王太子のジェラルドは、とても器用だ。ソフィアは日々色々なことで感心させられている。
「何をしているの?」
 夕方、王宮殿から妃の宮殿に戻ってきたジェラルドに問いかけた。妃の宮殿の手前に王太子の宮殿があるのだが、ジェラルドはソフィアのいる妃の宮殿の居間をいつも使っている。居間には大理石の大きなテーブルがあり、そこに長四角のブロックが積み上げられている大きなトレイが置かれていた。
「修道院の模型を作っているんだよ。」
 説明しながらもジェラルドは手を止めず、ブロックを積んでいる。
「ブロックで模型を?」
 近くにあるブロックに手を伸ばす。親指よりも少し大きめのそれは、木で作られていた。
 以前もジェラルドはソフィアに水路の模型を作ってくれたが、木製のブロックではなく石膏のような粘土で全体が造られていたので、こういうのは初めて見る。
「実際に使う石ブロックの二十分の一の大きさになっているから、きちんと積み上げれば正確な小型模型が完成する」
 これを参考にすれば必要な石ブロックの数がわかり、無駄に石を切り出さなくて済むという。
「いい考えだわ。それで、これはどこに積む予定のものなの?」
 手にしたブロックをジェラルドにかざす。
「ああ、えっと、それは外壁の上部を囲むやつだ。真ん中の角に置いてくれ」
「あそこね。わかったわ」
 大理石のテーブルに手をつき、ソフィアはブロックを持った手を模型の中心へと伸ばした。
(あ、ドレスの袖がっ! 気を付けなくちゃ!)
 袖口にレースがふんだんに使われている豪奢なドレスを身に着けている。うっかりすると手前にある壁を崩してしまいそうだ。
 肘を上げてレースが触れないようにしながら手を伸ばす。
 だが……。
「あっ、きゃあっ!」
「うわああっ!」
 ソフィアとジェラルドの叫び声が同時に上がった。
 袖のレースは触れなかったが、ソフィアの豊満な乳房が手前に積んであった壁を思いきりなぎ倒したのである。ブロックの壁は向こう側へ倒れて、今まで積み上げてきたジェラルドの努力をあざ笑うかのように崩壊した。
「ご……ごめんなさいっ!」
 青い顔でソフィアは謝罪する。
「お……俺が、これにどれだけ時間をかけたか……」
 実は王太子の宮殿で数か月前から作っていたものを、下男たちに命じてそっとここまで運ばせたのだという。
「どうしましょう」
 おろおろするソフィアにジェラルドが鋭い視線を向けた。
「どうもこうもない。謝罪と賠償を要求する!」
「ごめんなさいっ。ば、賠償は、どうすれば」
「俺はお前に謝罪を要求しているんじゃない」
「えっ? えええ?」
 ぽかんとするソフィアの胸に、ジェラルドの手が伸びてきた。
「悪いのはこの胸だ。これからたっぷりと謝罪させ、賠償してもらう。もちろん寝室で!」
 ソフィアの丸い乳房をぎゅっと掴んだ。
「きゃあっ!」
 というわけで、この日の模型製作はこれで終わり、寝室で後継ぎ製作という懲罰になる。
 それは朝まで続けられ、過剰すぎる懲罰になってしまったという。


 おしまい