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けものの花嫁 狼王子は番の乙女を愛し尽くしたい 上 2

第二話

 

「タロンでは婚礼の儀式が終わるまで名乗らないのが古よりの決まりなのだよ」
 レヴァンが言った。
「そういった次第につき、挨拶が遅れたことをお詫び申し上げる。当然のことながら、我らには花嫁の尊厳を踏みにじるつもりなどさらさらないことを申し添えておこう」
 腹と腰に手を当て、腰を屈めて頭を下げるその姿は、やはり、とても美しかった。
 たとえば、文化の中心オルノーブルの社交界でもお手本とされるくらいに。
「……それなら、そうと最初からおっしゃってくださればよかったのに! 知っていたらあんなことは申し上げませんでした!」
 悔しさが言葉となって唇からほとばしる。
 これでは、自分のほうが礼儀知らずの野蛮人みたいではないか。
「わたしだって! ……わたしだって、別に、あなた方の古よりの決まりを踏みにじりたかったわけではありません……」
「もちろん」
 レヴァンが笑ってマリオンの手を取る。
「もちろん、わかっているとも」
 その仕草も、いやになるくらい洗練されている。
「だが、花嫁の求めには応えずにはいられない。その本能の前では、決まりなんてどうでもよくなってしまうんだ。覚えておいておくれ。我々はそういう生き物なのだよ」
 美しい笑顔が告げたその言葉の意味を、マリオンは半分も理解することはできなかった。
 だいたい、決まりとは守るためにあるはず。守らないでいい決まりなんて、それは既に決まりとは言えないと思う。
 やっぱり、獣の国の野蛮人の考えることはわからない。わからないことがわかった。ただ、それだけだ。
「では、よろしいかな?」
 レヴァンの指先がそっとマリオンの胸元のリボンに触れた。
 首の後ろでは、ノアがマリオンがしていた首飾りの金具を器用な手つきで外している。
「何をするの!? やめて!!」
 驚いて身をすくめると、耳元でレヴァンがささやく。
「儀式の前の禊(みそぎ)を」
 視線で示された先には泉があった。
 屋内だというのに、清らかな水がこんこんと湧き出している。
「あちらで身を清めていただきたい」
「……それも『決まり』なの?」
「そういうことだ」
 そう言って、レヴァンはマリオンの服をはぎ取ろうとした。
 しかし、マリオンはその手からすばやく逃れ震える声で宣言する。
「やめて」
「しかし……」
「自分で脱ぎます」
 ノアが笑う。
「やっぱり、気丈なお姫さまだな」
 かまわず、マリオンは自身の手で胸元のリボンをほどき始める。
 今日初めて会ったばかりの男たちの前で肌を露にすることは、とてつもない屈辱だった。
 ほんとうは、いやでいやでたまらない。
 それでも、脱がされるよりは自分で脱いだほうがまだましだと思った。
 少なくとも、身体には触れられずに済む。
 だが、マリオンはすぐに暗い気持ちでその思いを打ち消した。
 たとえ、今は触れられなかったとしても、禊が終わったあとはそうはいくまい。
 こんなこと、時間稼ぎにさえならないのだ。
 自分の運命はもう決まっている。
 上着の次は、もたつく指でコルセットの紐をほどく。
 何せ侍女のいない旅である。旅装はひとりでも脱ぎ着ができるものばかりが選ばれていた。
 分厚いペチコートを脱ぎ、ヴェルチュガダンの紐を外せば、もう、全裸だった。
 男たちの遠慮のない視線を感じる。
 自分が彼らの獲物であることを否応なく思い知らされるまなざし。
 あたりが薄暗いことだけが唯一の救いだ。
 マリオンは両手で自身を抱き締めながら泉に足をつける。
 泉は深く水は肌を切るほどに冷たい。歯を鳴らしながら身を浸すと、周囲で三人の王子たちもマリオンと同じように泉で身を清めている。
 手足から熱が奪われていく。
 と同時に、心も冷たくなる。
 やがて、脳の芯まで冷たさが伝わって意識が曖昧になっていくのが自分でもわかった。
(このまま何もわからなくなったら、どんなにかいいだろう……)
 誘惑が忍び寄ってくる。
(いっそ、死んでしまえたら……)
 ぷつり、とどこかで音が聞こえたような気がした。
 極限まで、高まり、張り詰めた緊張が切れる音。
 悲鳴が溢れる。
 こらえることなんてできない。
 本能が叫んでいる。
 いやよ! いやよ! いやよ!
 こんなの、死んだほうがましよ!!!!!
 意識が真っ黒に塗りつぶされていく。
 泉の中に身体が沈む。
 これで楽になれると考えたのも束の間、すぐに両側から腕を掴まれて泉から引き上げられた。
「かわいそうに。すっかり冷え切って」
 誰かが言っている。
「すぐにあたためてあげるよ」
 別の声が聞こえた。
 恐怖はまだ去っていない。
 それどころか、新たな恐怖がやってきて、今度は悲鳴も上げられないほどにマリオンを縛り上げている。
 唇はぴくりとも動かず、頬は今宵の月よりも青ざめていた。ほんとうであれば溌剌として明るく輝いているはずの瞳は、開いてはいるものの、あたりの光景を少しも映していない。
 知らない人が見たらよくできた人形だと思っただろう。
 その生命をかろうじて伝えているのは、かすかに上下している胸ばかり。
 力のない腕をだらんと落としたまま、マリオンは運ばれていく。
 おそらく、レヴァンのものだろう。背中と膝裏に回された腕は驚くほどに力強かった。なんなくマリオンの身体を抱き上げ、手燭の心細い灯りのみを頼りに進む足取りにも危なげなところは少しもない。
 そのまま、どのくらいの距離を移動したのか。
 紗がかかったような意識のどこかで、マリオンは身体が下ろされるのを感じた。
 もう、何も感じたくなかった。
 目も、耳も、心も、閉ざしたままでいたかった。
 なのに、口元に何かひどく甘ったるい香りをしたものを近づけられて、はっ、と目を見開く。
 口元に押し当てられていたのは硝子のゴブレットだった。
 色は目に染みるように鮮やかな青。驚くほど精緻な筆致で描かれた銀色の葡萄とつるが周囲をぐるりと取り囲んでいる。
 ひと目でとても高価なものだとわかった。野蛮人の国タロンには不似合いなほどに。たとえば、文化の中心地であるオルノーブルの宮廷でも、このゴブレットは芸術品として衆目を集めるだろう。
 中にはとろりとした液体が入っている。
 マリオンは思わず顔を背けた。
「飲みなさい」
 レヴァンが命令するように言った。
「これは花嫁の夜を助ける。少しは楽になるだろう」
 マリオンは首を横に振る。
 いやだ。飲みたくない。
 ねっとりとまとわりつくような香りが気持ち悪い。
「いいのか? 飲まねば、つらいばかりの夜になるかもしれないぞ」
 脅されたって賺(すか)されたっていやなものはいやだ。
 唇を噛み締めて拒絶の意志を示すと、背後から手が伸びてきてゴブレットを取り上げる。
 ノアだった。
 ノアは、後ろからマリオンの身体をきつく抱き寄せると、ゴブレットに満たされていた得体の知れない液体を口に含み、マリオンの顎を掴む。
 抵抗するいとまもなく無理やり後ろを向かされ、唇をふさがれた。
「……っ……」
 合わさった唇の間から容赦なく舌が入り込んでくる。
 いやなのに、抵抗したいのに、ノアの力は強くて、身動きひとつできない。
 マリオンの口の中で巧みに舌が動いて、その甘ったるい何かを喉の奥深く送り込んだ。
 なすすべもなく飲み込むと、途端に、鳩尾のあたりが、カッ、と熱くなる。
 二度、三度とそれが繰り返され、やっと解放された時には息も絶え絶えだった。
「げほっ……」
 喉にはまだねっとりとした甘さがまとわりついている。いつまでも消えない後味に何度もむせ、眦には涙がにじんでいた。
(ひどい……)
 いきなりこんなことをするなんて。
 初めてのキスだったのに。
 許婚だったアルベールとだってしたことはなかったのに。
 悔しい。
 でも、こんなのはまだまだだってこともわかっている。
 これから、もっと、もっと、キスなどとは比べ物にならないほどおぞましいことがマリオンを待っているのだ。
 ぶるり、と震えがきた。
 この期に及んでも覚悟など少しも定まらない。
 いやだ。怖い。逃げ出したい。でも逃げられないこともわかっている。これから始まる拷問にも等しい時間をただ耐えるしかない。
「いい子だ」
 レヴァンの親指がマリオンの唇の表面を左から右へとなぞっていった。
 ぬぐうというよりは撫でるような仕草だった。
 背後から伸びてきた両手がマリオンをそっと抱き締める。
 ノアの手だ。
 背中に男の体温を感じる。ぴったりと包まれて身じろぎひとつかなわない。
 思わず、マリオンは声を上げようとした。
 いやっ!
 しかし、喉の奥から押し出されてきたのはくぐもった呻きだけ。
 思うように身体が動かなかった。手も足もひどく重くて、まるで、泥濘の中をもがいているようだ。
 息ができない。
 苦しい。
 浅い息を繰り返していると、やがて、胸の奥のさらに深いところから何かがじわじわと染み出してきた。
 背中がぞくぞくする。
 寒気とは違う戦慄が背筋を這い登る。
(何……、これ……)
 もしかして、これが得体の知れない飲み物の効果なのか。
 いまだかつて覚えたことのない熱とも疼きともつかないものに、身体の自由が蝕まれていく。
 気持ち悪い。気持ち悪い。頭がくらくらする。
 マリオンは、重い瞼をなんとか引き上げて、目の前にある金の瞳をにらみつけた。
「う…そつ…き……!」
 あんなもの飲んだって少しも楽にならないじゃないの!
 もつれる舌はまともに言葉を紡がなかったけれど、それでも、男には充分伝わったようだ。
「苦しいのか?」
「……」
「かわいそうに」
 髪を撫でられた。
 それは幼子をあやすような手つきだったのに、それだけで、身体が、勝手に、びくん、と大きく震える。
「……っ……」
 背中がぞわぞわしていた。
 さっきよりも、もっと強くて、もっと熱い何かが、背中を、じん、と痺れさせる。
 吐息が近づいてきた。
「心配はいらない。すぐ楽にしてやろう」
 ささやきが唇に触れる。
「おまえは、ただ、私たちに愛されていればいい」
 金の瞳に、とろり、と笑みが浮かんだ。
 欲望を隠さぬ淫蕩な笑みだ。
 こんな時だというのに、刹那、マリオンはその瞳に見とれた。
(美しい瞳だわ……)
 獣のくせに。
 なんて深くて鮮やかな彩り。
 軽く触れて、すぐに離れていったくちづけは、まるで儀式の始まりを告げる合図のようだった。
 レヴァンがマリオンの身体を抱き寄せる。
 三人の王子たちのまなざしを感じる。無防備な裸体をくまなく観察されている。
 恥ずかしさもさることながら、それ以上に怖さで胸がつぶれそうだった。
 なのに、視線で撫でられるたびに、ふるり、と身体は震え、熱を増していく。
「きれいな肌だ」
 レヴァンがささやいた。
「さわるぞ」
 男の硬い指先が唇に触れる。上質の絹の手ざわりを愛でるように、顎から喉元、鳩尾へとゆっくり滑っていく。
 じくじくと腹の奥が疼いた。
 男の指先によって身体の中から無理矢理引きずり出された熱が、ざわざわと皮膚の上を這い回る。
 気持ち悪さが増した。
 熱い。身体の中に熱がこもっていく。
 金の瞳は笑っている。
 楽しげに、満足そうに、ただ震えるばかりのマリオンを見下ろしている。
 腹を撫でていた五本の指は、ためらいなくその先へと進んでいった。
 マリオンは力ない脚をなんとか閉じようともがいたけれど、はかない抵抗などものともせず、指先はマリオンの両脚の間へとするりと入り込む。
「……や……、いや……」
 舌がもつれてうまくしゃべれない。横に振った首の動きも拙く、それこそ小さな子供のようだ。
「大丈夫だ」
 レヴァンが言い聞かせるようにささやく。
「怖いことは何もない。気持ちいいことしかしない」
 いやだ。信じられない。
 こんなことが気持ちいいわけない。
「ザザ」
 レヴァンがザザに声をかけた。
「こっちに来い」
 ザザは、しばし逡巡するようなそぶりを見せたが、レヴァンに目線で促され、おずおずと近寄ってきた。
 大腿を掴まれる。
 ザザの手はレヴァンよりも少しだけ乱暴だった。
「ひっ……」
 思わず悲鳴が漏れる。
「ごめん」
 ザザの力がゆるむ。
 レヴァンと比べると随分物慣れないようだ。声や仕草からも稚さが伝わってくる。
 先ほどよりも、少し慎重に、しかし、容赦なく大きく脚を開かれた。さらに、上へと押し上げられ、露になったそこに強いまなざしを感じる。
「…いや……」
 見られていた。蜜蝋の薄明かりの下、脚を大きく開かれ、むき出しになった秘裂を、黒い瞳が暴き立てる。
「すげぇ……」
 感嘆の声が肌を撫でた。
「女のここってこんななんだ……」
(いや……。やめて……。見ないで……)
 マリオンは身をよじろうとした。けれども、背後からマリオンを抱きかかえるノアの腕も、前からマリオンの両脚を掴んでいるザザの手も、どちらも、とても強くて、マリオンにかなうはずもない。
「中はどうだ?」
 レヴァンは、くすり、と笑いながら、やわらかな肉の襞を指先でそっとかきわけるようにして開く。
「……ひぁっ……」
 悲鳴が溢れた。
 ただ、ただ、怖い。怖い。
 ザザが息をのんだ。
「中はもっとすごい。濡れて、きらきら光ってる」
 マリオンは声にならない叫びを上げる。
(いやっ。いやっ。いやっ。そんなこと言わないで)
 まさか、こんな辱めを受けるなんて。
 もちろん、マリオンだって、甘やかな初夜などこれっぽっちも期待はしていなかった。タロンの獣どもに愛し合う者たちが情愛を結ぶ行為を求めたって無駄だ。
 わかってはいたけれど、惨めだった。
 これは男がただの欲望で女を弄ぶやり方だ。
 自分の存在ごと踏みにじられた気持ちだった。
 なのに……
 レヴァンの指先が、そっと襞を割り、中へと入り込む。少しずつ少しずつ、やわい肉の洞(うろ)の中へと侵入し、マリオンを暴いていく。
 痛みはなかった。ただ、身体の中心を串刺しにされたような異物感があるだけだ。
「……ふ……」
 ゆっくりと押し込まれた指先が、それ以上にゆっくりとした動きで引き出される。
 入れて、出されて、また、入れられて、出されて。
 何度も繰り返されるうちに、次第に、男の指を包んだ部分がびくびくと勝手に震え出すのが自分でもわかった。
 知らない。こんなの、知らない。自分の身体なのに、自分で制御できないことが怖い。
「濡れてきたよ」
 ザザが言った。興奮しているのか、声が上ずっている。
「中から溢れ出してくる。それに、なんか、ひくひくしてる」
 その言葉のとおり、男が触れている部分からは、くちゅり、くちゅり、と淫らな音が聞こえてくる。
(いやよ! いや……)
 聞きたくない。
 しかし、後ろからしっかり抱き締められていて、両腕は自由にならず、耳をふさぐこともできない。
 レヴァンが言った。
「もっと、気持ちよくしてやれ」
 レヴァンの指がずるりと引き抜かれる。
 入れ替わりに触れてきたものは、指とは全く違う質感を持っていた。
(そんな……! 嘘……)
 信じられなかった。
 まさか、そんなところを舐めるなんて。
(いやっ……。いやぁぁぁ……)
 いくら箱入りだったとはいえ、マリオンだって、結婚した男女が、夜、床の中でどういうことをするかは知っている。
 でも、それは、もっと、慎ましく神聖なもののはずだった。
 こんな、淫らの限りを尽くすような、いかがわしいものではない。絶対に。
 ぬめぬめとしたものが襞の中を這い回っていた。下から上へと緩慢に動いて、したたる蜜を音を立ててすする。
 まるで飢えた犬のようだった。
(やはり、彼らは獣なのよ……)
 だから、こんなふうに人の道にもとることも少しも厭わない。
(わたしはあなたたちとは違うわ)
 マリオンは心から彼らを憎み蔑んだ。
(わたしはまともな人間よ)
 だが、しかし……。
 ふいに、身体の奥で何かが目覚めた気がした。
 はらわたを食い破り、身のうちを突き上げるようにして、マリオンの中から得体の知れない熱がずるずると這い出してくる。
「あぁっ……」
 先ほどまで少しも言葉を紡ぐことがなかった喉から嬌声が溢れ出した。
「あぁっ……、ああぁぁぁっ……」
 マリオンは恐ろしさに震えた。
 熱い。熱い。
 身体の中から無理矢理引きずり出された熱が肌の上をのた打ち回っている。
 苦しい。
 じっとしていられない。
 早く、早く、この熱を鎮めなければ、どうにかなってしまいそう。
 ―――でも、どうやって鎮めればいいの?
 レヴァンが満足そうに笑った。
「ほら。気持ちよくなってきた」
 余裕のある笑みだ。忌々しいほどに。
 マリオンは言い返そうとした。
 違う。違う。気持ちよくなんかない。
 けれども、言葉は全部熱い喘ぎの中にのみ込まれていく。
 涙が溢れる。
 後ろからマリオンを抱き留めているノアの唇が眦に触れ、こぼれた雫を吸い取った。なだめるようなその感触は場違いなほどにやさしい。
「あぁっ……、あ、あ、あ、あ……」
 ザザの舌がさらに深いところへ入ってきた。ぬかるむ隘路を広げるように、奥へ奥へと挿し込まれた舌先が内側をくすぐる。
 びりびりと痺れるような熱が背筋を駆け上がり、頭のてっぺんでぱっと弾け飛んだかと思うと、すぐに次の熱がやってきて、また、背筋を疼かせた。
 絶え間なく生み出される熱は次第にその間隔を短くし、マリオンを追い詰める。
(頭がおかしくなる……)
 熱で身体の芯が焼き切れそう。
 気がつけば、体内を穿つ舌の動きに合わせて、マリオンは身体を揺すっていた。
 どうすればいいかは自然とわかった。
 身体の奥を自分でぎゅっと締め付けると、びりびりとした痺れが、さらに熱くうねりを増すことも。
「マリオンは優秀だね。覚えが早い」
 レヴァンが褒めながら髪にキスをする。
 それさえも、今はマリオンを苛む熱となり、喘ぎとなって唇からほとばしる。
「優秀な子にはご褒美をやらなくては」
 そう言って、レヴァンは再び濡れそぼつ襞に触れてきた。
 ザザの動きを巧みに避けながら、指の間にぽってりと熟れた花芯を包み、ゆっくり、ゆっくり、緩慢な動きで上下に揺する。
「あぁっ……」
 ぎゅうっと絞り上げられるような疼きが背筋を駆け上がっていった。
 たまらず仰け反ると、背後からマリオンを抱き締めていた腕がするりと動いた。
 脇から差し込まれた掌がマリオンの両の乳房を包む。下から持ち上げるようにしてそっと揉みしだき、同時に、指先が胸の中心で健気に震える薄紅色の頂をつまむ。
「ひぃっ……」
 頭の中で火花が散った。
 中を舌先で抉られ、敏感な肉の芽を指でいじられ、後ろからは乳房を愛撫され、三つの場所から同時に注ぎ込まれる熱で身体が壊れてしまいそうだった。

 

 

 


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