の縁に片手を突き、項垂れる。
発狂しなかった自分が偉すぎると思った。
もちろん、己がヴィオラであることは分かっている。これまで十八年、ヴィオラとして生きてきたのだから当然だ。
では、私が何にそんなに驚いたのかと言えば、簡単。
私が立てた仮説が、己の容姿によって証明されてしまったから。これに尽きる。
「……ゲームの世界に転生とか、冗談でしょ」
出た声は我ながら悲壮感に満ちていた。
だが、仕方ないではないか。今の今まで全く気づかなかったけれども、どうやら私は前世でプレイしていたゲームの世界に転生していたらしいのだから。
『ノーブル★ラヴァーズ』
それは貴族社会に生きるヒロインが、各攻略キャラたちと恋愛し、幸せになるのを目的とした恋愛アドベンチャーゲームだ。
ヒロインは攻略キャラたちと一緒に、悪役として配置された令嬢の嫌がらせを回避したり、同じく悪役である王子が起こすクーデターを阻止したりして仲を深めていく。
悪役たちの悪事の証拠を集め、婚約破棄イベントを起こせれば、個別ルートへ。
エンディングは、ハッピーエンドにグッドエンド、バッドエンドにデッドエンドと多岐に及んでいる。
各攻略キャラが人気で大ヒット。コミカライズにゲーム化、アニメ化、舞台化とマルチ展開を果たしたこのゲーム世界にどうやら転生したと気づいた私は、本気で泣きたくなった。
あ、ちなみに登場キャラと世界観がほぼ同じの男性向けR18バージョンの『ノーブル★ラヴァーズ FOR MEN』もあるが、こちらはプレイしていないのでどんな内容かまでは知らない。男性向けには興味がなかったからだ。
いや、まあそれはどうでもいい。問題はそこではないからだ。
私が一番まずいと思っているのは、私が転生してしまった存在。
ただのモブ(名前すらない群衆のひとり)であればどれだけ良かったことか。もしそうだったのなら、厄介な世界に転生してしまったけれどもモブだから関係ない。普通に生きていこうで済んだというのに、名前があるどころか、紛うことなきメインキャラクターのひとりだったのである。
それも──。
「……私、よりによって悪役令嬢に転生したの?」
耐えきれなくなり、絨毯の上に両手をつく。絶望しかない状況に、乾いた笑いしか出てこなかった。
悪役令嬢。つまりはゲームにおける敵役のひとりに生まれ変わっていたと分かったのだから、それも当然だろう。
悪役令嬢ヴィオラ・ウェッジソーン。
ゲーム内の彼女は、高慢で、欲しいと思ったものは全部手に入れないと気が済まない我が儘な性格だ。皆から嫌われており、婚約者とも不仲。その婚約者が別の女(ヒロイン)を愛してしまったことで最終的には見限られ、夜会の会場で婚約破棄を告げられるというどこまでも悲惨な末路が待っている。
「……絶対に嫌」
ゲームの流れをざっと思い出し、泣きたくなった。
衆人環視の中、婚約破棄されるなんて、貴族令嬢としてはおしまいだと言っていい。
何もしていないのに、人生が終わった気分になったが、そこでふと気がついた。
「私、ゲームのヴィオラと全然違うよね?」
少なくとも人のものを欲しがりはしていない。私はあまり物欲がないのだ。
高慢……でもないと思いたいが、そこは他人の評価になるのでなんとも言えない。でも、他人に迷惑を掛けるような真似はしていないと言いきれる。そういうことをする人間は最低だという一般常識くらいは持っているからだ。
「うんうん、私、普通に暮らしていただけだもんね。何も悪いことはしていない……けど、ゲームのヴィオラと同じでめちゃくちゃ皆に嫌われているんだよなあ」
見ないようにしていた現実に溜息が出そうだ。
実は、ヴィオラ──私は現在、皆からとてもとても嫌われている。
それは何故かと言えば、事実無根の酷い噂を流されているから。
噂の内容は、私が身分を笠に着てやりたい放題している碌でもない女だというもの。
誰が言い出したのかは分からないが、その噂は数年前から定期的に流され、今ではすっかり定着し、皆から敬遠されてしまっているというわけだった。
もちろん私だって、初めは噂を否定した。だけどいくら否定しても噂は消えず、それどころかより広がる様を見せられれば、心だって折れるというもので。
最近では陰口を叩かれても、黙って耐え忍ぶという日々を送ってきた。
今日だって誕生日だというのに、祝ってくれたのは両親だけ。噂のせいで友人のひとりすらいない私は、内心とても傷ついていたのだが……うん、このくだりだけでもゲームのヴィオラとは別人だと思う。
ゲームのヴィオラは、友人はいなくても取り巻きはいたし。……あれ、取り巻きすらいない私ってもしかしてヴィオラ以下? ……泣きそう。
「……人間関係がヴィオラ以下で、嫌われっぷりは彼女と同等って、何これ、終わってる……」
何もしていないというのに酷い話もあったものだ。いや、もしかして、これが噂の原作の強制力というものだろうか。
日本で生きていた頃、私はライトノベルも愛読していたのだ。その時の流行は、アニメやゲームの世界に転生するというもので、今の私と状況的には同じ。
その主人公たちは、ゲームの世界をなんとかより良い方向に変えようと努力していた。 もちろん変えることができてハッピーエンドというものも多くあったが、同時にその転生した世界から圧力が掛かり、変えても変えても元の流れに戻ってしまう……みたいな展開もかなり存在したのだ。
世界からの圧力。改変を阻止する見えない力。それが『原作強制力』というものである。
私が今、何故か皆に嫌われているのもそれのせいかもしれない。
悪役令嬢は悪役らしく嫌われていろという世界の仰せ。ゲームが始まる時間軸には、正しく悪役令嬢として立っていろという話なのだ。
「うわ……それって、破滅が約束されたようなものじゃない……」
少し想像してげっそりした。
ゲームが始まるのは、確か主人公が十九歳の時。悪役令嬢であるヴィオラも彼女と同い年の設定だった。
私は今日、十八歳になったから、つまりはあと一年ほどでゲームが始まるのだ。主人公の誕生日によっては最大二年ほど。
「ゲームが始まるまでに思い出せたのは、ラッキーだったのか不幸だったのか」
いっそ、全てが終わってから思い出しても良かったかもしれない。これから不幸になると分かっている方が辛いからだ。
私がこの記憶を取り戻したのは、両親に誕生日を祝ってもらった席で、父に「お前にも祝ってくれる友人がいればいいのに」と冗談交じりに言われたことが切っ掛けだった。
友人がいないことを地味に気にしていた私は、父の言葉に非常にショックを受けた。
いや、ショックなんて可愛いものではない。脳を揺さぶられるような衝撃だったと表現しても間違いではなかったと思う。それくらい私には嫌な話だったし、言われたくなかった言葉だったのだ。そしてその衝撃のせいで、前世の記憶が蘇ってきたというわけだ。
もう本当に意味が分からない。その場で泣き出さなかった私、偉すぎる。
混乱しながらもなんとかその場を辞し、部屋に戻ってきたのがつい先ほどのこと。
正直、整理が追いついていないことの方が多い状況だが、とりあえずそれは置いておくことにする。
自分が置かれた状況と立場を理解し、これからどう行動するか決めることが最優先だと分かっていたからだ。
「どうしよう……」
途方に暮れつつ、ベッドに戻り、端の方に腰掛けた。じっと手のひらを見つめる。
「ゲーム開始まであと一年から二年……」
それまでに、私は何ができるだろう。
何もしてないにもかかわらず、すでに皆に嫌われている現状。ここから私ができることはあるのか。
「……とりあえず、良い子になってみる?」
今が別に悪い子というわけではないが、積極的に良い子であろうとした覚えもない。
それなら手段のひとつとして、良い子になってみるのも悪くないのではないだろうか。
「頑張って良い子になれば、噂も嘘だったって思ってもらえるかもしれないし」
そうすれば、悪役令嬢なんて役どころも振られずに済むのではないだろうか。
「うん、うん……そうしよう」
私に残された時間は、ほんの少ししかない。その中でできることなんて限られていて、だからこそすぐにでも行動に移せる『良い子になる』プランを実行するしか道はなかった。
「……悪役なんて絶対に嫌だもの」
そのためには可能な限り、足掻かなくてはならない。
私はそう決意し、とりあえず今日はもう寝てしまおうと、側仕えのメイドを呼んだ。
乙女ゲーの世界に転生していると気づいて数ヶ月が過ぎた。
その間、私はできる限り『良い子』であろうと努力した。弱い者には手を差し伸べ、笑顔を絶やさなかった。妙な噂を信じて遠巻きにしている面々には自分から近寄り、あれは事実無根の話なのだと説明して回った。
礼儀正しくあり、両親に対しても、今まで以上に良い子でいるように頑張った。
わざわざ『良い子』として振る舞うのは、決して楽ではなかったが、これは将来の自分のためになることと思い、ひたすら理想と思える淑女を体現し続けたのだ。
だが──。
「ぜんっぜん、効果ないじゃない……!」
ひとりきりの自室。だんっと机を両手で叩く。
年単位で蔓延った噂は、少々の努力程度ではどうにもならなかった。
いや、むしろ『何か企んでいるのか』的な扱いをされてしまい、更に悪名が高まった気さえする。
「私の努力の意味……」
これでは何もしなかった方がマシではないか。
昨日行った夜会では、ついに話し掛けに行っても逃げられるという目に遭ってしまった。
どれだけ私は嫌われているのか。本当に嫌になる。
「はは……ははは……年単位で嫌われているのに、たかが数ヶ月でなんとかしようと考えたのがそもそも愚かだったのよね」
分かっていた、分かっていたのだ。
今更何をしようが無意味だということは。
だけど、このまま何もしないままゲームが始まれば、絶対に後悔すると思ったのだ。
やれることは全部やった。抗ったのだと思いたかった。
そうすれば、ゲームと同じラストを迎えた時、少しくらいは仕方なかったと思えるだろうから。
だが、そんな私の思いすら、世界はブチ壊していく。
冗談交じりで言っていた世界の強制力とやらは強力で、とてもではないけど、私が抵抗したところでどうにかなるものとも思えなかった。
どうあっても世界は私を悪役令嬢に仕立て上げたいらしい。そうとしか思えない。
「……もう、いいかな」
溜息を吐く。
何をしてもしていなくてもますます嫌われていく自分がひどく滑稽だった。
こんな中で頑張っても意味がないことは、この数ヶ月で嫌と言うほど思い知った。
私は、何をどうしたって悪役令嬢にしかなれないのだ。
私が自分の意思で行動できるようになるのなんて、せいぜいゲームが終わったあとからくらいなのだろう。ゲームから退場したあとなら、多分、自由に行動できる。世界は役目の終わったキャラになど、興味がないだろうから。
「……悪役令嬢なんてやりたくないけど」
今もその本音は変わらないけど。
悪役令嬢として登場し、役目を果たして退場する。
そうすれば、そのあとは自分の人生を生きることができる。
婚約破棄された令嬢に幸せが待っているのかは不明だけれど、まあ、なんとかなるのかもしれない。
婚約破棄されたあとのヴィオラは、確か、国外追放されていた。国外追放。つまりは別の国でやり直すことができるのだ。
「……そう、そうだよ。前向きに考えよう」
この国で婚約破棄された令嬢だと笑いものにされ続けて生きるより、よほど良いではないか。人間関係も何もかもリセットされるし、やり直すには最適。
考えれば考えるほど、『とりあえず悪役令嬢としての役目を果たして、そのあとの人生を自分らしく生きる』プランが正解なような気がしてきた。
投げやりになっているのは分かっていたが、世界の強制力を相手にして、私に何かできるとも思えない。ゲームに関わりたくないという思いは封じて、悪役令嬢として一通り役目を果たすしかないのだろう。
「あー……なんか、疲れちゃったな」
前世を思い出してから、数ヶ月。
できることは全部やろうと全力で頑張ってきただけに、その努力が無駄だと分かった途端、当たり前だけどドッと疲れが出てきた。溜息を吐く。
自分の着ているドレスを見下ろした。
ウエストがキュッと引き締まったデザインの明るい青のドレスは上品だが、派手な顔立ちの私にとてもよく似合っている。綺麗に巻いた腰まである髪は、使用人たちの手入れのおかげで、毛先までツルツルだった。
実はこれから登城する予定だったのだ。王宮にいる父に忘れ物を届けに行くという名目で。
帰りくらいにでも誰かに会えれば、噂を否定して回ろうと画策していた。
だけどもうそんなことをする必要はないだろう。私の行動には意味がない。何をしたって『悪役令嬢』という結果は変わらないのだから。
「あーあ、こんなことなら私が行く、なんて言うんじゃなかった」
最初は、母が届けると言っていたのだ。それを王宮に行く理由が欲しかった私がお願いして役目を代わってもらった。そこまでしておいて、やっぱり行くのは止めます、なんて言えるわけがない。せっかく着飾ったのも無駄になってしまうし。
「はあ……面倒だなあ」
気持ち的には、悪役令嬢としてイベントで登場するまでの間、屋敷に引き籠もり続けていたいところだが、今日ばかりは行かなければならないだろう。
「代わってもらわなければ良かった」
とりあえず愚痴を言うだけ言って、部屋を出る。
父に忘れ物を届けたら、すぐさま屋敷に帰ってこようと決意した。

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