寡黙な騎士団長は身代わり悪女にメロメロです!

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- 本販売日:
- 2022/06/17
- 電子書籍販売日:
- 2022/06/17
- ISBN:
- 978-4-8296-6960-0
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お前が誰であろうと構わない……愛している
幽閉された王女の身代わりで厳格な騎士団長アルフレッドと結婚したリリア。
威圧的で怖い男性だと思いきや、女性への気遣いが出来る紳士的な人だった。
結婚初夜、熱いキスや愛撫で優しく導き、
かつてないほどの快感を与えてくれて。
幸せすぎる生活が続いていたのに、正体がバレて大ピンチ!
不安になっていたけれど
「俺の側にずっといてくれ」彼の言葉で逆転ハッピーエンドに!?
- ジャンル:
- 西洋 | ファンタジー
- キャラ属性:
- ワイルド・騎士・軍人
- シチュエーション:
- 新婚 | 甘々・溺愛

アルフレッド
辺境の領地を預かる騎士団長。我が儘な(元)王女を娶ることになり、“性根を叩き直してやる”と意気込んでいたが、やって来た花嫁が思っていたのと全然違って!?

リリア
ヴァプトン伯爵令嬢。幽閉された(元)王女の身代わりに、王女のフリをして騎士団長のアルフレッドに嫁ぐことになり……!?
リリア・ヴァプトンは王族専用の幽閉塔を見上げた。
「……っ」
冷たい風が、ドレスの上にまとった外套を揺らしていく。
擦り切れ、あて布をして何度も繕ったそれは、表面だけがかろうじて美しさを保ってはいるけれど、裏返すと伯爵令嬢が身に着けるようなものではない。
中に着ているラベンダー色をした膨らみの少ないドレスも似たようなもので、上辺だけを取り繕っていた。
────ここには、ある高貴だった方が囚われている。
長い金色の髪も外套に合わせて揺れたので、リリアはバスケットを持たないほうの手で、そっと押さえた。
塔の下には若い見張りの兵士が二人立っていて、リリアに気づいて「またか」といった顔で警戒を解く。
「面会は三十分以内です」
「手荷物を検めます」
心のこもっていない淡々とした様子で、リリアが手にしたバスケットから慰問の品を検品していく。
剥いたフルーツを盛った器に、安物のワイン、刺繍をしたハンカチ。
「問題ありません、お入りください」
「ありがとうございます」
兵士が塔の扉を開け、リリアは礼を言って中へと入った。
目の前に現れた螺旋の階段を七十二段上ると、外から鍵のかかる扉がまたあり、その先に幽閉されている方がいる。
コツリと階段に足を乗せたところで、外から見張りの兵士が語らう声が聞こえた。
「また、貧乏くさいものばかり持ってきたな。害がないからいいが」
「没落しかかったヴァプトン伯爵家のご令嬢だから、仕方あるまい。他に誰一人面会に来ないというのに、何度も……優しいお方だ」
「最初は何か裏があるのかと随分警戒したが、無用だったな。あの二人では何もできないだろうさ」
兵士の一人は好意的なようだけれど、もう一人は鼻で笑うように言った。
────こんな風に噂をされるのには、慣れている。
リリアは紫色の瞳を微かに伏せるだけで、それをやり過ごす。
何もできない、と揶揄されたようにヴァプトン伯爵家は傾いている。もう、笑い話にできないほどに。
使用人のほとんどには暇をだし、食事や着る物にも困る始末。
貴族の集まりに呼ばれて出れば笑いものになるだけだし、持参金の用意もできない家の令嬢に結婚相手など見つかるはずもない。
それならばと、金策や働きに出ようとしたリリアを、父も母も許さなかった。
貴族令嬢が働きに出るなど、とんでもないという考えである。
許される仕事である、家庭教師や貴族令嬢の話し相手の求人は今はなく、頼れるコネもない。
では、貴族らしく何ができるのか、何がしたいのかと考えた時に、リリアにはこれしか残っていなかった。
せめて、人の役に立つことがしたかったのだ。
望まれると、ホッと胸の中が幸せになる。
貴族という体裁に縛られながら、財力も権力もなく、他に何ができるというのだろう。
コツン……と、螺旋階段を上るリリアの靴音が響く。
────世間は、囚人を見捨てず見舞うことを、勝手に美談とする。
コツン、コツン。
────まさか、それしかしたいことがないとは、思わずに。
コツン、コツン、コツン。
────リリアの評判については、忍耐強くて献身的だと揶揄されている。
「……違うのに」
誰にも聞こえない声で、呟く。
皆は、いいようにリリアのことを受け取りすぎなのだ。
慰問は誰のためでもない。リリア自身の希望であり、自分のために他ならない。
貧乏ながらも、周囲に守られ生きてきたので、今度は誰かを守りたい気持ちがあった。けれど、その機会もないし、反発して家を飛び出す行動力もない。
だから、惹かれたのだと思う。
罪人とはいえ、彼女の奔放な生き方に。
彼女の人生の一部になれれば、少しでも触れられれば、何かが変わるかもしれない。
せめて希望がないと、生きていくのが辛すぎる。
縋るようにゆっくりと螺旋階段を上がりきったリリアは、外からの鍵を開けて扉を叩いて、声を張った。
「ライラーヌ王女、リリアが参りました。入ります」
キィーと扉を押すと、中には顔を綻ばせて歓迎する、ライラーヌがいた。
「リリア! ありがとう、今日も来てくれたのね」
会う度に思う。同じような色合いの紫色の瞳と、金髪でも、どうして彼女はここまで輝けるのだろう。
リリアはライラーヌの意志の強さを表すように、動くたびに揺れる波打つ金の髪を眩しく見つめた。
赤に金糸で見事な刺繍があるドレスは、ライラーヌによく似合っていて、大輪の花を思わせる。ここが、囚人の塔だと忘れてしまうほどに……。
「どういたしまして。こんなものしか、用意できませんでしたが」
扉をそっと閉めてからバスケットを差し出すと、ライラーヌが喜びの声と共に受け取り、椅子に座るとさっそくオレンジを口へと運ぶ。
幽閉場所とはいえ、王族用のこの塔は設備も整っているし、調度品も置かれている。
食事も通常の囚人よりは、はるかにましであると聞いていたが、果物が出てこないとライラーヌが言っていたのをリリアは覚えていたのだ。
「わたくしを見捨てない、貴女の天使の心に感謝だわ」
「……そんなことは」
見捨てるはずがないという気持ちと、天使などではないという困惑で、リリアは言葉を濁した。
本来、こんな風に名前を呼びあって親しくできる立場ではない。ライラーヌは、ルガラント王国の十番目の王女で、高貴な王族であった。
しかし、今はその身分を剥奪されている。
王と仲違いしたのをきっかけに、美しく行動力のある彼女が大勢の上級貴族と共謀して王座を乗っ取ろうとした結果だった。
ライラーヌには、貴族の恋人が何人もいて、思うままに彼らを操っていたらしい。
罪を暴かれた後、彼女は命こそ助かったが、もう外には出せない悪女だと、この塔に幽閉されている。
今後、幽閉のまま過ごすか、修道院に入れられるか、それとも国外追放か……その処遇を待っているところだ。
リリアは、元王女の取り巻きであった令嬢達が「いい気味だ」と噂をしているのに胸を痛め、差し入れを持ってこの塔を慰問したのが出会ったきっかけであった。
かつては常に多くの人に囲まれていたというのに、今のライラーヌの下には、驚くほどに誰も訪ねて来ない。
忘れられた……というより、存在しない者とされた元王女。
それからリリアは週に二回はここへ来て、彼女ととりとめのない話をしている。
「貴女、さっきまた、わたくしのことを王女と呼んだでしょう? 外でうっかり口にしたら、処罰を受けるわ、直しなさい」
「はい、ライラーヌ様」
文句を言うように心配してくれる、ライラーヌの口調が嬉しくて、リリアは微笑みと共に返した。
国を傾けたのは悪いことであるが、事が大きくなったのは、誰しもこんな風に感情を露わにするライラーヌを慕っての結果だったのではないだろうか。
王女という身分を失って、これまで従っていた者達が手のひらを返したように去り、傷心で毎日泣きはらしていたライラーヌをリリアは知っている。
彼女は、元王族の平民となり、誰もが離れていくという、もう充分過ぎる罰は受けているのだから、これ以上の処分はないといいと願っていた。
────なぜ、簡単に皆は見捨てたのだろう?
今の気持ちが同情心から来るものであるのは確かだったが、リリアは疑問に思わずにいられなかった。
我が身や家名を守るためなのは、わかる。
けれど、今まで懇意にしていた、孤独なライラーヌへ会いに来るぐらいは、してもいいのではないのだろうか。
いい顔をするのは面会を許される三十分だけでもかまわない。
きっと彼女は喜ぶだろう。
でも、そんな風に思ってはいても、彼らへ呼びかけたりしないリリアもまた、同罪なのかもしれない。
────ぐるぐると考え込んで何もできないのは、悪い癖。
リリアは思考力すら貧しい自分に、悲しくなった。
「相変わらず、思慮深い顔をしているわね。こんな損な役回りを引き受けている、物好きの貴女の今後がわたくしは心配だわ」
「いいえ、自ら進んで来ているのです。ライラーヌ様と話していると、自分にはないものが得られる気がして、楽しいのです」
「っ……あらそう! 暇つぶしになるから、別にいいけど……」
ツンと横を向くライラーヌの頬は、照れ隠しで少し膨れていた。
彼女を前にすると、リリアはなぜか普段よりも言いたいことを口にできてしまう。
今だって、やり返すような形になってしまったのは、普段のリリアではありえないことだった。
「……けれど、それももう終わりね」
ライラーヌが頷くように首を縦に動かした。
今までの軽口とは違う、溜めた息を吐きながらも軽快を装った声だとわかる。
「まさか、今後の処分が決まったのですか? 会いに行けないほど遠くへ?」
リリアはビクンとなり、ライラーヌへ身を乗り出した。
「会えない距離ではないけど、わたくし……嫁ぐことになったわ」
「えっ?」
それは、いい話ではないだろうか? 幽閉よりは自由な身に……。
どう反応していいかわからず、リリアがライラーヌの顔を見ると、苦虫を噛み潰したような表情になっている。
────とても悪い話みたい。
「平民になったわたくしを娶るのは、あの悪魔よ! アルフレッド・グローツ!!」
「確か……隣国への長い遠征からお戻りになったばかりの、騎士団長様ですよね。十年かかる戦いを二年で平定した英雄であるとか」
ライラーヌが事件を起こした時には、彼はルガラント王国内にいなかった。
そして、遠征の褒章で伯爵級の爵位と領地を賜ったのだ。
遠目にしか見たことはないが、悪魔と恐れられるほどの鋭い視線と、立派な体軀の持ち主である。
どうやら、平民となった元王女を娶るあたり、彼には出世欲がないらしい。
「……ええと、会ってみたら話が弾んだりするかもしれませんよ。実は幼い頃にライラーヌ様を城で見かけて、気にかけていたとか」
思いついた慰めを、リリアは口にした。本当にあるかもしれないことであったし。
「そんなわけがないでしょう! アルフレッド・グローツにとって女はみんなカボチャかジャガイモ! 興味がないの。遠征前に見かけたことがあったけれど、ゴミを見るような目で無視されたわ。思い出しても腹が立つ……」
ではなぜ、そんな話が持ち上がったのだろう?
わなわなと怒りに震えるライラーヌは、さらに声を荒らげていく。
「あの男はね! 同情心から厄介払いを引き受けたのでも、隠れた野心を持っているのでもないの。今回の件を承諾する際、彼が何と言ったと思う?」
語気をさらに強くするライラーヌに、リリアはどんな顔をしていいのかわからなかった。
「このわたくしの“性根を叩き直して、再教育します”と言ったのよ!! 再教育よ、再教育! きっと脳まで筋肉でできているのだわ……信じられない!」
「陛下とアルフレッド様との冗談かもしれませんし」
何とか彼女を宥めようと言葉を探し出したのだけれど、無駄だった。
「こっちが冗談じゃないわよっ、片手間に騎士団長に鍛えられるぐらいなら、修道院のほうがましだわ!」
「しかし、騎士団長様のことはよく知りませんが、ライラーヌ様なら、上手く張り合えるかもしれませんよ。好色な老人に引き取られるわけではないですし……」
「絶対に嫌よ! きっと毎朝早くに叩き起こされて訓練をさせられるわ。だいたいグローツ領地は、辺境で使用人も寄せ集め、領民も野蛮だって噂だし、これは事実上の死罪だわ! 死んで生まれ変わったほうがまし!」
ライラーヌはいきなりバッと椅子から立ち上がると、わーんと声を上げながらベッドに駆け寄って、そのまま顔を突っ伏した。
自由奔放な彼女からしたら、自他共に厳しい男性との結婚は翼をもがれたような気持ちなのだろう。
「ライラーヌ様、死んだほうがいいなんて言わないでください」
リリア自身、今まで何度その言葉を思い浮かべたことだろう。
人は死ぬと生まれ変わり、また新たな人生を歩むという考え方があるという。
その話を聞いた瞬間、何も出来ないがんじがらめの人生ならば、いっそ自らの手で終わりにし、新しく生まれ変わりたいと思った。
けれど、リリアはそうしなかった。
今まで耐え忍んできたことが無駄になる気がしたからだ。
あるかわからない次を選んで終わりにするより、耐えていつか報われるのを待つ方が自分らしい。
ただ単に終わりにする勇気がないからだけれど。
「無理よ。もうセオドニーに二度と会えないかもしれないと思うと……」
そっと背中を撫でたけれど、彼女はシーツに埋めた顔を上げようとはしなかった。
彼女の言ったセオドニーという名前はリリアも知っていた。幽閉前にライラーヌと特に親しい間柄だと噂になっていた若い貴族の一人だ。
どうやら彼女の本命は彼だったらしい。
「このまま結婚させられたら、あの屈強な男に、獣のように奪われるんだわ。きっとわたくしはセオドニーのことを思いながら、毎日、毎日……泣くでしょう……」
ライラーヌの言葉は涙声でかすれていた。
リリアは彼女のように好きな男性がいたことはなかったのでよくわからない。それでも意中の人がいて、それとは別の男性に無理矢理嫁がされれば、胸が引き裂かれ、涙が止まらないのは想像に難くない。
「私にできることならば、何でもして差し上げたいのですが────」
一緒に悲しむことぐらいしかできず、申し訳ありませんと謝ろうとしたけれど、突っ伏していたライラーヌがガバッと起き上がり、リリアの言葉を遮った。
「本当? 力になってくれるの? 貴女にできることは何でも?」
「え、ええ……」
手を握られ、顔を近づけられ、半ば強引に頷かされる。
しかし、彼女の悲しみが少しでも軽くなるなら、どんなことでもして差し上げたいのは、本当の気持ちだ。
「実は嫁がなくていい方法を一つだけ思いついたの」
またもいきなりライラーヌがリリアの手を放し立ち上がる。鉄格子の張られた窓際に行くと、外を見た。リリアには背を向けているので、その表情は読み取れない。
「どのような方法でしょうか?」
今のライラーヌには味方も、頼れる者もいないはずだ。誰かに頼んで結婚を白紙にすることなんて、とてもできないように思う。
少なくともリリアには結婚を回避できる方法なんて思いつかない。
「どうするのですか?」
リリアは再び尋ねた。
「身代わりを立てるのよ!」
「……身代わり、ですか?」
ピンとこないリリアは思わず彼女の言葉を繰り返してしまった。
「ええ、身代わり。誰かがわたくしになって悪魔の騎士団長に嫁ぎ、わたくしがその者になって、愛するセオドニーと第二の人生を生きるの」
「そんなことが可能なのでしょうか?」
窓には鉄格子、唯一の出入り口には常に見張りの兵がいる。
王としても国の転覆を謀った元王女が逃げ出したとすると外聞が悪い。結婚が決まった今、警備を厳重にするはずだ。
そもそも面会者はリリアしかいないから、誰か別の者が来れば、必ず怪しまれるだろう。
「可能よ! だって、身近にわたくしの容姿に似ている者がいますもの」
「……誰でしょうか?」
全く予想がつかない。身の回りの世話をする使用人か誰かだろうか。リリアは彼女達に会ったことがないので、その容姿を知らない。
「ここまで言っているのに、察しが悪いわね!」
窓の外を向いていたライラーヌがくるりとこちらを向き、再びリリアの目の前に来る。近づき、顔を合わせるようにして告げた。
「貴女よ、貴女」
「えっ……えっ!?」
自分だと言われて驚いたものの、まだ彼女の言葉が理解できない。
「私とライラーヌ様が似ているとはとても思えないのですが……」
「そんなことないわ。こっちに来なさい」
疑問を口にすると、ライラーヌがリリアの腕を持ち、強引に姿見の前に連れてこられた。目の前には二人の顔が並んでいるものの、やはりとても似ているとは思えない。
そもそも自分とライラーヌでは纏う雰囲気が違う。断罪され、幽閉されて自由を失ってもなお、表情豊かで生命力の強さを感じさせる彼女と、いつも何かを諦めてきた表情に乏しい自分では違い過ぎる。
「もう……よく見て! 髪、瞳、それに体型」
ライラーヌが呆れた声で頭、顔、そして腰に手を当てて二人の共通点を指摘する。
確かにリリアは彼女と同じように金色の長髪で、紫の瞳、背の高さもほぼ同じだ。
「私と……ライラーヌ様が……」
今まで意識したことがなかったのだけれど、だから罪を犯し、悪女と罵られていても、彼女に惹かれていたのかもしれない。
しかし、すぐにリリアは思い違いだと首を二度横に振った。
「やはりパーツが同じだけで、とてもライラーヌ様とは似ていません。身代わりなんて、おそれ多いです」
「そんなことないわ! たしかに似せるために貴女の改善すべきところは多いけれど……たとえば、姿勢? もっと胸を張って! あと常に全力で目を開いて、相手を目力で制する! それに唇の端を持ち上げて上から目線で微笑むのよ」
教えられた通りにやってみると、確かにライラーヌに似てきた気がしてくる。
「どうでしょうか?」
「……ま、まあ、とにかく何とかなるはずよ! どうせあの悪魔は顔なんて見やしないだろうし、貴女とわたくしの区別がつくはずがないわ!」
アルフレッド騎士団長をまたもや悪魔呼ばわりしている。
それにどうやらライラーヌとしては、リリアに身代わりが務まると本気で思っているらしい。
「やっぱり無理です」
自分が唯一、ライラーヌと怪しまれることなく接触出来て、髪や瞳などの色も同じなのは確かだ。
しかし、性格が違い過ぎる彼女を、リリアが演じきる自信はまったくなかった。
事が発覚すれば自分だけでなく、ライラーヌもさらに重い罰を受けることになるだろう。今度こそ、彼女は外に出られなくなるかもしれない。
下手をすれば極刑もありえる。
「ねぇ、お願い。この機会を逃したらわたくしはもう二度とセオドニーに会えなくなる。そんなのは嫌っ! 絶対に嫌なの!」
ライラーヌは縋るようにリリアの手を両手で取り、放そうとしない。
彼女のためにもどうにかこの無謀な策を断ろうとしたのだけれど、ライラーヌの次の言葉に魅せられてしまった。
「元王女ライラーヌ・ルガラントとして生きてみない? 貴女だってこのままでいたいとは思っていないでしょう!」
必死になった彼女が放った言葉に、心を激しく揺さぶられていた。
当然、リリアがライラーヌを見ていたように、ライラーヌもリリアを見ていたし、知っていたのだ。
家に縛られ、権力や財力からは見放され、身動きがとれない伯爵令嬢リリアを。
没落した家の令嬢の結婚相手は見つかるはずもなく、抜け出す手段はない。
「私が……ライラーヌ様として……生きる……」
新しい人生を与えられればと、何度考えたことか。
その機会が今だと言っているかのようにリリアには思えた。

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