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さわられて(!?)シンデレラ

 それは、結婚から半年が過ぎたころ。
 ガルニドゥルエ王国の王子アリカと、その妃であるディデミアは、クロニアド帝国を訪問していた。
 以前は、貿易目的にガルニドゥルエを訪れる他国に対し、ガルニドゥルエ側からアプローチすることの少ない時代が続いていたという。しかし、次期国王アリカは、広い視野を持って国を導いていくため、結婚後に多くの国をまわっている。放っておいても、もともと多くの国から招待状が届いていたため、訪問しようと思えば行き先はいくらでもある。ガルニドゥルエがそれほど他国から重要視されていることに、国政に明るくないディデミアは驚いたものだ。そして、王族として来訪する際には、必ずディデミアを同行するのが彼の流儀だ。
 新婚ほやほやの王子は、最愛の妃を片時も離さない。ガルニドゥルエとの交渉を重視する国々は、競い合うようにしてディデミアに喜んでもらえるもてなしを考えるようになったほどだ。
 正直なところ、侍女あがりの妃はあまり贅沢を好まない。彼女は、宝石もドレスもレースもほしがらず、美しい景色やかわいらしい動物を見るのを喜ぶ。金品で懐柔できないからこそ、ディデミア妃の心をつかんだ国こそ、いっそうガルニドゥルエとの国交が深まると、大陸の国々の上層部ではひそかな噂になっていた。
 噂はあくまで噂でしかないのだが、クロニアド帝国に来たとたん、ベイジル殿下が「はい、これはディデミア妃殿下に」と差し出したものを見て笑顔が凍りつく。
「ベイジル殿下、これは……」
 大きな手のなかで、ディデミアのこぶしと大差ない白い生き物がもそりと動いた。
「先週生まれたばかりの子猫だよ。クロニアド猫の純血種でね、まだ名前もない」
 おそるおそる受け取るも、ディデミアは動物を飼ったことなど一度もなく、子猫の扱いに戸惑う。
 クロニアド猫は、大陸内の多くの国で貴族が愛玩動物として重宝する品種だ。しなやかな体つきの成猫とは違い、子猫は毛糸玉のように丸い。
「……とてもきれいな白猫ですね」
 戸惑いは、次第に愛情へと変わっていく。
 子猫は白い体毛と緑色の瞳が愛らしく、手のなかで小さく震えているのだ。愛しく思わないわけがない。
「気に入ってもらえたみたいで嬉しいよ。なにせ、大陸ではディデミアの機嫌をとればガルニドゥルエとの貿易がうまくいくと噂なんだ」
「えっ、あの、それはただの噂で……」
 慌てたディデミアの背を、隣に立つアリカが優しく支える。
「ベイジル殿下、国交と我が妃の機嫌にはなんら関係がありません」
「わかっていますよ。今のは冗談です。以前に、彼女がクロニアドにいたころ、公爵家の猫をしばらく世話してあげたことがあってね。そのとき、とても嬉しそうにしていたことを思い出したんだ」
 微笑むベイジルに、アリカはどこか腑に落ちない表情で頷いた。
 ――アリカ、ベイジル殿下のことが苦手なのかしら?
 結婚式にも招待した間柄であり、もとはディデミアが仕えていた相手である。たしかにクライヴの一件ではいろいろあったけれど、ベイジルは弟の不祥事についても王族として勇気ある決断をしてきた。
「ですが、子猫の飼い方はわかりません。いただいても、この子を大切にできるかどうか」
 クロニアドと違い、ガルニドゥルエは暑い国だ。あの島に連れ帰って、こんな小さな子猫が無事に生きられるのかわからない。
「心配はいらない、ディデミア。俺があなたと一緒に育てよう」
 日焼けした手が、ディデミアの肩を丸く撫でた。ただそれだけの刺激で、胸がきゅっとせつなくなる。
「アリカ……」
 見上げた夫は、ここ最近の大陸内への訪問時と同じくフロックコート姿で、髪もきちんとまとめていた。島にいるときとは別人のようだ。
 ――アリカは、どうしてこんなに優しいんだろう。
 困難のなかにあったディデミアを救い、守り、そして今は夫として愛してくれる。彼が隣にいてくれるから、ディデミアはいつだって幸せなのだ。ガルニドゥルエにいるときも、船旅の途中も、かつて働いていたクロニアドの王宮にいる今も。
「今日は、貿易のことは抜きにして食事を楽しんでいってください。いつも仕事の話ばかりでは、アリカ殿下もおつかれでしょう? おふたりの寝室は、王宮でもっとも景色のいい部屋を用意させましたよ」
「ありがとうございます、ベイジル殿下」
 それにしても、この小さな生き物をどうしたらいいのだろうか。
 今もまだ、ディデミアの両手のうえでぷるぷる震えている子猫が、心の声に応えるように「ナーオ」と小さく鳴いた。

♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪

 晩餐室での夕食会を終え、ディデミアとアリカは寝室に案内された。一緒に浴室を使おうというアリカに、子猫を放っておけないことを理由に断りを入れた。
 ――ほんとうは、今もまだ一緒に入浴するのは恥ずかしいだけなのだけど……
 美しいアリカ。
 島の神に愛された彼の逞しい体は、どこもかしこも筋肉に覆われ、芸術的ですらある。
 それに比べ、自分はなんと貧相なことか。
 島で暮らすようになって、以前よりは顔色がよくなったとアリカは言ってくれる。それに、侍女時代に比べて体つきも心もちふっくらしてきたのではないかと自分でも思う。
 だが。
 ――だからって、アリカのあの完璧な肉体を前にすると、どうしても尻込みしてしまう。
 子猫の面倒を見ているから、先に入浴しておいで――
 アリカはそう言ってくれた。
 彼の厚意に甘えて、ディデミアは急いで浴室を出る。少し伸びた髪が、肩口を濡らす。白いナイトドレスの裾を揺らして寝室に顔を出すと、アリカは子猫を膝に乗せて寝台に腰掛けていた。
「アリ――……」
「なあ、おまえはどう思う? あの王子は、ディデミアに気があるからおまえをよこしたのではないか?」
 誰かと話している。
 そう思ったものの、寝室にはアリカと子猫、そして扉を開けたディデミアしかいない。
 ――じゃあ、子猫に問いかけているの?
 彼の後ろ姿が愛しくて、ディデミアは声をかけるのをためらった。
「彼女によくしてくれたのも、やはり少しくらいは下心があったのではないかと思ってしまう。ディデミアは、とてもかわいらしいだろう? それに、誰より優しい女性だ。自分を犠牲にしても、周囲の幸せを願うところもある。あれほどの賢妻を迎えられたのだから、俺は世界一の幸せ者だ。だから、彼女を想う男がほかにいても仕方ない――」
「そんなひと、いませんよ!」
 アリカのひとり言に、どうしても我慢できなくなったディデミアが反論する。
「ディデミア? いつの間に?」
 驚いた様子で、アリカがこちらに振り向いた。燭台の明かりに照らされた彼は、まだ髪を下ろしていない。いつもは獅子のたてがみのように揺れる金茶の髪が、きれいに撫でつけられていた。
「アリカ、わたしのことを買いかぶりすぎです。それにベイジル殿下は、奥さまを心から愛していらっしゃるの。ほかの女性に目を向けたりしません」
「そんなことわからないだろう? あなたは、誰よりも魅力的だ」
 子猫を寝台にそっと下ろし、立ち上がった彼がディデミアのそばに近づいてくる。
「それはたぶん、アリカしか思っていないことです」
「なぜわかる? 俺には、あなたしか目に入らないほど、ディデミアはいつも輝いている」
 真顔でそんなことを言われては、ディデミアとて平常心ではいられない。頬が赤らみ、心臓が早鐘を打つ。
「今だって、頬を染めて俺を見上げるあなたを抱きたくて仕方がないんだ。ほかの誰にもわたさない。あなたは俺だけの妻だから」
 長い指が、まだ濡れている黒髪をそっと撫でた。指先が頬をかすめて、ディデミアはもっとアリカに触れられたいと思う。
 強く、彼に抱きしめられたい。
 強く強く、彼を感じたい。
 背筋が、彼を求める気持ちにぞくりと震えた。
「……わたしは、あなたの妻です。それに、アリカが思うほどわたしに興味を示す男性はいないです」
「こんなにかわいらしいのに?」
 そう言って、彼がディデミアの唇についばむようなキスをする。
「んっ、や、待っ……、アリカ、入浴は……?」
「キスしているだけだ。このくらい、入浴前でもしてかまわないだろう?」
 だが、お互いにわかっている。
 唇を重ねれば、いっそう相手を恋しく想う。もっと近づきたくなり、触れあいたくなる。肌を合わせ、心と体をつなぐのを止められない。
「ディデミア……、あなたの唇は今夜も甘い。俺を誘う媚薬でも塗っているのではないかと思うほどだ」
「知りません、そんな……んっ、ぁ……!」
 腰を抱かれ、背を撫でられると甘い声が出る。ディデミアはびくんと体を震わせ、彼の胸にしなだれかかった。
 厚い胸板は、ディデミアひとり支えたところでびくともしない。それどころか、彼は片腕でディデミアの動きを封じることも可能だ。
「もう……感じてくれているのか?」
 熱を帯びたまなざしに、息ができない。
 はい、とも、いいえ、とも。
 答えられない彼女を見下ろし、アリカが薄く微笑んだ。
「すまない、今夜の俺は少し性急に過ぎるだろうか」
「そんなことは……」
「今すぐ、あなたがほしい」
 まっすぐな言葉と同時に、アリカがディデミアを軽々と抱き上げる。そして、彼はすぐに妻を寝台に押し倒した。
「ナーナー、ナーオ」
 それに抗議するように、小さく鳴き声が聞こえる。夫に組み敷かれたディデミアは、慌てて上半身を起こそうとした。
「ディデミア?」
 怪訝そうに、けれどディデミアの意向を無視することはせず、アリカが起き上がる。
「子猫がつぶれたら大変です!」
 寝台の端で、白い子猫はやわらかな毛を揺らして震えていた。
「どうしたの? だいじょうぶよ、何も怖いことはないわ」
 ナイトドレスの胸元に子猫を抱き、その小さな頭を指腹で撫でてやる。人肌に安堵したのか、子猫はディデミアの胸に鼻先をすり寄せてきた。
「……アリカ、あの」
「いや、いい。わかっている。俺も風呂を済ませてくるとしよう」
 彼はそう言って寝台から床に足を下ろした。客室に備え付けの浴室へ行くものと思っていたが、隣室から廊下へ出ていく彼の足音を聞いて、ディデミアはほんの少し不安になった。
 ――どうしよう。気分を害してしまったかしら。
 優しいアリカは、このくらいのことで怒ったりはしない。知っているのに、彼がそばにいないと途端に不安になる。
 いつの間に、こんなに好きになってしまったのだろう。
 わずかな時間さえ、離れているのが寂しいだなんて、アリカにすれば重荷かもしれない。
「……ねえ、わたしは旦那さまを好きすぎるのかしら」
 額を指で撫でると、何も知らない子猫が「ナーオ」と小さく返事をした。それが「はい」なのか「いいえ」なのかはわからないけれど。

 戻らないアリカを待っているうちに、ディデミアは寝台に横になっていた。
 数日の船旅と、久々のクロニアド訪問で疲れていたのかもしれない。夫の入浴中に眠ってしまうだなんて、新妻としては失格の烙印を押されてもおかしくないのだが、睡魔に勝てなかった。
「……ん…………」
 眠りのなかで、つんつんと胸元を刺激される。
「や……駄目、アリカ……」
 拒む言葉を口にしても、慣らされた体はすぐに反応してしまう。胸の感じやすい部分を何度もさわられて、ディデミアはせつなげに両脚をこすりあわせた。
 ――もう、お風呂から上がったの? それでわたしを……?
 夢うつつに彼の愛撫に感じていると、いつもよりひどくもどかしい。ナイトドレスのうえからつつくばかりで、その先に進まないのだ。
「んっ……やだ、もっとして……」
 眠りから覚めきっていないせいか、ディデミアはいつもより積極的に彼のくれる悦びを欲していた。
 しかし、いつまで経っても胸ばかり。
 それも断続的で、周囲をつついてみたり、焦らすような動きだ。
 ――足りないの、アリカ、もっと……
 甘く濡れはじめた脚の間が寂しくて、ディデミアは自分の手を太腿に挟み込む。指先が、いつもならアリカに愛されるところに触れた。
 ――もう、こんなに……
 はしたない。けれど、止められない。
 彼を愛するほどに、心も体も貪欲になる。アリカに穿たれると、心のいちばん深いところまで満たされる気がして。
「ぁ……ん、アリカ、アリカ……」
 濡れた部分を自らの指で慰め、ディデミアは扇情的な声で彼を呼ぶ。それでも、アリカの覆いかぶさるようなキスは降ってこない。
「アリカ、いや……胸だけじゃいやです。もっとして……お願い……」
「――……ディデミア?」
 遠くから、声がした。
「えっ……?」
 瞬間的に目を開けて、ディデミアは寝台のうえに自分しかいないことを確認する。アリカは寝室の入り口に全裸で立っていた。
「きゃあっ……!? あ、アリカ、どうして服を……」
「このままあなたを抱くつもりでいたのだが、ディデミアはいったい……」
 ごくり、とアリカがつばを飲むのがわかる。
 澄んだ瞳が、情慾に甘く揺らいでいる。
「ち、違います!」
 がばっと起き上がると、膝のうえに何かやわらかなものがある。
 見れば、それは白い子猫だ。
「……え? あなた、ここにいたの? じゃあ、さっきさわられてたのは……」
 胸に感じた甘い悦び。その正体を知って、ディデミアはかあっと頬を赤く染めた。
「俺を待ちきれずに、ひとりでしていたのか……?」
 けれど。
 子猫とディデミアのあれこれを、アリカは知らない。それどころか、彼はいつでもまっすぐに言葉を紡ぐ。
 ひとりで、していた。
 結果だけを見れば、そうとしか思われない。だが、ディデミアとしてはアリカに触れられていると思っていたわけで。
 ――だからって、自分であんなところをさわったりして、わたしったら……!
「違うんです。あの、子猫がわたしにいたずらしていて、それをアリカだと思って……」
 彼の名を出すと、子猫は「ナーオ」と小さく鳴いた。
「俺に触れられていると思って、自分で……?」
 ますます誤解が深まっていく。
 アリカは寝台へ近づくと、手にしていた丸い箱を窓際の椅子のうえに置き、ディデミアの膝から子猫を持ち上げた。
「おまえはこっちだ」
「ナー、ナーオ」
 抗議するような子猫の声をよそに、彼はすぐさま寝台に向き直る。
「ディデミア、言ってくれ。俺がほしくて、自分で自分を慰めていたのか?」
「や……そ、そんなこと……」
「嬉しいよ、ディデミア」
 広い肩が視界いっぱいになり、ディデミアの体が寝台に押し倒される。太腿には、すでに熱く滾る彼の劣情が当たっていた。
「あなたがひとりでしている姿など、見たことがなかった。それも、俺を想って指を動かしていただなんて、嬉しいのに悔しい」
「悔しいってどうして……?」
「自分に嫉妬している。すまない、今夜は優しくできそうにない」
 ナイトドレスが、強引に肩から引き下ろされる。ふっくらとした乳房があらわになり、彼の手が裾野から左右の膨らみを中心に寄せた。
「んっ……アリカ……」
「俺が満たしてやりたい。あなたの心も体も、俺だけが満たしたいのだが、俺を想って自慰にふけるあなたは、信じられないくらいに魅力的だった」
 先端が胸の中心に寄せられ、ふたつの果実をアリカは一度に吸い上げる。
「ひぅ……っ! あ、や、やだ、両方一度に……っ」
「ん……、どちらもこんなに屹立して、俺にこうされたかったのだろう?」
 ぴちゃぴちゃと舌を絡められ、腰が勝手に揺らいでしまう。蜜はとめどなくあふれ、臀部へと伝っていく。
「こんなに硬くして、俺をほしがっていてくれた。俺のディデミア、ああ、なんてかわいらしいんだ」
 いつもよりねっとりと絡みつく舌に、ディデミアは耐えきれず嬌声をあげた。
「両手を使っていると、あなたの体をかわいがれない。さあ、自分で胸をこうして寄せていてくれ。俺がほかのところも愛せるように」
 促されるまま、ディデミアは自分の手で自分の胸を寄せる。すると、アリカは自由になった手を太腿の間に滑り込ませた。
「……ああ! こんなに濡らして、どうしてくれよう」
「っ……ち、がう、わたし……」
「ほかの男があなたの体に触れたのなら、いくらでも罰することができる。相手を生かしてはおくまい。だが、あなた自身の指を罰するなど俺にはできない」
 ちゅく、と濡れた指が蜜口に突き立てられる。一度に二本も挿し入れられ、ディデミアは腰を浮かせていた。
「んんっ……」
 太く長い指が、体を内側から押し広げていく。それだけに留まらず、親指が敏感な花芽をくるりと撫でた。
「やぁ……っ、だ、駄目、そんないきなり……」
「いきなり? だが、あなたのここは、俺の指をおいしそうに食いしめている」
 音を立てて出し入れされると、そのたびに肩が敷布から浮く。なんとか肩を落ち着かせれば、今度は背がしなり、今にも達してしまいそうだった。
「たまらないな。ディデミア、純真だったあなたを俺がこんなに淫らに変えたのか?」
「そ……んな、わたし……っ」
 処女だったディデミアを女にしたのはアリカだ。ほかの男性のことなんて知らない。結婚したからには、これから一生彼にだけ抱かれる約束でもある。
「アリカだけ……、アリカにしか、こんなこと……っ」
「ああ、そうだ。俺だけがあなたに触れられる。ここも、ここも……」
 胸に、鎖骨に、腹部に、アリカが唇を落とした。そして、彼は体の位置を変えると、ディデミアの脚の間に腰を押し込んでくる。
「もう……我慢できない。今すぐにあなたを抱きたい」
「アリカ……、アリカ、わたしも……」
 指が抜き取られたのと、彼の楔が穿たれたのはほぼ同時だった。一秒でも離れていられないと言わんばかりに、アリカがディデミアを穿つ。
「あ、あっ……!」
 押し広げられる蜜口が、彼のいちばん太い根元をきゅうと引き絞った。
「く……っ、そんなに締めたらすぐに果ててしまう。もっと力を抜け、ディデミア」
「や……、だって、こんな……」
 ――アリカ、いつもより大きい……!
 最奥をぐっと押し上げる先端が、ひどく張り詰めている。普段よりひとまわりも太い。
「こんなになってしまうのは、あなたが愛しいせいだ。ディデミア、俺をおかしくするのはいつもあなただ」
 寝台に、彼の律動が伝わる。
 全身で夫の愛を受け止めながら、ディデミアは細い両腕をアリカの背にまわした。
「愛しているよ、ディデミア……」

♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪

 翌朝。
 ディデミアが寝台から起き上がると、先に起きていたアリカが腰布一枚で子猫に話しかけている。
「粗相をするのは仕方がない。おまえはまだ小さいのだからな。だが、ディデミアは俺の女だ。俺の妻だ。おまえには猫の相手がいずれ見つかる」
 ――アリカったら、朝から子猫に向かって何を言っているの!?
「あ、あの、アリカ?」
 振り向いた彼より先に、丸い箱に入っている子猫が「ナーオ」と鳴いた。まるで返事をするように。
「駄目だ、その名前を呼ぶな」
「えっ?」
 だが、アリカをアリカと呼ばずになんと呼べばいいのだろう。
「この子猫は、自分の名前をアリカだと思っているようだ。さっきから、俺がいくら名前を与えても返事ひとつしないのに、アリカとあなたが呼んだ瞬間――……」
「ナーオ、ナー、ナー」
 またも、子猫が返事をする。
 ――もしかして、わたしが昨晩アリカにさわられていると思って名前を呼んだから……?
 思い出しただけで、頬が火照ってくる。
 あんな姿を見られてしまい、それどころか彼をいつもより興奮させてしまった。
「アリカ、わたし……」
「ナーオ」
 話しかけようとすると、自分を呼ばれていると勘違いした白い子猫が鳴き声をあげる。
「アリカは俺の名だ。おまえには違う名をやる。いいか、俺の妻に手を出すことは子猫といえど許さない。ディデミアは俺の女だ」
 そんなことを説明したところで、子猫にわかるはずもなく。
「えっと……とりあえず、なんて名前にしましょう?」
 問いかけたディデミアに、アリカは幸せそうに微笑んだ。
「俺は今、いずれ来る日を先取りしている気分だ」
「それはどういう意味ですか?」
「まだ、あなたとふたりでいい。誰にも邪魔をされたくないということだ」
 意味がわからず、首をかしげるディデミアに、夫が近づいてきて朝のキスをくれる。
「いつかは子どもに恵まれるかもしれないが、それまであなたは俺だけのものだという意味だ、ディデミア」
 だから、いくらでも俺を求めてほしい。
 そう言って、アリカは朝陽眩しい寝室で妻を強く抱きしめた。
「すまない、朝だというのにあなたがほしくて我慢できない」
「ま、待ってください! 我慢できないって……そんなことばかりしていたら、すぐに子どもができてしまうかもしれませんよ。アリカはまだしばらくふたりでいたいんですよね!?」
「そうだな。なかに出すのは控えたほうがいいだろうか。だが、俺のものを放たれるときのあなたは、最高に色香を放つから――……」
「アリカ、何を言って……」
「ナオーン」
 今日も平和な一日が、大陸にやってくる。
 子猫はその後、ルカという名をつけられて、ガルニドゥルエに連れ帰られることになった。
 子猫はすくすくと育ち、すぐにカヒリのお気に入りになった。けれど、夜になると必ずディデミアの寝台にもぐり込んでくる。ディデミアにとっても、ルカは大切な家族の一員だ。
 とりあえず、アリカが白猫のルカに嫉妬したのはまた別のお話――