転生聖女はモブキャラの推しを攻略したい! 1
第一話
私がこの世界の『秘密』に気づいたのは、本当に突然だった。
「ねえ、貴女が最近外部から入った編入生?」
教室移動のため、回廊を友人と歩いていたときのこと。
ブロンドの美しい派手顔の令嬢が、前方から取り巻きと共にぞろぞろと現れたと思うと、偉そうな口調で私を呼び止めた。
私、エリッサ・ラ・モンテーニュは一週間前にこのラララ学園に編入してきたばかりだ。
いったい何の用だろうと思った瞬間、彼女が腕を大きく振り上げた。
バチンッッ!
(えっ……、はっ!?)
突然の頬の衝撃に呆気にとられていると、令嬢が続けて罵声を浴びせてくる。
「何て礼儀知らずな。この無礼者!」
(礼儀知らず? 無礼者?)
私はいきなり叩かれる理由が本気で分からず、ジンと熱を帯びた頬を押さえた。
叩かれたことへの怒りよりも、この令嬢が何をそんなに興奮し、怒っているのかさっぱり分からず困惑してしまう。
驚いているのは私だけではないようで、その場に居合わせた生徒たちも何事だとざわついている。
「あの、何のことでしょう?」
「……っ!」
直接尋ねると、どうやら私の呑気な物言いが癪に触ったようだ。
眉を吊り上げ、綺麗な顔で凄んでくる。
「そうやってシラを切るつもりなのね。何て図々しいの。入学早々許可なく殿下たちに近づき色目を使うだなんて」
「そうよそうよ、ベアトリーチェ様の言う通りよ!」
取り巻きの合いの手まで入り、私を罵倒する。
彼女の名前はベアトリーチェというのか……、なんて思いつつ、よく分からない言いがかりについて考えを巡らせる。
(はて、色目とは……?)
どうにかここ数日の記憶を遡ると、思い当たることが一つだけあった。
「ああ、もしかして、あの派手な方たちのことですか?」
「な、何て無礼なっ! 近隣国の殿下たちに向かって!」
それはこの学園に来てすぐ、学園内の敷地を一人で散策していたときのことだ。
にゃーと鳴く可愛い黒猫を見つけて、引き寄せられるようにその猫についていった。
するといつの間にか妙な場所へと迷い込み、そこで無駄に顔面偏差値の高い、クセのある四人の男子生徒に出会ったのだ。
まさか彼らが、この学園で人気だと噂の近隣国の王子様がただというのだろうか?
「貴女のような品のない人間がこの由緒正しきラララ学園の風紀を乱すのです。しかも勝手に忍び込むなんて、恥を知りなさい!」
私は激昂するベアトリーチェ嬢の口上を聞き流しながら、ここ最近私の身に次々と降り注ぐ、災難について思いを巡らせていた。
子爵令嬢である私が、突然この学園に入学することになった経緯。
偶然出会った個性的な四人の王子様。
おまけにこうやって悪役のような令嬢にビンタまでされるなんて、ドラマチックが過ぎやしないだろうか。
(……って、待って!?)
そこまで考え、ハッとなる。
そうよ、私は『これ』を知っている。
この既視感について語る前に、少しだけ私の秘密について話をしよう。
実は私、エリッサ・ラ・モンテーニュには──『前世の記憶』がある。
私がこことは異なる世界で別の人間として生きてきた、という不思議な記憶だ。
そんなちょっぴり特別な私が、特別な事情でここ──ラララ学園に編入してからというもの、ずっと妙な既視感を覚えていたのだ。
見覚えがあるような景色、聞き覚えがある名前。
そしてベアトリーチェ嬢にビンタされた今、ようやくその理由に気づく。
(そうよ、知ってる。知ってるのよ! あの俺様王子も寡黙クールも、腹黒ショタもヤンデレも、目の前にいるこの悪役令嬢も!)
そして──私がこの先辿る未来も。
失っていたパズルのピースが突然見つかったようだった。
情報が頭の中に一気に流れ込んできて、私の頭の中はぐちゃぐちゃだ。
取り乱した私は、その場から逃げるように駆け出していた。
(ありえない、まさかこんなことって……)
回廊から中庭に続く階段を下りようとした、その瞬間──。
(あっ……やばっ)
私は足を踏み外し、身体が宙に浮く。
「きゃああっ、エリッサちゃん!」
気づいた途端、衝撃と、悲鳴と、そして暗転。
私、エリッサ・ラ・モンテーニュはいわゆる異世界転生者だ。
私は突然この『世界の秘密』に気づいてしまった。
この世界が『乙女ゲームの世界』だということに。
そして私は、その乙女ゲームの『ヒロイン』だということに。
まずは前世の私の話を軽くしようと思う。
日本という国に生まれた「私」は二十代女性の毎日遅くまで働き続ける会社員だった。
残業残業の毎日でふらふらになりながら帰宅している途中、歩道橋を下りているところで目の前が真っ暗になった。
そのままバランスを崩し転落したのが、前世の私の最後の記憶だった。
そして──。
「エリッサ、良かった気づいたのね!」
「──……へ?」
目が覚めた瞬間、私は「私」ではなく、エリッサという十四歳の幼い少女に生まれ変わっていたのだ。
最初はこのありえない状況が理解出来ず混乱したけれど、次第にエリッサとして私が生きてきた記憶も思い出す。
(そうよ、私はエリッサでもあるのよ)
ここは前の世界でいうところの、中世、もしくは近世のヨーロッパのような世界で、私はモンテーニュという貧乏子爵家の娘として生まれていた。
どうやら流行り病で高熱を出し、生死の境を彷徨ったことをきっかけに前世の記憶が人格ごと一気に蘇ったようだ。
エリッサとして生きてきた私は、お花を育てることが好きな物静かな性格だったようだけれど、前世の私は少々活動的だった。
だからこそ、突然溌剌とした私の変貌に両親はひどく驚いていた。
だが熱の後遺症ということで納得してくれた上、一度命の危険にさらされた結果「生きてるだけでオッケー」と私のことを全肯定してくれるようになったのだ。
もちろん私も困惑したけれど、せっかく生まれ変わったのならこの人生を謳歌するしかない。
そして幸運なことに私の外見は凄く可愛らしい。
ふわふわの長い金色の髪に、大きなぱっちりとした青い瞳。ニキビ一つないすべすべの白い肌と、庇護欲をそそるような華奢な体つき。
もっと可愛らしい令嬢は沢山いるのだけれど、私はいわゆる男ウケをする外見をしているようだ。ふわふわして可憐な感じが、良くも悪くも注目を浴びてしまう。
そんな自己肯定感の上がる外見を持った私が、さらに人生を楽しむために始めたのは、ちょっとした金儲けだった。
前世の私は仕事のし過ぎであのような最期を迎えたけれど、かといってお金が嫌いなわけではない。
ドラマ・映画・漫画・アニメなどの刺激的なコンテンツ漬けだった私からすれば、こののんびりした生活は正直退屈だった。
娯楽本を買おうにも、遊ぼうにも、とにかくお金がいるのだ。
そんなとき、私は自分が育てている花を売って小遣い稼ぎをしようと考えた。
エリッサはお花を育てることが好きで、それは前世の記憶が戻った今でも変わらない。
そしてどうやら私は花を育てることが上手らしく、なかなか育ちにくいと言われる花を見事に咲かせてしまう特技がある。
簡単な手入れしかしていないにも拘わらず、その花が咲く時期じゃなかったとしても、たとえ枯れかけた花だとしても、とにかく鮮やかで美しい花が元気に育つのだ。
家にはあまりお金がなかったし、貴族は働いたら負けといった、謎の見栄を張る風習があったが、私は法の下に平等かつ、働いてなんぼな時代を前世で生きてきたのだ。
時代を作る人間は常に新しいことをするのよ、と妙な自信を持った私は、両親に「小遣い稼ぎに育てた花を街で売りたい」と申し出た。
若い令嬢がはしたない、と本来叱られるようなことも、娘のすることを全肯定な両親は「元気があってよろしい!」と応援してくれる。
そうして花を売りに出してみるとこれがまた好評だった。
そんなとき、見るからに高位の服装をした聖職者が何人もの供を引き連れて現れ、花を売る私の前で跪いたのだ。
「貴女は聖なる人──聖女になる素質があるお方です。どうかラララ学園に入学し聖女としての高等教育を受けて頂けないでしょうか?」
(ラララ学園? 聖女?)
ラララ学園はこの地域一帯の周辺国で絶対的な権力を持つ『聖カトル教会』が運営する大規模な学園だ。
各国の王子や貴族など大勢がこの学園に通い、卒業時に聖カトル教会からの『承認』を受けることにより、彼らの肩書に箔がつく。
私はそんな教会の関係者から、聖女の素質を見出されてしまったのだ。
(せ、聖女って……)
聖女がこの世界でどういう存在なのかよく分からないが、選ばれしもの感ありありだ。
前世で言うなら聖女ジャンヌ・ダルクだろうか。エンタメコンテンツ的にはとにかくすんごい力を持つ、選ばれた女性ってイメージだ。
とりあえず正直突然そんなことを言われても凄く困る。
でも、あろうことか両親がこの件に関してぴょんぴょん飛び跳ねて大喜びしたのだ。
是非行きなさい今すぐ行きなさい何としても行きなさい、と私本人より乗り気で、あれよあれよと言う間に承諾し、私はラララ学園に入学することになった。
だが入学したはいいものの、周囲の視線が痛い。
この学園へは聖女の素質があるという特別枠で入学したが、私の実家は本来ここに通えるような家格ではない。
高等部三年という最高学年からの入学なので、友人はおろか知人もいない。そのうえ、一般の生徒が立ち入ることが出来ない教会寮に住み込みなので夜に交流も出来ない。
でも、ここで負ける私ではなかった。
ここに来て一週間。
最初は聖女候補という肩書の私に、クラスメイトたちもどう接していいのか分からず戸惑っていたけれど、私から積極的に挨拶をしたり、ちょっとした日常会話をするなどして、少しずつ打ち解けていった。
まだしばらくは好奇の目を向けられるだろうけれど、そのうち誰も気にしなくなるだろう。
学園生活なんて目立たず平和に楽しく過ごすのが一番だ。
そう思っていたのに──。
バチンッッ!
『何て礼儀知らずな。この無礼者!』
まさか早々によく分からない派手な四人組(のちに隣国の王子様がただと判明)に絡まれた結果、そのことでヒステリックな令嬢に難癖をつけられるだなんて。
しかも、ここがただの異世界などではなく、私が前世でプレイしたことがある乙女ゲームの世界であると気づいてしまった。
挙句の果てに混乱し、足を踏み外して階段から落ちてしまうとは──とんだ喜劇だ。
*
ゆっくりと瞳を開けると、そこはまだ見慣れていない私の部屋だった。
天蓋つきのベッドにアンティーク調の家具。高価な調度品。
ここはラララ学園内の私が寝泊まりする教会寮の一室だ。
学園に来てすぐ、こんな立派な部屋を与えられるなんてと驚いたものだ。
ゆっくりと身体を起こす。
(そうだ、私階段から落ちて……)
そして、落ちる直前に知った事実を思い出し大きなため息を吐く。
『聖なる乙女は学園に惑う』──通称『なる乙』。
スマホ専用の乙女ゲームで、前世の私は通勤途中にポチポチとストーリーを進めていた。
確かゲームの大まかなあらすじはこうだ。
聖女見習いのヒロイン(つまりは私)はある日ラララ学園に通うことになり、そこで個性的な攻略キャラと運命的な恋をし、やがて聖女に覚醒する──といった内容だ。
攻略キャラに会いに行き、好感度を上げつつ様々なイベントを通じて仲を深めていく。
ヒロインは三年の春に外部から編入し、卒業イベントまでの約一年間がゲーム内の時間軸だったと思う。
(ああ、どうして気づかなかったのよ……)
クセのある学園名も聞き覚えがあったし、制服のデザインだってそうだ。
学内で流れてくる讃美歌のような曲も、確かゲームの中で使われたBGMだったような気がする。
聖女の素質を見出したと言われ学園に来たことも、悪役令嬢に攻略キャラのことでビンタされたことも同じだ。
確かに前から妙な既視感はあった。
でもいくら前世の記憶があっても、当たり前のように生きているこの現実世界を乙女ゲームだなんて思わない。
しかもハマっていたとはいえ、短期間遊んでいただけの乙女ゲームの世界に転生だなんて。
でもここが『なる乙』の世界だと分かりさえすれば、徐々にゲームの記憶が蘇ってきた。
(待って。まさかあの四人の王子たちが……攻略キャラってこと!?)
彼らは『二次元あるある』のクセの強い王子様たちだった。
今後ゲーム通りに話が進行するのであれば、この先私は彼らと恋愛するということになるのだが──。
(いや、待って。……キツくない?)
彼らの中にも推しはいたけれど、それはあくまで二次元的な意味での萌えだ。
ガチ恋でも夢女でもない私は、画面上のヒロインちゃんが恋愛するから好き勝手推せていたわけであって、リアルにそのキャラたちと自分が恋愛するとなると……正直キツい!
というか絶対に無理だ。
二次元は二次元だからいいのであって、三次元として見たらひたすら面倒くさいキャラでしかない。
攻略対象には四人の個性溢れるキャラがいるけれど、俺様キャラは我が儘放題で殴りたくなるし、寡黙クールは単純に会話のテンポが合わなさすぎて精神的につらそうだ。
腹黒ショタには人生舐めるなと説教したくなるし、ヤンデレキャラはホラーなので牢屋に入っていてほしくなる。
(そもそも攻略キャラと恋愛とかしなきゃ駄目な流れなの?)
そんなことを考え頭を抱えていると、部屋の扉がノックされた。
「エリッサ、大丈夫ですか?」
「シルヴィオさん!」
私の部屋に入ってきた彼の名前はシルヴィオ・ウォルコット。
年齢二十三歳、身長は一八〇センチ以上、体重は不明。
褐色の肌に長い銀色の髪。切れ長の紫の瞳。
祭服をスマートに着こなす上品な出で立ち。
優しい口調にマイナスイオンが出ていそうな穏やかな笑顔。
私の住む教会寮の近くにある礼拝堂の司祭で、この学園生活で一番癒やされる存在だ。
実はこの人こそ、私に聖女の素質を見出し、このラララ学園に導いた張本人でもある。
シルヴィオとの出会いは約半年ほど前。
もともと花屋の常連で、その容姿と雰囲気が好みだったので密かに推していたのだが、ある日祭服で部下を引き連れて店先へ現れたのだ。
(本当、あの時はびっくりしたわよね)
彼は今、私が聖女として覚醒するための世話役として、学園の教会寮で暮らしている。
「階段から落ちて半日目が覚めなかったので心配でした。気分はどうです? 頭は幸い打ってないようでしたが、身体で痛むところはありますか?」
「あ、うん、大丈夫……」
「医者を呼んできますので、少し待っていてくださいね」
それから駆けつけてきた医師にどこか異常がないか検査されたが、特に足を捻った様子もないし問題もなさそうだ。
医師が擦り傷に効く塗り薬を処方してくれた後、シルヴィオは瓶に入れた水と、林檎を持って現れた。
「食欲はありますか?」
「はい、少し……」
「良かった、林檎を剥きますね」
果物用のナイフを持ち、慣れた手付きで、林檎の皮を剥いてくれる。
水を飲みながら甲斐甲斐しく面倒を見てくれるシルヴィオをじっと見つめた。
(……そっか。シルヴィオさんって、NPC【チュートリアルキャラ】だったんだ)
チュートリアルキャラとはゲームをプレイしてすぐ、操作説明やゲームの仕組みなどあれこれ親切に教えてくれるキャラクターだ。
確かにここに連れてきたのもシルヴィオだし、この学園での過ごし方のアドバイスをくれるのもシルヴィオだ。
あまり記憶にないけれど、ゲーム内にそういったキャラクターがいたことを思い出す。
(……やっぱりこの先もあのゲームの出来事を体験するってこと?)
正直なところ、通勤途中にダラダラとプレイしていただけのゲームなので細かい内容なんて覚えていない。
ただ無駄に絵柄が良く、その割に攻略キャラの面倒くささが印象的だった。ラララ学園だなんていう字面が強い名前だったので少し思い出しただけだ。
それに恋愛をするなんて、いくら勝ちが確定しているようなヒロインのポジションとはいえ面倒くさい。
(だって、私自身が恋愛をすることが苦手っていうか……)
それは前世の私が恋愛に対し、疲れていたからに他ならない。
別に恋愛自体が嫌いなわけではないけれど、付き合った相手は自分の都合で私を振り回すようなろくでもない男ばかりだった。
加えて友達は浮気するクズなヒモ男に貢いでメンタルが病んでいたし、仲が良かった男友達も地雷女に恋をしストーカー一歩手前になっていた。
恋愛なんて疲れるし、のめり込むもんじゃない。
そんな私がハマってしまったのは漫画やゲーム、ドラマなどのお手軽な恋愛コンテンツだ。
さらに推しのアイドルを見つけ、応援し、遠くから眺める楽しさも見出すようになった。
リアルの恋愛に疲れていた私は、恋に恋するような恋愛が、ちょうどいい距離感だったのだ。
この世界に生まれ変わっても、その考えは大きくは変わらない。
人生をかけるようなしんどい恋愛は二次元で十分だ。
それに修羅場に巻き込まれるのも正直ごめんだ。
(ベアトリーチェって名前だっけ?)
確か悪役令嬢の彼女がゲームの中で、ヒロインを陥れるような展開もあった気がする。
(もう、乙女ゲームの中に生まれ変わるのなら、悪役令嬢であるベアトリーチェに転生して破滅フラグを回避するためにあれこれ画策して、逃げようとした結果溺愛……って方が流行りなんじゃないの!?)
思わず恨み言を言ってしまうが、それもそれで大変そうではある。
どうせなら名前のない生徒Aのほうが良かった。
が、私はヒロインというポジションに生まれてしまったのだからどうしようもない。
(ゆ、憂鬱すぎる……)
おそらくエリッサとして生きるのであれば、この先恋愛でのゴタゴタや、ベアトリーチェを筆頭とした他の生徒からのいじめや嫌がらせも待ち受けているのだろう。他にも沢山の苦難が私を襲うはずだ。
(はあ……)
想像するだけでも嫌すぎる。最悪だ。
ゲームの中ではまだ耐えられても私からすれば現実なのだ。
キリキリと胃が痛む。前世で愛用していた胃薬はこの世界にないのだろうか。
「エリッサ、どうかしましたか?」
私がうだうだと考え込んでいると、シルヴィオが心配そうな視線を向けてくれる。
剥き終わった林檎を、フォークに差し手渡してくれた。
(ああ、天使すぎる……)
林檎の豊潤な香りとシルヴィオの優しい目が、心にじんわりと沁みる。
貰った林檎は、シャリシャリと噛めば噛むほど甘い味が増して、とても美味しい。
「いえ、ちょっといろいろありまして」
本当にいろいろとありすぎだ。
この先どうしようと考えを巡らせていると、突然ある妙案がひらめいた。
「あの、よければこれから少し散歩でもしませんか?」
「……私とですか?」
「はい、相談したいことがあるんです」