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自称・恋人の騎士様(メンヘラ製造機)が後方腕組み彼氏面で私(陰キャ魔法使い)を溺愛してきます! 3

第三話

 

 下着越しでもその巨大さがわかる。なにか武器でも仕込んでいるのかと疑いたくなる質量に呆然としたが、ここでいかにも初心者らしい反応はしたくない。
「ふぅん……おっきいんだね」
 アリスは余裕ぶりつつ、指の背で屹立を下から上にそうっと撫で上げる。
「アッ……!」
 ダンテはたったそれだけでびくんと体を震わせ、わなわなと唇を震わせた。
【アリス 早く】【もっと】
 心の中でおねだりするダンテは色っぽかったが、それどころではない。ごくりと唾を飲み込みながら、軽く首をかしげた。
「どうしてほしいの? おねだりしてみて」
 口に出させることで、彼の振る舞いを心の声と一致させる。
 念のためではあるが、アリスが心を読んでいることを悟られないための布石だ。
「そ、それはっ……」
 ダンテは頬を染めて唇を震わせたが、観念したように口を開く。
「早く、触ってほしいっ……」
【直接 お前の手で】【握ってほしい】
 ダンテの素直な発言に、アリスは内心ほっとしつつ微笑みを浮かべた。
「してほしいこと、ちゃんと口に出してくれたほうが嬉しいわ」
 そうしてもったいぶった微笑みを浮かべながら、ダンテの下着の前紐をほどき下着をずりおろす。途中ウエストの部分が引っかかって下りなかったが、ようやく解放された肉杭は、そのままの勢いでぶるんと飛び出し、彼のがちがちに割れた腹筋に勢いよくぶち当たる。
 びたんと大きな音がして、その重量と質量に恐れおののくしかない。
(ひひひ、ひえ~~!! こんなおっきくて重そうなのに、どうして重力に逆らえるの!?)
 血管がくっきりと浮き上がっているそれは、アリスの両手で包み込むほどの太さで、縦にも横にも超ド級だった。白百合と呼ばれた母譲りなのか全身の色が白く、勃起した性器ですら美しい。謎の迫力に畏敬の気持ちすら感じる。
 アリスはごくんと唾を飲み込む。
(これが……男性器……!)
 一応、解剖の授業で見たことがあるのだが、実物は全然違う。
(いやそれにしてもよ……! これを初めてで入れるのはさすがに無理じゃない……?)
 こんなことになるのなら、事前に己の体を慣らす準備くらいしておけばよかった。
 こちとら魔法使いだ。時間さえあれば処女とわからない仕込みだってできたはずなのに、反省しかない。だが後悔しても仕方ない。今は自分が持っている武器で勝負するのみだ。
 アリスは生真面目に唇を引き結ぶ。
(とにかくダンテを射精させてから考えよう。拘束してるし魔法もある!)
 そう腹をくくったアリスは、ダンテのシャツのボタンもすべて外し、彼の腕をくぐるように中に入り、両膝の間にちょこんと座って、そうっと彼の乳首をつまみ上げたのだった。
「あっ……!」
 いきなり乳首を触られたダンテは、雷に打たれたように体を震わせる。太ももに力が入って、ビクビクと膝がしらが左右に揺れた。
「待って、アリス、そこ、触るところじゃないからっ」
「えっ、どうして?」
 アリスはなおも指先でそこをやんわりと引っかいたり、撫でながら首をかしげる。
「ダンテ、乳首ピンクなのね。肌が白いから目立つんだなぁ……かわいい」
 かりかりと爪先でこすると、
「あっ、ちょっ……ううっ……」
 ダンテは前かがみになりながら、アリスの肩口におでこをうずめる。
【男の乳首なんて 飾りなのに】【くすぐったい ぞわぞわする……っ】
 ダンテから戸惑いの感情が流れ込んでくる。
「大丈夫よ。男の人もここでちゃんとよくなれるから」
「それも経験か……?」
 びくびくと体を震わせながら、ダンテが尋ねる。
「ま……まぁね?」
 当たり前のようにうなずいたが、もちろんこれはアリスの経験ではない。同僚が飼っているM奴隷の話だ。ランチを食べながら男の乳首の育て方を教えてもらったのだが、厳格な文官であるその男は『乳首をひねるといい声で鳴く』らしい。そんな蛇口みたいに言われても困る。
 黒鍵騎士団の魔法使いたちが特別に性に奔放というわけではない。根源に繋がる神秘の追求の延長上で、人の体はどこをどうすれば快楽に狂うことができるのか、趣味と実益を兼ねた壮大な実験なのである(たぶん)。
「人間の体って、突起と穴は、どこも性的快感を得られるようにできているのよ、ダンテ」
 アリスはいかにも自分の体験のように言って、優しく撫でながら乳首をくすぐる。
「あ、アリス……ッ……」
【くそっ、声なんて出したくないのに!】
【くすぐったいだけじゃなくて】
【もっと強い 刺激だったら……もっと】
 ダンテの心の声に、アリスは何度か目をぱちくりさせる。
(なるほど、もっと強く、ね?)
 彼の要望に応えるよう指に力を入れて先端をひねり上げると、
「ンあっ……!」
 ダンテが雷に打たれたように背中をのけぞらせた。
【うそだろ。乳首 気持ちいい……】
 震えながら唇をわななかせる、ダンテのエメラルドの瞳は情欲に濡れていた。太ももがびくびくと震えて強張っているが、腰が揺れている。嫌ではないようだ。
(へぇ……そうなんだぁ……)
 学びがあったことを内心喜びつつ、しばらく乳首をつねったりくすぐっていると、またダンテが甘い悲鳴をあげる。拒みたいのに快感がそれを邪魔するらしい。
 赤狼騎士団のエースであるダンテがこんなふうに乱れるなんて。
 アリスはにやつく頬の内側を噛み、必死で真剣な表情を作る。
 楽しい。楽しすぎる。世間の恋人たちは皆、こんなふうに好きな人とイチャついているのだろうか。
 自分のような陰気な人間に恋人などできるはずがないし、恋人関係を継続させるための努力ができる気がしないので避けてきたが、もうちょっと頑張ってみてもいいかもしれないと思うほどに、アリスにとって目が醒めるような経験だった。
「な、なぁ、おれ……もう、むりなんだけどっ……」
 ダンテが背中を丸めて体を震わせる。
「無理って?」
「直接触ってほしいっ……ずっと焦らされて、気が狂いそうなんだッ……!」
 ちらりと目線を下ろすと、彼のモノは先端からだらだらと蜜をこぼし、ぴくぴくとじれったそうに揺れていた。まるでそれ自身が、意思を持ったひとつの命のようにも見える。
「そうね。じゃあ触ってあげる」
 アリスは弄っていた乳首から両手を下ろし、初めてそれを両手で握りしめたのだった。
「熱くて、硬いね」
「うぅ……そうかよ……あっ……」
 ダンテは肩で大きく息をしながら、軽く前のめりになって膝立ちする。そして腰をゆすり始めた。
【もっともっと】【きもちよくなりたい】
【出したい】【射精したいっ……】
 筒状にした手の中で、彼のモノはぬちぬちと音を立てながら出入りする。
 十分大きいと思っていたそれは熱を帯びてさらに固くそそり立っていく。
【出したい 精子……早くッ……】
 ダンテの欲望に応えるように、先端から溢れた蜜を幹にすり込みながら、時折裏筋を撫でる。
「私の手を道具みたいに使うんだ。あなたそんなことをするんだ。へぇ~……?」
 ちょっと意地悪な気分になって彼の耳元でささやくと、ダンテは眉間の皺をより一層深くしながら、うめき声をあげた。
「うるさい……っ……くそっ……」
【イキたい】【早く】【出したくて気が狂いそうだ!】
 ダンテが苦しそうに息を乱し腰を振るたび、アリスの胸はきゅんきゅんと甘く疼く。
 最終的に付き合う女性すべてをメンヘラにしてしまうと言われていた士官学校一の色男を、陰キャ魔法使いの自分が翻弄しているなんて、そんなことがあっていいのだろうか。地味でなんの面白味もない自分にこんなSッ気があると思ったことはなかったが、こういうのをギャップ萌えというのかもしれない。そう、なにもかも魅力的なダンテが悪いのである。
「そんな怒らないで。ほら、はやくイッて」
 アリスは手の中でどんどん熱くなるソレを指先で撫でながら、輪をきつく締めあげ、肩に顔をうずめているダンテの耳にかぷりとかみつき歯を立てる。
「ン、アッ……!」
 その瞬間、ダンテは雷に打たれたように体を震わせ、膨れ上がった先端から白濁した精液を放ち、アリスの胸元を白く染めた。
「わぁ……たくさん出たね」
 アリスが彼の屹立からそうっと手を離すと、ダンテはずるりと前かがみになってダンゴムシのように丸まってしまった。そして唸りながら、精液でべたべたになったアリスの手をぎゅうと握りしめる。
「うう……」
【恥ずかしい……】
 ダンテががっくりとうなだれている。見下ろすと彼の白磁のような首筋は真っ赤に染まっていた。まるで可憐な花が色づくような美しさだ。
「ダンテ? 汚したこと気にしてる? 大丈夫よ、魔法できれいにできるから」
「そう、だけど、じゃなくて……」
 ダンテはゆるゆると顔をあげて、こちらを不機嫌そうににらみつける。
「まだ全然、足りないんだけどッ……」
「え……」
 言われてちらりと彼の下腹部を見ると、確かに吐精したばかりとは思えない速度で、彼の肉杭はまた立ち上がり始めていた。
「早く、お前の中に入れてくれよ。中でイキたいっ……」
「──」
 黙り込んだアリスだが、ダンテは息つく暇もなく言葉を続ける。
「いいよな。お前、経験豊富な魔法使いなんだもんな? 俺が夜通し抱いても平気なんだよな!?」
【アリスの腰をつかんで】【奥まで突っ込みたい】
【嫌だって言っても 泣いても、絶対に、絶対に、許さないからな!】
【めちゃくちゃに抱きつぶしてやる!】
 彼のエメラルドのような瞳が熱を帯びて輝き始める。
 じりじりと迫って来るダンテに、アリスはごくりと息をのんだ。
(大変、調子に乗りすぎた! このままではめちゃくちゃにされてしまう~~~!!!!)
 ダンテのことは淡い思い出として大事にしていたが、それはそれだ。合法的に処女を捨てられたらとも思っていたが、一方的にアレされるのは勘弁してもらいたい。こんな筋肉の塊みたいな大男に好き勝手されたらどうなるか。明日はまともに働けなくなるし、そうなれば仕事に差しさわりがある。
(やっぱり彼のペースに合わせるのは危険ね。あくまでも私主導でことを進めないと!)
 ダンテのまっすぐな欲望を察知したアリスは、無言でひょいと魔法の杖を振るう。
「わあッ!!!!!」
 その瞬間、ダンテの体は見えない力でベッドに仰向けに寝転がらされ、持参した包帯で両手両足を広げた状態でベッドに拘束されてしまった。
「なんだよ、これ!」
 ダンテが焦ったように手足をばたつかせるが、びくともしない。魔法で強化された包帯は鋼と同じだ。いくら暴れてもちぎれることはない。
「あなたに夜通しなんやかんやされたら、私の体がもたないと思うので。ごめんなさい。一方的になるけど……本当にごめんね」
 アリスはニコニコと微笑みながら、さらに杖を振るう。
「ごめんって顔してない! お前、なにする気だ!?」
 ダンテが慌てて息をのんだが、もう遅い。包帯はひとりで動いて彼の目元を覆い隠し、ダンテを暗闇の世界に引きずり込む。
「は!?」
【なにも見えない】【俺なにされるんだ!】
 彼の分厚い胸の奥がバクバクと鼓動を速めているのがわかる。興奮か、恐怖か。いやその両方だ。
「大丈夫。怖いことなんかしないわ。いっぱい気持ちよくしてあげるから」
 なだめるように声をかけ、彼の額に張り付いた髪を指でかき分ける。
 視界を塞ぐのは、隣の席の同僚が『視界を塞ぐとそれ以外の感覚が研ぎ澄まされる。プレイの一環としてアリ』と言っていたのを思い出しただけだ。ついでに、自分がもたもたしたところを見られたくないのもある。他意はない。
(そういうダンテが見たかった、とかはない……本当に)
 アリスはダンテの腰のあたりにまたがると、手首の拘束を緩めて彼の手を取り自分の胸の上に置く。
「ッ……!」
 その瞬間、離せ、解け! と騒いでいたダンテがビクッと体を揺らして黙り込む。そしてアリスの豊かな胸の感触を確かめるように、ムニムニと動き始めた。
【でっかあぁぁ……】【えっ?】【アリス こんな胸でかいの?】
【華奢なのに……】【わぁ……(喜)】
 無言だが心の声は筒抜けである。
 そう、アリスは胸が割と豊かなほうだった。完全に宝の持ち腐れだと思っていたが、ダンテの反応からして悪くなかったようだ。
「ダンテ、手が大きいね……」
 そしてとても熱い。シャツ越しでこんなにドキドキするのに、直接触られたらどうなってしまうのだろう。
 アリスは何度か深呼吸をして緊張を緩めつつ、ゆっくりと立てた両膝の間に、そそり立った彼のモノを挟み込んだ。
「っ……!」
 両膝をぴったりとくっつけたまま上下に揺らす。
(熱い……)
 アリスの太ももから飛び出したそれはまた煽情的に震えている。
【は 入る……?】【入れてくれるのか?】
 期待に満ちたダンテの反応に、アリスはクスッと笑った。
「まだだめよ」
 太ももの内側に力を入れて、ぎゅうっと挟み込む。
「そ、んなっ……ああ、だめ、そんなことされたら、あっ……」
 だが事実、アリスの太ももはあっという間に蜜に濡れて、滑りがよくなる。そうして瞬く間に、ダンテはまた精子を吐き出したのだった。
「はぁっ、はぁっ……くそ、はやすぎ……」
【なんでだよ】【俺がこんな秒でイクなんて……!】
 肩で息をするダンテは苦しそうだ。目が見えないのは残念だが、耳やうなじは真っ赤で異常に色っぽい。
(まさかこんなダンテを見られるなんて……情緒がおかしくなりそうだわ)
 ダンテはいつだって恋を『される』側だった。学生の頃は士官学校内の美女という美女と噂になっていたし、カタブツの女教師ですらダンテに恋をしていると噂が立っていた。たくさんの女の子が彼に熱を上げていた。
 遠くから彼を見ていただけのアリスからしたら、彼は自分のペースを決して乱さないタイプの男だと思っていたが、こうやって誰にも見せない表情を見られるとなると、彼と付き合った女性たちの情緒が狂ってしまうのも当然だと同情心すら湧いてくる。
 自分はただ媚薬に犯された彼を楽にしてあげるためだけにここにいるが、見たこともない彼の恋人の存在を思うと、羨ましいような、同じ立場にはなりたくないような、不思議な気持ちになるのだった。
「ダンテ」
 アリスは彼の手を取り、恋人同士のように指を絡ませて、今度は腰を揺らし始める。彼の肉は硬く、先端は大きく張り出していて、アリスの柔らかい部分をえぐっていく。
「う、なんで入れてくれないんだ、あっ……」
【こすれてるだけで】【気持ちいいけど】
【このままずっとこうしていたいけどっ!】
 彼の言うとおり、アリスの秘部はしとどに濡れていた。下着越しでもそれは伝わるらしい。ぬちぬちと響く淫らな音は次第に粘度を増し、時折下着をずらしてアリスの花びらをかき分ける。
「アリス……ッ」
 絡み合った指に力がこもる。
【早く 早く早く早く!】
(そうだよねぇ……入れたいよねぇ……私も気持ちいいし。や、でももう少し後で……!)
 もったいぶっているわけではない。とにかくダンテを弱らせてからことを進めたいだけだ。アリスはゆっくりと手を離し後ろに下がると、依然、威厳を持って勃ち上がっているそれにぺろりと舌を這わせた。
「~~~ッ!!!!」
 その瞬間、稲妻が走ったように背中を丸めるダンテを見ながら、アリスはできるだけ優しく、たっぷりと中身が詰まった陰嚢を手のひらで支えながら口を開く。
「ほら、まだここ中身つまって重たいから……もうちょっとしてからね」
「アリス……ッ!」
【イキたい。イカせて出したいよアリス、アリスアリス!】
 切なくてたまらないと言わんばかりに名前を呼ばれて、胸がきゅんとしたが奥歯を噛んで飲み込んだ。
「大丈夫。ダンテは誇り高き赤狼騎士団の一員でしょう? いい子なんだから我慢できるよね?」
「ッ……」
 騎士団の名前を出した瞬間、ダンテの顔を羞恥が赤く染め上げる。
(かわいい……)
 アリスはふふっと笑いながら、そそり立つ屹立を見つめた。
 とりあえず口やら手やら胸やら道具やらを使って、四、五回も吐精させれば落ち着くだろう。そうしたら改めて、ゆっくりとダンテに自分の処女を奪ってもらうのだ。
(よし、頑張って本懐を遂げて見せるぞ……!!)
 そういえば同僚は、足で奴隷男のモノをしごくと言っていたことを思い出し──アリスは研究心と闘志に燃えながらにこりと微笑み、ダンテのモノの先端にチュッとキスを落としたのだった。

 窓の外が白々と明け始めている。雨もすっかり上がって愛らしい鳥の声がちちち、と聞こえる。夜が明けて、朝が来た。
「うん……やりすぎちゃったな……」
 アリスはベッドでぐったりと気を失っている全裸の大男を見下ろしながら、床から下着やら衣服を拾い上げる。
 鍛え上げられたダンテの胸はゆっくりと上下し、呼吸は落ち着いている。頬に残る涙の跡が若干痛々しいが、表情はスッキリして晴れやかだ。とりあえず媚薬の効果は完全に切れたようである。
(よかったけど……でも、挿入するまでに至らなかったなぁ……失敗した~~!!!)
 アリスは身支度を整えながら、はぁとため息をついた。
 そう──せっかくここまであれやこれやと手を尽くしたのに、アリスはダンテを受け入れることをすっかり忘れてしまったのである。
 彼の彫刻のように美しい男の体を味わい、知り尽くすことに夢中になってしまい、調子に乗ったアリスは黒鍵騎士団で得た性技を駆使して、ダンテをめちゃくちゃに鳴かせてしまった。夜通し降り続いた雨のせいで彼の心の声はずっとアリスに伝わっており、それが余計アリスの研究心に火をつけたのだ。
【嘘だろアリス】
【そこは違うって】【いや違わないのか!?】
【指きもちよすぎ】【そんなとこ押さないで】【コリコリしないで!】
【女の子みたいに泣いてよがってる おれ】
【きもちいい】
【いやだ 気持ちよすぎて頭がおかしくなる】
【また出た アリス アリス もう無理】
【むり じゃない?】
【いや すっからかんだって!】
【それなに!? えっ、ゼリー?? ぬるぬるなんだけど!? いや、だからって布でごしごしするのはおかしいだろ】
【嘘だろ まだ出る】
【イキすぎて頭痛くなってきた】
【し、しぬ……! しぬ!】
【だめだ……アリスに殺される……こんな華奢な女の子に……あぁぁ……】
【もうイキたくない~~~……!】
 数えたわけではないが、四、五回どころではない、倍以上はイカせた気がする。
 魔法使いの恋人ができると主に体の相性的な問題で別れられなくなる──というのは、割とよく知られている話だ。魔法使いという生き物はほぼ全員が知的好奇心の化け物で研究熱心なのである。
 しかもダンテは媚薬で脳神経がバグっており感度百倍の状態なので、それこそ天国と地獄を往復するような快感を味わったはずだし、アリスも反応のよさについつい盛り上がってしまった。
 その結果がこれだ。
「あ~あ……私のばか……こんなはずじゃなかったのになぁ……」
 アリスは深くため息をつく。とはいえダンテの媚薬は完全に効果が切れたのだから、仕事は無事果たしたと言えよう。
 アリスはダンテを起こさないようにベッドから下りると、杖をひらりと振った。
 汗や白濁、お互いのあれやこれやでくちゃくちゃになったダンテの体を風呂上がりのように清潔に整え、真新しいシーツをかぶせる。最後に窓を開けて淫靡で濃厚な空気を入れ替えると、文字通りなにもなかったかのような状態だ。この状況なら、誰もダンテがなにをされたか気付かないだろう。
(騎士団の面々はなにも知らなかったし、ダンテもわざわざ、イケてない地味女にいいようにされたなんて言うわけないし……大丈夫よね)
 片づけを済ませたアリスも服を身に着けフードをかぶり、眉の上で切りそろえた前髪を指で整え、無言でベッドで眠るダンテを見下ろす。
 呼吸をするたび瞼がぴくぴくと震えている。夢でも見ているのだろうか。
(いったいなんの夢を見ているのかしら……)
 今後、ダンテはアリスとのこの一夜のことを思い出すことがあるのだろうか。
 いっそ彼の記憶を消したほうがいいかと思ったが、媚薬で脳をいじられた後だ。強い魔法はかけないにこしたことはない。
(まぁ、忘れたいって申告があったらボリス様に頼めばいいか)
 団長であれば魔法の精度はさらに上がる。きっと安心してもらえるはずだ。
 アリスはふうと息を吐いて、シーツの上に投げ出された彼の指先をちょっとだけ握る。
 昨晩の彼の乱れっぷりを思い出すとドキドキするが、二度はない。
 この手がアリスを求めて何度も伸ばされたことは、一生忘れない。
 アリスの心の中だけの宝物だ。
「ごめんね、ダンテ。でも素敵な経験をありがとう」
 小さな声で謝って、壁に立てかけてあった箒を手に取り、ひらりと窓から飛び出したのだった。

 

 

 

 アリスの住まいは王都の中心から少し離れた住宅街の中にある。士官学校を卒業後、騎士団の支度金を頭金にして二階建ての小さな家を借りて暮らし始めた。普段は箒で出勤するので通勤には困らない。緑も多くご近所付き合いもしやすい住宅地だ。
「はぁ~……疲れた……」
 魔法で玄関のドアを開け、そのままよろよろしながら二階の自室に入る。
 なんだかんだで四徹目で、さすがにアリスの体力も精神もぎりぎりだった。ベッドにうつぶせに倒れこんで目を伏せると、暴力的な眠気があっという間に襲い掛かってくる。
(起きたらすぐに研究に戻って実験レポートを……それから……山に採取……きのこ……)
 ダンテとの一夜は大変な経験だったが、あれはもう終わったことだ。明日からはまたいつも通りの日常に戻るし、ダンテと会うこともない。
 アリスは文字通り泥のように眠りに落ちたのだった。

 夢を見た。幼い頃──三つか四つくらいの頃の夢だ。
 夢だと即座にわかるのは、これまで繰り返し何度も見てきた昔の記憶だとわかっているからである。
 ぱちぱちと暖炉の薪が音を立てて燃えている前で、祖母と母が編み物をしながら話をしている。外ではしとしとと雨が降り続けていて、天気の変化に弱いアリスはひどい頭痛を訴えて、母の膝枕で眠っていた。
「鉱山は儲かるって男たちは騒いでるけど……山には魔獣も出るそうだし。あたし、怖いわ」
 母がため息交じりにつぶやくと、祖母がうなずく。
「魚も捕れなくなって、畑も荒れ始めたからねぇ」
 雨足が強くなるたび、どこからともなく複数の声が混じって頭がきりきりと痛み始める。
【鉱山からとれた石は あたしたちの生活を豊かにしてくれる】
【男たちはみんなそう言う】
【でも でも…… 死んだら終わりなのよ】
 頭の中に響く声は確かに大好きな母の声だけれど、下から仰ぎ見る母は唇を結んで口は動いていない。お祭りで見た巡業の腹話術師のようだ。
 アリスは毛布を引き上げてぎゅっと目を閉じる。
(お母さんは、この町が嫌いなのかな……わたしは、ここにいたいのに)
 そんなことを考えていると、こめかみのあたりにズキッと差し込むような痛みが走る。
 痛い。頭が割れそうに痛い。とっさに身を縮めると、母は編み物をする手を止めてアリスの頭を撫でる。
「寒いの?」
「ううん……」
「お熱、早く下がるといいんだけどね」
 母は軽くため息をついて、前かがみになりアリスの額にチュッとキスを落とす。
【なんだか嫌な予感がする 鉱山が怖い】
【お金を貯めて 出て行きたいわ】
【庭は小さくてもいい 白い犬を飼うの】
【家族三人で……王都で暮らせたらいいのに】
 降り続く雨の中、母の声なき声は、いつまでもアリスの頭の中で響いていた──。

 カーテンの隙間から差し込む太陽の光に、ぱちりと目を覚ます。ベッドサイドの時計を見ると、正午をすぎている。
「はふ……」
 大きなあくびをしながらごろりと寝返りを打ち天井を見上げる。久しぶりのたっぷりの睡眠に脳みそはだいぶすっきりしたが、芯の部分がまだぼんやりしていた。
「夢のせいかな……」
 アリスははぁと大きなため息をつく。だが夢でも、久しぶりに母に会えたのは嬉しかった。
 アリスの母は妙に勘が鋭いところがあったらしい。幼い頃から山の天気を当てるのも得意だったし、妊娠した後は『娘が生まれると思う』と口にしていたという。
 アリスは自分のやっかいな能力について家族にも伝えなかったが、母にだけは教えるべきだったと今でも思う。母ならきっと娘の能力を理解したし、魔法使いだと受け入れてくれただろう。
 それが巡り巡ってもしかしたら──己の勘が本物だと確信さえできていれば、鉱山中毒で死ぬことはなかったのではないだろうか。
 だがいくら考えたところで過去は変えられない。今さらだ。
 自分の能力も、上司であるボリス以外に誰にも教えるつもりはないし、きっとこれからも、自分はこうやって生きていくしかないのだから。
「やっぱり連続した徹夜はダメね……ちゃんと寝ないと」
 アリスはベッドの上で手足を伸ばしたり、首を回したりしながら徐々に意識を集中させる。そこでふと、昨晩から今朝にかけてのあれやこれやが脳裏に浮かび、自然と頬に熱が集まった。
「はぁ~……それにしても、やっぱり今でも信じられないわ……」
 ぺちりと頬を手のひらで押さえながら、アリスは思わずうめき声をあげる。
 ダンテのあられもない姿は、一晩眠った今でも脳裏にしっかりと焼き付いていた。残念ながら己の処女を奪ってもらうことはできなかったが、それはそれとして最高の思い出になった。
(処女を捨てられたらと思ってたけど……そんなことしないでよかったのかも)
 やはりああいう触れ合いは好き同士で行う行為であるはずだ。下心を隠してどさくさに紛れて抱いてもらおうなんて、ダンテへの裏切りであるし、魔法という神秘に対しての冒涜でもある。
(うん……やらなくてよかった……残念だけど。ちょっとだけ、もったいないけど……)
 さざ波のように押し寄せてくる後悔を、これでよかったのだという気持ちで丁寧に塗り替えていると、ドアの外から呆れたような声が聞こえてきた。
『おい、アリス。いつまで寝てるんだよ』
 変声期前の少年に似た涼やかな声に、アリスは眉を下げてため息交じりに返答する。
「ちょうど今、起きたところだってぇ……」
 もぞもぞしながら体を起こすと、バタンとドアが開いて廊下から大きな一匹の犬が姿を現した。狼のようにピンと立った大きな耳と金色の瞳。ふさふさの毛は真っ白で、ダブルコートでふわふわだ。
 彼の名は『カエラム』。
 首には赤い首輪をつけて犬の形をしているが、れっきとしたアリスの使い魔だ。付き合いは士官学校からなのでそれなりに長い。家族と言ってもさしつかえない存在である。
 彼はちゃっちゃっと爪の音を鳴らしながらベッドまで歩み寄ると、鳥の巣のように頭を爆発させたアリスを、呆れたように仰ぎ見た。
『シャワー浴びてしゃっきりしろよ』
「はいはい、そうします……」
 魔法で体をきれいにすることはできるが、湯を浴びるほうが目は覚める。カエラムの鼻先に押されながら部屋を出て、バスルームへ向かった。
 シャワー後は髪を魔法で乾かして身支度を整え、ダイニングテーブルで硬くなったパンをカフェオレに浸しつつ咀嚼する。独身の魔法使いの食事などこんなものだ。生命維持に必要なカロリーさえ摂れればいい。
 新しく紅茶をいれ、たまった新聞を流し見しながらチョコレートを口の中に放り込んだところで、玄関のチャイムが鳴った。
「ん……?」
 なにか配達でも頼んでいただろうか。ぼんやりとそんなことを考えつつ立ち上がって玄関へと向かい、なにも考えずドアを開ける。
「はーい……」
 ドアを開けた瞬間、かなり高い場所から低い声が響く。
「やぁ、アリス」
 さわやかに微笑む美男子を見て背筋が凍った。
 深紅の髪にエメラルドの瞳。完璧な形の麗しい輪郭。この男こそ女神が寵愛して星にしてしまう人間としてふさわしい──そんな美貌が自分を見つめている。
 ほう、と見とれてしまった次の瞬間、ハッと我に返りドアノブを引いたが遅かった。
 ブーツのつま先がねじ込まれてドアが閉まらない。慌てて腰の杖に手を伸ばしたところで、ドアを体ごと押し込んできたダンテに手首をつかまれ杖が床に落ちる。
「あっ」
 慌てて落ちた杖を拾おうと手を伸ばしたが、ダンテが杖をつま先で蹴飛ばし、杖はくるくると回りながら床を滑っていった。
「ああああ~~~!」
「観念して」
 ダンテはアリスの手首をつかんだまま、もう一方の手で腰を抱き寄せ完全に玄関の中に侵入する。
(ひ、卑怯……!)
 軟弱な魔法使いが、この状況で鍛え上げられた騎士に勝てるはずがない。アリスがぎぎぎと歯ぎしりをしていると、背後からちゃりちゃりと音を立ててカエラムが姿を現す。
『アリスどうした~?』
 のんきに、大きな耳をぴるぴると動かしながら近づいてきた。
「あっ、カエラム! この男追い出して!」
『ええ~……? ほんとにそれ、やっていいやつ? 騎士だろ?』
 面倒事に巻き込まれたくないと言わんばかりに途中で立ち止まったカエラムが、耳をぎゅーんと後ろに流しながら上目遣いになる。ダンテが赤狼騎士団の制服を身にまとっているので、迷っているのだろう。
「いいから! 主人の命令に従いなさいっ!」
 明らかにやる気がなさそうなカエラムに叫んだところで、
「アリス、使い魔をけしかけるのは止めてくれ。団長命令でここに来てるんだ」
 ダンテが楽しげにふふっと笑いながら顔を覗き込んでくる。
「それってどっちの!?」
「もちろん、誉れある黒鍵騎士団の団長であらせられる、ボリス・キッチャクード様だ」
「言うこと聞かないとえらい目にあう方……!」
 赤狼騎士団の団長にはどう思われてもいいが、ボリスは別だ。
 アリスは背中を弓のようにのけぞらせつつ、背後で成り行きを見守っているカエラムを振り返った。
「今の命令……なしで」
『だろうな』
 カエラムはふっと鼻で笑うと、何事もなかったかのようにちゃっちゃっと音を立てながら中庭へと出て行く。使い魔のくせにアリスのことをなんとも思っていない態度に若干腹が立つが、身から出た錆なので仕方ない。
「は、離してくれる……?」
 おそるおそる尋ねると、
「魔法は使わない。OK?」
 ダンテは軽く首をかしげてこちらを見下ろしてくる。
「はい、使いません。逃げも隠れも致しません……」
 アリスはしょぼしょぼと声を落とし、がっくりとうなだれたのだった。

 

 

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ご愛読ありがとうございました!
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