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地味眼鏡男子を誘惑したら神テク絶倫になりました。

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書籍紹介

悪魔のわたくしが快楽に溺れるなんて……

女悪魔のプルートは地味な大学生・花園守に召喚され、
契約のもと願いを叶えてあげることに。
分厚い眼鏡に隠された端整な顔立ち。猫背だけど逞しい肉体。
素材は良いのに活かせていないので、
自信をつけさせるために誘惑したら……!?
性感帯をすべて知っているかのような極上の愛撫と、
何度出しても萎えることがない剛直に翻弄されて――!
童貞男子×女悪魔の濃厚ラブコメ!

ジャンル:
現代 | ファンタジー
キャラ属性:
シチュエーション:
SM・監禁・調教 | 年の差 | 甘々・溺愛
登場人物紹介

花園守(はなぞの まもる)

ナチュラルボーンマッスルな陰キャ大学生。クリスマスに恋人がいないため、悪魔を召喚して悪いことを企んでいた。プルートの影響で容姿を整えたら……。

プルート

魔界でメイドをしていた悪魔。守に召喚されて願いを叶えることに。悪魔らしく奔放な性格だが、表情があまり出ないため冗談なのか真剣なのかわからないことがある。

立ち読み

『プルート様。一体今どちらにいらっしゃるのですか』
 魂を絞るような悲痛な叫び声。闇の底で当て所もなくさまよいながら、大切な人の名を呼び続ける。
『どれだけ呼んでも返事もしてくださらない。いつまでこうして一人でここにいればいいのですか。寂しい、暗い、この永遠の牢獄で』
 力の限り訴えていた声も、次第に掠れ、涙に溶けて儚くなってゆく。
『もう疲れてしまいました。プルート様……もう……』
 崩れ落ちた主人に数多の黒い影たちが集まり、恋い慕うように寄り添う。けれどそれは何の慰めにもならない。虚無の沼に沈んだ心は切望する彼の人でなければ取り戻せない。
 だが、このままこうしているだけでは己が霞のように薄れゆくのみ。忘却の地にいて精神を強く保てなければ、自分自身がこの場所の風に巻かれて消えてしまうだろう。
 やがて意を決し、立ち上がる。黒い翼を広げて飛び立つ。
 ここで朽ち果ててしまう前に。自我を失うほどの悲しみに埋もれてしまう前に。どこか遠い別の場所で、自分の形を取り戻す時間を過ごすために──。

   ***

「……ルート……プルート……起きなさい」
 静かな呼び声にハッと我に返り、プルートは目を瞬かせた。
 目の前には勤め先の主人であるサキュバスがシャワーを浴び終え、深紅のバスローブを羽織った艷やかな姿でソファに寝転んでいる。
 ゴシック様式の華美で混沌とした室内にしどけなく横たわる妖艶な美女は、足下に侍る下僕の悪魔たちを爪先で払いながら、目を覚ましたばかりのプルートを愛撫するように見つめた。
 ここは色欲の館。主人の色欲の王アスモデウスは魔界ハデスの七公爵の内の一人である。
 プルートはアスモデウスの妻、夢魔サキュバスに侍女として仕え、日夜を問わずあらゆる形の交合に耽るハードコア生活の世話をしているのだ。
「申し訳ありません。わたくし、寝ておりましたか」
「ええ、寝ていたわ。立ったまま白目を剥いて。もう少しであなたの美しい鼻から鼻ちょうちんが出そうだったので、思わず起こしてしまったのよ」
 それは何とも悲惨な光景だ。プルートは自分の不甲斐なさにため息をついた。こんな短い間のうたた寝でも、しっかりまたあの夢を見てしまったことが虚しくてならない。
 魔界に住む悪魔といえど人間と同様にきっちり眠る。むしろ快楽が何よりの好物である悪魔は睡眠の心地よさも無論歓迎しており、怠惰な悪魔などは何百年も眠ったまま目を覚まさない者もいるほどだ。
 地中にある魔界には朝も夜もないが、朝は生き物たち自身の放つ五彩の光により世界が鮮やかに浮かび上がる。それと同時に皆が目を覚まし、活動を始めるのだ。無論、規律を嫌う悪魔たちはこれと真逆の生活をする者、好きなように起きて眠り生きる者と様々だが、世界が明かりを灯せば目も覚めるのは道理で、本能に従順な彼らの大多数は同じような日常を送っている。
「近頃きちんと寝ていないの? 今のように寝落ちしたり些細な衝撃で気絶したりすることが多いような気がするわ。睡眠を貪る快楽を拒絶するのは罪悪よ」
「はい……申し訳ありません。実は、非常に疲れる夢をよく見るのです。それで夜は目が冴えてしまって」
「まあ。夢があなたをそんなに乱すだなんて、何かの予兆かもしれないわね。それとも、ここで働き続けて少し疲れてしまったのかもしれない。もう百年ほどになるもの」
「百年など大したことはありません」
「まあ、夫よりも年かさのあなたにとってはそうかもしれないけれど……ここの仕事は過酷でしょう。百年も続けて勤められる人はそういないのよ」
 確かにプルートは今までに何人も辞めて行く同僚たちの背中を見送ってきた。魔界の住人である悪魔たちは多情で奔放なので、時間と相手さえあれば所構わず交わるのが常だが、さすがにこの館ほどに年がら年中ぶっ続けで致している者たちは少ないだろう。
 色欲の館の喘ぎ声及びプレイの際に生じる騒音に、近隣住民たちからはひっきりなしに苦情が降り注ぎ、そのお陰で付近の地価は暴落。住民たちは入れ代わり立ち代わり、あまりに引っ越しが続くので、魔界の訳あり物件量産地などという不名誉な呼び名までつけられる有様である。
 しかしプルートにとってはそんなことは大した問題ではなかった。魔界でも指折りの長さの年月を生きてきたプルートにとって、主たちのセックスの騒ぎなどそよ風も同然。
 感情も表情も風化したためかその顔が動くことは滅多になく、必要なことのみを口にするので基本的には無口だ。そして氷のように冷たく整った顔立ちも手伝って、時々本当に彫像か何かと間違えられ、少し視線を動かしたらゲストに悲鳴を上げられたこともある。
「もうすぐ契約の更新期限が来るわ。少し休みを取ったらどうかしら。元々いた場所に戻ってみてもいいかもしれないし」
「そんな……わたくしはここでの仕事に満足しております」
「もちろん私たちは素晴らしい働きぶりを見せてくれるあなたを手放したくはないし、侍女の中で最も信用しているわ。それに何と言っても、あなたの唯一無二の美しさを側に置いておけなくなるのは恐ろしい損失よ」
 いかにも、プルートの美しさは唯一無二のものだ。魔界には奇怪で醜悪の極みであるグロテスクな容貌を美しいと評する者もいれば、天界や人間界に通じる端整な美というものを尊ぶ者もいる。
 そしてプルートの美しさは、ある意味ではその双方の要素を兼ね備えたものだった。石像のような無機質さで測ったように整った顔貌。少女のようにか細く猫のようにしなやかな肢体。
 その造形は理知的かつ怜悧な美で彩られていたが、その肌は不吉なまでに青白く、見つめていると凍りついてしまいそうなほどに透徹としている。
 そしてその髪と瞳の黒さは、悪魔の中でも類を見ないほどに絶望的な暗黒で、うかつに触れようものなら吸い込まれてしまいそうなほど、この世のありとあらゆる光を誘い込む恐るべき夜の淵であった。
 プルートの美しさを磨き抜かれた黒瑪瑙と賛美する者もあれば、滅びの虚無の権化であるとその名さえ口にするのを厭う者もある。
「奥様がそう仰ってくださるのなら、わたくしは去ることはありません」
「そうは言っても、プルート。あなたはそもそもこんな役割を演ずる身分ではないのだから、私たちは強く引き止めることも慎まなければいけないわ。あなたが夢に苦しめられている今、何かが起きようとしている。夢の崇拝者である私がそう感じているのだから間違いないわよ」
 サキュバスにそう言われてしまえば、プルートは口を閉ざすしかなかった。
(わかっている……わたくしにはするべきことがある。この色欲の館で働くことはそこから逃げているということ……もちろん、ここでの時間はわたくしに必要なものだった。けれど、それはもうおしまいにしなければいけないのだろうか?)
 サキュバスの言う通り、近頃見る夢は何かの予兆のような気がする。夢そのものを見ることすら稀であるプルートには、これが何か虫の知らせのような、直に到来する異変を告げるもののような気がして、胸をざわめかせていたのだった。
 そのときふと、プルートはアスモデウスの姿がないことに気づいた。館では常に夫婦は共にあるというのに、自分が少し白目を剥いている間にどこに行ってしまったのだろう。
「奥様、旦那様はどちらに?」
「あら、気づかなかった? ここよ」
 ここ、とサキュバスは寝転がっているソファをぽんぽんと叩いてみせる。すると肉色のソファはほんのり赤みを帯び、くぐもった呻き声を上げ、微かに表面の皮膚をもくもくと震わせた。これは面妖な、と凝視していると、ソファは恥じらうように僅かにキュッと収縮する。その拍子にアスモデウスの恍惚とした顔面が一瞬表に不気味に浮かび上がり、プルートは内心ゾッとした。
「変化の術でございますか」
「ふふ。普通のやり方にも飽きて色々と研究してみたのだけれど、人間界の奇書を読んでみたら面白いアイディアが見つかったのよ。生きている家具もなかなかいいものね」
「はあ……」
 その飽くなき探究心には頭が下がるばかりだが、快楽を追求するあまり自分の姿かたちまで捨ててしまえるというのは、正直プルートの理解を超え過ぎて何とも微妙な反応しかできない。
 プルートもかつては悪魔らしく旺盛な欲で様々に楽しんだものだが、いつ頃からだろうか、積極的に取り組もうという気持ちがどこかへ消え去ってしまった。
 悪魔にも様々な種類があり皆が皆同様の性質を備えているわけではない。プルートは元々理知的であまり情動に身を任せるタイプではなく、それゆえにこのリビドーがすべてである色欲の館が興味深く思え、勤め先に選んだのであった。
(それにしても人間界にまでアイディアを求めるなんて……あそこは本当に危険な場所……玉石混交といえばそうだけれど、わざわざあの汚泥に手を入れて探る気になどなれないわ……)
 プルートは人間が苦手だ。魔界では弱い悪魔は淘汰されてゆき、混沌とした中でも明確な実力による階級があり、ある意味での秩序がある。
 しかし、人間は個体差が大き過ぎるのだ。この長い年月で人間を知る度に、老齢の悪魔は困惑させられる。
(不安定で脆弱で、意味のわからない行動をする……悪魔をも感嘆させる奇書などをしたためる一方で、天使も呆れさせるほどの妄信的な秩序によるカルト教団を数多作り出す……理解不能だわ)
 そして人間の最も恐ろしいところは、天使、悪魔双方からいたぶられるか弱い存在でありながら、時折悪魔召喚などを経て魔界の住人を使役することもできる恐ろしい技術を会得していることだ。ときには魔王クラスの悪魔をも召喚する人間が存在するらしく、その点において悪魔たちは人間を恐怖している。
「あら……プルート。やはりあなたの夢見の悪さは予兆だったみたいだわ」
「え? どういうことでございますか」
 サキュバスの唐突な指摘にプルートは首を傾げる。
 そしてふいに足下に吸い込まれるような引力を感じハッと見下ろすと、そこには光で描かれた魔法陣が出現している。
「まさか、これは」
「召喚ね。あなたが引き当ててしまうだなんてね……」
 逃げようとしてももはや動くことすらできない。これまで一度も悪魔召喚の憂き目にあったことなどなかった自分がと呆然としてしまう。
 一方サキュバスは冷静である。
「あなたなら適当にやってすぐに帰って来られるでしょう」
「そんな投げやりな」
「あら、正当な評価よ。悪魔召喚なんてする人間は大概バカでクズだもの。遠慮することはないわ。早めに片づけてしまいなさいよ」
「それはそうですが……」
「今まで一度も悪魔召喚の経験がないんでしょう? なかなか人間界も楽しいものよ。私も色んな人間を乗り回したものだわ」
「いえ、わたくしはもうそのような元気は……」
 そう言うやいなや、プルートの視界からサキュバスが消えた。いや、プルートがサキュバスの前から消えたのだ。
 次の瞬間、プルートの眼前に広がっていたのは、豪奢で退廃的な美しい館の部屋ではなく、息が詰まるほど狭く、凡庸でこ汚い六畳のワンルームだった。
 足下を見下ろせば、簡易的な魔法陣がひとつ。傍らのテーブルには広げっぱなしの魔導書と食べかけのコンビニ弁当。部屋の隅には溜まったゴミ袋とペットボトルの山。木の根のように張り巡らされた無数のコードの先には複数のゲーム機、パソコン、ゲームパッケージの山に教科書やノートの山、洗濯物の山。つまり足の踏み場もない。
 そんな中で棒立ちになっているのは狭い部屋では息もできなさそうなほどの大きな男。モサモサの真っ黒な頭にずれかけた分厚い眼鏡。人間の年齢で恐らく二十代前半のモンゴロイド。
 教科書の内容からして文系の大学生。年若い青年だがこの人生最盛期特有の覇気がない。丸めた背中にガニ股のスウェット姿のまま硬直し、無精髭のこ汚い格好でプルートを凝視している。
 カーテンを閉め切っていて明かりは魔法陣を取り囲む蝋燭の光のみ。悪魔召喚は夜中の零時が常套とされているはずだが、その規則を守らず夜の七時相当である。暖房はついているがそれを加味すると現在気温は人間の感覚にして摂氏十度程度。そう、忌まわしいあの男の生誕祭が近い時期だ。
 この部屋にあるものに書かれた言語を鑑みればここは日本。この青年の身分と持ち物と部屋の広さから推察するに、東京の学生が多く住む地域。
 一通り状況を把握すると、プルートは青年に視線を向けた。青年はずっと固唾を呑みプルートが何か言葉を発するのを待ち続けている。
 会話をするのも面倒だがとりあえずプルートは青年に訊ねた。
「何だかこの部屋、臭くないですか?」
「え……えぇっ!? そ、そうですか? ていうか第一声がそれ!?」
 青年は大げさなほど飛び上がり、怯えたような目でくんくんと鼻先をひくつかせる。図体のでかさも相まってまるで臆病な熊のようだ。
「俺にはわかりませんけど……臭うのかな……」
「溜まっているゴミ及び洗濯物の臭いが部屋中に漂っていますよ。そうでなくても男の一人暮らしの部屋は臭いものです。自分が臭くないと思うのは当たり前です、あなた自身の臭いなのですから。ある程度歳のいった男はすべて臭いです。臭くない男はありとあらゆる努力をしてようやく無臭を手に入れているのですよ」
「そ、そんなに臭い臭い言わなくても……」
 青年は不安げに自分の体を嗅ぎ、再びプルートに視線を向け、しげしげと観察する。
 プルートが現在着用しているのは、色欲の館のメイドたちが身につける、漆黒のパフスリーブのロングドレスに純白のフリルがついたエプロンと揃いのカチューシャという、オーソドックスなスタイルである。
「というか……あの……失礼ですがあなたはメイドさん……?」
「はい、そうです。只今メイドをしております」
「俺は悪魔ではなくメイドさんを召喚してしまったのか……」
「いいえ、わたくしは悪魔でもありますので、合っていますよ。悪魔召喚は立派に大成功です」
 プルートがそう太鼓判を押しているというのに、青年はまだ疑わしげな眼差しで見ている。こちらの何の変哲もない日常をぶち破って無理やりこ汚い部屋に召喚しておきながら、何がそんなに気に食わないのだろうか。
「何ですか。わたくしが悪魔だとは信じられませんか」
「だ、だってその……悪魔っていってもメイドさんなんだろ? やっぱり俺が素人だからそういう階級の悪魔しか呼べなかったのかな」
 真顔でなかなか失礼なことを言ってくる。おどおどしながらも敬語とタメ口が交ざっているのはプルートを侮っているからなのか、他人との距離感が掴めない社会的スキルの欠如ゆえか、と冷静に観察を続ける。
「まあ、そうかもしれませんね。メイドと階級とはまた違うものですが」
「それに君はただの綺麗でか細くてか弱い女の子にしか見えないし……確かに肌は白過ぎるし髪も怖いくらい黒くて作り物みたいだけど……悪魔ってもっと恐ろしい姿をしているものだと……角とかしっぽとか翼とか……」
「もちろんそのような姿の悪魔もおりますよ。様々な形の同朋がいるのです」
「えっ。そうなんだ……じゃあ、君は人間に近い姿の悪魔ってこと……?」
「わたくしにも翼はあります。飛ぶとき以外は収納されており見えませんが」
「収納できるの!? えぇ……予想外だよぉ……」
 いちいち驚いてばかりの青年にプルートはため息をつく。悪魔に関して何の知識もないらしい。
 それにしても見るからに悪魔召喚のド素人過ぎる。魔法陣も落書きのようなものだし、よくぞこれで実際に呼び出せたものだ。よほど運がよかったに違いないが、こんな召喚ごっこのような体たらくで実際に自分という悪魔が呼び出されてしまったことに、何やら腹立たしさも感じる。
「とにかく、呼び出されてしまったからには、わたくしも仕事をせねば魔界に帰ることができません。早速仕事をしようではありませんか」
「え、仕事?」
「召喚ですよ。あなた、悪魔を呼んだのですから、何か叶えて欲しい野望があるのでしょう? お金ですか? 地位? 名誉? 何でもどうぞ。可能な限り叶えて差し上げます」
 ぽかんとした青年の顔に若干苛ついてそう問いただすと、青年はハッと今更思い出したように頷いた。
「そ、そりゃもちろんあるよ。でも、君が悪魔に見えなかったもんだから、すっかり忘れていて……」
「随分と見た目にこだわるのですね。そういうあなたこそ悪魔遣いには見えませんよ」
「悪魔遣い……?」
「悪魔を召喚した人間をそう呼ぶのですよ。あなたがわたくしを呼んだのでしょう?」
 青年はまごつきながら自身のもじゃもじゃの頭を掻き回す。
 いちいち言動に自信がなさそうで、見た目の逞しさとのギャップが奇妙ですらある。
「し、正直本当に呼べるとは思わなかったんだ。最近むしゃくしゃすることが多くて、どうにか現実を変えたくて、ダメ元で古本屋で偶然見つけたこの本の通りにやってみただけだったんだけど……」
「それは本当に幸運でしたね。罷り間違えば即刻命の危機すらありましたよ」
「そ、それはわかってます……この本に書いてあったし。でも、俺は死んでも構わなかったんだ」
 突然自暴自棄な言葉を吐いて、青年は肩を落とす。
「こんな絶望的な状況を何度も繰り返すなんて……俺には無理だ」
「一体何があったんです」
「何って……クリスマスですよ! 一年で最大の恋人たちのイベント! ハロウィンが終わったら街は速攻でカボチャ撤去してツリー設置してクリスマス! まだ十二月になったばっかりだっていうのに、毎日がすでにクリスマスなんですよぉ!」
 青年は一転別人のようにいきり立って熱く不満をぶちまけた。
「外に出ればあちこちでイチャイチャイチャイチャ……テレビもネットも広告も何もかも恋人煽りしてきやがって……普段から俺を馬鹿にするリア充どもをどうにかしてやりたい気持ちがこの時期はもう抑えきれなくなるんです! まるで一人でいることが罪みたいな感じになるじゃないですか!? 一人のクリスマスなんて可哀想、寂しい、恋人作りなよ~みたいな! そういうのがもう我慢できなくて、こうなったら悪魔でも呼んでやろうかと……」
 プルートはここでようやく把握した。この青年は人間界で言うオタクなる人種である。
 異性関係やイベントを謳歌する陽キャと対をなす陰キャと呼ばれる人生に停滞する人々で、こうして時折世の中の流れについていけず呪詛を吐き散らす習性がある。
 だが悪魔にとって人間が陽キャだろうが陰キャだろうが関係ない。人間は飽くまでただの玩具であり狩りの対象であり、ただ弄ぶためだけの存在である。何より、この若者が神の子の生誕祭のために悪魔を呼んで幸せをぶち壊してやろうというその気概がプルートは気に入った。
「なるほど。あの忌むべき日に破壊を企むとはなかなか見どころがありますよ。とてもよい心構えだと思います」
「え……そ、そうなのかな?」
「ええ。なかなか悪魔的でよろしいかと。わたくしもこの不吉な時期に人間界に呼ばれた甲斐があるというものです」
 プルートの反応が意外だったのか、若者は毒気を抜かれた様子でぽかんとしている。
 人間らが大騒ぎするクリスマスは天界で幅を利かせるあの男の生誕祭だ。悪魔たちはいちいち天界の者らの誕生日など気にかけはしないが、悪魔の獲物である人間が盛大に祝う神の息子のものは世界中で大騒ぎするだけに腹立たしい。
 何しろ、人間が天使たちを敬うようになってしまったのは、あの男が彼らに与えた影響が甚大なのだ。奴が作った宗教に属さない者たちでさえなぜか浮かれて街中をイルミネーションで彩る異常ぶり。
 悪魔がつけ入りやすい欲望にまみれた時期でもあるが、あの男を讃えるムード一色の世界へ降り立つのは、なかなか悪趣味な行為と言わざるを得ない。
「ところで召喚されてからずっとこうして突っ立って話しているのですが、そろそろ落ち着いてあなたの自己紹介でも聞きたいものです」
「あっ! そ、そうだね。すみません、気づかなくて」
 青年はオロオロと辺りを見回し、薄く引き伸ばされた干物のような座布団をプルートに差し出した。そして緊張した手つきでお茶を作り、おずおずとプルートの前に置く。
 体も手も何もかもが特大サイズなのに、その動きの小ささと怯えが珍妙である。プルートはこの大きい臆病な生き物を興味深く見つめた。この人間が自分を一瞬にして魔界から人間界へ飛ばしたとは、未だに信じ難い。
「ええと……俺は花園守といいます。東生大学文学部の三年です」
「守さんですね。ご趣味は?」
「えっ。えーと、ゲーム、です」
「なるほど。それで現実の女性でなくゲーム画面の美少女を愛していると」
「ちょっと! 趣味がゲームって言っただけですけど!?」
「いえ、これまでのお話を聞いているとそんな感じの方なのかと」
「ち、違います! ゲーム全般大好きですしオタクですけど、そういうんじゃないんで」
 そうですか、とプルートは若干がっかりする。人間の変形した欲望を味わってみたかったが、この青年は性癖としてはそこまで辿り着いていないようだ。
「わたくしの名前はプルート。地下の悪魔です」
「え、地下の……?」
「ええ。魔界はそもそも人間界からすれば地中にありますが、わたくしの居場所はもっと深いところにありますので」
 守と名乗った青年はプルートの説明ににわかに瞳を輝かせ「なんかカッコイイ……」と呟いている。
 それにしても花園守とは何とも穏やかで美しく平和的な名前だ。現在の本人の思考はまるでそんなものとはかけ離れているのがますます愉快である。
「ところで守さんも腐れドブネズミ野郎の誕生日がお嫌いのご様子ですが、具体的にどんな破壊をご所望で?」
「えっ……腐れ……、え、クリスマスのこと?」
「ええ。肥溜めクソ野郎と呼んでも差し支えありません。守さんはその日を徹底的に破壊したいのでしょう? どうやって幸せな人間どもを不幸の底に突き落としましょうか」
 プルートの至って冷静な罵りに守は目を泳がせながら、慌てたように頭を振る。
「い、いやいや、プルート、俺はそんな大それたことがしたいわけじゃないんだ。俺を馬鹿にした奴らを懲らしめてやりたいってだけでさ」
「懲らしめる……とは? 拉致して拷問でもしますか? 二度とリア充を気取れないようちょん切りますか?」
「や、や、そんなヤバいのじゃなくってさ、彼女に振られるとか、皆の前で何か失敗して恥かくとか」
 湿っぽい畳の上ででかい尻をもじもじとさせてささやかなお仕置きを口にする守に、プルートは繊細な眉をひそめた。
「あの……守さん」
「はい?」
「悪魔召喚の対価は召喚した人間の寿命ということはご存じですよね?」
「え、うん……本にそう書いてあったけど」
「自分の命を削るという大きな代償を差し出しておきながら、そんなちっちゃい望みでよろしいのですか?」
「え、うん」
 あっさりと頷く守。あまりに真っ直ぐな目をしている。
 駄目だこいつ、早く何とかしないと──プルートは悪魔ながらに思った。

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