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中華後宮夜話 落ちこぼれ妃嬪は皇帝陛下のお気に入り 3

第三話

 

「夏蓮」
 呆然としていたら名前を呼ばれた。
「はい……って、ん、う……」
 返事をした瞬間に、顎に手を添えて顔を固定され、唇に唇が重なった。
 最初は触れるだけの小さな接吻。離れていった唇を目で追うと、二度目のくちづけが降ってきた。二度目のそれは、もう少し、深く、長い。
 するりと忍び込む舌が夏蓮の口中を探る。
 天禮の舌が、ねっとりと夏蓮の口のなかを弄ぶ。
 ゆるゆると舌でなぞられる口中に、意識をもっていかれる。
「……陛下」
 心細いような気持ちになって小さく呼びかける。返事が欲しかったわけではない。
 ただ、ふと不安になったのだ。
 自分が主導権を握る予定だったのに天禮に好きなようにされてしまっている。これでいいのだろうか。
「なに?」
 低い声で返事をされる。
「いえ……なんでもないです……ただ」
 なにが言いたかったのか自分でもわからなかった。
「ただ……? 私の愛撫を止めたかった? あなたは、ずいぶんと、かわいらしく、ぎこちない仕草で、私を焦らす。私のこれに……」
 と、天禮が夏蓮の指に触れる。ずっと天禮の龍を握ったままの、指である。
「手を添えたままだ。動かしてくれるつもりはないの?」
 天禮のくちづけに夢中になって、動きを止めていたことを非難されたのかと、夏蓮ははっと青ざめた。
「あ……申し訳ございません」
 慌ててぎゅっと握り込むと、天禮が「そんなに力を入れないで」と、あやすように告げ、夏蓮の目元に接吻を落とす。
「痛いですか? 本当に申し訳ございませんっ」
「大丈夫。あなたはそのまま、好きにしてくれていい。そうだよね。新床なのだから──無垢なふりをされるのも、そそる。その、はがゆい手つきが心地いいよ。お互いに、はじめてのふりをしようか」
 ふりではなく、実際に夏蓮は無垢なのだ。
「はい。あの……陛下は……もしかして、はじめてではないのでは?」
 手慣れた仕草で、手慣れた接吻で、手慣れた愛撫に思えた。
「どうしてそう思うの?」
「お上手ですので。いろいろと」
「誉めてもらえた。嬉しいよ。でも、ちょっと妬けるな。上手い、下手が、わかるくらいにあなたは巧みで──他の誰かと比べられているのかと不安に思う。私を妬かせた罰を受けて」
「罰。はいっ。なんなりと……申し訳こざいま……」
 きゅっと首をすくめて身を固くした夏蓮に、天禮がふわりと微笑んだ。
「今宵は、あなたをたくさん感じさせて、乱れさせよう。それが罰だよ。泣いて、私を欲しがりなさい」
「……え」
 間近で自分を見つめる天禮の漆黒の目の奥に、ちらちらと欲望の色がほの見えて──夏蓮の背筋がざわついた。
 この目つきには、馴染みがある。册封礼の儀式で貴族の男たちが夏蓮を見ていたのと同じ、雌を欲しがって、舌なめずりをしているような男の目。夏蓮の美貌と、女性らしい肉体は、たいていの男たちにとって褒美の対象のようなのである。
 いつもはうっとうしく感じられる、欲に満ちたまなざしも──天禮のものだと気にならない。むしろ欲しがられていることが嬉しい。
 見つめられることで胸がときめく。
「それが……罰ですか……?」
「そうだ。私の言うことを聞いてもらおうか。まず、私の背中に手をまわして、私を抱き返して? これは王命である」
 いかめしく言われ、従うしかなかった。
「はい……」
 夏蓮は天禮の龍にからめた指をはずし、その背中にまわす。
「あなたから、くちづけて」
「はい」
 天禮を抱きしめて、自分からくちづける。
 気づけば、深呼吸のことを忘れていた。でも優しく抱きしめているのに、すーはーすーはーしているのはあまりにも、あまりなので、これはこれでいいことにする。
 夏蓮が薄く唇を開くと、天禮の舌が忍び込んでくる。その舌に、舌をからめる。くちゅりと濡れた音を立て、接吻をかわしているうちに、全身が火照ってくる。
「さて……あなたの服を脱がせなくては。こういう衣装ははじめて見るから、うまく脱がせられるかわからないが……ああ、私にさせておくれ。初夜の妃嬪は、私に召し上げられた贈り物だ。あなたの身体のすべてを私は今宵、味わうつもりなのだから」
 と言いながら天禮は夏蓮をわずかに持ち上げ、上衣の背中の紐を指でたしかめた。
 夏蓮の衣装は、脱がせやすいように考えて作られている。背中で縛られた蝶々結びの紐を解けば、それだけではらりと布が捲れ、落ちてしまう。
 天禮は、慣れた手つきで夏蓮の豊かな胸をゆるく揉み、まろび出た乳房の頂にくちづける。
「やっぱり陛下は……お上手でいらっしゃる。さすが……陛下」
 なにか言わなくてはと必死になって、口から転がり落ちたのはそんな言葉だ。
 天禮はくすくすと小さく笑った。
「服を脱がせるだけで誉められた。あなたは誉めるのが上手だ。もっと誉めてもらいたいな。ここをいじったら、誉めてくれる?」
 天禮が、夏蓮の胸に、ちゅっと音を立てて吸いついた。
「……んっ」
 吐息が零れた。
 身体の奥がずくんと痺れる。胸をいじられると、身体の芯が疼く。奥から蜜が溢れだし、下腹がしっとりと濡れていくのがわかる。
「だ、だめです。陛下。それ以上はおやめください。あの……気持ちがよすぎて……閨房術に気がまわっていきませんので」
 気を練らなくてはならないのに、気功のことなど考えられない。
 夏蓮は涙目になって、なんとか訴えた。
 しかし天禮は夏蓮の制止を聞き入れない。愛撫されて敏感になり、尖って固くなった胸の粒を舌で舐めて転がし、つぶやく。
「部屋をあたためて、夜着を整えてもらった。それが閨房術の教えだとさっき言ったではないか。もう、ふたつも閨房の術を使いこなした。今宵はそれで充分なのではないか?」
「そんなわけには……って、や……」
 天禮は、話しながら、夏蓮の胸を揉みしだき、乳暈ごと乳首を吸って、舌先で固くなった粒を転がした。ぬるついた舌と唇の感触に、夏蓮の気持ちが、さらわれてしまう。
 試すように、音を立てて吸われると、身体が跳ねる。
 気持ちよさに流されて、抵抗ができない。
「胸を触られるのは、気持ちいい?」
 低い声が楽しげにそう聞いてきた。
「は……い」
 乳首がこんなに鋭敏だなんて、いままで、知らなかった。
 かろうじて自分で自分を慰める方法くらいは知っていたのだけれど。
 なんとなく胸を揉んでみて、その後にすぐに下腹に指をのばして、自身の花園を指でなぞるような自慰しかしたことがない。
 それでいいのだと思っていたのだ。
 ──でも、陛下に触れられると、すごく感じてしまう。
 絶妙な触り心地なのである。大きな手のひらで揉みしだかれると、肌がざわめいて、鋭敏になる。
「吸うと、固くなって、尖る。女性の乳首は、男の性器と同じだね。感じると、勃起する。勃起すると、よけいに鋭敏になる」
 天禮は夏蓮の身体に覆い被さり、片方の乳首をちゅっと吸う。
 もう片方の乳首は指の腹でくりくりと転がす。
 ふたつの胸を玩弄される快感に流されてしまわないように、夏蓮は、唇を噛みしめる。
 胸をいじられると、濡れてしまう。すべてが甘く、蕩けていく。
「気持ちがいいのは、良いことなのだろう? 閨房術は気のやり取りだから、女性が達することで、男性に良い気が流れ込むと聞いている。この解釈であっているのかな」
 天禮は事前に閨房術について学んでいたらしい。おおよそ合っている。
「そう……です。陰の気を持つ女性と、陽の気を持つ男性の和合が……って、あの」
 夏蓮は必死に理性をかき集め、天禮に閨房術についての説明をしようと試みる。
「ですが……私は、いま気功を使えておりません。敏感になってしまって……気をあやつるどころではなくて……。もう少し手加減をしていただきたく……陛下……お願いします……」
「これでも加減をしているのだよ」
「え……」
「本当ならもっとあなたの全身を楽しみたいのに、清らかで、ずいぶんといじらしい色の乳首を吸うだけで我慢している」
 綺麗な桜色だと、天禮がうっとりとささやいた。
「健康のための男女の和合は、女性は充分に潤い、興奮した状態になって、男性は接しても漏らさずにいるのがいいと聞いた気がする。これも合っているかな? 私がしているこれは、間違ってはいないね?」
 天禮は夏蓮の胸を唇や指で愛撫しながら、熱心に聞いてきた。
「はい……よくご存じでいらっしゃる……し……間違ってはおりません。ですが、陛下……男性はなかなかそう簡単に、接して漏らさずに至れないと……あぅっ。陛下……もう胸は……胸はおやめください。感じすぎてしまうので……」
 涙目になって夏蓮が訴えると、
「感じすぎてしまうのか。覚えておこう」
 と天禮は胸の愛撫をやめた。
 夏蓮はほっと息を吐く。これでどうにかなりそうだ。
 閨房術は「おばあちゃんの知恵袋」ではないのだ。身体をあたためて、夜着を整えて、ほっこりしてもらって終了ではないのである。
 ここから巻き返しだときりっとまなじりをつり上げた夏蓮を見下ろし、天禮はにこりと笑顔になった。
「跡がついてしまったね」
 つと指をのばし、夏蓮の胸に触れる。
「跡ですか」
 指摘された箇所を見ると、吸われて鬱血した跡が、白い乳房に散っていた。
「あなたの肌は白くて、どこをとっても柔らかいから、私のしるしを残したくなる」
 花びらのようにぽっと赤く染まった小さなしるしに、夏蓮の頬がかっと火照る。こんなにたくさんくちづけられたのだと実感したから。
「胸以外ならくちづけてもいいのかな。たとえば……ここは?」
 天禮はゆっくりと身体をずらし、夏蓮の脇腹を舌でなぞった。
「あっ」
 吐息が零れた。
 胸だけが鋭敏なのだと思っていた。でも、違った。
 くちづけられて、唇でついばまれると、どこであっても、感じてしまうようだった。
 天禮は、痛くない程度に柔らかく肌を噛んでから、唇を離し、舌でなぞる。一度、甘噛みをすることで、次の刺激に身体が身構える。もっと強い刺激がくるのではと身体をすくませたところで、甘やかすように優しく舌で舐められ、ひくひくと全身が震えた。
「ここも感じるみたいだ。あなたはどこを触れられても、反応する。それが欧楊家の秘宝ということなのか。ずいぶんと淫らな身体だ」
「淫ら……って……」
 そんなふうに思ったことはなかった。
 でも、自分は淫らなのかもしれない。こんなにたやすく、声をあげてしまうんだから。
 恥ずかしいけれど──なぜか、ほっとした。閨房術らしいことはまだなにひとつできていないが、敏感な身体のおかげで、天禮にそれを悟られていない。
 感じやすいことはこの場合、取り柄である。演技をしなくても、天禮の愛撫に陶酔し、甘いあえぎを漏らすことができる。
「胸だけで、泣いてしまったね。かわいい人だ」
 ささやかれて、夏蓮は羞恥で唇を噛みしめた。
「もっとたくさん跡をつけさせて」
 天禮が夏蓮の身体のあちこちに、くちづけていく。
 へそのまわりに舌を這わせながら、天禮の手は、腹を辿って、夏蓮の股間をくぐって、奥に触れる。布越しにきわどい箇所をするすると指でくすぐられ、夏蓮の腰がぶるりと震えた。
 指で前後に擦られて、身体の奥が甘く疼く。すでに潤ったそこから、蜜が零れる。切ない懊悩が身体の奥を支配し、夏蓮は我知らず太ももを強く閉じてしまった。
「そんなふうに……急いではなりません。閨房術において大切なのは……女の陰の気と男の陽の気を、規律にのっとって調和させる……こと。楽しむだけがすべてではなく節度を保ち……溺れてしまえば病が生じ……んっ」
 夏蓮が説明をしているというのに、天禮は聞いてくれない。
「私はまだ溺れては、いない。でも、あなたはどうだろう」
「私は……っ」
「そんなふうに足を閉じてしまうと、よけいに私の指の感触に気持ちをもっていかれるんじゃあないのかな? 私は、あなたの身体を、ゆっくりと楽しんでいる。あなたも、もっと、楽しんで?」
「それは……うっ、ふぅ」
 閉じた足のあいだに挟まれた天禮の指が前後に動く。ゆるゆると擦られると、たまらない官能が内側で弾ける。
「布の色が変わるくらい、濡れてる。このままだと、あなたが、つらそうだ。感じやすいところをたくさん愛して、いかせてあげよう」
「いか……せて……って」
 意識をもっていかれて、ぼんやりと聞き返した。
 天禮の指は夏蓮の裙の腰の紐を解きはじめる。
 上衣と同じで、裙もまた、頼りない紐で結ばれて固定されているため、蝶々結びを解くと簡単に脱げ落ちる仕様になっている。おまけに、今宵の夏蓮は、下穿きをつけていない。
 天禮は、寝台の上で膝立ちになり、夏蓮の裙をするりと脱がせた。
 一気に足を引き抜いて、片方の足首を手で掴む。
 一糸まとわぬ姿で、足を大きく広げさせられ、羞恥で全身がかっと火照る。
 天禮も羽織っていた夜着を脱ぎ、そのまま夏蓮の下腹に顔を埋めた。
 敏感な箇所にくちづけ、かぶっていた皮を捲って鋭敏な緋珠を唇ではさむ。ちろちろとねぶられ、感覚のすべてが官能にとらわれる。
「……はっ……あっ」
 小さな吐息が零れ、心地よさに、身体が震えた。
 こらえがたい快感が、身体の芯をじゅくじゅくと蕩かしていく。
 このままでは快感に流されてしまう。それが怖く、夏蓮はきゅっと身体をすくめて理性をかき集めようとした。
 でも、そうすることで、夏蓮に口淫する天禮の頭を太ももで挟み込むことになってしまった。
 より強い刺激がもたらされ、夏蓮は小さな悲鳴をあげる。
「もっと……ゆっくり時間をかけて……しなくてはなりませ……ん」
 となんとかして訴えると、
「私は、ゆっくり時間をかけているよ。急いでいるのは、あなただ」
 くぐもった声が返ってきた。
 天禮の舌が、夏蓮の反応を試すように、夏蓮の会陰をなぞる。快感でぷくりと膨らんだ陰核を、くりくりと舌で転がされ、腰が浮いた。感じたことのない快楽の波が自分をさらっていきそうで、夏蓮は唇を噛みしめる。
「……んっ、ふぅ」
 夏蓮の下腹がひくひくとうねった。天禮は、夏蓮の反応を見定め、緋珠を執拗に唇であやしはじめる。
 咄嗟に逃げようとした夏蓮の身体を、天禮の手が押さえつける。太ももに手をあてて、足を大きく広げさせて、ささやく。
「女性はたくさん濡れるといいのだろう? もうこれでいい? それとも、もっと?」
「……もう……充分……です。……あ、あ……」
 夏蓮は天禮の髪に指をからめる。下腹に顔を埋める天禮に顔を向けると、天禮は、夏蓮にわざと見せつけるように舌をのばし、陰核にくちづける。自分の股間にくちづけ、奉仕する天禮の姿を目の当たりにして、夏蓮の身体がおののいた。
「そこ……舐めちゃ、だめです……」
 溢れだした淫水と唾液が混じり、くちゅりといやらしい音がする。
「どうして? こんなに気持ちよさそうなのに」
 ぴちゃぴちゃと舌を使い、蜜を舐めとる動きに合わせ、夏蓮の腰が上下に揺れた。頭では、あらがおうとしているのに、身体が思う通りに動かない。むしろ天禮の唇に下腹を押しつけるように、腰が浮いてしまう。
「……んっ。だめです。いっ……」
 いく──という言葉も、そんなこともあるのだということも知識として知っていた。
 でも実際に感じるのは、はじめてだった。自分で自分を試しに宥めてみたときにも、こんなふうに高いところに引き上げられる悦楽に至ることはできなかった。
 なのに──天禮の愛撫は、夏蓮をあっけないくらいたやすく快楽に導いた。
 身体の奥の深いところを、甘美な懊悩が満たしていく。
 太ももがひくひくと痙攣し、天禮の頭を挟み込むように締めつける。もっとして欲しいとしか思えない。この先にある快感だけが欲しくて、夢中になった。ねだるように、いやらしく腰を振り、甘いあえぎを零す。
「陛下……か……や……そこ……気持ち、いい」
 緋珠を擦られ、舐められる快感に目覚め、腰を振る。
「ここが……? じゃあ、こっちはどうかな」
「こっちって……?」
 ぼんやりと聞き返すと、天禮が、蜜と唾液でぐっしょりと濡れた蜜壺に、指を差し入れた。膜を破られたことのないそこは狭く、指であっても、少し怖い。
「あ……」
 声が零れた。
 自然と身体がすくんだ。
 が、溢れる蜜と天禮の唾液のおかげで、指は、抵抗なくするりと蜜壺に入っていく。
「痛い?」
「いえ……だいじょう……ぶです」
 ふぅと息を吐くと、天禮が、なかに指を差し入れたまま身体をずらした。片手で陰部を探り、もう片方の手で乳房を掴んで、揉む。
「……あ……はぁ……や」
 誰にも触れられたことのない身体の内側を、天禮の指で探っている。なかをくるりとなぞって、押し上げるように撫でまわす。
 そうしながらもう片方の手が、夏蓮の胸を揉みしだく。捏ねるように撫で、ぷつんと膨らんだ乳首を手のひらで押しつぶす。
 内奥で蠢く指の感触は、これまでに感じたことのない異物だ。でも不快ではない。
 天禮は指を夏蓮のなかにすっぽりと入れた状態で、手のひらを夏蓮の陰核に押しあてる。
 蜜壺の内壁を指の腹で擦る動きは、そのまま、快感で膨れた陰核も手のひらで刺激する動きと連動している。
 身体の、感じやすい部分をぐいぐいと擦られると、夏蓮の内側から、甘美な蜜がじゅくじゅくと零れだす。
「……っ、ふぅ」
 はねのけたいのに、はねのけられない。
 夏蓮は、天禮の手の形に添って、いつのまにか自分から腰を動かしていた。はしたないと思うのにやめられなかった。
 胸をいじられながらも緋珠を擦られ、内側もくりくりと撫でられている。感じやすい箇所を、外も内も乱され、夏蓮は惑乱し、身悶えた。
 快感が夏蓮の思考を奪っていく。もっとちゃんとしなくてはと思う。でも、なにをちゃんとすべきかがももうわからない。
 ──気持ち……いい。
 快感だけを追いかける獣みたいになった。
「へい……か……ッ!!」
 ふわっと身体が浮き上がるような感覚がした。
 胸に吸いついてくる天禮の頭を、かき抱く。
 肌に汗が滲みだす。全身が熱くて、呼吸が荒くなる。夏蓮の感じる場所をいじめる天禮の息も弾んでいる。
 どうしようと、頭のすみでぼんやりと思う。
 ──気を、整えて……陛下に。閨房術を究めた者として、陛下に、私の精気を渡さなくては。
 でも、全身が戦慄いて、気を練り上げることなどできないでいる。
「ん……ふぅ」
 切ないような、なんともいえない感覚に支配される。
 これが──いく、という感覚なのだ。
 いまだ知らない経験だったけれど、身体が悟った。
 快感に崖っぷちまで追い込まれ、すとんとそのまま放りだされる。
「……陛下ぁ……あ」
 刹那、びくんと全身が痙攣した。
 はじめてなのに、天禮の指で、自分が達してしまったことが、わかった。
 内側がぎゅっと窄まった。内襞が締まって、天禮の指にからみつく。達した身体は、自分ではもう制御できない。本能のままに、内側が、雄の精液を搾りとるかのようにひくりと蠢いている。
 甘く蕩ける快感にとらわれて、夏蓮は荒く、息を吐く。
 ──気を巡らせるなんて、無理。なにもかも、無理。
 だから達してすぐに、夏蓮は、泣きだしてしまった。
 ほろりと零れた涙は、官能のためだけではなく──自分が情けなさすぎたから。
「ああ……ちゃんと泣かせることができた。いかせることもできたようだね。でも──私を欲しがらせるのには至らなかった」
 天禮は満足そうにそう言って、夏蓮のなかから指を抜く。
「ふ……」
 途端、引きだされた指を追うように腰が揺れた。あさましく天禮を欲しがる身体に、夏蓮は慌てる。指だけでこんなに気持ちがいいのに、天禮の龍でなかを突かれたらどうなってしまうのだろう。組み敷かれて、楔を打たれることを思うと、身体がぞくぞくと震えてしまう。

 

 

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