甘酸っぱく蕩ける快感を召し上がれ
【本編のとあるシーンの続きになります。単独でも読めますが、本編をお読みいただけるとより楽しめる内容となっております】
レイフィが、固く泡立てた白いホイップクリームを指ですくい、理想的な曲線を描く裸体に投げつけた。
「っあ……、つめた……っ」
アンシェリーンは悲鳴に似た声をあげた。冷たさのあまり、全身が硬直する。
が、痛くはない。
王宮の離れにある寝室だ。アンシェリーンは中央にある大きなベッド、――ではなく、寝室の隅にあるテーブルに一糸まとわぬ姿で仰向けになっていた。
すぐそばのサイドテーブルには、仔牛の炙り肉の薄切り、トリュフのスープ、生牡蠣とレモン、キャビアをのせたコンソメのゼリー、岩塩のパン、櫛切りにしたオレンジ、泡立てたばかりのホイップクリームといった軽食が並んでいる。
さすが王宮。軽食も豪勢だ。
レイフィはテーブルのへりに座り、美術品を愛でるようにホイップクリームにまみれたアンシェリーンを眺めていた。アンシェリーンと同じく一糸まとわぬ姿だが、恥ずかしいという感情が欠落しているのか隠そうとしない。
美術品はレイフィの方だ。鋭さに満ちた端麗な容貌はもちろん、広い肩や厚い胸、筋肉に裏打ちされた腕は男性的な美に溢れている。
アンシェリーンはレイフィの体に見惚れるように視線を下方へと動かし、一点で止めた。
今日もキノコが新鮮だわ。
口内でつぶやき、はっとする。
いま声を出したろうか? 出してない。絶対に出してない!
安堵とともにまぶたをおろし、心地よい愛撫に集中した。
「いまなんて言った?」
レイフィが抑揚のない声を出し、アンシェリーンは息を止めた。
「……な、なんにも言ってないわ」
声がうわずる。レイフィが目を細め、しばしアンシェリーンを見ていたが、「まあ、いい」と言い、アンシェリーンはほっと胸をなで下ろした。
レイフィが指でホイップクリームを広げながら、弾力のある乳房を揉み、敏感な尖りをはじいて、胴部を撫で、淫らな刺激を与えていった。
ホイップクリームが潤滑油となり、指の動きを滑らかにする。充血した内股の中心が激しくひくつき、早くほしいと喘いでいた。
レイフィがアンシェリーンに覆いかぶさり、漆黒の豊かな髪に顔を埋め、耳たぶに舌を這わせた。ホイップクリームをなめながら首筋から肩、鎖骨から胸の谷間へと唇を動かし、アンシェリーンが強く反応すると、強く吸い上げ、赤い刻印を散らしていった。
たくましい体が離れ、今度はもっと冷たい刺激がやってきた。
「ひゃ……、何?」
爽やかな酸味が鼻孔をくすぐる。自分の体に目を向けると、レイフィが盛り上がった双丘の谷間で櫛切りのオレンジを搾っていた。
「あっ、冷たい……!」
腰が跳ね上がり、肩をすくめる。しばしそのままでいると、オレンジのしずくはアンシェリーンの体温を吸い、官能だけを残して肌を滑った。
ふと、王宮に来てほどなく、高位の女性陣に教えられたことを思い出した。
「王宮のご婦人が、お肉を体に乗せると冷えるって言ってたわ……」
レイフィが顔をしかめて訊き返した。
「王宮では、貴婦人はそんな破廉恥な会話をしてるのか? ほかに何の話をした?」
「調味料は体が痒くなるって……、ぁああ……」
正確には「東方に、体に食べ物を載せるという技があるのですが、冷肉は腰が冷えるので注意してください。調味料で体が痒くなることもありますわ」だ。
すごい話題だ、と感心し、技の内容は気にしなかったが、要はこういう技だろう。
「調味料で何をするんだ? 大体どの調味料だ。塩か? それとも、スパイスか。シナモンとか、唐辛子とか」
「唐辛子はだめよ! 唐辛子は体に悪いわ。絶対にだめっ」
アンシェリーンは慌てて言い、レイフィがあきれたように返した。
「こんなところで使うわけないだろう。貴重品なんだから料理人に怒られる」
堅実な価値判断に満足する。最終的な常識もある。
レイフィならヴァヘナールを任せられる!
「もしかしてかゆいか?」
わずかだが不安そうな声。
「かゆくないから……大丈夫」
やめてほしくなくて小声になる。
レイフィが新たなオレンジの欠片をつかみ、アンシェリーンの唇に持ってきた。指に力を込めると、オレンジのしぶきが顔にかかり、濃い果汁が口に流れ込む。おいしい。
最初から口に入れてくれたらいいのに。
アンシェリーンがオレンジに歯を立て酸味のある果肉を味わい尽くすと、レイフィはサイドテーブルにオレンジの残滓を置いて新たなオレンジを取り、皿に盛られたホイップクリームをすくって体へと載せた。冷たいが、凍えるほどではない。
あちこちに潜む快感のありかをオレンジとホイップクリームで刺激しながら薄い茂みを横切り、股関節のくぼみを滑って、膨らんだ秘裂にたどり着いた。
レイフィは、内股の中心を見て面白そうな声を出した。
「ここにほくろがあるのを知ってるか」
「ここって……?」
「左のびらびらの外側だ。あいつがほくろの数がどうとか言ってたろう。これを知ってたら、数より、場所を言うはずだ」
レイフィへの憎悪を膨らませる某貴族が、嫉妬を煽るため言ったことだ。アンシェリーンの体にあるほくろの数をすべて知っている、と。
レイフィは、ほくろを数える趣味はない、と答え、会話は一瞬で終了した。
「あ……っ」
ここ、という言葉とともにオレンジの角で左の花びらを引っかき、アンシェリーンの腰が引きつった。そのまま尖った切り口を秘裂に滑らせ、上端の肉粒を包み込む。うっとりするような悦びが小さな部位を通じて全身にもたらされた。
「ぁああ……」
溶けかけた生クリームの力で刺激は滑らかとなり、気持ちよさしか感じない。
高みにのぼる前にレイフィがオレンジの欠片を皿に戻し、内股にかがみ込んだ。
甘いホイップクリームと爽やかな果汁、溢れ返る淫蜜を舌先ですくっていく。ホイップクリームとオレンジの果汁はすぐになくなったが、淫蜜は溢れる一方だ。
左の花びらについたほくろを愛でるようについばんでから、秘裂の上端にある肉粒にキスをした。
「あっ、あぁ……、んふ」
右手の指で慎重に皮をむき、赤く色づいたものを愛しそうに見つめてから口内で包み、舌先を踊らせる。左手の中指をその下にある膣穴に突き入れ、舌で突起をはじいた瞬間、白熱の光が背筋から頭頂に突き抜け、アンシェリーンは甲高い声を上げた。
「あぁ……、あ……」
陶然とした息を吐き、甘美な余韻に陶酔する。レイフィの体温が遠のき、熱杭が用意の整った秘裂にあてがわれた。
だが、内部を満たすことはなく、レイフィは男液のこぼれ出る先端をすべらかな胴部からさらにその上へと移動させた。
凶暴な部位が乳房の谷間に収まり、柔肉の間から顔をのぞかせる。
ものすごく新鮮なキノコだわ……。
はっと気づいて息を呑んだ。声に出してはいないはずだ、そのはずだ。
冷たい視線を感じ、瞳を動かすと、レイフィが凍えるまなざしを向けていた。
「俺がいま何を言おうとしているかわかるか? なんでもいいから答えてみろ」
「えと……、俺のキノコはうまいぞ、とか?」
「違う。お前を愛している、と言うつもりだった。が、かわいそうだから正解にしてやろう。俺のキノコはうまいぞ、ありがたく味わえ」
「やだ……! 愛してるって言っ……」
レイフィが柔肉からするりと下腹を抜き、アンシェリーンの唇にねじ込んだ。
「ふむう……、ふあ……、あ!」
焼け焦げてしまうと思うほど熱い肉の塊が口内を蹂躙する。
むりやり奥にまで押し入れて窒息したら困るという判断か、嘔吐したらまずいという判断か、要するに賢明な判断により、アンシェリーンの口に入れたのは先の方だけで、アンシェリーンは考える余裕もないまま舌を動かし、吸い上げた。
レイフィが腰を引き、アンシェリーンの口から自分を抜いた。アンシェリーンの背中に手の平をあて、軽く持ち上げる。自分はテーブルに腰を下ろし、正面から向かい合った。
「自分から乗ってみろ。難しくないだろ」
レイフィが言い、アンシェリーンは考えた。もしくは考えるふりをした。ここまで来て嫌がる理由はないし、下腹は我慢できないというように痛みのようなうずきを発している。
アンシェリーンは朦朧としたまま上体を起こし、レイフィの腰をまたいで膝立ちになった。
チャレンジ精神で、がんばる。
これだけ固いのだし、バランスを崩して脚を滑らせても折れることはないだろう。それとも根元から、ぐき、といくことはあるのだろうか。
「折れることはないわよね……。でも気をつけないと……」
アンシェリーンは自分を鼓舞するため小声でささやき、レイフィが眉間を曇らせた。
「上に乗ればいいだけだ。妙なことはするなよ」
「ごめんなさい。聞こえた? 妙なことはしません。死んだら困るもの。では、いきます」
レイフィの不審そうな表情を無視して、アンシェリーンはそそり立つ部位に手の平を添え、興奮する秘裂に攻撃的な先端をあてがった。
「あ……っ」
レイフィの熱を感じてびくりと蜜口が痙攣する。小さく深呼吸をし、邪念を払って集中した。人生はチャレンジの連続よ、大丈夫、レイフィは死なないわ、と内心で言い聞かせ、ゆっくり腰を沈めていった。
「あ……、ふ、う……。大丈夫……、入ってる、ぶじ……。折れてないわよね……」
肉襞が剛棒を締め上げ、緩んでは、また締め上げる。なんの返事もなく、正面から抱き合うと、レイフィの息が耳元で聞こえた。
怒っているのかあきれているのかと思ったが、行為に集中しているようだ。
レイフィは両の乳房を片手でつかんで中央に寄せ、反対の手をアンシェリーンの背中にあてて、しっかりと支えた。アンシェリーンはレイフィとの接合を感じながら、腰をいやらしく前後に揺らし、欲望の赴くままぬるついた摩擦に身を投じた。
はじめはぎこちなかった動きが徐々に滑らかになり、入口から深部までをこすりつけ、レイフィの肩に頬を寄せた。
「愛してるって……、言って、……っあ、っああ」
朦朧としたままつぶやくと、レイフィが熱に満ちた声で言った。
「愛してる、アンシェリーン。何が起こっても、起こらなくても、ずっとお前を愛しつづける」
直後、下方から突き上げる。
私もよ、と答える前に、至福の高みへと放り投げられ、アンシェリーンは快楽の頂点へと到達した。
――了――