謹んでヤり逃げさせていただきます2 一途なオオカミくんは番の女騎士を生涯愛し尽くしたい! 2
「エミリアさん、あいつに見惚れてませんでした?」
「え? あいつって……あっ」
夜会が終わった後、辻馬車をつかまえて宿舎に戻るとフレッドは自分の部屋にエミリアを引っ張り込んだ。
鍵を閉めるなりエミリアを抱きしめて首筋に吸いついてくる。
「クラークとかいう、バンクス侯爵家の……」
「あ、あれは、見惚れてたわけじゃ……」
フレッドはエミリアの背中に手を回し、ドレスのボタンを外していく。
「じゃあ、なんですか?」
コルセットの紐が緩められたので、エミリアはほっと息を吐いた。ようやく思い切り呼吸ができる。
「どうしてあいつを見てたんですか?」
しかしフレッドの追及が止まないので、ゆっくりと深呼吸する暇はなかった。
エミリアがクラークを見ていたのは、社交界を騒がせている人物に興味があったし、フレッドに雰囲気が似ていると思ったからだ。でもそれを正直に口にしたら、フレッドは良い気がしないかもしれない。
「あんただって、あの人と見つめ合ってたじゃない」
「それは……」
とっさに言い返すと、フレッドは気まずそうに言葉を濁した。
「どうしたのよ」
何か言いたげで、でも言いあぐねているようなフレッドの様子をエミリアは不思議に思った。だが、それ以上訊ねることはできなかった。
コルセットとドレスが緩んだせいで、エミリアの胸にあてていたパッドがぽろっと落ちてしまったからだ。
フレッドは床に落ちたそれを拾う。
「エミリアさん、これ……」
「あっ、やだあ」
エミリアは思わず胸のあたりを押さえる。フレッドはパッドとエミリアを見比べた。
「何か今日……違うなって思ってたんです。こういう仕組みだったんですね」
「仕組みっていうか……」
仕組みというほど大仰なものではないが、メイドが時間をかけて作ってくれた大作ではある。
「次の夜会ではこれ、止めませんか? ほかの男があなたの胸元を見ているような気がして、心配なんです」
フレッドは谷間を作るのに反対らしい。しかしそういうわけにもいかないのだ。エミリアは首を振る。
「だめだよ。谷間がそこそこないと、ドレスを着たとき映えないんだから」
「俺は気にしませんけど」
「私は気になるの!」
それに谷間を作ることを前提でドレスを仕立てたので、いまさら止めるわけにもいかない。
するとフレッドは少し考えてから言った。
「谷間がどうこうと言うより……ほかの男が皆エミリアさんを狙ってるような気がしてきました。夜会に出るの、もう止めませんか?」
「はぁ?」
フレッドは続ける。はじめはドレス姿のエミリアをエスコートできて気分がよかったが、だんだん不安になってきた、と。
「クラークとかいう男、エミリアさんにウインクしてたじゃないですか。あれは、あなたに気があるんですよ」
「そんなわけないでしょ」
クラークという男のノリを考えると、あれは老若男女問わず誰にでもやっている類の仕草に思える。しかしフレッドはエミリアを抱きしめ、悩まし気なため息を吐いた。
「やっぱり、あなたをほかの男の前に出したくない……」
「だからって、引きこもってたら婚約周知できないじゃない」
「それは、そうなんですけど」
フレッドと交際を始めてから、エミリアは狼について記された本をよく読むようになった。たいていの狼は、これと決めた唯一の相手としか番わないらしい。そして独占欲や執着心も強いようだ。
そういった強い感情がエミリアだけに向けられているのだと思うとキュンとしてしまうが、同時に少しだけ面倒くさい。フレッドの感覚に付き合っていたら、人間社会でうまくやっていけないではないか。
エミリアはフレッドの頭を抱えるようにして引き寄せ、つむじにキスを落とした。
フレッドはエミリアのささやかな胸に顔を埋めながら、エミリアを抱きしめる手にぎゅっと力を込める。
彼はエミリアが身に着けているものを取り払う。身に着けるときはものすごく時間がかかったのに、脱ぐときは一瞬だなあと思った。
フレッドはそのままエミリアを抱えてベッドへ向かう。
「エミリアさん、髪の毛……どうしましょう」
ドレスは脱いだが、髪の毛はセットされたままだ。フレッドはこのままシーツに押し倒していいかどうか迷っているのだろう。
エミリアは頭の後ろに手をやり、髪飾りを取ってヘアピンをいくつか外す。そうして髪の毛を下ろした後は、フレッドの首に腕を回した。
フレッドは優しくて静かな口づけを繰り返しながら、エミリアをシーツの上に押し倒していく。
今夜身に着けていたドレスは一人では着られない。フレッドの部屋から出るときは、何か着るものを借りなくてはと思った。
「エミリアさん……」
フレッドは唇を離すと、エミリアの顔をじっと見つめた。エミリアも彼を見つめ返す。
「好きです」
「……うん」
「好きなんです、ほんとうに」
フレッドの感情や言葉は重い。けれども悪い気はまったくしない。
「私もだよ」と囁くと、彼は感極まったようにエミリアを抱きしめ、首筋に、胸元に音を立てながら吸いついた。
「あっ……」
胸の先を吸われてエミリアは身体を捩る。
彼は硬くなった乳首をそっと親指の腹で撫でた。
「あ、ああぅ」
「これ、気持ちいいですか……?」
「んっ、うんっ……」
「エミリアさん、可愛い」
彼はそう言って、再び乳首を口に含む。
「あ、ああーっ」
身体をのけ反らせると、フレッドの手がエミリアの足の間に忍んできて、探るように動く。
「もう濡れてる」
フレッドがさらに指を動かすと、ひたひたと濡れた水音がした。
「や、やだぁ」
恥ずかしいのに、エミリアの足はフレッドを受け入れるために自然に開いていく。
「指、入れますよ」
「ん……」
フレッドは浅い部分で何度か指を前後させ、それからゆっくりと奥に入れた。
「あ、あっ……」
好いところを中から刺激され、エミリアは喘ぐ。彼は親指でエミリアの突起を撫で、さらなる快感を与えてくれた。
「あ、あぅ……い、いっちゃう……」
「いいですよ」
「で、でもっ……」
身体を重ねているうちに容易に翻弄されるようになってしまった。今夜もあっという間に導かれそうになっている。なんだか悔しくて、フレッドの昂りに手を伸ばそうと試みた。
「エミリアさんが先です」
彼はエミリアの一番弱い場所を擦り、少し力を込める。
「あ……ああっ」
エミリアはシーツを掴み、身体を震わせながら絶頂を味わった。
「俺の手で感じてるエミリアさん、可愛い」
フレッドはそう言いながらエミリアの足をさらに開かせ、そこに自分の身体を入れた。
「あ、待って。まだ……」
「いいえ、待ちません」
「あ、ああああっ」
絶頂の波が引かぬうちに硬くて熱いものをねじ込まれ、エミリアは再び達した。
「うわ。エミリアさんの中、びくびくしててすごい……動きますよ?」
「えっ、待っ……あああんっ」
フレッドは腰を引き、それからエミリアの一番奥を突いた。互いの腰をぴったりくっつけたまま、フレッドはエミリアを揺さぶる。
「エミリアさん、こうされるの好きでしょう?」
「は、ああっ……」
「エミリアさん?」
エミリアが喘ぐことしかできずにいると、フレッドはぐいぐいと自分を押しつけてくる。
「ぁあ、ん……好きっ……」
「じゃあ、これは……?」
フレッドは膝立ちになってエミリアの腰を抱え、前後に動く。彼の先端が、お腹の裏側を擦っていった。
「ああ、すご……っ」
ぎしぎしとベッドが軋んだ。今夜は翻弄されてばかりだ。またあっさりと導かれそうになって、エミリアはシーツを握って堪える。
「我慢しないで、いっていいんですよ」
彼は腰を揺らしながら、エミリアの突起を摘まんだ。
「あっ……!」
不意打ちに近いその行為は、エミリアの中をさらに潤わせた。フレッドが動くたびにぐちゅぐちゅと淫らな音が響く。
「ああ、ああ……」
「エミリアさん、可愛い……好きです……」
「ん、うん……」
「好きなんです……」
エミリアはすでに朦朧としていたが、フレッドもうわ言のように囁き、自分が果てるために動き出した。
息を整えながら窓のほうを見やる。満月だから、カーテンの隙間から入ってくる月明かりがいつもより強い。そこでエミリアはふと気がついた。
満月のときのフレッドは、夢中でエミリアを求めていたはずだ。濡れているとわかるとすぐさま入ってきて、熱病に冒されたように動いて自分の欲望を吐き出し、我に返った後は「すみません」と肩身が狭そうに謝るのだ。
二度目はエミリアを満足させるために時間をかけてくれるわけだが、実はエミリアは一度目のがむしゃらな行為が嫌いではない。
でも、今夜はそれほどガツガツしていなかったなと思う。何度も身体を重ねているから慣れてきたのだろうか。あるいは二人で夜会に参加するなんて珍しいことをしたから、彼も疲れているのかもしれないな、と考えた。
「エミリアさん。言おうかどうか、迷っていたんですけど」
そのとき、フレッドが静かに口を開く。
「うん。何?」
「ちょっとまだ確信が持てないんですけど、でも、伝えておいたほうがいいような気もしていて……」
「だから何よ」
先を促すと、フレッドはエミリアを見つめ、それから天井に視線を移す。
「イースター伯爵邸の裏庭に全裸の男がいたって、エミリアさん言ってたじゃないですか」
「ああ、うん」
そういえば、そういうことがあった。変態なのか、逢引きなのか、はたまた追いはぎに遭ったのかよくわからなかった。茂みで全裸になるような可能性を色々と考えていたときにバンクス侯爵家の騒ぎがはじまったから、結局有耶無耶になっていたのだ。
フレッドは一度大きく息をつき、続ける。
「裏庭の茂みの残り香と、バンクス侯爵家の……クラークという名の男の香りが同じだったんです」
エミリアは瞬きを繰り返し、フレッドの言葉の意味を考えた。全裸男の残り香と、クラークの香りが同じ。それって、つまり。
「えっ?」
彼の言葉を理解すると同時に身体を起こす。
「あのクラークって人が、変態だってこと!?」
「茂みに潜んでいたのは彼だと思います」
フレッドは続ける。会場でクラークが暇を告げてこちらへ歩いてきたときに、気がついたのだと。それで観察するためにクラークに視線をやったら、目が合ってしまったらしい。
「ええー! 上品なお坊ちゃんに見えたのに」
まさか、変態だったとは。
エミリアはそう口にしてシーツに突っ伏した。
まあ、どれだけ育ちが良かろうと、どれだけお金を持っていようと、ヘキには関係がない。ウルフナイツで数多の事件に関わっているとそう痛感させられる。
「……変態と決めつけるには、まだ早いかもしれませんけどね」
「あんな場所で全裸になってるんだもの。じゅうぶん変態でしょ?」
「そうですね……逢引き、追いはぎ……全裸にならなきゃいけない理由って、ほかに思いつきます?」
「う~ん」
エミリアはふと顔をあげてちらりとフレッドを見やる。そして意味ありげに笑った。
「……人狼だから、とか?」
フレッドが狼になる際、その姿に合わせて都合よく衣服のサイズが変化したりはしない。あらかじめ裸になってから変身しないと、服が破けたり伸びたりしてしまうのだ。
だからフレッドは人狼の能力を最大限に使って捜査する際、いったん裸になる必要がある。部屋の中で変身してから外出することも多いが、外の茂みで服を脱いでから変身したことも一度や二度ではない。事情を知らない人にその場面を見られてしまったら、変態の烙印を押されることは確実である。
でも、いまの推理はもちろん冗談だ。人狼なんてそうそういるわけがないのだから。多分。
フレッドもそれを理解しているらしい。
「ふふっ。その説、面白いですね」
そう答え、彼も笑った。