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初恋をこじらせた国王陛下の愛し方がおかしいのですが

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書籍紹介

君が好きすぎて、おかしくなりそうだ……

「ずっと君が好きだった」
十年ぶりに再会し、国王ローランから求婚された元侯爵令嬢エルゼ。
凛々しく成長した彼に胸がざわめく。そして迎えた初夜――。
「妻の乳房の管理は夫の役目なんだ」
囁かれ、あられもない愛撫をしかけられる。
夜ごとの淫らな手ほどきに初心なエルゼは翻弄されて、甘い声が止まらない。
そんなある日、初恋をこじらせた彼の変態すぎる秘密を知ってしまい!?

ジャンル:
西洋 | ファンタジー
キャラ属性:
王子・王族・貴族
シチュエーション:
玉の輿・身分差 | 幼馴染・初恋の人 | 新婚
登場人物紹介

ローラン

ペルシエ王国の若き国王。エルゼとは幼馴染みで、十年ぶりに会った彼女に求婚する。

エルゼ

父親の罪(冤罪だったが)で長らく修道院暮らしをしていた。国王になったローランと結婚し王妃になる。

立ち読み

 ──喜んでくれるかしら。
 明後日はエルゼのふたつ年下の婚約者、ローラン・トリベールの十二回目の誕生日だった。
 二か月ほど前から、エルゼはローランの誕生日の贈り物を何にするか思案していた。
 なかなか決まらなかったのは、ローランがペルシエ王国の王太子で、誕生日ともなれば、家族だけでなく多くの貴族たちから贈り物を貰う立場にあったからだ。
 よほど奇抜なものでない限り、贈り物は被ってしまう。
 誰とも違う、自分だけがあげられる品物をローランに贈りたい。
 そう思ったエルゼは、刺繍をあしらったハンカチーフをローランに贈ろうと決めたのだが……今度は刺繍の図案を何にするかで迷ってしまった。
 好きな花や好きな食べ物を訊ねても、ローランは「どれも好き」と答えるので、決め手にならない。
 困っていた頃。エルゼはローランと一緒に鳥を見た。
 王宮の庭を二人で散歩していたとき、愛らしいさえずりが聞こえてきて、声の主をどちらが先に見つけるか、ローランと競争をしたのだ。
 先に見つけたのはエルゼだった。
 黄緑色でお腹の辺りが白い小さな鳥が二羽、枝の先に身を寄せ合って止まっているのを発見し、エルゼはローランに鳥のいる場所を教えた。
 競争に負けたのを悔しがっていたローランだったが、すぐに「小さくて可愛い。夫婦かな? 仲良しだね」と顔を綻ばせた。
 エルゼはそんなローランを見て、刺繍の図案は鳥にしようと決めた。
 屋敷に帰ったエルゼは乳母に鳥の話をした。乳母は少し考えて「それはメジロでしょう」と鳥の名を教えてくれた。
 ぴったりとくっついて細い枝の上に止まる二羽の小さな鳥。エルゼはローランと見た光景を思い描きながら、乳母と一緒に図案を考えた。
 そして今、エルゼの手元、刺繍枠に取りつけた白い絹のハンカチーフには、黄緑色の刺繍糸のメジロが一羽いる。本当は二羽が寄り添う姿を刺繍したかったが、細かな作業になるため上手くできなくて断念した。
 メジロの下にはローランの名前を刺繍した。あとは彼が止まる枝を刺繍したら完成だ。
 ──もしかしたら……近くに巣があるのかも。今度ローランと一緒に巣を探してみようかしら。
 エルゼは刺繍針を動かす手を止め、窓に視線を向けた。窓の外には青空が広がっている。
 今日、王宮では園遊会が催されていた。
 晴天でよかったと思いつつも、本来ならば自分も参加していたのに……と少し寂しくなり、エルゼは視線を落とした。
 エルゼの右足には包帯が巻かれている。
 一昨日、エルゼはローランと言い争いをしてしまった。
 その際、ローランが怒りのままにエルゼの手を振り払った反動でふらついてしまい、背後にあった花壇の中に転んでしまった。そして足を捻るだけでなく、木の枝でざっくり足首の皮膚を切ってしまったのだ。
 骨には異常はないものの、治るまでには日にちがかかるらしく、今も誰かの手を借りなければ歩けない状態だった。
『エルゼ。ごめんなさい! ごめんなさい……』
 足からだらだらと血を流すエルゼの姿に、ローランは蒼白になり、黒い瞳にいっぱい涙をためて何度も謝罪をしていた。
 ローランは同年代の少年たちに比べて体格が小さい。エルゼのほうが背も高く、がっしりしていた。
 それもありローランはまさか軽く押しただけで、エルゼが転んで怪我をするなど思ってもみなかったのだろう。
 良く言えば優しい、悪く言えば気弱なローランが怒りを露わにするのも珍しい。エルゼも言いすぎたと反省していた。
 ──大丈夫だから気にしないでと言ったけれど、あの子のことだからきっと気にしている……。
 このハンカチーフが仲直りの証になればよい。
 そんなことを思い、再び手元に視線を向けたときだ。
 バタバタと慌ただしい音がして、ノックもなくドアが開かれた。
「ばあや? どうしたの?」
 現れたのは、乳母のドーリスだ。
 エルゼの母親は産褥が悪く、エルゼが生まれてすぐに亡くなっていた。
 母代わりとして、いつも傍らにいるドーリスはマナーにうるさい。そんな彼女がノックもせずドアを開けるなど初めてで、エルゼは嫌な予感がした。
「お嬢様……っ。ローラン殿下がっ……」
 ドーリスが続けた言葉に、エルゼの顔色はみるみるうちに青ざめていった。

 ドーリスから最初の報せを受けて十日後。
 エルゼに事態の説明をするため、王宮の近衛兵が屋敷を訪れていた。
 事件は園遊会の最中に起こったという。
 突然、王太子ローランが倒れたのだ。
 飲み物を口に含んですぐだったため、飲み残しのカップを調べた。すると……毒が見つかった。
 ローランには兄弟はいない。王家の正統な後継者はローランだけで、跡継ぎ争いで揉めてもいなかった。
 誰が王太子の命を狙ったのか。
 調べを進める中で、オランド侯爵──エルゼの父が容疑者として浮かび上がった。
「王太子殿下とあなたとの婚約を解消されるという話を聞き、父君はそれを逆恨みされたようです」
 近衛兵は、エルゼの右足首に巻かれている包帯に目を向けて言う。
 ささいな喧嘩だった。
 エルゼがつい説教じみたことを言い、それにローランが苛立っただけだった。
 怪我をしたのは、転んだ場所が悪かっただけだ。
 少年と少女の小さな、ほんのささやかな言い合いだったのだ。けれど大人たちは、そうとは受け止めなかった。
 ローランを怒らせたエルゼは王太子妃、将来のペルシエ王国の国母として相応しくないと判断され、婚約の解消が決まる。怪我をさせられたうえに、一方的に婚約を解消されると知った父は、大事な一人娘を侮辱されたと、ローランを恨んだのだという。
 母が亡くなっても再婚をすることなく、父は惜しみない愛をエルゼに注いでくれていた。
 愛されている自覚はあった。けれど──。
「お父様は……そのようなことで、人を恨んだり憎んだり、あまつさえ殺そうとする……そんな人ではありません」
 二目と見られない姿になった、あるいは残虐に殺されでもしたのならともかく、エルゼは足を捻挫し皮膚を切っただけだ。一生歩けなくなるほどの大怪我でもない。それに状況は、故意ではなく事故に近い。
 父は娘大事さに、分別もつかなくなる愚か者ではない。
「毒を所有されていた。侯爵が毒をカップに注ぐのを見たという証言もある。……あなたが思っている以上に、侯爵は娘が王太子の婚約者であるのを重要視されていたのでしょう」
 ローランとの婚約が決まったのは、二年前。エルゼが十二歳のときだった。
 父は当初、エルゼが王太子の婚約者候補になるのを好ましく思っていなかった。しかしいざ、数いる婚約者候補たちの中から、エルゼが王太子の婚約者に選ばれると、誇らしかったのだろう。まんざらでもない表情を浮かべていた。
 ──……でもだからといって、ローランを毒殺しようなんて。
 理解できなかったし、信じられなかった。
「オランド侯爵が王太子暗殺を企てたのには間違いがなく、手続きがすみ次第、ラゾナ監獄へと護送されることが決まりました。奪爵し、侯爵家の財産も没収される。エルゼ・オランド。あなたはカラギナ修道院に向かうよう王命が下りました」
 現実を受け止められずにいるエルゼに同情的な視線を向けながらも、近衛兵は明日までに荷を纏めるようにと命じる。
「明日! いくら何でも早過ぎではありませんか」
 隣にいるドーリスが甲高い悲鳴のような声で抗議する。
「民は犯罪者に厳しい。王太子殿下の命を狙ったのです。娘であるあなたに罪はないとわかっていても、あなたを責める者もいるでしょう。王都を早く離れたほうがよい。これは国王陛下と王妃殿下のご配慮なのです」
 ドーリスは押し黙り、うっうっと嗚咽した。
 エルゼはドーリスの震える背をさする。
「……昨夜、殿下の意識が戻られました。一命は取り留められたとのことですので、民もあなたに暴挙は起こさないと思いますが」
 近衛兵はエルゼを安心させようとしてか、つけ足すように言った。
 暴挙は起こさない──その言葉ではなく、その前の部分。
 知りたくて、でも怖くて訊ねられなかったことへの答えを得て、エルゼは心の底から安堵した。

 修道院に同行するとドーリスは言ってくれたが、エルゼは断った。
 彼女には王都に娘夫婦がいる。
 カラギナ修道院は北の辺境領にあり、馬車で十日以上かかる。そんな場所に彼女を付き合わせるわけにはいかなかった。
「ばあや。お願いがあるの。機会があったらでいいから……これをローランに渡してくれる?」
 袋に入れたものを託すと、ドーリスは泣き腫らした目から新たに涙をこぼした。
 エルゼに刺繍を教えてくれたのはドーリスだ。
 ハンカチーフの図案を一緒に考えてくれたのもドーリスで──袋に入っているのが何か察したのだろう。
 自分の毒殺を企てた男の娘が作ったものだ。ローランはいらないと言うかもしれない。
 それでも、どうしても彼に誕生日の贈り物がしたかった。
 自己満足だとわかっていたが、エルゼはローランに謝りたかった。







 どこからか鳥のさえずりが聞こえてきた。
 箒で落ちた葉や花びらを掃き集めていたエルゼは手を止めて空を仰ぐが、鳥の姿は見当たらない。
 カラギナ修道院のある辺境領の冬は厳しく、氷点下の日が続く。特に今年の冬は例年より長く、雪はしつこく地面を白く覆っていた。
 そのせいか春が過ぎ、初夏という季節になっても、まだ朝は肌寒い。
 ──夏も間近だというのに。この時期にこんなに寒くて、大丈夫なのかしら。
 本来なら巣作りも終わり、ヒナは巣立っている頃合いだけれど──と、案じてもどうしようのないことを考えてしまう。
 そんな自分に苦笑いしながら、エルゼは止めていた手を動かし始めた。
 父が王太子暗殺未遂事件で逮捕され、エルゼが修道女になってから十年の月日が過ぎていた。
 エルゼは二十四歳になった。
 背は当時から同じ年齢の子たちより高かったので、ほんの少し伸びただけだ。体つきも当時と同じ──いや胸と尻は丸みを帯び、豊かになった。
 金色の髪は、十四歳の頃と変わらぬ長さだ。当時はいつも「ばあや」に結ってもらっていたが、今は自分でひとつに纏めている。
 丸々としていた顔は、少し面長になっただろうか。
 性格は……侯爵令嬢として何不自由なく暮らしていたときと比べると、忍耐強くなった気がする。
 こちらに来た当初は寒さに震えてばかりだった。
 けれど、今は冬場はしもやけやあかぎれに悩まされてはいるものの、早朝の水仕事にも慣れた。立ち仕事をしても、足裏が痛くなることはなくなった。
「エルゼ」
 あらかた掃き集めたところで、年配の修道女に声をかけられる。
「代わりましょう。修道院長がお呼びです。すぐに来るようにと」
 エルゼは掃除を彼女に任せ、急いで院長室へと向かった。

 カラギナ修道院は正式な名称は、カラギナ女子修道院という。その名のとおり、修道士はおらず修道女しかいない。
 信仰心から宣誓をし、修道生活を送る者もいたが、何かしらの事情があり身を寄せている者も多くいた。
 身寄りがなく、貧しさで修道女になった者もいれば、夫の暴力から逃れるために神に救いを求めた者もいる。社交界で騒ぎを起こし、隔離されるように送られてきた者もいたし、エルゼのように身内が罪を犯し、修道女になった女性もいた。
 彼女たちと生活をともにしながら、エルゼはこの十年間、戒律を守り、労働に勤しみ、父が悔い改め、救われるのを神に祈っていた。
 十年前は父が罪を犯したなど、どうしても信じられなかった。けれど償いは罪を認めるところから始まる。そう院長に諭されて、エルゼは父の罪を受け入れた。
 ──だというのに。
「あなたの父、オランド侯爵が十年前に起こしたとされる王太子暗殺未遂事件……あれは冤罪だったそうです」
 院長室を訪ねたエルゼに、院長が険しい顔つきで言った。
「……冤罪……。…………父は無実だった……ということですか?」
 エルゼが呆然と問い返すと、院長は頷いた。
「そのようです。侯爵への謝罪と真犯人が公表され、王都では大変な騒ぎになっているとか……王太子殿下の暗殺を企てたのはケーテ夫人です」
 ペルシエ国王トビアスには当時、王妃ジスレーヌの他に愛人──公妾がいた。
 公妾であるケーテ夫人は聡明で慎ましく、奉仕活動にも熱心であったため、民からの人気が高かった。民だけでなく、臣下からも慕われていて、ジスレーヌ王妃も彼女の存在を認めていた。
 ケーテ夫人は田舎の男爵家出身で後ろ盾がなく、王太子との関係が良好だったのもあり、当時彼女を疑う者はいなかったらしい。
「ケーテ夫人はちょうど十年前……暗殺未遂事件が起きてすぐ、療養のため王宮から離れました。半年ほど前に病気で亡くなったそうですが、亡くなる前に手記を残していて……そこに懺悔と、十年前の事件の詳細が書かれていたそうです」
 心を病んだケーテ夫人は、王への愛がゆえに王妃に嫉妬し、二人の子どもである王太子の命を狙ったのだという。
 エルゼは当時のことを思い返した。
 ローランの父親であるトビアス王は政務で忙しく、母親のジスレーヌ王妃は息子に厳しかった。
 両親から冷たく接されるローランを気にしてか、ケーテ夫人は父子の間を取り持とうとしたり、優しい言葉をかけたり、何かと気を配っていた。
 ローランもケーテ夫人を慕っていたように見えた。
 ──きっと傷ついているわ……。
 父親が冤罪だったと知っても、エルゼは晴れやかな気持ちにはなれなかった。
「陛下はケーテ夫人の仕業だと知りながらも、彼女を庇うため、侯爵に罪を押しつけたのです」
 院長は口調に怒りを滲ませている。信仰心の強い彼女にとって今回の件は、いくら王であろうとも、いや王だからこそ赦されざる罪なのだろう。
 本来ならエルゼも怒って当然の状況なのだが、予期せぬことだったせいか驚きだけで腹立たしさはわいてこない。それよりも十年前に別れたきりの父が気になる。
「……父はどうなるのでしょう……? ご無事なのでしょうか」
 大陸には重罪者には死をもって報いる国もあったが、ペルシエ王国には処刑という断罪方法がなかった。
 重罪者は監獄に送られ、看守の監視の中、厳しい労働を強いられる。
 父の送られたラゾナ監獄は、この辺境地とは違いひどく暑いのだという。毎夏、何人もの受刑者が酷暑に耐えきれず亡くなるそうだ。
 けれども彼らはそれに値する以上の罪を犯したのだ。同情など許されない。
 ──元気だろうか。食事はできているだろうか。生きているだろうか……。
 エルゼにとって父はたった一人の、かけがえのない家族だった。罪人なのだから情を向けてはならないとわかっていたが、割り切るのは難しく、エルゼはこの十年間、父を思う心に蓋をしてきた。
 エルゼが父を案じる言葉を口にするのは、十年ぶりであった。
「ご壮健だそうです。爵位も戻され、王家からは謝罪金の話も出ています……当然です。十年もの歳月罪人扱いされていたのですから」
 ──生きていた……!
 エルゼは心の底から安堵する。
「父に会えるのでしょうか……?」
 もう二度と会えないと思っていた。会って、言葉を交わせるのだろうか。
 エルゼは期待を込めて、院長を見た。
「もちろんです」
「ああ……。ありがとうございます」
 望んでいた返答に感嘆の声を漏らし、感謝を口にする。院長はそんなエルゼに目を瞠り、首をゆるりと横に振った。
「礼など……。王家からも正式に謝罪があるでしょうが、私も……あなたを罪人の子だと決めつけ、贖罪を促してきました。知らなかったとはいえ、己の行為を恥じています」
 申し訳ないことをしました、と院長は頭を下げた。
「お止めください。ご存じなかったのですから……」
 事実を知ったばかりだというのもあるのだろうが、院長はもちろん、王家を恨む気持ちはわいてこない。父が無事に生きているならば、それでよかった。
「王都から迎えが来るそうです。荷を纏め、ここを発つ準備をするとよいでしょう」
 だから──そう言われ、エルゼは戸惑ってしまった。
「私は……修道院を出なければならないのでしょうか」
「あなたは信仰心から修道女になったわけではありません。心配はいりません。あなたの立場は王家が保証してくれますよ」
 この十年間、毎日、真摯に祈りを捧げてきた。しかしそれはあくまで父の罪への贖いという前提があってのことで、院長の言うとおり純粋な信仰心があったからではなかった。
 ──けれども今更、王都に戻ったところで……。
 侯爵令嬢に戻った自身の姿や将来が、エルゼには想像ができない。
「私は……至らぬ点もありますが、もしも許されるのであれば、この地で修道女として静かに生涯を終えたいと思っています」
 エルゼは今年で二十四歳になった。
 十二歳になるまでは侯爵令嬢として。王太子の婚約者に選ばれてからの二年間は、王を支える王妃、民から敬愛される国母になるべく、教育を受けてきた。
 同年の貴族令嬢たちの中で誰よりも淑女として振る舞える自信もあった。
 しかしこの十年、エルゼの両手は労働をするためにあり、開いた本は戒律と教えの書かれた神書だけだった。そんな自分が王都に戻ったところで、恥をかくだけである。
 ──侯爵令嬢としての矜持など、とうの昔になくなったと思っていたのに。
 修道女としての生活を恥じてはいないが、淑女らしさを失った自身をみなの前に晒す勇気もなかった。
「カラギナ修道院は救いを求める者を決して拒みはしません。あなたが望むのならば、ここで暮らすのに反対はしません」
「父には……一度だけでも、会って話がしたいのですが」
「面会は許されますし、王都に戻ったあとに、こちらに戻ってきてもよいのですよ。何にせよ、答えを急ぐ必要はありません。これから続いていく、長い将来のことなのです。ゆっくりと考えるべきです。王都でも情報が錯綜しているでしょうし、何かあったら、あなたにすぐにお伝えします」
 院長は将来の決断をするまでの間、修道女としての労働はせずともよいと言ってくれた。
 しかし、考えるのは身体を動かしていてもできる。
 じっとしていても落ち着かないので、エルゼは今までどおりの暮らしをしながら考えていきたいと院長に願い出た。

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