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婚活するならオレにして! 騎士姫は乙女な団長にぐいぐい迫られています 3

第三話

 

「……話があるの」
「姫様……」
 私を見たジークは驚いていたが、すぐに話の内容を察したのか「場所を変えましょう」と提案してきた。
 人の目があるところでする話ではないので、近くの空き部屋へ入る。
 扉を少し開けているから、誰かくればすぐに分かるだろう。
「姫様が訪ねてこられたのは、見合いの件、ですよね」
 部屋に入った途端、ジークが話を切り出してきた。
「ええ。その……自惚れるつもりはないのだけれど、断られるとは思っていなかったから」
 正直に告げる。
 あの日、私たちは楽しく過ごしたはずだ。ふたりとも、次へ進むことを望んでいたと思っている。
「そうですね」
 ジークも私の言葉を否定しなかった。その時のことを思い出すような顔をする。
「あの時、確かに僕は姫様との将来を考えました。でも……」
「でもって何? もしかして私、何かしてしまったのかしら」
「……」
 ジークは苦笑し、黙っている。理由の分からない焦燥感に駆られた私は彼に訴えた。
「その、そのね。きちんと理由を教えてほしいの。『幸せにできない』なんてふんわりとした理由では納得できない。もし私の態度の何かが気に障ったのなら言ってほしいわ。でなければ私も次へ進めないから」
 私を傷つけまいとわざと言葉を濁しているのなら、構わないから言ってほしい。
 そう強く告げると、ジークは「参ったな」と頭を掻いた。
「姫様には何も問題ありませんよ。これは僕の問題で」
「問題ないのなら、どうして断ったのよ」
「……」
「断ったことを怒っているわけじゃないわ。この話は終わったものだと分かってる。ただ、本当の理由が知りたいだけ」
 別にジークに拘っているわけではない。だって「いい人そうだな。彼となら上手くやれるかな」程度の気持ちだったのだ。
 ただ、断った理由が知りたい。それだけだった。
 じっとジークを見つめる。私が引かないと分かったのだろう。彼は溜息を吐いた。
「分かりました。お話しします。実はあの見合いのあと、ヴァニス近衛騎士団長が訪ねてこられたんですよ」
「え……?」
 クルトの名前が出るとは思わず、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてしまった。
 ジークが笑う。
「僕とは全く付き合いのない騎士団長様が何用だろうと思ったんですが、言われてしまいまして」
「言われたって……何を?」
「オレは五カ国語話せる、だそうです」
「……」
 反射的にドヤ顔のクルトが思い浮かび、無言になる。
「なんの話だって思いますよね。僕も思いました。そんな僕にヴァニス団長は言うわけです。『オレですら認めていただけないのに、その程度で姫様を娶ろうとは片腹痛い』って」
 顔が引き攣った。
 何を言っているのか、あの男は。
「更には『オレは公爵家の人間で、姫様に何不自由のない暮らしを提供できる』だそうで。もう呆気にとられてしまいましてね。ヴァニス団長といえば、穏やかで人当たりの良い人物として知られた方だったはずなのですが、まさかその御仁から全力マウントを取られるとは思いもよらず」
「なんというか……ごめんなさい」
 私が悪いわけではないが、つい謝ってしまった。
「ヴァニス団長が、迷惑を掛けたわ」
「姫様が謝る必要はありませんよ。ただ、団長と直接話して思ったんです。僕はここまでなりふり構わず動くことはできないだろうなって」
「あ……」
 ジークがなんとも複雑そうな顔で私を見ていた。
「姫様のことは好ましく思います。ですが、わざわざ恋敵にマウントを取りにいってまで諦めさせようなんてこと、僕はしようと思わないんですよ」
「それ、普通だわ。悔しがる必要はないと思う」
 どう考えたって、マウントを取りにいったクルトがおかしいのだ。
 額に手を当て呻く私に、ジークが言う。
「だから、僕では無理だなと思ったんです。僕はヴァニス団長ほど姫様のことを想えない。そしてそのことに気づいてしまえば、お断りするしかありませんでした。姫様、ヴァニス団長とお幸せに。きっと彼となら姫様は幸せになれますよ」
 ふわりと笑いながら最後の台詞を言い、ジークが部屋を出て行く。それを私は呆然と見送った。
「……嘘でしょ」
 私の破談は、まさかのクルトのせいだった。
 ジークの話によれば、彼が私を諦めたのはクルトが大人げなく全力マウントを取った結果だ。
 自分は彼ほど私に対し必死になれない。そう思い、縁談を断ることにしたと、彼は言っていた。
「あの男……」
 抑えきれない怒りが込み上げてきた。
 そもそも私はクルトとなんの約束もしていない。
 彼が私を好きなことは知っているが、それに対しては、きっちり断りを告げているのだ。
 つまり私が誰と結婚しようが、クルトには関係ない。
 邪魔をする権利なんてないのだ。
 それなのに彼は、私の見合いを邪魔した。断じて許されることではない。
「……」
 考えれば考えるほど怒りが深くなっていく。
 どうしたって直接文句を言ってやらなければ気が済まなかった。
「ヴァニス団長!!」
 王城の東、近衛騎士団の練習場に乗り込み、悪魔の如き形相でクルトを呼ぶ。
 私が怒り心頭なことは一目瞭然だろうに、彼は団員たちを押し退け、笑顔で現れた。
 練習中だったのか、薄いシャツ一枚という姿だ。薄らと逞しい筋肉が透けている。
「姫様! 姫様がオレを訪ねてくださるなんて! えっ、もしかしてデートのお誘いですか? あ、あの、オレはいつでも暇です! 誘っていただけるのなら今すぐにでも──」
「そんなわけないわよね!? というか、私の見合いの邪魔をするなんて何を考えているのよ! せっかく上手く行きそうだったのに、あなたが余計な真似をするから……」
 誰がデートなどするかという気持ちで叫ぶ。
 私の訪問理由を理解したクルトは、途端、残念そうな顔になった。
「なんだ。デートのお誘いではなかったのですか」
「何をどうしたらそんな結論を得られるのか、一度あなたの頭の中を覗いてみたいわね。それより答えてくれる? どうして私の見合いの邪魔をしたの」
 答えによっては許さないとクルトを睨む。
 彼は不思議そうに首を傾げた。
「え、分かりませんか?」
「分かるわけないじゃない」
「オレの方が遙かに優秀なのに、姫様と結婚できるとかあり得ないと思ったからですけど」
「はあ?」
 何を言っているのか、この男は。
 怪訝な顔でクルトを見る。彼は真顔で言ってのけた。
「姫様と結婚したいなら、最低でもオレ以上の男でないと納得できません。だってオレは姫様にずっと振られ続けているんですよ? それなのにポッと出の大したことのない男が婚約者面をする? そんなの耐えられるはずがない」
「……うわっ」
 身勝手すぎて、ドン引きである。
 だが、周囲にいた話を漏れ聞いていた団員たちは「さすが団長」「分かる」とか言っている。
 何が分かるのか。私には何も分からない。
「姫様と結婚したいのなら、まずはこのオレを倒してもらわないと」
 周囲の応援を受けて強気になったのか、何故か妙にキリッとした顔で言っている。
 クルトは私の手を取ると、目を潤ませながら口を開いた。
「姫様、オレを選んでください」
「……」
「あんな男を選ばないでください。誰よりも姫様を愛しているのはオレです」
 真剣な顔と声で口説いてくるが、全く心に響かない。
 正直、腹立たしいだけだ。
「お生憎様。あなたとどうにかなる気はないわ」
「オレは姫様でないと嫌です」
「振られたのだから潔く諦めなさい。あと、二度と私の見合いを邪魔しないでよね」
 これだけは言っておかなければと強めに釘を刺す。
 クルトは驚いたように目を見張った。
「まだ見合いをするつもりですか」
「当たり前でしょう。お兄様も私が結婚することを望んでいるのだから」
「だから、それならオレが」
「あなたは嫌だと言っているの。とにかくそういうことだから」
 クルトといくら話しても平行線。
 互いに納得できる回答は得られないと察した私は、これ以上の会話を諦めた。
 腹立たしい気持ちはあるが、望んだ答えが返ってこないのなら時間の無駄。
「邪魔したわね」
 くるりと踵を返す。クルトが焦った声で呼び止めてきた。
「姫様」
「何よ」
 一応足を止める。振り返ると、クルトが真剣な顔で言った。
「……それで、デートのお誘いは?」
「するわけないでしょ! 人の話を聞きなさいっ!!」
 立ち止まるのではなかった。
 私は新たな怒りを噛みしめながら、騎士団の練習場を後にした。

◇◇◇

 話し合いの無駄を悟った私は、クルトのことは無視しようと決めた。
 気にしたところで、私の怒りが深まるだけ。
 だからもう、兄の用意してくれる見合いのみに集中しようと心に誓ったのだけれど、そう上手くはいかなかった。
 何せ、クルトの妨害は、あの一度だけでは終わらなかったから。
 彼はなんと私の見合い相手全員に対し、見事に邪魔をしてくれたのだ。
 将来有望な経済学者が相手の時は、その学者と熱く討論を交わし、最終的に勝ってみせる。
 天文学に詳しい青年の時なんかは、何故か意気投合して友人になっていた。
 王家お抱えの医師、その息子が相手になった時は、入手しづらい薬草をチラつかせ、自ら身を退くよう交渉する始末。
 とにかく手段を問わず妨害するのがたちが悪い。
 腹立たしい以外の言葉はないし、騎士団長のくせに、その他の能力も無駄に高いのが非常に面倒極まりない。
 学者相手に討論で勝つってどういうことだ。
「勝ちましたけど?」とドヤ顔でこちらを見てきたクルトを思い出すたび、殺意が芽生える。
 あまりにも邪魔をされた結果、さすがにクルトを無視できなくなった私は、再度騎士団の練習場を訪れた。
 他の団員たちがいることも気にせず、大声で言う。
「もういい加減にして!」
 怒りを孕んだ声を聞き、クルト以外の全員が無言で練習場を離れていく。
 面白がって聞いていては自分に被弾するとでも思ったのだろう。
 別にどう思われようと構わないが、好んで人に聞かれたい話でもないので、誰もいなくなってくれて内心ホッとした。
 足取りも軽くこちらにやってきたクルトを思いきり睨みつける。
「ヴァニス団長!」
 私に呼ばれたクルトが、普段と変わらない態度で口を開く。
「はい。あの、姫様がおっしゃりたいのは、見合いの話ですか?」
「そうよ、それしかないでしょ。あなたが優秀なのはよく分かったから、私の邪魔をしないでよ!」
 このままでは見合い相手がいなくなってしまう。
 それは困ると告げれば、クルトはものすごく不満そうな顔をした。
「そういうわけにはいきません。だって邪魔をしなければ、姫様が結婚してしまうではないですか。……姫様、姫様こそいい加減諦めてはくれませんか。もういいでしょう? 結婚するというのならオレでいいじゃないですか。自分で言うのもなんですが、かなりの優良物件だという自負はあります」
 クルトが己の胸に手を当て、自信ありげに告げる。
 私は大袈裟に溜息を吐いて彼に言った。
「本当に自分で言うことじゃないわね。でも駄目よ。私は騎士と結婚したくないのだから」
「騎士と? 文官がいいということですか。それは差別ではありませんか」
「差別? ちが……ええもう、それでいいわよ」
 説明するのも面倒だ。ヒラヒラと手を振る。
「言ってるでしょ。そもそも騎士なら、私より弱い男はお断りなのよ。どうしてもというのなら、まずは私に勝つこと。それができないのに文句を言われる筋合いはないわね」
「……うぐ。では、勝負を申し込みます」
 悔しげにクルトが呻く。そんな彼に私は聞いた。
「今までに何度も勝負して、負けているのに?」
「次は負けません!!」
 大音声で告げるクルトを見つめる。
 何度も言うが、クルトのことは嫌いではない。
 鬱陶しいし、いい加減にしろと思っているのは確かだが、真っ直ぐな気性は好感が持てるからだ。
 求婚は正直勘弁してほしいけど、ひとりの人間としては決して憎く思っているわけではない。
 ──まあ、人の見合いを邪魔するのは本当にどうにかしてほしいけど。
 これまでされた数々の妨害を思い出し、溜息を吐く。
 とはいえ、彼とどうにかなる気は微塵もない。
 だから私はクルトに告げた。
「いいわ、かかっていらっしゃい。でも、私は甘くないから。わざとなんて負けてはあげないからね」

◇◇◇

「勝者、エルザ姫」
 いつもどおり勝負に勝った。
 目の前には地面に両手をつき、どうにか呼吸を整えようとしているクルトがいる。
 観客として騎士団員たちがいたが、彼らは「やっぱり負けたか」みたいな顔をしていた。
 頻繁に勝負しているからか、彼らにとってこの光景は最早珍しいものではなくなっているようだ。
「はい、今日も私の勝ち」
 剣を鞘に収め、クルトに告げる。
 彼は悔しげに顔を歪めながら、どっかりと地面の上で胡座をかいた。
 挑むように言う。
「諦めませんからね」
「あのね」
「言ったはずです。絶対にオレは諦めないと。勝つまで何度だって挑戦し続ける。姫様にはオレと結婚する道しかないんです」
「さりげなく怖いことを言わないでよ……」
 人の選択肢を潰していくような物言いはやめてほしい。
 しかし、本当にクルトはしつこい。
 何度言っても見合いの邪魔をするし、勝負だって毎日挑んでくる。
 負けるたびに「諦めない」と唇を噛みしめる彼を見ていると、次第にいつかクルトに絆される日が来るのでは……なんて……いや、そんなことはないか。
 とにかくしつこいクルトと戦いながら見合いをこなす日々は続き、ひと月ほどが経った頃、私は兄に呼び出された。

 

 

 

「お前の見合い相手がいなくなった」
 執務室に入る。開口一番、兄にそう言われた。
 思わず聞き返す。
「え? 今なんと?」
「お前と見合いをする相手がいなくなったと言ったのだ」
「ど、どうして……」
 真顔で告げる兄を見つめる。書類仕事をしていた兄は、重苦しく息を吐き出した。
「決まっているだろう。これまでに何人から断りを告げられたと思っているのだ。お前の相手となるにはそれなりの爵位や将来性も必要。そんな人物がそうゴロゴロ転がっていると思うのか?」
「それは……思いませんけど」
 正論を言われ、ぐうの音も出ない。
 確かに私はこれまで見合いをしてきた全員からお断りを告げられた。でもそれは決して私のせいではないはずだ。
「そもそもヴァニス団長が邪魔をしなければいい話なのでは? 私の見合いが失敗したのは百%彼のせいだと断言できますけど」
「その話は聞いているが、事実としてもうお前に相応しいと思える見合い相手がいない。……エルザ。クルトでは本当に駄目なのか? 前にも言ったが、彼は信頼の置けるいい男だと思う。お前を託すに不足のない人物だ。私としてはお前が彼と結婚してくれれば丸く収まると思っているのだが」
 いい加減、考えるのが億劫になってきたと兄の顔には書いてあった。
 もちろん私の身を案じてくれているのも本当だろうが、半分くらいは「もう考えたくない」と思っていそうだ。
「……私、騎士は嫌です」
 我が儘を言っている自覚はあったが、どうしてもそこは譲れなかった。
 だって私が今の立場になるまで、かなり色々あったのだ。
 女性だからという理由で軽んじられたり、男性より力の劣ることを馬鹿にされたり、私の部下の女性たちをゲスな目で見られたりと、本当に様々な苦労があった。
 もちろん全部見返してきたけれど、騎士に対して抱いた苦手意識は今もなお残っており、相手が騎士だと思うだけで拒絶感が強く出てしまう。
 それはクルトに対してもそう。
 彼に対し少々当たりが強くなるのは、クルトが騎士だからに他ならなかった。
「ヴァニス団長が悪い人でないことは分かっています。でも、私……」
 ふるふると首を横に振る。
 兄の顔をまともに見ることができず、俯いた。
 兄が小さく息を吐き出す。
「……分かった。もう少し探してみよう」
「……ありがとうございます」
 頭を下げる。
 迷惑を掛けていると分かっているだけに、自分がひどく情けなかった。

◇◇◇

「はあ……」
 一日の仕事が終わった。夜番の隊員がやってきたので、昼番だった隊員と交代させる。
 私の率いる親衛隊は全員女性だが、皆、男性にも負けないくらい強い。
 私と同じように少なからず男性に嫌な思いをさせられた子も多く、同じ思いを抱えた者同士、なんとか見返してやりたいと奮起するのだろう。他の騎士団より結束力が強かった。
 その隊員のひとりが「あの」と私に声を掛けてきた。
「隊長、少し良いですか?」
「ええ、良いわ。何かしら」
 話し掛けてきたのは、今年十八歳になる伯爵家の令嬢だった。
 彼女は私と同じで小さい頃から剣技をこよなく愛し、周囲の反対を振り切って親衛隊に入隊した人物だ。なかなか筋が良く、私もかなり可愛がっていた。
 名前はローズ・エルマート。赤い巻き毛が特徴で、顔に少しそばかすがある。
「どうしたの、ローズ」
「あの、あのですね」
 珍しくも、もじもじと恥ずかしげにしている。不思議に思いつつも話を促すと、なんと近衛騎士団が行う飲み会に誘われたということだった。
「飲み会?」
「は、はい。近衛騎士団員が全員参加する飲み会です。そこに私の婚約者もいて……彼から言われたんです。よかったら親衛隊の面々も参加できないかって」
 様子を窺うようにローズが私を見つめてくる。
 少し考えた。
 ローズの婚約者が近衛騎士団の団員であることは知っている。
 彼女と婚約者は仲が良く、結婚を楽しみにしているとも聞いていた。
 その婚約者からのお願い。
 ローズも無下にはできなかったのだろう。
「その……皆が参加してくれるのなら私も彼と一緒にいられるし……」
 私があまり良い顔をしないと思っているのか、彼女は一生懸命参加してもらえるよう訴えてきた。
「隊長が来てくれれば、皆、参加しやすいと思うんです。……駄目、ですか?」
 ここぞとばかりに上目遣いで頼んできたローズに苦笑する。
 私は基本、隊員に弱いのだ。
 王女としてではなく、隊長と慕い、ついてきてくれる彼女たちを私はとても可愛がっている。勝てるはずがなかった。
「……良いけど、無理強いはしたくないから、参加希望者だけね。それならいいわよ」
「……隊長は?」
 おずおずと聞いてくる。そんな彼女に仕方ないと笑いかけた。
「大事な隊員に何かあっては困るもの。気は進まないけど参加するわ」
「っ! ありがとうございます!」
 どこかホッとしたように胸を撫で下ろすローズ。
 そんなに婚約者との飲み会に参加したかったのかと思いながらも、他の隊員たちにも出欠の可否を聞いた。
「行きたくない子は行かなくても大丈夫よ。酒癖の悪い男もいると思うから、本当に無理はしないで」
 上司が参加するのならと無理に出席を選ぶ子もいるかもしれないと思い、一応念を押しておく。
 結果、隊員の半数ほどが「隊長が参加されるのなら」と出席の返事をしてきた。
 男性がそれほど得意ではなくとも、お酒が好きな子は多い。
 最近、飲み会もあまりしていなかったから、久しぶりの酒の席を楽しみにしている様子だった。
 飲み会は近衛騎士団の騎士団寮内で行われるらしい。
 参加者を引き連れて寮を訪れるとローズの婚約者が出てきて、宴会場へと案内してくれた。
 私もだが、皆、パンツスタイルだ。貴族同士の優雅な夜会とは違うので、わざわざドレスに着替えようとは思わなかった。
 ぴったりとしたパンツに、ブーツ。長袖シャツにベスト。男性のようにクラヴァットを巻いている。当然、帯剣しているが、勤務中はこの上に更に鎧を着けている。
 宴会場となっていたのは、近衛騎士団寮内にある談話室。
 団員全員が集まってもまだ余裕のある広い部屋で、すでに飲み会は始まっているようだった。
 何十人もの面々が、酒を飲み、陽気に騒いでいる。
 椅子やソファに座っている者もいれば、地べたに座り込んで酒を瓶から直接呷っている者もいた。
 つまみと思われる食べ物や酒の匂いが漂っていて、早くもかなりの無法地帯と化している。
 酒の席だ。何があるか分からない。隊員たちに絶対にひとりにはならないよう言い含めてから、自由にさせた。
 まあ、何かあったところで、私が止めるのだけれど。
 私は酒に強いのだ。その強さはざるを超え、枠だと称されるほど。
 いくら飲んでも酔わないし、次の日に響くなんてこともない。
 酔った男のひとりやふたり、簡単に片付けてやると意気込んでいた。
「あっ! 姫様!」
 隊員たちの姿が見える場所にいようと考えていると、聞き覚えのありすぎる声が聞こえてきた。

 

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