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その溺愛は不意打ちです!
冷徹眼鏡宰相は気ままな王女がすごい好き!?

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書籍紹介

ようやくあなたを抱ける日が来た……

降嫁して自由な生活がしたい王女フレイは、
恋愛に興味のなさそうな冷徹宰相ハイネと都合良く結婚し、
仮面夫婦となった……はずだったけれど!?
「あなただけは特別です。ずっと愛していました」
溺愛されすぎて身動きがとれない新婚生活に!
夜ごと抱かれ、思考がトロトロになりながらも、
想いを伝えてくるハイネへの愛情が湧いてくる。
気づけばオシドリ夫婦になっていて……!

ジャンル:
西洋 | ファンタジー
キャラ属性:
クール
シチュエーション:
新婚 | 甘々・溺愛
登場人物紹介

ハイネ

ラクランシア王国の宰相。銀縁眼鏡がトレードマーク。冷徹で毒舌だが努力家で、国王の信頼も篤い。国王の薦めでフレイと結婚することになったが、実は……。

フレイ

ラクランシア王国の第一王女。窮屈な王族生活が嫌で、自由に好きなことがしたいと降嫁を決めるが、相手がまさかの「氷の宰相」で!?

立ち読み

「あああー! もう嫌!!」
 苛々とした気持ちをぶつけるように叫ぶ。
 大きな窓が目を引く広々とした部屋には、女性に人気の職人が手がけたテーブルやソファ、チェストといった家具が置かれている。本棚にはお気に入りの本がぎっしりと詰まっており、隙間がない。そろそろ新しい本棚を買い足した方が良さそうだ。
 壁や天井には宗教画が描かれていてどこか荘厳な雰囲気があるが、慣れてしまえば気にならない。
 居心地良く整えられた居室、その奥にあるサンルームに私はいた。
 椅子から立ち上がり、バンッと勢いよくテーブルを両手で叩く。
 午後の早い時間。天気も良く、絶好の読書日和だ。それなのに、どうして私はこんなことをしているのか。
「あっ、いけない……」
 思いきりテーブルを叩いたので、次の夜会の出席者リストが下に落ちてしまった。慌ててそれを拾い上げる。大事なリスト。これを明日までに覚えるのが私の使命。
「……はあ」
 うんざりとした気持ちで、リストを眺める。そこには夜会出席者たちの簡単なプロフィールが書かれていて、見ているだけで嫌になった。
 そうは言っても、やらなければいけないのだけれど。
 私、フレイ・ラクランシアはこの国──ラクランシア王国の第一王女なのだ。
 父はもう亡くなり、国王には兄が即位したけれど、王女という身分は変わらないし、兄の恥になるような真似はできない。
「ちょっと休憩しましょう」
 気を取り直すべく、息を吐いた。
 リストをテーブルに置き、サンルームから出る。ついでに女官を呼び、お茶の用意を頼んだ。
 準備ができるまでの間、窓際に置かれた肘掛け椅子に腰を下ろし、ぼんやりとする。
 ふと、窓を見た。鏡のように自分の姿が映っている。
「……」
 美しいと表現するのに不足のない女がそこにはいた。
 胸元が開いた華やかなドレスがよく似合っている。
 兄と同じ色合いの青い瞳と薄い茶色の髪。
 髪型は編み込んでハーフアップにしている。髪質はストレートで長さは腰に届くほど。
 性格がきつめなのが顔に出たのか、目はつり気味だ。
 ぽってりとした唇は艶々のピンク色で、自分の身体で一番好きな部位かもしれない。
 きっちり日焼け対策をしているので肌は抜けるように白いし、きめ細かい。
 触れるとしっとりとして、自分でも触り心地がいいと思うほどだ。身体つきは細身だが、それなりにメリハリがあるのでドレスを着るのに支障はない。
 女官たちが長年掛けて磨きに磨いた身体は自分でも美しいと思うし、それこそ髪には枝毛の一本もない。爪だって美しく整えられていて、今は綺麗なゴールドに染められている。
 三国一の美姫とまでは言わないが、国民に自慢に思ってもらえる程度には整った容姿を持つ女。それがフレイという王女だ。
「フレイ様。お茶の支度が整いました」
 窓に映った己の姿を見ていると、女官が話し掛けてきた。その言葉に頷く。
「そう、ありがとう。他に用はないから下がってちょうだい」
 側にいて欲しい気分ではなかったので、下がらせる。ガラス製の丸テーブルに用意されたのは三段のハイティースタンドだ。
 ローストビーフを挟んだサンドイッチやホウレンソウとベーコンのキッシュ。紅茶のスコーンに、デザートにはイチゴとチョコレートが使われた菓子が数種類乗っており、見た目にも鮮やかだった。
 紅茶は私の好きなハーブティー。気持ちを落ち着かせたかったので、カモミールが主に使われたものをお願いした。薄く色づいたお茶を一口。小さく息が漏れる。
「落ち着くわ……」
 優しい味わいに、ささくれ立っていた気持ちが丸くなっていくのが分かる。
 しばらく、ひとりお茶会を優雅に楽しんだ。
「……」
 気持ちは落ち着いたが、覚えなければならない資料が残っている事実は変わらない。更に言うのなら、私に課せられた仕事はそれだけではないのだ。
 王女と言っても暇ではない。
 朝から晩まで予定を詰められているのが実際のところ。しかも外に出れば、国民の目があるから下手なことはできないし、一瞬も気を抜けない。
 はっきり言ってかなりしんどい。
 生粋の王族なら、生まれた時からそうなのだから別に気にならないのではと思うかもしれないが、少なくとも私はそうではない。
 窮屈で窮屈で、逃げ出したくてたまらない。
 もっと自由になりたいのだ。
 自分の好きなことをする時間がたくさん欲しい。
 具体的に言うのなら、日がな一日読書をしても怒られないような生活がしたい。
 読書は私の唯一の趣味で、それこそ朝から晩までどころか、夜通し読んでいられるくらいに好きだったりする。
 だけど、今の王女という身分ではそんな些細な願いすら叶わない。
 私は国王である兄のことも国民もどちらも愛しているのだ。王女である限りは、彼らのためにできるだけのことはしたいと思っている。
 それが、王族に生まれた者の定めであり、義務。
 だから手を抜いたりはしないし、さっきのリストだってちゃんと覚えるつもりだけれど……時折どうにもしんどくなって、全てを投げ出したくなるのだ。
 もちろん無理なことは分かっているけれども、ふと思う時がある。
 私のこの窮屈すぎる生活はいつまで続くのだろう、と。
 私はついこの間、二十歳となった。二十歳といえば、結婚してもおかしくない年である。
 しかも王女とくれば、他国の王子や国王に嫁いで……となるのが順当だと思う。
 幸いにも今の私に婚約者はいないが、いつ兄にどこぞの国王に嫁げと命じられるかも分からない。
 そして命じられれば、王女である私に断る権利などないわけで。
 国王に嫁げば王妃。王子に嫁げば王子妃。その王子が王太子であれば、やはり後は王妃になる。
 どちらも私にとっては地獄。今より更に窮屈になることは間違いない。
「それは……嫌だわ」
 未来を予測し、ゾッとした。
 今ですら、殆ど自由のない日々なのだ。それがもっと忙しくなる? しかも愛する自国のためではなく、他国の妃として頑張らねばならない。
 それは、今の窮屈な暮らしを『自国民のためだから』と思うことでなんとか我慢している私には耐えられないことだった。
 我が儘と分かっていても勘弁して欲しい。私はもう少し、もう少しだけで良いから自由になりたいのだ。
「……どこぞの国の妃になんてなりたくない」
 悲しいくらいに、それが本音だった。そしてそれを回避する方法はひとつしかないことも分かっている。
「お兄様に他国の王族との結婚を勧められる前に、望む男を得るべく婚活する。もうこれしかないわ」
 他国に嫁げと言われてしまえば逆らえないので、その前に行動を起こすのだ。
 具体的には、自分で結婚相手を見繕う。
 理想は自国の高位貴族あたりだ。
 公爵か侯爵位を持つ男の妻として降嫁するのなら、兄も許してくれるだろう。
 私としても、他国に嫁ぐより全然いいし、王族でなくなることで、多少の自由は得られるはず。
 もちろん高位貴族の妻にもやることが色々あることは分かっている。
 だけど今のほぼ毎日、ギュウギュウにスケジュールを入れられている私ほど忙しいだろうか。答えは否だ。
「悪くない。悪くないわ……」
 考えれば考えるほど、高位貴族の妻というのは狙い所として間違っていないと思えてくる。
 ちなみに愛は要らない。
 私の望みは自由。
 愛なんてあったら、夫にひたすら構われ束縛されて、好きなことをする時間がなくなってしまうではないか。それでは私の願いは叶わない。愛なんて必要ないのだ。
 放置してくれて結構。むしろ万歳。どちらかというと、同じ家に住んでいるだけの関係くらいが理想である。
 初夜も要らない。白い結婚でもオーケー……というか、むしろその方が有り難い。
 そう、私はお飾りの妻の地位を求めているのだ。
「探すのは、それらの条件を受け入れてくれそうな男」
 ふむ、と指を唇に当て、考える。
 私は現国王の妹で、兄からはとても可愛がられている自覚がある。つまり、私と結婚すれば、兄からの覚えはめでたく、それなりに将来が約束されるということ。
 高位貴族。中でも野心家タイプの男なら、私の出す条件でも自分に利があると受け入れてくれるのではないだろうか。
 もちろんお飾りの妻がいいと言うのだから、愛人のひとりやふたり、作ってもらっても全然構わない。なんなら、愛人が産んだ子を跡継ぎとしてくれたって私としては大歓迎だ。
 正妻である自分を差し置いて、などとは絶対に言わない。
 だって、できれば夜伽なんて御免被りたいし。
 伽がどういうものかは知識として知ってはいるけれども、とてもではないけれど、自分が耐えられるとは思わなかった。
 男性に身体を暴かれる行為。相手が夫だと分かっていても、それは私には到底受け入れられないことだった。
 お互い裸になって、好き放題触れられ、喘がされた挙げ句、相手の性器を受け入れる?
 性交とは快楽が伴うものらしいが、想像するだけでゾッとする。気持ちいいと感じられるとは思えない。
 だから、私は白い結婚がいい。
 他の妻としての義務は全部完璧にこなすから、だからこれだけは勘弁して欲しいというのが正直な気持ちだった。
 そして白い結婚など、王族が相手であれば絶対に許されないわけで。
 何せ、正妃が子を産むことが何より重要とされるのが王家というものなのだ。貴族もそういう考えがないとは言わないが、それは家によって違うし、気にしない家と男を選べばいいだけなのだから、大分気は楽。
 うん、やはり相手は貴族の男を狙うべきだ。
 深く頷く。
 よし、善は急げだ。
 私は早速思いついたことを実行に移すべく、席を立った。

 

 

 

 婚活をするかと決意した私は、早速、兄の執務室へと足を運んだ。
 何せ、王女の結婚相手。国王である兄に相談せず勝手に……なんてことはあり得ない。
 何事も根回しが肝心なのだ。
 だからまずは、私が結婚を望んでいること。その相手はできれば国内貴族がいいと考えていることを伝えておこうと思った。
「お兄様、宜しいでしょうか」
「フレイか? ああ、ちょうど休憩中だ。入っておいで」
「失礼致します」
 兄の声が入室を促した。休憩中と聞き、タイミングが良かったなとほくそ笑む。
 扉を開け、中に入ると部屋の奥にある執務机で休んでいたらしい兄が私を見た。
「どうした。お前がここに来るなんて」
「あの、少しお話があって」
「分かった。聞くからそちらのソファに座りなさい」
 私の十歳年上となる兄が微笑む。
 私と同じ目と髪の色合いをした兄は、優しい顔立ちの柔和な人だ。八年ほど前に、公爵家から妻を娶っており、その彼女との間に息子もいる。
 夫婦仲は良く、政略結婚とは思えない仲睦まじさだ。どれくらい仲が良いかというと、妻に笑いながら「最近太ってきましたわね」と腹の肉を摘ままれるくらいと言えば分かるだろうか。
 腹肉を摘ままれた兄は「ダイエットをした方が良いだろうか」と本気で悩んでいたが、そういうやりとりを普通にできるのは羨ましいと思う。
 その、最近少しふっくらしたという兄が私にソファを勧める。私は素直に示された場所に腰掛けた。
 兄の執務室は、亡き父が使っていたものをそのまま受け継いでいる。おかげで未だに兄の部屋というより父の部屋という意識が強く、まだ父が存命かと思ってしまう時もあるくらいだ。
 大理石でできた暖炉の上には父のお気に入りだった時計が置かれたままだし、壁の風景画も父の趣味で飾られたものだ。足されたのは、父と母が一緒に並んだ人物画くらいで、他は何も変わらない。
 父の好きだったもので溢れ返った場所。ここだけ時が止まっているように思える。
 そして頑なに部屋を改装しようとしない兄は、きっと父のことを忘れたくないのだろうなと、そんな風に思う。兄は父のことが大好きで尊敬していたから。
 父が亡くなった時、誰よりも悲しんでいたのが兄だった。
「それで? 話というのは?」
 兄が要件を促してくる。チラリと、兄の座るソファの後ろに立つ人物に目を向けた。
 この部屋には私たち以外にもうひとりいたのだ。
「何か?」
「……いえ」
 短く否定の言葉を口にする。
 彼は我が国の宰相で、名前をハイネ・クリフトンという。
 侯爵位を持つ彼は、兄の右腕とも称される人物で、執務室にハイネがいるのは当たり前なのだけれど、私は彼のことが苦手だった。
 何せ、彼の渾名は『氷の宰相』。
 得意なのは毒舌。言葉で容赦なく相手を切り裂く人物なのだ。
 兄の即位と同時に、史上最年少で宰相という地位に就いた彼は、冷たい表情がよく似合う、まさに冷徹という言葉がぴったりの男。
 幼い頃より頭角を現し、その才能に胡座を掻くことなく努力を積み重ね、今の地位を掴み取った。
 そんな彼が嫌いなのは当たり前だとは思うが、『努力をしない人間』。
 やるべきことをやらず、文句だけを言う人間が彼は大嫌いで、そういう人物には容赦なく攻撃する。逆に努力の姿勢を見せれば、多少の失敗は目を瞑ってくれるし、成長が見られる時は褒めてもくれるので、慕っている部下はそれなりにいるのだとか。
 ただし、褒める時でさえ、にこりともしないらしいけど。
 どんな時も彼の視線は冷えていて、笑った顔を見た者はいないとも言われている。
 もちろん私も見たことがない。可能性があるとすれば、彼を宰相に取り立てた兄くらいではないだろうか。
 兄はハイネを信頼していて、昔から彼を高く評価していた。宰相に任じた時は早すぎるとの意見もあったが、ハイネは兄の信頼に応えた。実力でお偉方を黙らせ、認めさせるに至ったのだ。
 今では、歴代宰相ナンバーワンの呼び声も高い。
 まだ二十七歳の彼がそんな風に評価されるのは驚きだが、彼はそれに見合った働きをしている。
 銀縁の眼鏡を掛けた若き宰相。その姿はとても美しく、黙っていれば十人中十人全員が振り返る容貌だ。たとえるのなら、冬の朝。身の竦むような冷たい雰囲気を持っている。
 容姿は繊細で整っていて、よくできた氷細工を思い出す。とはいっても、すぐに壊れてしまいそうな儚さなどは微塵もないのだけれど。
 むしろ、死ぬほど頑丈で、叩いても落としても傷ひとつつかないイメージがある。
 有象無象から何を言われても、氷の視線ひとつで黙らせる。
 一重のつり上がった目は灰色。丁寧に後ろに撫でつけられた髪は美しい銀色をしている。
 身体つきは細身で、身長はかなり高い。服装は、かっちりとしたフォーマルなものを好んでおり、一分の隙もない。
 夏でも長袖を着ている彼は、汗ひとつ掻かないという噂だ。
 どんなに暑くても平然と業務をこなし、次々と倒れる部下たちを尻目に「気合いが足りません」と告げられるだけのメンタルの強さを持つ。
 冷徹で仕事の鬼。どんな時でも鋭い表情を崩さない。
 そういえば女性が嫌いだそうで、どんな美姫が寄っていっても、冷たい声と視線で追い払うのだとか。
 それが、ハイネ・クリフトンで、私が苦手としている男だ。
 実際彼とどう話せば良いのか分からないのが正直な話。
 今日は良い天気ですねと言って、もし「それがどうかしましたか」と表情一つ変えずに返されたら三日くらい寝込む自信はある。それくらい彼の視線は怖いのだ。
 とてもではないけれど、常人が耐えられるレベルではない。
 そんな苦手すぎるハイネが、当たり前だけれど兄の側にいる。私としては、ハイネには外に出てもらって、兄にだけ婚活話を持ちかけたいところだった。
 だって、貴族に嫁ぎたいなどと言ったら、めちゃくちゃ怒られそうではないか。
 王族の義務がどうとか。
 そんなのは全部分かった上での話なのだ。だが、彼は正論好きなところがある。間違いなく諫められるだろう。
 ハイネからお小言を言われるのかと思うとうんざりして、兄に話をするのも止めようかと考え直してしまう。
「ええと、あなたには席を外して欲しいんだけど」
 一応、お願いをしてみる。だが、あっさりと却下された。
「どうか私のことはお気になさらず。部屋の隅にある観葉植物とでもお思いになって、話をお続け下さい」
「……」
 こんなに目立つ観葉植物があってたまるものか。
 だが、ハイネは立ち去る気がないようで、ピクリとも動かなかった。
 両手を後ろに回し、真っ直ぐに背筋を伸ばして立っている。眼鏡越しの瞳はいつも通り冷えており、私が話す内容など全く興味がありませんと言わんばかりだ。
「……」
「フレイ? どうしてもお前が嫌だというのなら、ハイネには席を外させるが」
 ムッとしている私に気づいたのか、兄が助け船を出してくれる。その言葉は有り難かったが、私は首を横に振った。
「結構です。観葉植物だそうですから。ええ、観葉植物を気にしても仕方ないですものね」
「お前は本当に気が強いなあ」
 兄が呆れたという風に言う。だけどここで席を外してもらったら、ハイネに負けたような気がするではないか。
 分かりました。気にしませんがこの場合一番正しい回答だと思う。
 ふん、とそっぽを向くと、兄がやれやれと肩を竦めながら言った。
「で? お前の話というのは?」
「それは……」
 チラリとハイネ……いや、観葉植物を見てから覚悟を決める。観葉植物に何を言われようとどうでもいいではないか。私は私の思うところを正直に話せば良い。
 私は深呼吸をひとつしてから兄に話を切り出した。
「その、ですね。お兄様。私ももう二十歳になったでしょう?」
「ああ、そうだな。小さなお前が私のあとをついてきていたのはつい最近のことだと思っていたのに、早いものだ」
「お兄様。親のようなことを言わないで下さい」
 兄とは十歳年が離れているので感慨深くなる気持ちも分からなくはないが、今はそんな話をしているのではない。
 兄を諫め、私は慎重に口を開いた。
「二十歳といえば、結婚してもおかしくない年齢。私も、そろそろ結婚を視野に入れたいなと思っているのです」
「結婚? お前が?」
「はい。いつかはしなければならないものですし」
 驚いた顔をする兄に、なんでもないような雰囲気を装って言う。
 本題はここから。なんとか兄に、私の希望を受け入れてもらわなければ。
 そう思い、気合いを入れ直した。
「ただ、私にもやはり好みというものはありますので。それを先にお兄様に伝えておこうかと」
「なるほど。私がお前好みの男を連れてくるようにということだな?」
「はい」
 笑顔で肯定する。兄は頷き、話を聞く体勢になった。
「私も妹には幸せになってもらいたいと思っている。お前の好みを聞こうじゃないか」
「ありがとうございます」
 簡単に頷いてくれた兄に感謝の言葉を告げる。
 ここまではいい。予定通りに進んでいる。
 ここから、私の希望を上手く伝えなければならないのだ。
 何せ自由が欲しいから王族は嫌だ。あと、白い結婚をしてくれる男が良い。などと正直に告げた日には、冗談ではなく兄が卒倒してしまう。
 妹に幸せになって欲しいと言ってくれるような人に、明け透けすぎる願望を伝えてはいけないことくらいは分かっていた。
 だから言い方を考える。物は言いようというではないか。
「まず、私、向上心のある殿方が好きなのです」
 野心家、という言葉を向上心という表現で覆い隠す。
 まずと言ったことに兄が驚いた。
「ええと、ふたつめがあるのか?」
「ええ、もちろん。私、結婚相手には妥協したくありませんので」
 きっぱりと告げると、兄は少し動揺したように「そ、そうか」と頷いた。そして「向上心がある男は私もいいと思う」と賛同の言葉を付け加える。
「ありがとうございます。それではふたつめ。可能であれば、国内貴族のどなたかと婚姻関係を結びたいと思っています」
「国内貴族……外国の王族には嫁ぎたくはないということか?」
「はい」
 むしろこれが肝心と思いつつ、肯定する。兄が難しい顔をしたことに気づき、何か言われる前に先制攻撃を仕掛けた。
「もちろん、一番可能性が高いのが外国のどこかの王族との結婚ということは分かっております。ですが私、この国を愛しています。できれば離れたくありませんし、その……何よりお兄様と離れるのが嫌で。だって、外国へ嫁いでしまえば、もうお兄様とはお会いできないでしょう?」
 チラリ、と兄を見る。
 兄が大きく目を見開いたのが分かった。
 兄は私を可愛がっている。こうやって、結婚相手の希望を聞こうとしてくれるくらいには溺愛しているのだ。だからそこにつけ入る。
 我ながら最低だなとは思うが、使える手段は全部使う。私は王族の地位などさっさと投げ捨ててしまいたいのだ。
 どこぞの貴族の奥方くらいに、良い感じに収まりたい。
 そのためなら、演技のひとつやふたつ、完璧に演じきってやろうではないか。
「我が儘なことを言って申し訳ありません、もちろん、お兄様が外国へ嫁げとおっしゃるのなら、喜んでその通りにするつもりです。これはあくまでも私の希望、ですので」
 しおらしい態度を作り、兄を見る。兄はふるふると身体を震わせていた。
「お兄様?」
「いや、なんでもない。私も、お前を他国にやりたくないと考えていた」
「本当ですか!?」
 願ってもない話に、声が弾む。兄はうんと頷いた。
「本当だとも。それで──お前の条件とはそれだけか?」
「もちろん他にもあると言えばありますけど、大まかにはこれくらいです」
「なるほど。国内貴族で向上心がある男、か。お前を降嫁させるのならそれなりの爵位を持つ男でないといけないな。あと、大事なお前をくれてやるのだ。お前を託すに足る男でなければならない」
「はい。その辺りはお兄様にお任せ致します」
 婚活すると言っても、私が選べるわけではないことは分かっているので、とりあえず兄の見繕ってきた男たちの中から、私の求める条件に一番近い男を選ぼうと思っていた。
 最低条件である、国内貴族。そこをクリアできているのならまあ、あとは本人と話せば、どんな人となりかは分かるし、白い結婚という兄には言えない条件提示もできるはず。
 兄が選んだ人物なら間違いないだろう。私は兄の人を見る目を信じているのである。
「ふむ」
 私の出した条件に合致する男を脳内にリストアップしているのか、兄が考えるような仕草をした。黙ってその姿を見守る。
 やがて兄はひとつ頷き、私に言った。
「お前の出した条件にぴったり合う男がいる。年は二十七歳で、現役侯爵だ。容姿も悪くないし初婚。向上心はそこらの男どもでは束になっても敵わないほどあるし……どうだ?」
「どなたでしょう?」
 自信満々に告げる兄に、首を傾げた。
 兄の口振りでは私の夫候補とされた男は相当優秀なようだ。だが、そんな男が兄の周りにいただろうか。
 相手は二十七歳だという。私とは七つ離れているが、これくらいなら十分許容範囲内。初婚で、向上心は他の追随を許さないほどあって、容姿も悪くない。侯爵位も持っている。
 確かに私の条件を満たしてはいるが、思い当たる人物がいなかった。
 もしかしたら、最近頭角を現してきた人物なのかもしれない。そう思いながら兄を見ると、兄は満面の笑みを浮かべ、私に言った。
「そこにいるハイネだ。お前の条件を全て満たしているだろう?」
「ええっ!?」

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