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果てなき渇愛
孤独な皇帝と死にたがりの聖女

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書籍紹介

――穢す? これが俺の愛し方だ

「この女は誰にも渡さない。……たとえ神であっても」
アリーシャの秘裂を、皇帝リューンガルドの猛った欲棒が貫く。
快感で火照る肌に浮かび上がる聖痕。
肉欲を教え込まれた“聖女”は“女”へと堕ちていく……。
自身の存在が争いの種となっていることに絶望する聖女と、
国を愛するがゆえに孤高の存在となった皇帝。
二人は強く惹かれ求め合い――。
運命を切り開く、真実の愛の物語!

ジャンル:
西洋 | ファンタジー
キャラ属性:
王子・王族・貴族
シチュエーション:
甘々・溺愛 | 玉の輿・身分差 | 幼馴染・初恋の人
登場人物紹介

リューンガルド

イディド帝国の皇帝。腐敗した国情を憂い、クーデターを起こし現在の地位についた。その際に前皇帝でもある父を含め大粛正を行ったことから、殺戮皇帝と恐れられている。

アリーシャ

様々な奇跡を起こす力を持つ聖女。その力があるゆえに、自分を巡る争いが周囲で起きている事に一種の絶望を抱きながら日々生きている。

立ち読み

 デュシア王国の辺境にある村に、アリーシャという美しい少女がいた。
 花はいつでもアリーシャに綺麗な姿を見せ、小鳥たちは競うように美しく囀る。
 世界は光に満ち、木々や草花も自分に笑いかけてくれているようだ。
 彼女は自分を無条件に受け入れてくれる自然を愛していた。
 天使がそのまま顕現したかのような彼女は、見事なプラチナブロンドの髪に、見る者を魅了する金色の目を持っている。
 驚くほど長い睫毛で瞬きする様子を、まるで蝶の羽ばたきのようだと誰かが言った。
 また、彼女の腕や脚には、赤い痣──聖痕が刻まれている。
 遙か昔に聖人アメルティティという存在がいて、王にも匹敵するほどの支持を得た彼、もしくは彼女は、最期には鳥葬の刑となった。
 その後、聖職者をはじめ信心深い者の体には、アメルティティが負った傷と同じ場所に赤い痣が浮かび上がり、人々はそれを聖痕と呼ぶようになった。
 アリーシャのそれには痣というには明確すぎる形がある。
 蔦に花が絡まるような模様が、白い手脚に刻まれていた。
 普通とは異なる外見をしているアリーシャには友達がいない。
 その代わり野原を歩けば、気が付くといつも動物たちがお供のようについてきてくれている。
「晴れたらいいな」と願うと雲が次第に消えて光が差し、草花に潤ってほしいと思うと雨が降った。
 アリーシャはそれを「皆が優しいお陰」と思い、特別な能力とは思っていなかった。
 だがそんな子供を、大人たちが放っておくはずがない。
 やがて、白い服に身を包んだ人たちがアリーシャを迎えに来た。
 母は白い服を着た人にズシリと重たそうな袋をもらい、「あの方々の言う事を聞くのよ」とやつれた顔で笑いかける。
 ──お母様が嬉しいなら、私は行くわ。
 どこまでも、アリーシャは人の喜びを望む少女だった。

 その後、彼女は王都にある教会に保護され、聖女として人々に慕われながら育っていく。

   **

 十五年後、二十歳になったアリーシャは、石造りの塔の最上階にいた。

「アリーシャ」
 寝台に横たわる彼女に、男──リューンガルドが声を掛ける。
 しかし彼女は深い寝息を立てたまま、目蓋をピクリとも動かさなかった。
 彼は頭に被っていたフードを取り、黒髪、そして青い瞳の整った顔を露わにする。
 部屋には鉄格子でできた内扉がついている。彼は内扉を中から施錠し、その外にある木製の扉は開けたままにしておいた。
 扉の向こうには、地に伏せて気絶している男がいる。
 ──これから俺は、あいつの大切な聖女様を穢すのだ。
 自分がなす事を考え、リューンガルドは昏く笑った。
 マントを取り、彼はその場で衣服を脱ぎ始める。
 アリーシャの寝息以外ほぼ音がしない部屋で、衣擦れの音だけがしばし聞こえていた。
 やがて武神もかくやという裸体を晒したリューンガルドは、簡素な寝台に膝を乗り上げる。
 小さく軋む音がしたが、豊かにうねったプラチナブロンドの髪を広げて仰向けになっている彼女は、やはり反応しなかった。
 ベッドサイドには彼女が寝る前に飲んだワインのゴブレットがあり、彼はそれを見てほの暗く笑う。
 彼女は白い絹のネグリジェを着ていた。
 そのボタンを一つずつ外し、リューンガルドは丁寧に彼女を包む布を開く。
 やがて、ランプの明かり一つだけの空間に、聖女の裸体が晒された。
 オレンジ色の光に照らされたその肌は、真珠に似た光沢すら発してまろく輝いている。
 この世のすべての美を集めたかのような彼女を見て、リューンガルドは感嘆の息をついた。
「美しい……」
 日焼けした彼の手がアリーシャの肩に触れ、ツ……と腕を撫で下ろす。
 それでも反応しない彼女を確認し、リューンガルドは両手で彼女のむっちりと実った胸の果実を包んだ。
 弾力があり、それでいて柔らかい聖女の乳房を揉むうちに、股間は男として反応し、徐々に硬くそそり立ってゆく。
 胸の先端の色づいた部分は、指の腹で何度か撫でているうちに、プツンと勃ち上がっていった。
「ん……」
 アリーシャは微かに声を出し、膝頭をすり合わせて腰を揺らした。
 彼女の脚を開くと、金色の和毛が申し訳程度に生えた恥丘と、肉色の花弁が露わになった。
 男を知らないそこは、リューンガルドの指に撫でられてクピ……と啼いた。
 彼は逸る気持ちを抑え、ゆっくりと手を動かす。
 純潔を奪うのに、痛くさせてはいけない。
 たっぷり濡らして、自分の屹立を受け入れられるようにしなくては。
 クチャクチャと音を立て、リューンガルドは温かな蜜壷に指を入れて膣壁を擦っては圧迫する。
「ぅん……、あ……、あぁ……」
 男の愛撫を受けて、アリーシャの陰唇はふっくらと充血し、淫芽も大きく勃起していた。
 愛すれば愛するほど、彼女の体は応えてくれる。
 起きて反応を見せなくても、アリーシャがリューンガルドの愛撫を受け入れているのは明確だった。
「ん……っ、あ、……あ……」
 アリーシャが身じろぎする。
 彼女が反応しているのは、もたらされる快楽も原因だが、その額、腕と足首にくっきりと赤い痣が浮かび上がっているのも理由に挙げられる。
 彼女は奇跡の力を持つ本物の聖女だ。
 神に愛されているのは言うまでもない。
 アリーシャがリューンガルドという人間の男の愛を受け入れるたび、離して堪るものかというように神は聖痕に痛みを刻みつけるのだ。
 彼は聖女の肌でより鮮やかに赤みを増す聖痕を見て、酷薄に口端をもたげる。
「この女は俺のものだ。誰にも渡すものか。……たとえ神であっても」
 背徳感にまみれながら手を動かすと、アリーシャがくぐもった声を出し絶頂したのが分かった。
 満足していざ挿入しようとした時、嫉妬に狂った男の声が聞こえる。
「アリーシャ様に何をしている!」
 男──聖騎士の声を聞き、リューンガルドは特に驚いた様子もなく、そちらを一瞥した。
 彼はわざと外扉は開け、内扉を施錠しておいたのだ。
 だから気絶させておいた聖騎士が目を覚ませば、自分たちの行為を目の当たりにすると分かっていた。
「好きな女の側に長年いながら、一度も手を出さなかった臆病者は、そこで指を咥えて見ていろ」
 目を細めて笑ったあと、リューンガルドは手にした屹立でわざとアリーシャの花弁を擦って彼を煽った。
「やめろ! 聖女様! 目を覚ましてください!」
 聖騎士は苦悶の表情を浮かべ、必死に両手で鉄格子を握り揺さぶった。
 だが彼女をここに幽閉する事を提案した聖騎士ならば、この鉄格子の堅牢さは誰よりも分かっているはずだ。
 悪辣に表情を歪めた彼は喉で低く笑い、聖女の蜜口にくぷりと亀頭を浅く埋める。
「……やめろ……。幾ら皇帝でも、その罪が分からない訳でもあるまい」
 震える聖騎士の声を聞き、皇帝──リューンガルドは彼をあざ笑った。
「己のやる事が分かっていない阿呆がいるか。俺は自分の女を愛するだけだ」
 短く告げ、聖騎士に向けて薄く笑ったあと、皇帝は聖女の純潔をひと突きで奪った。







 その聖女がどこから来たのか、世間には知らされていない。
 デュシア王国のアハガルム神聖教会に突如として奇跡の力を行使する聖女が現れ、次々に人々の病や怪我を治していった。
 国王が干ばつに憂う事があれば雨を呼び、また雨が続けば太陽を呼んだ。
 聖女が教会から奉仕のために外に出ると、どこからともなく鳥が飛んできてその上を旋回する。または彼女に聞かせるように美しく囀る。
 噂では、国王が遠方から取り寄せた珍しい猛獣すら、初対面の聖女の前で腹を見せ服従を示したと言われている。
 出身の分からない彼女を、人々は畏敬を込めて『果ての聖女』と呼んだ。
 だが教会上層部の者だけは、聖女アリーシャの出自を知っていた。
 彼女はデュシア王国の辺境にある名前もない小さな村にいた女児で、奇跡の力をごく当たり前に使っていた。
 村の司祭がアリーシャの力を王都の教会に報告し、司教が仰々しい列を作って村に現れた。
 他の子供たちと一際見た目の違う、真っ白な肌に白金色の髪、そして金色の目。さらには袖やスカートの裾から見えている赤い聖痕。
 彼女の力を確認した司教はアリーシャに恭しくこうべを垂れ、自分たちと一緒に王都に来てくれないかと尋ねてきた。
 彼女の両親は“普通”ではない娘に手を焼いていて、抵抗するでもなく、むしろ喜んで娘を教会に売り渡した。

 王都に着いたアリーシャは、両親と引き離されても泣かず、大人しく周囲に従っていた。
 湯浴みの時、修道女はアリーシャの体じゅうに、神の印──聖痕があるのを見つけ、上層部に伝えた。
 アリーシャが聖女である証拠は揺るぎなく、上等な白い服を着せられ、花冠を被って“お勤め”をするようになった。
 子供にはつまらないだろう決まり切った行動にも、アリーシャは一度も文句を言わなかった。
 周りの言う事に「はい」と返事をし、素直に行動する。
 その姿は余計に、アリーシャを聖女たらしめる所以となった。

 十八歳になった頃には、彼女はすでに聖女としての地位を揺るぎないものにしていた。
『聖女様がおわす限り、デュシア王国が陰る事はない』
 王族、貴族、民、聖職者すべてに絶大な人気があり、彼女の姿を見ただけで感極まって泣き出す者までいる。
「アリーシャ様、今日もお綺麗ですね」
「ありがとうございます、イルナ」
 アリーシャは毎朝、沐浴をしたあと薔薇の香りがする聖油を全身に塗り込まれる。
 側で彼女の世話を焼いてくれているのは、イルナという二十代半ばの修道女だった。
 イルナは聖女づきの修道女となれた事を誇りに思っているようで、常に笑顔で優しく接してくれた。
 大理石の台の下には湯が入れられていて、裸のアリーシャが横たわっても冷たくないようになっている。
 イルナはうっとりとした顔でアリーシャの素肌に手を滑らせ、聖油を塗り込んでゆく。
 背中や臀部、脚の裏側に聖油を揉み込まれたあと、仰向けになって体の前面にも聖油を塗られる。
 周囲の人が彼女に対してどんな反応を見せても、アリーシャは等しく微笑みかける。
 彼女にとって誰もが平等に大切で、逆を言えば誰一人として特別ではない。
 けれどイルナと過ごす時だけは、ほんの少し「嬉しい」という感情を抱いている。
 彼女は元貴族の娘らしいが、アリーシャと二人きりになると家族の事などを話してくれるからだ。
 アリーシャは午前中に奉仕に出掛けて昼食は外で食べ、夕方まで活動を続ける。
 貴族や平民問わず、彼らが求めるがままに傷や病気を癒やし、祝福を与えるのだ。
 そして教会に帰ってきて夕食を取ったあと、寝る前に教会内の者たちにも祝福を与える。終われば沐浴をして就寝だ。
 その中で毎週末の祝福の最後は、ソラリスという名の修道士になっていた。
 今年二十八歳になった彼は、他の若い修道士より高い地位にある。
 他の修道士をとりまとめる役割なので、何かにつけて最後を務める事があった。
 イルナはそのソラリスを尊敬していた。
 だからイルナがソラリスの事を嬉しそうに話すのを見るのが、何より楽しかった。
 聖油を肌に揉み込む時間が終わり、アリーシャはドロワーズをはきシュミーズを着ると、聖女の衣を着せられる。
 神の花嫁という意味で、彼女の衣は白だ。
 首元から胸、手首までは繊細なレースで包まれ、背中をコルセットのように紐で締める。胸元には聖痕を表す赤い刺繍が施され、腰から下がる前垂れには、教会の紋章や聖痕を表す花々が同様にあった。
 白いスカートとマントは軽い生地で作られていて、少しの風で大きく膨らみたっぷりとした布地を揺らし神々しさを演出する。二の腕からヒラヒラと垂れている薄布の袖も、また聖女らしさを醸し出していた。
 貴族の令嬢のドレスと遜色のないこの高価な衣だが、教会は国王に聖女の重要性を告げ、何着も同じ物を作る資金を得ていた。
(……重い)
 普段は何一つ文句を言わないアリーシャだが、最近聖女の衣装を纏うごとに重みを感じていた。
 衣装そのものの重量が変化した訳ではない。
 ただ年々自分への──いや、聖女への期待が膨らみ、デュシア王国以外の周辺国にも噂が及んでいる。聖女としてのお勤めも、国外にまで向かう事が増え、自分の体だというのに自分だけのものではないと痛感する事が多々あった。
 イルナは慎重でまじめな性格なので、ミスをする事がほぼなかった。
 だが以前にイルナではない若い修道女が、アリーシャの爪を整えていて手元が狂い、彼女の指に擦り傷を作ってしまった事があった。
 聖女の玉体に傷をつけたという理由で、その修道女はどこかへ連れて行かれてしまった。
 後日見かけた彼女は怪我をしているようで、とてもぎこちない動きをしていた。そしてアリーシャを見ると、ひどく怯えた表情になりサッと顔を伏せてしまった。
(あれは、私のせいなのだわ)
 アリーシャは、自分の周りの人たちは全員善人で優しいと思っている。そんな人たちが自分に害を与えるはずがない。
 周囲が自分を大切にしてくれるのはありがたいが、誰にだって過ちはある。ほんの些細な理由で、自分のせいで近しい者が罰を受けるなど考えるだけで悲しくなった。
(あれぐらいの傷、すぐに治るのに)
 今、アリーシャは椅子に座ってイルナに爪を整えられている。
 後輩の失態がいまだ記憶に残っているのか、イルナも慎重だ。
(私の体なのに、私の体に傷をつける事を、他の人が許さない……)
 たとえ彼女が自分自身で傷を作ったとしても、教会上層部は側にいる者が見ていなかったからだと言って、イルナたちを罰するだろう。
(いつから、こんなに窮屈で、聖女の衣装も重たいと感じるようになったのかしら)
 聖堂の裏側には、聖職者や修道士、修道女が生活する建物がある。その離れにアリーシャの聖女の館が独立して作られていた。
 窓の外を見ると周囲は花で囲まれ、木々も白く小さな花を咲かせている。木には小鳥が止まって、アリーシャが顔を出すのを待っているかのように囀っていた。
「さぁ、できましたよ。今日も完璧です」
 イルナに「ありがとう」と微笑みかけ、アリーシャは食事をとる事にした。

 朝食後に聖堂に向かって、教会にいる全員と一緒にお祈りをする。
 そのあとは王国の聖騎士たちに護られ、奉仕活動だ。
“外”へ出て、聖女の奇跡の力を求めている人々を癒やしていく。奇跡を与えられる順番を決めるものや資格などないと思っているのに、貴族が先と決まっているようだ。
 一日の最初に聖女は宮殿に向かう事になっている。
 宮殿に入って聖女のために作られた部屋に向かうと、そこに王都にいる貴族たちが列を成して彼女を待っている。
 彼らは自分自身で働く事がほぼないため、生傷を作る事は滅多にない。頭が痛いだの、心配事があって眠れないだの言われても、どこまで本当なのか分からない。
 本当に彼らが体の不調を抱えているなら、きちんと治せたはずだ。だが心配事の解消については、残念ながら力になれない。
 恐らく、本当の意味でアリーシャの力を求めている者は、貴族の中にはいないのだろう。
 全員、奇跡の力や、美しい聖女を間近に見る事を目的にしているように思える。
 彼らに囲まれていると、まるで自分が見せ物になったように感じられた。
 昼食は宮殿で豪勢な食事をとらせてもらう。
 同じテーブルを王族や宰相、有力貴族などそうそうたる面々が囲む。イルナは後ろに控えていて、あとから別室でパンを囓るだけだ。
「お父様。その平民は、いつまで私たちと身分が同じという顔をしてテーブルにつくのです?」
 棘のある言い方をしたのは、王女カーミラだ。
 年齢は二十歳に満たず、アリーシャとほぼ同い年だ。だからなのか、何かと宮中で聖女と比較されているようで、面と向かって話した事はあまりないのに目の敵にされている。
 カーミラの婚約者である宰相の息子が聖女の信奉者なので、余計に憎まれているのでは……とイルナが言っていた。
「これ、カーミラ。聖女様に滅多な事を言うのではない。お前が病気になった時に助けてくれるのは、聖女様かもしれないのだぞ」
 国王が王女を窘めるが、彼女はしかめっ面をするだけだ。
「そのための侍医がいます。訳の分からない不気味な力に頼って堪るものですか」
 面と向かって嫌われているが、アリーシャはいつものように微笑んだまま食事を続けていた。
 変わらない聖女の表情を見て、王女が小さく毒づく。
「何の反応も見せないだなんて、まるで人形だわ。それにあんな顔をしておいて、裏では男を誑かしているんじゃないかしら」
 王女の言葉はアリーシャを含める周囲にいた者に聞こえたが、全員聞こえなかったふりをした。

「王女殿下は相変わらずでしたね」
 昼食を終えて今度は城下街に向かう。アリーシャは健康のために歩く事を望んだので、イルナや護衛の聖騎士たちも付き合って歩いてくれる。
「人それぞれ、馬が合う合わないがあるので、仕方がないと思います」
 普通ならあれだけ嫌悪感を露わにされれば、少なからず傷つくだろう。
 だがアリーシャは他人に対して心を開かず、誰にも期待していないので傷つく事もなかった。
「私にはイルナがいればそれでいいです」
「まぁ、嬉しいお言葉をありがとうございます」
 イルナは微笑んだが、城門の近くに立っている人影を見て表情を曇らせる。
「あの男、またいますね」
 胸に手を当てて聖女に敬意を表しているのは、アリーシャが二年前に治療した傭兵だ。
 城下の平民街で、民家の壁にもたれ掛かっていたのをアリーシャが発見し、治療したのだ。
 見つけた時は怪我を負い髭も伸び放題だったが、聖騎士に頼んで近くの宿まで彼を運んでもらい、宿の女将に金を渡して身ぎれいにしてもらった。
 黒髪に茶色い目の男性は、こざっぱりとした格好になると人目を引く美男だと分かった。
 完全に回復した今、彼はアリーシャに話し掛け礼を言おうとするのだが、いつも聖騎士たちに阻まれている。
 それでも諦めずに聖女や修道女、それに修道士や護衛の聖騎士からなる行列に毎回ついてくるので、今では聖騎士たちも傭兵を遠ざけるのを諦めていた。
 デュシアの王都は、近隣の国や通りかかった旅人が聖女の奇跡にあやかろうとして、連日ごった返している。
 必然的に商売は繁盛し、そこから納められる税によって国が潤っている。
 国王や貴族たちもまた、聖女の経済的な効果を重視していた。
 聖女を一目見ようと人々が押し寄せ、聖騎士たちがアリーシャを護る。
 聖騎士たちに混じってあの傭兵もまた聖女を守り、人々に列を作って順番を守るよう促していた。

 一日の奉仕が終わり、アリーシャは自分の部屋に運ばれてきた夕食をとる。
 教会の他の者たちと一緒ではなく、一人だけ離れで食べるのは、食べる物に差があるからだ。
 上層部の者たちも別室で食べていて、修道士や修道女は全員同じ場所で一言も言葉を発さず簡素な物を食べているという。
「私だけこんなに豪華な物を食べていいのでしょうか?」
 肉や野菜がたっぷり入ったスープに、牛肉を柔らかく煮込んだ物。パンはフワフワで、新鮮なミルクの他に果汁を搾った飲み物もある。
「アリーシャ様は特別なのですよ」
 お目付役という事で、イルナも同じ部屋で食事をしているが、彼女は部屋の隅にある小さなテーブルで聖女とは異なる質素な物を食べている。
 その差が居心地悪く、アリーシャはいつも「お腹いっぱい」と言って、余分にあるおかわりのパンやスープ、肉などをこっそりイルナに食べさせていた。

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