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転生令嬢はドスケベ世界でキラキラ変態王子に執着されています! 1

第一話

 


 前世でアニメや漫画が大好きだった私は、特に「転生」をテーマにしたものが大好きだった。自分が不運にも死んでしまったら、どんな世界に生まれ変わりたい? なんて想像を膨らませていたものだけど……。
「あぁんっ! はぁんっ! そこっ! ああ、ジャッキー! あなたのち●ぽとってもいいわっ! もっとそこを突いてっ!」
「ここか? はぁはぁ……ルル、お前は新人メイドだけど、お前のま●こはベテランだよ! 俺のち●ぽをこんなに締め付けて! ああ、ルルのベテランメイドま●こ、最高だ!」
「おっ! 仕事の途中でセックスか? 精が出るな! 精子だけにっ!」
「執事長、笑わせないでくださいよ~! 萎えちゃいますからっ!」
「甘えたことを言うんじゃない。私が若い頃はどんなことがあっても勃たせ続けてたぞ? ほら、しっかり頑張りなさい。ほーれ、若者ち●ぽ、頑張れ! 若者ち●ぽ頑張れぃっと!」
「ちょっ! 勘弁してくださいよ~!」
 ピシャリとお尻を叩かれ、ジャッキーは激しく腰を振った。ルルは大きな嬌声を上げ、その声に誘われた別の使用人たちが淫らに交わり始める。
 ま、また、始まった……!
 爽やかな外の空気を吸おうと窓を開けた私は、その光景を見て窓を閉めた。
 私、アンリエット・ラブラシュリは、病気で命を落としたことによって異世界の公爵令嬢として転生してしまったのだけれど、その世界の常識がとんでもなかった。
 一見、普通の中世ヨーロッパ風のこの国、なんと淫らであればあるほど素晴らしいとされていた。
 男女ともに身体が成熟する十八歳を境に、身分問わずに人目も憚らずエッチしまくるようになる。実際はもっと若いうちから始めているものも多くいるみたいだ。それに対して特に罰則等はないどころか「熱心ね」と褒められる。何それ!
 この国ではエッチが最重要なので、うちの使用人たちも仕事中であっても気にせずあちこちで励む。
 仕事を放棄していると咎める者は誰もいない。急ぎの仕事じゃない時は他の者がフォローするのが暗黙のルールなので、業務上問題はない。
 夜は異性と過ごすことを推奨されていて、朝も挨拶代わりにエッチをするのが良いとされている。
 ちなみに相手がいない場合、体調不良の日以外は毎日自慰を義務付けられている。めちゃくちゃだ。
 乱交、不倫、エッチなことは正義で、なんでもありというとんでもない世界だ。
 なぜ、エッチが重要視されるのか――それは淫らな行いをすることで、魔力が発生するからだ。淫らな行為で発生した魔力は、王城の隣に建つ魔法塔に集められ、国を運営するライフラインに変換して使われている。
 ちなみに治療魔法や避妊魔法があるので、性病や望まぬ妊娠の心配はない。安心してエッチライフを楽しめる。けれど、前世でド陰キャ処女だった私に付いていけるわけがない。
 赤ちゃんの時から前世の記憶があった私は、この世界のルールを知って絶望した。こんなの無理!
 前世の私は冴えない容姿に生まれ、小学校の時に男の子からブスだとイジめられたことがキッカケで異性が苦手になり、以来、避けて生きてきた。
 恋愛には興味がなかったわけじゃない。むしろ憧れていたから、たくさん乙女ゲームをプレイして疑似恋愛を楽しみながら生きたが、二十四歳で風邪を引き、高熱を出したことがキッカケで死んでしまった。
 恋愛経験なんて皆無で、もちろん処女だ。そんな私がこんなとんでもない世界に順応するなんて無理! 
 男性との接触を徹底的に避けるため、部屋から出られなくなった。外出は必要最低限にとどめ、部屋の中に引きこもり続けた私は両親から心の病と勘違いされてしまった。医師の勧めもあって、結局王都の本邸から、自然豊かなラブラシュリ公爵領にあるうちの一つの別邸へ移り住んだ。
 貴族としての体面を保つため、表向きには心の病ではなく、呼吸器が弱いので空気が綺麗な領地で静養している……ということになっている。
 外に出ないから私の貞操は守られているけれど、使用人たちが所かまわず励む姿を何度も目撃してしまっている。
 もう、なんで私、こんな変な世界に転生しちゃったの!? 前と同じような常識の世界がよかった!

 

 

 

 


 ああ、もう嫌~! こんな世界もう嫌~~~~~!!
 ベッドに寝転び、バタバタと手足を動かしていたらノックもなしに扉が開いた。
「アンリエットお姉様っ! また、こんな真昼間からお部屋に閉じこもって!」
「リルム! 来ていたの? 久しぶりね」
「またそんな色気がないドレスを着て……せっかく良い素材を持っているのに、どうして活かそうと思わないのかしら。相変わらず一人寝をしているの?」
「当たり前でしょう。こんな田舎だもの。貴族男性は一人もいないわよ」
「年頃の男性使用人がそこそこいるじゃない。日替わりで味わえば?」
「ば、馬鹿なこと言わないでよっ!」
 リルムは私の妹だ。今年十六歳になった彼女は、他の令嬢たちと同様に、もっと若い年齢から男性と関係を持っている。
「馬鹿なのはお姉様の方でしょ」
「うっ……」
 そうなのよね。ここの常識では、私が異端なのよね……。
 転生した私は、リルムが言うようにとても良い素材に恵まれている。
 サラサラのプラチナブロンドに神秘的な青紫色の目、少女と女性の魅力をいいとこどりしたような顔立ちで、まるで計算しつくされた人形みたい。
 陶器のような白い肌に、胸なんてグラビアアイドルになれるんじゃないかってぐらい大きいし、腰はくびれて手足も長い。
 ここにいられて本当によかった! もしあのまま王都に住んでいて、社交界に引きずり出されたら、無事でいられないわ……!
 平民から貴族への強姦は罪になるけれど、貴族から貴族への強姦は、保護者や配偶者が許せば罪に問われないというへんてこな法律だもの。やられ放題だったはずよ。
 ちなみに貴族から平民への強姦は合法だ。庶民からするとむしろ名誉なことで、配偶者も「貴族から求められた女性を妻・夫にしている」と、羨望の眼差しで見られるらしい。ありえない。理解できない。
 残りの人生がどれくらいあるのかわからないけど、私は貞操を守って、ずーっとここで平和に暮らしていくんだ。
「リルム、今日は泊まっていく?」
「ええ、一晩泊まって、明日お姉様と一緒に王都へ帰るわ」
「…………え?」
 私と一緒に、王都へ帰るってどういうこと?
「お父様が忙しいから、わたしが代わりに連れ戻しにきたのよ」
「な、ど、どういうこと? どうしてそんな急に……」
「実はね、お姉様に縁談が来たの」
「縁談!? 病気療養中の私に!?」
「病気っていっても、呼吸器が弱いから空気が綺麗な領地で静養中……っていう建前になっているじゃない?」
 もっと重病ってことにして貰えばよかった……。
「ラブラシュリ公爵家が断れないってことは、まさか……」
「そう、バラデュール王家からの求婚よ。第一王子のジェラルド殿下」
「ジェラルド殿下!?」
 ジェラルド殿下は、確か二十歳だったかしら。王子だから位が高い令嬢、もしくは他国の王女を妃に迎えるのが通例だけれど、わざわざ静養している私なんかを選ばなくてもいいのに。公爵家はこの国にあと三つあって、ジェラルド殿下と歳が近い未婚の令嬢は、私以外にもいる。
 それなのに……。
「ど、どうして私なの?」
「女神フェリッパからの神託が下ったのよ。ジェラルド殿下がお姉様を妃として迎えることができれば、チューベローズ国はかつてない繁栄を迎えるだろうって」
「な、なんですって!?」
 チューベローズ国では、フェリッパという豊穣と繁栄をもたらすと言われている女神を信仰している。
 とんでもなくエッチで性に奔放なフェリッパを称え、我が国ではセックスしまくることが推奨されているのだ。
 そしてこのたび、フェリッパの神託が下ったと神殿から通達があった。フェリッパの意思は絶対であり、たとえ王族であっても背くことは許されない。もしも逆らえば、国が滅ぶと言い伝えられている。
「神託で王族の結婚相手を選ぶなんて聞いたことがないわ。今までの神託は、災害が起きるかもしれないから何日から何週間はどこだかの地域に近付くなとか、なんとか国が攻め入ろうとしているから防衛しろとかそういう系だったじゃない」
「そうそう。五百年の歴史の中で初めてだそうよ。お姉様、ご婚約おめでとう」
「そんなぁ~~……っ!」
 こうして私は、王都に戻ることになってしまった。
 公爵令嬢としての教育は一通り受けてきたけれど、一生領地で暮らすと思っていたから、貴族たちの情報については疎い。
 私の婚約者になってしまったジェラルド殿下は、このとんでもない国の第一王子で、次期国王の座が約束されている人物だ。
 ずば抜けた美貌の持ち主で、チューベローズ国の秘宝と呼ばれているらしい。令嬢たちから大人気だけど性格は冷たく、誰に誘われてもエッチすることはない……って本当かしら。
 国王候補なのにも関わらず、浮いた話が一つもないのを周りから心配されていた矢先の神託だったらしい。
 神様も余計なことをしてくれるものだわ……。
 あまりに女性を寄せ付けないものだから、実のところ男性に興味があるのではと囁かれていたくらいだけれど、そちらの噂も一切ないのだとか。
 ということは、この国には珍しく貞操観念が高いということ? だとしたら、私と気が合うかもしれない。
「アンリエットお嬢様、聞いていらっしゃいますか!?」
「んんっ! え、ええ、聞いているわ」
 王都の本邸に戻ってきた私は、性教育を主とした令嬢教育を受けていた。
「じゃあ、この体位の名前は?」
 家庭教師のマティルデ伯爵夫人が、教本をパシパシ叩く。そこには男女が身体を思いきり反り返らせ、くっ付いているところは局部しかないイラストが描かれていた。
「!?」
 実際、こんな風にエッチできるものなの!? というか、名前なんて覚える必要ある!?
「え、えぇーーっと……」
「ほら、聞いていない証拠です」
「あ、あの、本当にこんな風にできるものなのでしょうか」
「ええ、わたくしは昨日も主人とこうして交わりましたが?」
 それって実現可能な体位なの!?
 マティルデ伯爵夫人は、大きなため息を吐いた。
「アンリエット嬢、真面目に取り組んでくださらなくては困ります。あなたはただでさえ人の三倍も四倍も学習が遅れているのですから」
「申し訳ございません……」
 王都に戻ってきてから毎日毎日エッチの授業で、頭がおかしくなりそうよ。何か別の勉強がしたいわ。
「はあ……これでお披露目の儀に間に合うかしら。心配で胃が痛くなってきましたわ」
「え、なんですか、それ」
「それすらもご存知ありませんの!? ああ、頭まで痛くなってきた」
 頭を押さえたマティルデ夫人は、大きなため息をつく。
「だって、ずっと領地に引きこもっていましたし、王都の行事はよく知らなくて……」
 言い訳しようとしたら、マティルデ夫人がカッと目を見開く。
「ひっ」
「領地に閉じこもっていようと、いまいと、知っているのが常識なのです! じょ・う・し・き! なのですっっっ!」
 二回言った……。
 あまりの迫力に呆然としていると、マティルデ夫人がハッと我に返る。
「わたくしとしたことが、失礼致しました。では、お教えしますので、一度で覚えてくださいね」
「は、はいっ」
 うう、知るのが怖いから、聞きたくないかも。
「今年、十八歳になる令嬢たちは、半年後に王城で行われるお披露目の儀に出席します。そこで認められなければ、立派な成人として見なされません」
 別に認められたいわけじゃないけれど、王子と結婚するんだもの。そういうわけにもいかないわよね。
「お披露目の儀は大ホールで行われ、チューベローズ国の十八歳以上の貴族数千人が集まります。そこで令嬢はパートナーとセックス致します」
「…………え?」
 セ? え? 聞き間違いよね?
「パートナーとセックス致します。この時にお互い絶頂に達しないと、社交界デビューは認められません。潮を噴くと尚良いですね。潮を噴くことができれば、陛下より勲章を授与されます」
 貴族たち数千人の前でセックス!? 社交界デビューの条件が、公開セックスだってこと!? ありえない!
「す、数千人に見られるなんて……」
「ああ、ご安心ください。令嬢たちの前には映写の魔道具が置かれ、後ろの巨大画面に映し出されますし、見守る貴族たちにも手元に映せる水晶板が貸し出されるので、どれだけ多くなろうとも隅々まで見ていただけますわ」
 いや、何の心配!? 余計嫌なんですけど!
「わ、私には無理です。そんな儀式になんて出られません」
「アンリエット嬢、あなたはラブラシュリ公爵家のご令嬢なのですから、弱音は許されません」
「そんな……」
 本当に私、どうしてこんな世界に生まれてきちゃったの?
 涙目になっていると、夫人が肩を優しく叩く。
「マティルデ夫人……」
 励ましてくれているのね。
「大丈夫です。処女だから不安に思うだけです。経験を積めば、そんな不安は消えてなくなりますわ。その辺の男性使用人で済ませてしまいましょう」
「い、いやいやいやいや! そういうことじゃないんですよっ!」
「ですが、お披露目の儀で処女なのはマナー違反ですよ? 乳首や秘部が初(う)心(ぶ)な色形のままなのは恥ずかしいことです。この半年間で開発しなければなりません」
 マナー違反? 恥ずかしいこと? もう、何それ……。
「まあ、来週はジェラルド殿下と初めてご対面されますし、他の男性が嫌なら、殿下としっかり励んでいただいて、お披露目の儀にちゃんと間に合わせられるように頑張ってくださいね」
 眩暈がする。椅子に座っていなかったら、倒れていたかもしれない。

 ――そして、とうとう顔合わせの日がやってきた。
 ラブラシュリ公爵家の財産を「これでもか!」と詰め込んだ煌びやかな衣装を身に着けた私は、両親と共に王城を訪れた。
 ああ、憂鬱……。
 この顔合わせの後、私はジェラルド殿下の寝室に入り、身体を重ねる予定となっている。そのため今朝早くから全身のマッサージなどのお手入れを受け、ピッカピカだ。
 ジェラルド殿下のことを改めて調べ直してみた。彼は王子教育の一環で指南役の女性を義務的に抱いた以外は、本当に誰にも手を出していないらしい。
 ということは、そういうことが好きじゃないのよ! 私にも手を出さないかもしれないわ。
 やや希望を持ちながら、謁見の間に続く廊下を歩く。
 門番によって重厚な扉が開かれた。繊細な彫刻が施された柱が並び、壁には巨匠の描いた絵画が飾られている。
 う、うわわわ……緊張してきちゃった。
 こういう場は初めてだから、冷や汗が出てくる。
 真っ直ぐに伸びた深紅の絨毯の先には、黄金の玉座にどっしりと座った国王陛下。その傍らに立っているのは――……。
 うっわーーーーーーーーーー……っ!
 この世のすべての美しいものを集めたような麗しい青年が立っていた。短く切りそろえられた黄金色のサラサラの髪、柔らかな眉の下には深い海のような青い瞳が覗く。
 スラリと伸びた手足、その身体は衣装の上からでもよく鍛えられているのがわかる。
 これは令嬢たちが夢中になるのもわかるわ。どんな絵画よりも、前世で見た芸能人よりもカッコいい……!
 ジェラルド殿下は興味がないようで、明後日の方向を向いている。近付いても同じ。
 あ~……不本意だって思っているんでしょうね。わかるわ……私も同じ気持ちよ。
 国王陛下の前に立った私たちは、頭を下げる。
「楽にしてくれ。アンリエット嬢、よく来てくれたな」
「お初にお目にかかります。ラブラシュリ公爵家が長女アンリエットでございます」
「幼い頃に一度だけそなたを見たことがあるが、これは……随分と美しく育ったものだ。そなたのような美しい令嬢を妻にできるなど、我が息子は幸せ者だ」
「とんでもございません」
「身体の調子はどうだ? 持病の肺の患いは落ち着いているか?」
「はい、おかげ様で」
 そんな会話をしていても、ジェラルド殿下はつまらなそうにして、こちらを見ようともしない。
 私に興味がない……というか、すべてのものに対してという印象。綺麗な海の色の瞳はぼんやりと濁り、夢も希望もなさそうだ。
「ジェラルド、良い歳をしていつまで拗ねておる。失礼な態度を取るな! アンリエット嬢は、そなたのためにラブラシュリ公爵領からわざわざ王都へ来てくれたのだぞ?」
「……俺はそんなことなど頼んでおりません」
 ジェラルド殿下は大きなため息を吐き、面倒そうに呟いた。
 うわ、声もすごくいい。低くて、どこか甘くて、色っぽい。
「また、そなたはそんなことを……!」
「神託が下されたから渋々従っているだけです」
「ジェラルド、真面目にセックスに取り組まないからそのような性格になるのだ。はぁぁ……アンリエット嬢、すまないな」
「い、いえ、お気になさらないでください」
 だって、私も同じだもの。
 神託に逆らえないのは、公爵令嬢も王子も一緒なのね……。
「ジェラルド、こちらを向かないか」
 国王陛下に一喝され、ジェラルドは気怠そうにこちらを向いた。
 気まずさを感じながらも目を合わせた瞬間、脳に電流が走ったような衝撃を受け、私は目を見開いた。
 え? あれ?
 衝撃を受けたのは私だけではなかったようで、ジェラルド殿下も目を見開いていた。彼の姿に重なって、別の人物が一瞬見える。
 柔らかな印象で綺麗な、私の――。
「りっくん?」
「……っ……ゆ、ゆーちゃん」
 ジェラルド殿下は私を見て、大粒の涙を流した。
「なっ……ジェ、ジェラルド、どうしたんだ!?」
「も、申し訳ございません! 我が娘が何か殿下に失礼を!?」
 ジェラルド殿下は私の手を取り、出口へ向かう。
「ジェラルド! ま、待たんか! 一体どこへ……っ」
 国王陛下と両親、そして警護の騎士たちが追いかけてくる。
「寝室に向かいます。今すぐに二人きりになりたいのです」
 でも、ジェラルド殿下のその言葉に、皆一斉に追ってくるのをやめた。
「息子よ……ようやくヤる気になってくれたのだな。父は信じていたぞ」
 国王陛下が涙を流して喜ぶのも気にせず、ジェラルド殿下は足を進め、謁見の間を後にしたのだった。

◆◇◆

 ジェラルド殿下は寝室に入って鍵をかけると、息を切らした私の顔をジッと見てくる。
 先ほどのようにりっくんの顔はダブって見えない。でも、わかる。彼はりっくん――前世の私の幼馴染で、弟のように可愛がっていた小金井莉玖くんだ。まさか、こんなとんでもない世界に転生していたなんて……。
「ゆーちゃん、ゆーちゃんだよね?」
「うん、りっくん。私だよ。坂宮佑奈だよ」
「……っ……ずっと、ずっと会いたかった! ゆーちゃん! わぁぁぁっ……!」
 りっくんは私を抱きしめ、大きな声を出して泣く。私も懐かしさとまさかの再会に涙を流す。
「私も会いたかったよ。りっくん」
 りっくんは私より五歳年下で、家の隣に住んでいた男の子だ。
 私が小学校六年生の時に引っ越してきて以来、ご両親が仕事で家を不在にしがちだったことからよく我が家で預かっていたのだ。
 一人っ子でずっときょうだいが欲しかった私は大喜び! りっくんをとても可愛がり、彼もよく懐いてくれた。
 それは大人になっても変わらなくて、私が死ぬキッカケになった風邪を引いた時も、食べ物をたくさん持ってお見舞いに来てくれたっけ。
 懐かしい。まさか、こんなところで会えるなんて思わなかった……。
 そこで私はハッとする。
 私が生まれ変わったのは、前世で命を落としたから……ということは、りっくんも?
 彼の肩を押し、涙で濡れる彼の顔を見て尋ねる。
「りっくん、あなた……し、死んじゃったの?」
 手の甲で涙を拭ったりっくんは、コクリと頷いた。
「うん、ゆーちゃんが死んじゃった後、俺、もうなんにも手が付かなくなって、自暴自棄になってぼんやり過ごしてるうちに、うっかり事故に遭って死んじゃったみたいだ」
「えっ!?」
 自暴自棄になるぐらい私の死を悲しんでくれていたなんて……っていうか、それって私のせいじゃない!?
 成績優秀で一流大学に入ったりっくんの輝かしい人生を、私が奪ってしまったなんてどうしよう。いや、もう死んじゃったんだからどうにもならない。
「……っ」
 何も言えずにいると、りっくんが濡れた目で私を見つめる。
「ごめん……こんな言い方をすると、ゆーちゃんのせいで死んだって責めているみたいだ」
「う、ううん、でも、本当だもの……」
「俺は死んでよかったんだ。ゆーちゃんのいない世界なんて、生きていても意味がなかったから、むしろ死ねて嬉しい」
「そんな!」
「だって俺、ゆーちゃんのことが、ずっと好きだったんだ」
「……えっ!?」
 りっくんが、私を……好き!? 嘘でしょう!? だって私なんて近所のお姉さんってだけなのに、好き? え? あっ! 本当の姉のように思っていて、家族愛って意味? でも、それで死んでもいいだなんて考えになる?
「あ、ゆーちゃんは鈍いから先に言っておくね。一人の女性として好きなんだよ。愛しているんだ」
 家族愛じゃなくて、女性として――……!
「……っっっっ!」