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身代わり結婚だから離縁なんて簡単だって? 残念、君が本命です

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書籍紹介

僕たちを隔てるものはもうなにもない

従姉妹の代わりに辺境伯アレクシスへ嫁いだシャーロット。
離縁を望む叔父の命令に従い、彼の嫌いな「いやらしい女」を演じることに。
扇情的な下着で誘惑してみたら、突然押し倒され!?
「きみをめちゃくちゃにしたい」
淫らな愛撫でお腹の奥が切なくうねり、
激しい快感が身体中を駆け巡って――。
絶頂に蕩けながら、身代わりの罪悪感に苦しんでいると、
彼から真摯な告白が……!?

ジャンル:
西洋 | ファンタジー
キャラ属性:
王子・王族・貴族
シチュエーション:
幼馴染・初恋の人 | 新婚 | 甘々・溺愛
登場人物紹介

アレクシス

若き辺境伯。多くを語らず冷たい態度を取ることから周囲に恐れられている。イザベルとして嫁いで来たシャーロットには蕩けるほどに優しく、甘い笑みを見せる。

シャーロット

麻薬密売事件の汚名をかぶり没落した子爵家令嬢。今は叔父の世話になっている。従姉妹の身代わりにアレクシスに嫁ぎ、すぐ離縁されてこいと命令されるが――。

立ち読み

 アレクシス・アリアドスタは性格が悪い。
 若くして辺境伯家の当主となったアレクシスについて、人々が「冷酷だ」とか「血が通っていない」だとか陰で噂しているのは知っている。とはいえ旧くからの友人にまでそう断言されるなんて。
 一度は鼻で笑い飛ばしたが、その評価は存外当たっているのかもしれない。
「アレクシスさまは……いやらしい女がお嫌いなんですよね?」
 緊張した面持ちのシャーロットを、アレクシスはしげしげと眺める。
「うん、そうだね」
「さ、さっき教えてくれたのは、い、い、いやらしいキスなんですよね……?」
「そうだよ」
 真面目くさって頷くと、ほっそりとした指が頬に添えられた。
 シャーロットの長い髪が海風に煽られてなびく。潮の匂いに混じって、ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「ん……」
 ぽってりとした唇が自分のそれに合わせられ、わざと薄く開けておいたところから、舌先がおずおずと割り入ってくる。
 海は凪いでいるが、メインマストの頂上付近に設置された見張り台はわずかな波でも大げさに揺れた。
 バランスを崩した彼女の細い身体を抱き留める。
 いやらしい女が嫌いだ──なんて。
 そんなの。
(きみを振り向かせるための嘘だっていうのに)
 口内を探るたどたどしい動きに応じずにいると、困ったみたいに舌先がさらに奥へと伸ばされる。
「どうしたの、シャーロット。子猫の真似事かな?」
「い、いやらしくないですか!? これ……」
 驚愕に少しだけ目を見開き、シャーロットはふたたび舌先を伸ばす。
 身体はさらに押しつけられ、胸の膨らみの柔らかさが衣服越しに伝わってくる。
(あ〜〜〜、かわいい)
 歓喜しているのを気取られないように、わざと平気なふりをして彼女のキスを受け入れる。
 性格は悪くて構わない。
 そのかわり使えるものはなんだって使う。目的を達成するためなら、手段は選ばない。
(そもそも僕がきみをいやらしい女だなんて、思うわけがないだろう)
 愛しい人をやっとこの手の中に閉じ込めたというのに。
 その上必死でキスを与えてくれるなんて、幸せを感じずにいられない。
 ──たとえそれが自分に嫌われるためだとしても。
(きみの計画は最初からなにもかも失敗だったんだよ)
 アレクシスはミルクティー色の髪を指先で優しく梳る。
(だからさっさと諦めて──おとなしく僕に愛されればいいのに)

 

 

 

「わたしが……結婚するのですか?」
 つぎはぎだらけのワンピースに身を包んだシャーロットは、たった今言われたことをそのまま聞き返した。
 書斎の執務机についた叔父が、恰幅のいい身体を揺らして大げさなため息をつく。
「勘違いするな。お前のような娘に縁談などあるはずないだろう。──お前はイザベルの身代わりとなって嫁ぐんだ」
 自分に縁談が来ない、という意見に異論はないが、後半の意味がまったくもってわからない。
 叔父の椅子の背にもたれかかっていたイザベルは勝ち誇った笑みを浮かべている。
 イザベルはシャーロットの従姉妹だ。同い年の二十歳で、社交界では絶世の美女だとたいそう評判らしい。そんな彼女になら縁談が来ても不思議ではないが──。
「身代わりだなんて、どうして……」
「結婚の申し込みがあったが、イザベルは妊娠している。だから嫁がせるわけにもいかん」
「だってしかたないじゃない? 彼ってば、自分の国にはわたし以上に美しい女はいないなんて言うんですもの。愛されるのが女の幸せだって、そのくらい想像できるでしょ?」
「あの、それは……おめでとう。お相手は他国の方なのね」
「そうよ、あんたなら一生出会えない素敵な人なの。異国の話は面白いし、とっても魅力的なんだから」
 ここはディステイア王国の南方、碧海地方に位置する港町だ。名前の通り美しい海を有しており、国一番の大きな港があるため異国の人間もよく出入りしている。一帯はアリアドスタ辺境伯という名家の領地であるが、港を利用する多くの貴族がこの地に別邸を構えていた。この屋敷も、シャーロットの父が所有していた別邸だ。
 イザベルがうっとりとした表情で自分の恋人がいかに素晴らしいかを力説する横で、叔父は苦い顔をしていた。
「求婚はお断りするしかないのでは?」
「できない。用意された多額の支度金はすべて使った。返すあてがない」
「は……」
「そこでお前だ、シャーロット。イザベルの代わりにお前が結婚すれば問題ない」
 問題しかなさそうな案だが、血走った叔父の目は冗談を言っているようには思えなかった。
「まさか恩を仇で返すつもりじゃないだろうな」
 この屋敷は、わけあって今は叔父のものになっている。シャーロットはいわば居候の身。後見人である叔父の厚意でここに住まわせてもらっているに過ぎない。
「……滅相もありません。ただ、わたしではすぐに別人だとバレてしまうのでは?」
 従姉妹だけあって、ミルクティー色の長いウェーブヘアとエメラルド色の瞳はよく似ている。もしかしたら、一瞬だけなら見間違うかもしれない。
 けれどふたりには決定的に違うところがある。
 シャーロットはまるで人形のように無表情なのだ。
 イザベルが表情豊かであるのに対して、シャーロットはほとんど感情を顔に出さない。
 特に笑顔はまったく見せることがなかった。
 笑顔が大輪の花のようだと称されるイザベルに成り代わるなんて、逆立ちしても無理だ。
「安心しろ。相手はイザベルの顔を知らない」
 会ったこともない女性に求婚を? と一瞬不思議に思ったが、彼女の容姿ならそういうこともあり得るのだろう。
「お相手は美貌の噂を聞いて結婚を申し込まれたのでは? わたしが嫁いでいったら期待外れかと」
「それが狙いなのだ。相手に気に入られて結婚生活を送れなどと無茶は言わん。お前は嫁いだらさっさと離縁されてこい」
 ますます先の見えなくなった話に、シャーロットは目をぱちくりさせる。
「イザベルの結婚は腹が大きくなる前になんとか進めてやりたい。だから、お前が結婚してすぐに追い出されればいい。一度でも結婚すれば支度金は返す必要がないからな」
 つまり、こういうことか。
 縁談を断るのは金の都合で不可能、ほかの男の子を宿したイザベルをそのまま嫁がせるわけにもいかない。けれど、離縁されてしまえばそのあとは誰と結婚しようが問題ない。シャーロットの返品を待って、イザベルを恋人と結婚させてやるつもりなのだ。
 ──実に理にかなっているではないか。
(わたしにはぴったりの役割ね。だって、表情のない女を好き好んで近くに置く男性がいるはずないもの)
 美貌と評判だったイザベルがにこりともしない女だったら、相手もさぞがっかりするだろう。
「言っておくがお前に拒否権はないからな」
「存じております」
 こちらの都合で騙すのは気が引けるが、叔父に意見できるはずもない。シャーロットは従順に頷く。
「ところでそのお相手の方というのは?」
「アレクシス・アリアドスタだ。辺境伯家、現当主のな」
「っ……!」
 絶句したのをショックを受けていると思ったのか、イザベルがおかしそうに肩を揺らす。
「かわいそうねえ。一時とはいえ、あの冷酷な辺境伯に嫁ぐだなんて」
 そうは思っていないであろう弾んだ声だった。
「し、失礼いたします」
 動揺を気取られないよう、シャーロットは足早に部屋を出て、使用人が使う質素なしつらえの階段を上る。
 シャーロットにあてがわれているのは屋根裏の、天井が低い小さな一室だった。
 こちらもやはり飾り気のない殺風景な部屋で、あるのはシンプルな木枠の寝台と、小ぶりなチェストのみだ。チェストには最低限の下着や髪留め、それから地味な色のワンピースが数着あるだけ。ワンピースはつぎはぎだらけな分、メイドのお仕着せよりもみすぼらしいかもしれない。
 ここだけが、今のシャーロットが屋敷の中で自由に使うのを許可された部屋である。
 シャーロットは硬い寝台にごろりと横になった。
(アレクシス・アリアドスタ……アレクシスさま──)
 懐かしい名前だ。
 脳裏に蘇るのは眩しいくらいの金髪。まだ十歳ながら、佇む姿には将来の領地を背負って立つオーラが漂っていた。
 取り澄ました顔が自分を見つけてふわりと緩めば、それだけでどうしようもなく嬉しくなって──。
 つんと鼻の奥が痛くなった。
 心臓が引き絞られたみたいに切なくなる。
(こんなに寂しいと感じるなら、思い出さなきゃ良かったわ……)
 叔父には、昔彼と懇意にしていたと伝えていなかった。
 なんとなく、そのときの思い出は自分の中だけにしまっておきたかったのだ。
 当時、アリアドスタ家とシャーロット一家──エテル子爵家は交流が盛んであった。
 エテル家は代々小さな領土を守ってきた弱小貴族だが、その所領はアリアドスタ領の北部と隣接している。シャーロットの兄ナイジェルとアレクシスは同い年で、話し相手にぴったりだと領主の屋敷に招待を受けることが多かったのだ。
 子ども同士の交流が目的とあって、まだ六歳のシャーロットも同行するのを許された。
 絵画と見紛うほど整った容姿のアレクシスは、はじめは少しも笑わなくて怖いくらいだった。けれど友好関係を築いていくうちに、柔らかな表情を向けてくれて。
 シャーロットはふたり目の兄のように彼を慕い、会ったときにはずっとアレクシスの隣を独占していた。彼はそんな自分を咎めるでもなく、庭を案内してこっそり持ってきたお菓子をくれたものだ。
 思えば、あのころが自分の一番楽しい時期だった。
 優しいアレクシスとお茶目な兄。いつでも自分を見守ってくれていた父と母、みんながいて──。
 シーツに広がる長い髪をそっと指先で摘まんだ。
 当時は、自分もアレクシスとよく似た金髪だったのだ。日の光でキラキラと輝き、お前の髪は蜂蜜みたいで朝から見てると胸焼けがするよ、なんて兄にもしょっちゅうからかわれた。
 それほどに見事な艶のある黄金色だったが、八歳になったころからだんだんと髪の黄みが抜けていった。
 そのころはまだ気にも留めていなかったが、十三歳で両親が馬車の事故でいっぺんに亡くなってからは、人生の陰りを象徴するがごとくさらに輝きを失っていく。
 翌年、子爵位を継いだ兄までもが亡くなって、気づいたときには現在の色素の薄い茶色に様変わりしていた。
 大人になるにつれ髪の色が落ち着いてくる人は多い。シャーロットほど劇的に変わるのは珍しいが、皆無というわけではないのだ。
 色が抜け始めたときも、大人っぽくなったと思ったくらいで気にしていなかった。
 けれど今は自分が金髪でないのがとても寂しい。
 美しく楽しかった思い出ごとどこかに行ってしまったみたいで。
(失ったものを悔いてもしょうがないでしょう……)
 家族を喪った痛みは、数年経った今でもまるで昨日受けた傷のように、じくじくと疼く。
(アレクシスさまだって会ってもわたしだとわからないでしょうね。いえ、そのほうが都合がいいのだけれど……)
 叔父に改めて、アレクシスとは顔見知りだと伝える必要はないだろう。
 髪の色が変わり始めたのは、アレクシスが王都の学校で寮生活を送るようになってからで、金髪でないシャーロットの姿を知らないのだ。
 それに、あのころの自分はまだ表情がとても豊かだった。今の自分はきっと、くっついて歩いていた幼いシャーロットとは結びつかないはずだ。
 笑うことができなくなっているのに気づいたのは、兄が亡くなってしばらくしてからだった。
 六年前、碧海地方では麻薬の密売が横行し、その尻尾を掴もうと屈強な海洋自警団が闊歩していた。アリアドスタ家の直轄部隊である自警団は海の番人なのだが、麻薬はどうやら港から入ってきているらしいとわかり、陸まで手を広げて目を光らせていたのだ。
 捜査は周辺地域にまで及び、エテル家の領地も例外ではなかった。町全体にぴりぴりとした微かな緊張感が走っており、居心地がいいとは言えない雰囲気だったのをよく覚えている。
 そんな折、兄は真夜中に出かけていき、そして翌朝港に停泊していた古い船の中で冷たくなって発見された。ナイフを使っての自害だった。
 兄の懐にはシャーロット宛の手紙が入っていた。
 血塗れになったそれをシャーロットはこの手で開き、読んだ。
 ──麻薬の密売を取り仕切っていたのはエテル家だ。俺は両親からその裏家業も引き継いだ。けれど、結局怖くなってしまった。先立つことを許してくれ、シャーロット。
 なにが書いてあるのかわからなかった。
 いや、わかりたくなかった。
 自分の愛する家族が犯罪者だったなんて。
 エテルという家名は国の恥さらしとして爵位とともに剥奪され、シャーロットも王国から追放されるところだった。
 それを助けてくれたのが叔父だったのだ。
 父の弟で、いつもまわりに値踏みするような視線を向けていた男である。正直いい印象は抱いていなかったが、そのときばかりは自分を救う神さまに思えた。
 事件があったことでエテル家の所領は現在、王家の預かりとなっており本邸も使用が許可されていない。エテル子爵家は別邸を持つだけの名ばかりの貴族になったというのに、叔父は汚れきったエテルの名を継いでくれた。
 彼のおかげで父や兄が継いできた地位が守られた。細々とやっていた事業も丸々彼の運営下となり、働いている人たちを寒空の下に放り出さずに済んだ。保護する必要のないシャーロットまで屋敷に置いてくれたことにも感謝している。
 せめてその慈悲に恥じない行動を取らないと。
 そう考え、犯罪者であった家族の死を悼んだり、笑顔を浮かべることを避けるようになった。
 自制はそのうち当たり前になって、ふと鏡を見ればそこにいるのはどんよりと暗い顔をしたみすぼらしい身なりの女だった。
 けれどこれでいい。犯罪者の末裔が幸せそうな顔をしていいはずがないのだから。
(でもやっと少しだけ恩返しができるわね)
 そのとき、部屋がノックされた。
「お嬢さま、入ってもよろしいでしょうか」
「ええ、どうぞ」
 おずおずと入ってきたのは、イザベルの侍女だった。
 いつもははつらつとしたそばかす顔が今日は曇っている。
 彼女は元々、シャーロットの乳母の娘だった。年の頃は自分と同じで、幼いときから姉妹のように育てられてきた。
 本当なら、彼女は自分の侍女になるはずだった。
 エテル子爵家令嬢の立場はすっかりイザベルに明け渡しているから、自然と彼女もイザベルの侍女となる。
 昔から、いつかお嬢さまの侍女になるのが楽しみですと語ってくれた彼女だから、はじめはずいぶん抵抗があったようだ。けれど最近はようやく環境に慣れたのか、愚痴も減っていたのに、今日はどうしたのだろう。
「イザベルになにか無茶を言われた?」
 慣れたとはいえ、イザベルはなにかとわがままを言って彼女を困らせる。
 それが原因で浮かない顔をしているのかと思ったが、侍女は首を横に振る。
「いいえ。イザベルさまはむしろ最近はとても機嫌がいいんです。きっと恋人と結婚できる算段が整ったから……」
「それはすごくいいことね。あなたも仕事がしやすいでしょう?」
「仕事なんて今はどうでもいいんです! わたしは……っ、お嬢さまが不憫でならなくて……」
 そう言って言葉を詰まらせる。
「さっき廊下から聞いてしまったんです。あの人たちがなにをしようとしているのか……お嬢さまをまさか身代わりに嫁がせようだなんて……」
「よくそんな荒唐無稽な作戦、思いつくものよね」
「感心している場合じゃありません! わたしは悔しいです……イザベルさまはお嬢さまからすべてを奪ってぬくぬくと幸せになって」
「心配してくれてありがとう。でも違うのよ。恩があるのはわたしのほう。国から追い出されても不思議じゃないわたしをわざわざ留め置いてくれているのだもの」
 侍女は激しくかぶりを振る。
「でもお嬢さまは悪くないじゃないですか……っ、元の旦那さまたちがしていたこと、お嬢さまは少しも知らなかったのでしょう!?」
「そうだけれど……」
「それにお嬢さまははじめ、国を追放されたら修道院に入って生涯家族の罪と向き合うとおっしゃっていたのに、それを今の旦那さまが引き止めて……どうするのかと思えばこんな部屋に閉じ込めて」
 侍女の声が怒りで震えている。
「これなら修道院で生活するほうがよほどましです……! ドレスも宝石も取り上げられ、部屋だってイザベルさまのものにされて、代わりにお嬢さまは私たちメイドと同じ──いえ、それよりも粗末な部屋しか使わせてもらえないなんて」
「でも──」
「下級メイド同然の仕事をさせられているのに、お給金も出ないし、外出だって許可されていないじゃないですか! やっぱりメイドよりもひどい扱いですよこんなの。お嬢さまの自由はどこにあるんですか!」
「自由……」
 そんなの考えてもみなかった。
「嫁ぎ先でわたしはイザベルとして過ごすのだから、少し自由のある暮らしが与えられるかもしれないわね。今のようなメイド仕事はしなくなるかも」
「当たり前じゃないですか! わけのわからない理由で結婚させられて、おまけにメイド仕事なんてさせられてたまりますか!」
 侍女を安心させるつもりが、彼女はさらに憤慨して頬を紅潮させる。
「ただでさえ嫁ぎ先があのアリアドスタ辺境伯だなんていうのに……っ」
「あの?」
 シャーロットは小首を傾げる。
 イザベルも、アレクシスのもとへ嫁ぐことをあまり良く捉えてはいないようだった。
「そんなに悲観する必要があるかしら。申し分ないほど立派な身分の方なのに……」
「お嬢さまは外の情報に疎いから知らないのです……アリアドスタ家の領主さまがいかに冷酷かを」
 侍女は顔を青ざめさせている。
「頭の切れる方らしいですが、人の心がないんです。あの屈強な自警団たちもその名を聞けば震え上がるのだと。屋敷のメイドも、気にくわなければ理由も言わずに辞めさせ、どこか遠くの地へ送られるとか。そんな男のもとでお嬢さまがどんな扱いを受けるか……っ」
「そう……」
 人の心がない──?
 生返事をしながら、過去のアレクシスを思った。
 彼女やイザベルが恐れているアリアドスタ当主と自分の知る彼の姿がうまく結びつかない。
 しかし、シャーロットだって幼少期とはまるで別人になってしまったのだ。
 アレクシスがそうでないなんて、どうして言えるだろう。
 自分と同じ、過去とその先をぶつりと分断するようなショックな出来事があったのかもしれない。
(いいえ、そんなことがなくたって人は変わるものだわ。大人になって、爵位を継いで。それだけで理由は充分だもの)
 けれど、寂しい。
 輝く金髪は今は見る影もない。その姿で遊んだ、シャーロットのよく知るアレクシスだってもうどこにもいないのだ。
 もう一つ、失ったものが増えた気がした。
「大丈夫よ。わたしはすぐに離縁される予定なの。だからこの部屋を物置なんかにしちゃ嫌よ」
 努めて明るい声を出したつもりだが、侍女の顔は曇ったままだった。

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