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高潔すぎる騎士団長ですが新妻への独占欲を我慢できない

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書籍紹介

蕩ける君の顔を見ていると……興奮する

伯爵令嬢シャノンの住む領地へ療養にきた騎士団長ウィルフレッド。一緒に過ごすうち、高潔で人を寄せ付けない彼が打ち解けてくれて嬉しくなる。密かに恋心を抱いていたら、「私の妻になってくれ」と王都へ連れ帰られて!? 舌を絡め合うくちづけ、胸を包む大きな手。「君の中は気持ちよすぎる」夜ごと情熱的に求められ、身体が淫らに作り替えられてゆき――。極甘溺愛・新婚物語!

ジャンル:
西洋 | ファンタジー
キャラ属性:
ワイルド・騎士・軍人
シチュエーション:
玉の輿・身分差 | 新婚 | 甘々・溺愛
登場人物紹介

ウィルフレッド

侯爵であり騎士団長。国王の信任も厚く、女性にモテるが、高潔すぎて人嫌いなところがある。シャノンの屋敷へ怪我の療養にやってくる。

シャノン

サマーヘイズ領の跡継ぎ娘。気さくな性格で領民の畑仕事を手伝うなど勤勉な働き者。自領に滞在するウィルフレッドの世話をすることになる。

立ち読み

 汗と土埃で汚れた身体と髪を洗ったあと、自邸の庭に造った温泉に入る。少しぬるめの湯は、畑仕事の疲れをゆっくりと吸い取ってくれた。シャノンは気持ちよさに大きく息を吐きながら両腕を空に伸ばし、石でできた露天風呂の縁に頭を乗せた。
 見上げた空は雲一つなく、一番星の煌めきが見え始めている。夜の一歩手前──オレンジからネイビーブルーのグラデーションに変わっていくこの時間帯が、一番好きな空色だった。
 大陸の半分以上を占めるダルトン王国、その最北に位置するサマーヘイズ領は、あちこちに源泉を有する温泉地だ。自然豊かな農耕地でもあり、王国の食糧庫を担っている。
 シャノンの一族、サマーヘイズ伯爵家はこの地を国王より封ぜられ、運営している。民のすべてが顔なじみのような素朴な領地だが、温泉が養生にいいとして貴族たちの主要な静養地でもあった。
 聞こえはいいが、実際は辺境、田舎、と王国中心地に住まう貴族たちなどからは蔑まれる領地だ。
 だが、シャノンはまったく気にしていない。自分の生活する土地も、そこに住まう温かな人柄の民も、大好きだ。
 一族はこの地を代々守り、民を大切にしてきた。跡継ぎ令嬢として、彼らに恥ずかしくないようにしたいといつも思っている。
 ──五年前、致死率の高い病が大陸全土で流行った。シャノンの両親は感染を恐れず、民のために領主としてどうするべきかを常に考え、彼らに寄り添い──そして感染に至って他界した。
 両親の死を皆が嘆き、悲しみ、葬儀には動ける者全員が参列したほどだった。民は両親を敬愛し、その娘であるシャノンを愛しんでくれる。
 今は、隠居し、流行り病の難を逃れた祖父が復帰し、シャノンが夫を迎えるまで領主でいてくれるという。だが、祖父もそれなりに高齢だ。あまり負担を掛けたくなかった。だからできる限り祖父の補佐をして過ごしている。
 収穫のこの時期、サマーヘイズ領では大人も子供も畑仕事に駆り出される。流行り病で働き手が減ったこともあり、シャノンも進んで手伝った。おかげで今日の分の収穫は、明日に繰り越すことなく無事に終わった。とても疲れたが、心地よい疲労だ。
 サマーヘイズ領の温泉は、疲労と傷の回復によく効く。ゆっくり浸かって汗を流せば、また明日も元気に働ける。
「……いい気持ち……」
 身体が芯から温まり、そろそろ出ようかと立ち上がる。
 がさり、と茂みが不自然に揺れたのは、その直後だった。腰まで届く、柔らかなウェーブを描く髪を両手で軽く絞りながら、何気なくそちらを見やる。
 田舎なので、癒やしを求める野生の小動物が露天風呂に闖入してくることはしばしばあった。この間は狸の親子が入ってきた。その類いだろうと思い、窘めの言葉を口にする。
「我が家の温泉を気に入ってくれるのは嬉しいけれど、あなたたちには人が立ち入れない森の温泉があるでしょう? そちらに入ってゆっくり、し、て……」
 だがそこにいたのは森の住人ではなく──一人の男、だった。
 歳の頃は三十代に入った頃合いだろうか。入浴のために、全裸だ。鍛えられ、無駄な筋肉一つない引き締まった身体をしている。全身のあちこちに傷痕があり、特に右の脇腹辺りに斜めに走ったそれがひときわ目を引いた。まだ完治はしていないようだ。
 陽に焼けた健康的な肌と、こざっぱりと切り整えている艶のある黒髪、息を呑むようにしてこちらを見つめる切れ長のアイスブルーの瞳は、冬の湖面を思わせる美しい色合いをしている。以前、両親とともに王都見物の旅行をしたときに王立美術館で見た、著名な彫刻家が造った戦の男神像のようだ。
(なんて……素敵な人……)
 ぼうっと見惚れたまま、動くことができない。彼もまた、軽く瞠った瞳でこちらを食い入るように見つめている。
 しばしの沈黙が両者の間に横たわる。やがて、薄く形のいい唇が小さく動いた。
「……天使、か……?」
 低く深みのある声だ。その声で我に返った。
(……お、お、おと、男の……ひ、と……っ!!)
 羞恥で全身が瞬時に真っ赤になる。直後、彼の股間に目が行ってしまい、初めて男性器を目の当たりにして意識を失いかけた。……彫刻像はその部分を上手い具合に布で隠してあったのだ!
 ふらついて倒れそうになる。いち早く気づいた彼が素早く動き、シャノンを抱き支えた。
「大丈夫か!?」
 左腕一本で、支えられる。力強い仕草にドキリとすると、頼りがいのある胸板に乳房がむぎゅっ、と押し潰されるほど抱き寄せられた。
 異性の身体と──しかも全裸と密着するなど初めてで、どうしたらいいかわからない。このまま意識を失ってしまおう! と妙な決断を下した直後、屋敷内が一気に騒がしくなり、その喧噪がこちらに接近してきた。
 彼が、形のいい眉を寄せる。震え上がってしまいそうなほど厳しい表情になるものの、そんな顔も整っているためか威厳に満ちていた。横顔に見惚れたあと我に返り、慌てて離れようとする。
 だが彼の腕に力が籠り、さらにきつく抱き締められた。
「何か起こっているようだ。離れない方がいい」
「……あ、あの……あの、でも私たち、は、は……裸、で……!」
 ドカッ、と露天風呂の入口の扉が蹴破られ、衝立が踏み潰される。何事!? と目を剥くと、目の前に牡鹿の前足が迫った。
 声にならない悲鳴を上げて、思わず彼にしがみつく。シャノンを抱き支えたまま彼はアイスブルーの瞳を鋭く光らせる。次に無言で長い足を振り上げ、牡鹿の首筋に回し蹴りを食らわせた。
 激しい水しぶきを立てて、牡鹿が温泉に倒れ込む。彼は一瞬の気の緩みを見せず、湯に沈んだその首を踏みつけた。回し蹴りの段階ですでに失神している牡鹿は、そのまま動かない。
(強い……!!)
 乱入してきた牡鹿を蹴り一つで仕留めるとは、目の前で見ていたのに信じがたい。とんでもない強さではないか。
 凄い、と感嘆すると同時に、妙にドキドキしてしまう。すると牡鹿に負けず劣らずの勢いで、お仕着せ姿の少女が走り込んできた。
「シャノンお嬢さま!! また鹿が乱入しまして!! ご無事でございます、か……きゃああああぁっ!!」
 傍付きのソニアがシャノンたちを見て悲鳴を上げる。同時に彼に向かって走り込みながらスカートのポケットに右手を入れ、護身用の小剣を取り出した。
「お嬢さまに何をしているのですか!! この不届者!!」
「待って、ソニア!!」
 彼がシャノンを離し、湯から出る。成敗っ!! と声を上げながらソニアが彼に飛び掛かり、小剣を振り下ろした。
 無言で彼は小剣を握る手首に手刀を打ち込んで叩き落とし、怯んだソニアの首を掴んで地面に押し倒す。
 大して力を入れているようには見えないのに、ソニアは目を剥いて顔を歪めた。彼はソニアを見下ろして不快げに言う。
「こちらの正体を問う前にいきなり小剣か。人を殺めるならば相応の覚悟を持っているのだろう? 弱き者は強き者に滅せられる。お前の命はここまでということだ」
 ぐっ、と指に力が籠められ、ソニアが声にならない悲鳴を上げた。このままでは息の根を止められてしまう!
「待って……待ってください!! ソニアの無礼は私が謝罪します。だからどうか手を放して……!! 彼女は私の傍付きで、大事な友人です!!」
 彼の腕にしがみつき、必死になって言う。意味がわからないというように、彼が顔を顰めた。
「友人……? 傍付きがか?」
 そんなことはあり得ないとでも言いたげな顔に、コクコクと何度も頷く。彼は納得いかないようだったが、軽く嘆息して手を離した。
 咳き込んで上体を起こそうとしたソニアだったが、ちょうど眼前に彼の股間があり、新たな悲鳴を上げる。
「な、な、ななな、何て淫らな格好をしてるのですかっ!! 服を……服を着なさいっ!!」
「……ああ、そうだな。忘れていた。だがその前に、お前が脱げ」
 命じ慣れた響きのいい声で、とんでもないことを彼は言う。驚きに目を剥くシャノンたちに、彼は動じない。
(い、いったいどういう人なの、この方……)
「彼女は裸だ。風邪をひかぬように、いや、この美しく清らかな肌と裸身を誰にも見られぬようにすることが先決だ」
「シャノンお嬢さまに使用人の格好などさせられません!! お待ちくださいませ!!」
 言ってソニアは風の如く脱衣所に向かい、大判のタオルを二枚持って戻ってきた。その背後に、祖父と数人の青年たちが続く。
 新たな闖入者に驚き、声にならない悲鳴を上げてしゃがみ込もうとする。彼がすぐさまシャノンを抱き締め、自分の身体で隠した。
 均整がとれているからさほど大柄には感じなかったが、すっぽり包み込まれてしまう。頭を胸に押しつけるように抱き寄せられ、鼓動が跳ねた。
「ウィルフレッドさま、ご無事で……!!」
「こちらを見るな。見たら殺す」
「……っ!?」
 とんでもない命令に青年たちは驚愕したものの、すぐに彼に背を向けた。ほ……っ、と安堵の息を吐くと、ウィルフレッドと呼ばれた青年は、ソニアから取り上げたタオルで身体を包み込んでくれる。
「あ、ありがとうございます……」
「いや。私の方こそ見苦しかっただろう」
 もう一枚のタオルを腰に巻きつけながら、ウィルフレッドは言う。
 見苦しいなんてことはなかった。それどころか見惚れてしまうほど素敵で、凜々しい美しさがあった。
(そ、そんなこと、とても恥ずかしくて言えないけれど……!!)
 だがどうにも気になるのは、声も表情も厳しいままだということだ。
 こちらの方が見苦しかったのかもしれない。改めて羞恥で頬が熱くなる。
 頃合いを見計らった祖父のイーデンが、ウィルフレッドの足元に跪いた。
「お騒がせして申し訳ございません、ウィルフレッドさま」
「先客がいるとは知らなかった。……彼女は?」
 ウィルフレッドがこちらを見つめてくる。鋭い眼差しに緊張した。
 イーデンの態度を見れば、彼が高位の貴族であることは明らかだ。シャノンは慌てて腰を落とす貴婦人としての礼をしようとするが、止められた。
「いや、先に着替えだ。話はそれからで」
 確かにその通りだ。シャノンは慌てて言う。
「申し訳ございません! 今すぐ着替えを用意しま……」
 そして気づく。ウィルフレッドの右脇腹の傷痕から、薄く血が滲んでいた。
「血が……!」
 無言で傷口を見やったウィルフレッドが、表情を変えずに言った。
「さっきの立ち回りで開いたか……問題ない」
「どんな傷でも侮ってはいけません! ソニア、部屋を用意して。傷薬をお持ちします!」
 脱衣所に走り込む。見知らぬ青年がどうして自邸にいるのかという疑問は、ひとまずあとだ。怪我をしている人を放っておけない。
 ワンピースを急いで身に着け、自室と続き間になっている調薬室からよく効きそうな傷薬をいくつかトレーに載せて運ぶ。
 五年前の流行り病を経験してから、何かあったときに民の役に立ちたいと、主治医に薬草の育て方や調薬の方法を教わっていた。今や簡単な症状や傷ならば、対応できる。
 ソニアが用意した客間で、ウィルフレッドはベッドに腰かけて待っていた。身体を締めつけない脚衣だけを着ており、上半身は裸だ。顔が赤くなりそうだったが、平常心を保つよう努力しながら手早く手当てをする。
 胴体に包帯を巻きつけ終え、シャノンは笑顔で言った。
「もし痛みが出るようでしたら教えてください。痛み止めも調合できますから」
「……ああ」
 先ほどよりは厳しさがほんの少し緩んだものの、今度はじっと見つめられる。何か言ってくるのかと待ってみたが──一向に、彼の唇は動かなかった。
 こちらにどんな感情を抱いているのか、読み取れない。だが視線はシャノンに留まったまま、少しも動かない。
 心の奥底まで暴かれるような瞳に、緊張で強張る。そして、鼓動が高まる。
 どうしたらいいのかわからなくなりながらも、そっと言った。
「……そ、そういえば、まだ自己紹介をしていませんでした。申し訳ございません」
「君のことは先ほどイーデンに聞いた。……こんなに愛らしくも美しい孫娘がいるとは知らなかった。知っていたらもっと早くサマーヘイズ領に来ていたぞ……」
 変わらない表情のまま独白のように呟かれた言葉が、本当に彼が言ったのかと信じられない。
(でも今、確かに……お世辞だろうけれど……)
 愛らしくも美しい、などと褒められるのは初めてだ。非常に照れくさい。
 ポッ、と頬が赤くなり、シャノンは慌ててサイドテーブルの上に置かれていた彼のシャツを取って広げた。無言で腕を広げたウィルフレッドに着せる。
 シャツのボタンを留め終えると、ウィルフレッドがこちらを見つめて続けた。
「私はウィルフレッド・グロックフォードだ。しばらく君の屋敷で世話になる。陛下に少し休んでこいと言われて療養に来た」
(先ほどの傷を癒やすためね。……え……?)
 シャノンは次の瞬間、驚きのあまり絶句した。その名を持つのはこの国で、ただ一人だけだ。
 ウィルフレッド・グロックフォード。王族傍流のグロックフォード公爵家当主であり、国王直属指揮下に入る騎士団団長だ。国王と同い年で、まるで幼なじみのような関係性を築いているらしい。性格的にも馬が合うらしく、国王はずいぶん彼を信頼していると、この辺境の地でも聞き及ぶほどだ。
 国王の信頼を得るに相応しく、文武両道で自他共に厳しい高潔な人物だと言われている。
 五年前の流行り病で失われた命は貴族階級でもそれなりに多く、予想外の世代交代を余儀なくされた部分もあった。現国王の即位もそうだ。前国王が流行り病で重篤状態になり、回復の見込みがなかったためだ。
 そのときからウィルフレッドは国王の右腕として、政を行う貴族たちの中心的人物となっている。
 今年二十九歳になるにもかかわらずまだ妻を迎えていない彼のことは、この地ですら噂に出てくる。理想が高すぎるのだろうと揶揄する声もあるが、大抵はどんな女性を求めているのかと興味の声の方が勝る。会ったこともないのに理想の男性として憧れる女性もいた。
 シャノンも戴冠式の際にイーデンの付き添いとして王都に入り、銀の鎧を纏った凜々しいウィルフレッドが騎士の誓いを現国王に捧げる儀式を、うっとりと眺めた。もう五年も前のことだ。そのときは遠目だったため、彼の立ち姿と高潔な雰囲気しかわからなかった。
 その騎士団長が何の先触れもなくこの地にやって来るなど、想像もしていなかった!
(私、ずいぶん失礼な態度を……!! それどころか初対面で、はだ、裸、だなんて……!!)
 真っ青になり、慌てて跪く。
「……た、大変失礼しました……!! ウィルフレッドさまのことをよく存じ上げていなかったとはいえ、多くの無礼を……っ」
「いや、私に媚びていないのがいい」
「……こ、媚び……?」
 そんなことを言われるとは思わず、戸惑ってしまう。ウィルフレッドはアイスブルーの目をわずかに細めた。
「……何でもない」
 とりあえず、彼を不快にさせなかったことに安堵する。
 だがウィルフレッドは相変わらずこちらを見つめ続けている。理由がわからないため、だんだん居たたまれなくなってきた。
(こ、これからどうしたらいいの……!?)
 頃合いを見計らったかのように扉がノックされたのは、その直後だ。現れたのは祖父のイーデンと、ウィルフレッドの部下と思われる──あのとき風呂場に入ってきた青年たちだった。最後にソニアが続く。
 手当てが終わったことに気づき、薬や包帯が載せられたトレーをソニアが引き取ってくれる。笑顔で礼を言うと、彼女は嬉しそうに笑い返した。
 ベッドをソファ代わりにして座ったままのウィルフレッドの前に、イーデンが歩み寄った。
「お加減の方はいかがでしょうか」
「心配ない。動いたせいで傷が開いただけだ」
「此度のご来訪……先触れの使者と到着がほぼ同時だったとはいえ、手際が悪く、大変失礼をして、申し訳ございませんでした」
 イーデンの謝罪に合わせ、シャノンも改めて深く頭を下げる。ずいぶんと珍しい。もてなしさせるために、先触れはもっと早く来るのが常套だが。
 イーデンは続いてシャノンに詫びる。ウィルフレッドの対応に慌て、シャノンが入浴中だったことを失念してしまったらしい。ウィルフレッドが厳しい表情で続けた。
「いや、使者は送っていなかった」
 シャノンは祖父とともに大きく目を見開く。どういうつもりだったのだろう。
「知らせを受ければ宴だ土産だ観光だと、色々と私の世話をしようとするだろう?」
「もちろんでございます。このような辺境の地に、わざわざ騎士団長さまがご来訪くださるのです。領民すべてで、おもてなしをさせていただきます」
 それがこの国に仕える貴族として、当然の行動だ。
(それに王国のために身体を張ってくださる方々に感謝をお伝えできる貴重な機会だもの。精一杯お世話させていただくわ!)
 心の中で拳を握り締めながら意気込む。だがウィルフレッドは少し疲れたように嘆息した。
「いいか、私はここに傷を癒やしに来た。……まあ、癒やすほどの傷でもないのだが……宿場として、この屋敷には滞在させてもらう。だが、世話人はいらない。私をもてなすことはしなくていい」
 まだ何もしていないのに拒絶され、シャノンはイーデンと顔を見合わせた。ウィルフレッドは今度は背筋が震えるほど冷たい声で続けた。
「私の身の回りの世話は、部下がしてくれる。特に……私に女をあてがうようなことは絶対にするな。私のベッドに女が入り込む前に、斬り捨ててしまいかねない」
(そ、それってつまり、夜のお世話、のこと……!?)
 まだ男を知らないシャノンだったが、年頃の娘として、跡取り令嬢として、最低限の知識はある。高貴なる身分の男性にそういうもてなしをすることもあると、かつて聞いたこともあった。
 だがそんなもてなしは、希望されない限り──いや、希望されたとしても自分が嫌ならする必要はないと、両親たちに言われてもいる。
 真っ赤になってしまったが、ふと気づく。わざわざそんなふうに断りを入れてくるのは、彼がそういうもてなし方ばかりされているということではないだろうか。
 未だ独身のため、国王が跡継ぎ問題を心配しているらしいという噂も聞いたことがある。ウィルフレッドの妻の座ともなれば、王妃に次ぐものだろう。利権を求める貴族たちによって狙われていることは、間違いない。
(何だか……大変そうだわ……)
 厳しく気難しい感じがするのも、そのせいかもしれないと思えた。
 利権絡みで優位に立つためにあれこれまとわりつかれているのだとしたら、心の疲弊はそれなりだろう。もしかしたら国王は彼の心の癒やしも考えて、サマーヘイズに行くように命じたのかもしれない。
(でも! お世話なしだなんてそんなこと……駄目だと思うわ!)
「か、畏まりました……」
 イーデンの言葉にウィルフレッドが頷こうとする。シャノンは勇気を振り絞って言った。
「あの、ウィルフレッドさま。私たちは国を、そこに住む私たちを守ってくださる騎士団長さまや騎士団の方々に感謝しています。せっかくウィルフレッドさまが来てくださっているのに、感謝の気持ちを少しも示すことができないのは……とても残念です……」
 顔もわからないほど遠くからしか見られなかったが、儀式のとき国王に国を守ると宣誓したウィルフレッドの立ち姿は、憧れるほど凜々しかった。そして耳に届く噂は常に彼が高潔で民のためを思い、国王を──王国を守るために尽力していることがわかるものばかりだった。
「感謝……?」
 まるで異国の言葉でも聞いたような反応だ。変なことを言っただろうかと、内心で小首を傾げてしまう。
 アイスブルーの瞳が、改めてじっとこちらを見つめてきた。心の奥底まで見据えてくる強い視線にたじろぐが、踵に力を入れて見返す。ここで少しでも怯んだら、今、口にした言葉が偽りだと思われてしまいそうだった。
(と、とても厳しくて、恐ろしい瞳だわ……でもこうでなければ騎士団をまとめ、国を守ることなど無理でしょう)
 しばらく無言でじっと見つめ合う。イーデンとウィルフレッドの部下たちは、どちらも一歩も退かない様子に固唾を呑む。
 やがて勇気ある部下の一人が、問いかけた。
「……あ、あの……ウィルフレッドさま……。ご令嬢の提案を、どうされますか……?」
「……む」
 視線が緩み、軽く息を吐く。背中や脇が冷や汗でしっとりと濡れ、スカートで隠れた膝が小さく震えていた。
「……わかった。君ならば、私の傍にいることを許す」
 意外そうに部下たちが軽く目を瞠る。
「全力でお世話いたします!」
 硬い声音がわずかに緩んだような気がし、シャノンはすぐさま勢い込んで頷いた。傍にいることを許してもらえたことが、なんだかとても嬉しかった。

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