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モテすぎ伯爵様(夫)と私の悩ましい溺愛結婚生活 1

第一話

 

「……っ!」
 腰を押しつけられ、奥まで一気にはめこまれる感覚にポリーナは息を詰めた。
「っん! ん、ん、ん……っ!」
 キリルはここのところ忙しく、数日間、ポリーナと暮らすこの屋敷に戻っていなかった。それもあって、こんなにも硬くて大きくなっているのだろうか。
 ――にしても、きつ……い、……わよ、こん……なの……っ。
 ポリーナはどうにか少し上に身体をずらして、その深さから逃れようとした。いくらたっぷり濡れていても、この大きさは無理がある。
 夫婦の部屋に備え付けの大きなベッドの天蓋を、恨めしい気持ちで見上げた。
 だが、腰をつかまれて引き寄せられ、また元の深さまで入れ直される。
「っう、あっ!」
 痛みはないのだが、圧迫感がすごい。
 ぞくっと身体の奥まで押し開かれる感覚に、悲鳴のような声が漏れた。その声の大きさに驚いたのか、キリルが動きを止めた。
「痛くは、……ないよね?」
 この、最初に道をつけられていくときの、特別な感覚をどうキリルに伝えればいいのだろう。快感と恐怖は紙一重だ。すぐにこれが気持ちよさに変わっていくことを、ポリーナの身体は知っている。
 あえぐように、どうにか声を押し出した。
「深、すぎ……る」
「だけど、ポリーナ。……ここ、好きだろ?」
 キリルはよく知っているポリーナの性感帯を、おさらいするように丁寧に切っ先でなぞった。それだけで、ぞわぞわと鳥肌が立つほどの快感が広がった。
「っん、ん、ん……っ」
 なかなか慣れることもない深い部分に、容赦なく快感を送りこまれる。
 その刺激に合わせて、今は触れられていない乳首まで硬く凝り出した。
「う、ぁっ、……あ、……あああ……」
 キリルの切っ先がそこに押しつけられるたびに、重苦しさを伴った快感が身体の芯まで広がる。勝手に腰が跳ね、全身の毛穴が開いて汗が滲む。
 まともに息ができなくて、急速に鼓動が速くなっていく。
「ダメよ、……そこ……っ」
 だが、キリルはポリーナの声に滲む快感をいつも上手に読み解いた。気持ちよさの予感を孕んでいるために拒んでいると見抜いているからか、容赦してくれない。
 刺激されているうちに、ポリーナの身体はキリルの大きさに少しずつ馴染んでいく。襞の柔軟性が増し、甘くひくつき始めた。
 だが、それによって中がより開いたのかもしれない。キリルのものがなおも一段と深くまで入ってくる感触があって、ポリーナは息を詰めた。
 先端が、奥にごつっと当たる。そこを押されるたびに、切迫した快感が広がった。
「っあ!」
 ここまで入れられたのは、初めてではないはずだ。だけど深すぎて、感じすぎるから怖かった。がっちりと深くまではめこまれると、また身体が逃げそうになる。
 以前、そこを攻められたときには感じすぎて泣いてしまった記憶が、ちらっと頭をかすめた。
 キリルはやたらとポリーナの身体に快楽を教えこもうとするが、未知の感覚を知りすぎるのは怖いのだ。
 ――だって、……おかしくなりそうだもの。
 これまで肉体の快楽とは無縁なまま生きてきたポリーナだけに、キリルとの交歓から得られる快楽に馴染みがない。彼に抱かれるたびに、自分の身体のどこに潜んでいたのかわからないほどの、さまざまな快感が引き出されることに、戸惑い続けている。
 キリルは自身の快楽よりも、ポリーナをより感じさせることのほうを重要視しているようだ。だけど、それに熱中するあまり、ポリーナは感じさせられすぎる。
 それが問題だった。
 ポリーナにはなすべき仕事が山のようにある。キリルに抱かれているときは気持ちが良いのだが、身体に疲れも残るし、睡眠も足りなくなる。
 それでも、見上げれば見えるのは、ずっと昔から大好きなキリルの顔だ。彼が自分と結婚してくれたのが、今でも信じられない。こんなふうに全身、余すところなく愛されることも。
 ポリーナの一番深い場所まで貫いたキリルは、目が合うと切迫したように目を細め、唇と唇が触れ合いそうな距離に顔を寄せてささやいた。
「すごく気持ちがいい、ポリーナ」
 その声の響きに、ぞくっと身体が痺れた。
 彼に快感を与えているのは他ならぬ自分だと思っただけで、すごく興奮する。
 それに、最初の違和感はすでに快感に変わっていた。ポリーナの身体はキリルの形に押し開かれ、隙間もなくつながっている。
 すぐに動かされるのかと思いきや、キリルの手はポリーナの胸元に伸びた。その柔らかな双乳を大きなてのひらで包みこみ、乳首を親指でそっとなぞりあげた。
「あ……っ」
 尖った部分が指に引っかかり、身体の芯にまで甘い刺激が走り抜ける。
 そんなふうに何度も指でいじった後で、キリルは片方の乳首に顔を近づけた。
 熱い肉厚の舌先で、ちろちろとその敏感な突起を舐められると、甘い痺れに腰が浮き上がりそうになる。反対側の乳首も指で転がされた。
 乳首に刺激を与えられるたびに襞がひくついて、複雑な快感がそこから生み出される。
 焦れったさも混じった気持ちよさに、ポリーナは溺れるしかない。ポリーナが締めつけると、入れっぱなしの性器から戻ってくる快感もひたすら気持ちよかった。
「っん、……は、……は、は……っ」
 左右の乳首から広がっていく快感が極まるにつれ、ポリーナはだんだんとじっとしていられなくなった。
 もじもじと足がベッドの上で動く。深くまで迎え入れていたキリルのものに、いいところが当たるように、自ら腰を動かしてしまう。
 キリルが乳首を甘噛みするのも気持ちよくて、腰が跳ね上がった。
「っふ、……はぁ、んぁ、あ……、あ……っ」
 意識がふわっと浮きあがり、乱れた声がだだ漏れになる。時々、自分がそんな声を出しているのに気づいて唇を噛みしめるのだが、キリルはそれを許してくれない。
 なめらかに舌が動いて、乳首を小刻みに吸い上げられる。
「っうぁあ……あ、……あ……っ」
 きゅ、と片方の乳首が指で引っ張られたのに合わせて、唇があるほうの乳首も、歯を立てて引っ張られた。そうかと思うと、ひたすら甘く舐め溶かされ、ポリーナの感じるやりかたを熟知した愛撫が続けられる。
 入れっぱなしの状態での引き続く愛撫に、快感がかきたてられる。襞がますます熱くなり、それを動かしてもらいたいという焦燥で、身体が灼ききれそうになる。
「……っあ!」
 そのとき、キリルが大きく腰を動かした。
「っぁあああ、あ……!」
 待ちかねた刺激が全身に響く。中にぎゅっと力がこもった。
 快感であふれそうだった身体が、その強い刺激によって一気に絶頂まで押し上げられた。
 体内に入ったままのキリルをギチギチに締めつけ、その硬さと大きさを実感しながら、それに擦りつけるように、自分から腰を振ってしまう。
 そのことでさらに感じて、なかなか絶頂が収まらない。
「っあ、……あ、……あ、……っ、ひぁああ……っ!」
 大きな爆発が立て続けに起きた。
 それをどうにかやり過ごした後で、ポリーナは息をつく。
 力が入りきっていたせいで、キリルのものの形が身体に刻まれている。
 目の端に涙がたまっていた。
 しばらく息を整えることに集中していたのだが、何か気配を感じて視線を巡らせた。
「……っ!」
 途端に、すぐそばから凝視されていることに気づいて、ギョッとする。
 反射的に視線をそらしたものの、その後でじわじわと恥ずかしさがこみあげてきた。
 達したときの表情や反応を、ずっと見られていたのかもしれない。そう思うと、いたたまれなくなってくる。
「……ずっと、見てたの?」
 ポリーナは、上ずった声を押し出した。
 まだキリルのものは体内でその大きさを誇っている。身じろぎせずとも、それがそこにあるのだと絶え間なく伝えてくる。
 キリルがポリーナの足を抱え直し、ついでに膝に軽く口づけてから言ってきた。
「もちろん。……君がそうなるとき、眉を寄せて、すごく気難しい顔になるのがたまらないからね」
 ――気難しい?
 そういうときの様子を形容するにしては、ふさわしくない言葉を突きつけられて、ポリーナは固まった。
 だが、キリルにはどれだけ失礼なことを口走ったのかという自覚がないらしい。愛しげにポリーナの顔面にキスを降らせながら言ってきた。
「感じてる顔が、……すごく可愛い」
 ――可愛くないわよ! 気難しい顔してるんでしょ……!
 だが、反論は声にならない。言われてみれば、眉間に力が入っている自覚があった。
「だったら、……あなたの顔を、……次は、見てるわ。どれだけあなたが、……気難しい……顔をしてる、か」
 何度か、している最中のキリルの顔を盗み見たことがある。だが、気難しいという顔ではなかった。気持ちよさそうで官能的なキリルの顔は、とてもドキドキするような端整さに満ちていた。
 ――に比べて、私は気難しい……?
 二人が結婚を決めたことに、国中が騒いだと聞いている。
 ポリーナの耳に届いた多くは、『あの女が結婚できるとは思わなかった』というものだった。ぼさぼさ髪でローブをまとい、ドレスも着用せずに、好き勝手に王城内をうろつき、旧弊を打破しようと奮闘するポリーナの姿は、頭の固い年寄りたちには目障りなものであるらしい。
 その知識量には逆らえないものの、女というだけで認めたくない輩も多いのだろう。
 女性たちからは、ポリーナはキリルにふさわしくないと思われているようだ。その気持ちは十分に理解できる。
 誰よりポリーナが、自分の容姿はキリルにふさわしくないと、ずっと思いこんでいたからだ。いつでも華やかに艶やかに着飾っている宮廷の華たちと、自分は大きく違っている。
 ――だって、着飾ることに興味がないのだもの。
 ポリーナの意識を惹きつけてやまないのは、世界中のさまざまな謎だ。どうして蝶は飛ぶのか、どうして花は開いて実を結ぶのか。
 空から落ちてくる雪の正体は何か、雹による被害を防ぐ方法はないのか。
 いつでも外界のことばかりに意識が向いて、自分の外見に気を配る余裕がない。
 何よりポリーナが着飾ろうとしないのは、キリルに幼いころ、言われた言葉が頭にあったからだった。
『君はあまり綺麗じゃないんだから、男に顔を近づけたらダメだよ』
 それは、成長して日々綺麗になっていくポリーナが、警戒心なく男性に近づくことへの、キリルの独占欲の表れだった。そんなことを後になって、その本人に告白されもした。だが、長年、ポリーナが自分にかけてきた『綺麗じゃない』という呪いは、そう簡単に解けるものではない。
 それでもキリルに恋する気持ちは抑えられずにいたのだ。一生をかけた片思いで終わると思っていただけに、こうして今、こんな関係になっていることが信じられない。
 特にその、びっくりするほど綺麗な顔でのぞきこまれたときには。
「ああ。……ずっと私を見ていて。君に見つめられると、すごく燃える」
 情事のときでも、キリルは自分の顔に自信があるらしい。熱っぽい表情でささやいて、腰を引いた。
「んっ」
 すでにポリーナの中は、すっかり甘く溶けている。まだ絶頂感が完全に消えていないうちに、柔らかい体内をキリルの切っ先で押し広げられると、びくんと全身が反応してしまう。
「っぁ、……あ、……あ、……あ……っ」
 その太さと硬さに、ひどく昂った。
 掻き回されると、疼きまくっていた襞が、腰砕けになるような快感を送りこんできた。
 気持ちよすぎて、眉根が寄っていくのがわかる。
 指摘されたばかりだから、こんなときの表情をどうにかしたい。なのに、絶え間なく動かされると、快感にあらがうすべがない。
「……ん、……あ、……あ……」
 特に今日は、おかしくなりそうなほど深いところまで入れられている。キリルの切っ先が最奥まで届くたびに、息を呑まずにはいられない。
 快感だけに支配されるのが苦手だった。いつでも理性を優先させておきたいのに、キリルが腰をたたきつけてくる最中にはその動きしかとらえられない。
 全身から湧き上がる汗の量が増え、呼吸の苦しさが増すにつれ、頭の中がぼんやりとしてくる。こんなふうになってしまったときには、完全に肉体の快感が優先される。
 キリルはそんなポリーナの、揺れる双乳を両手でつかんだ。柔らかさをたっぷりと味わいながら、動きに合わせてその先端をつまみ上げる。ちょっと引っ張って、浮かせ気味にしてきた。
「っん、……んぁ、あ……あ……っ」
 乳首から広がる溶けるような快感が、中からの快感も複雑なものに変えた。
 ぎゅうっと襞に力がこもる。深い突き上げも相まって、あえぐしかない。
「ん、……ン、…ん、……ん……っ」
 じわじわと涙も湧き出した。キリルの突き上げに合わせて、あえぐ合間に呼吸をする。
 ひたすらキリルの動きを受け止め、そのあげくにまた次の絶頂に追いやられた。
「っぁ、……っあ、……あ、……っも、……ダメ……っ」
 そんな言葉を残して、ポリーナはぶるっと大きく痙攣した。絶頂が重なるたびに、その濃度も深くなる。ガクガクとした下肢の痙攣が、なかなか収まらない。
「ふぁ、……あ、あ、あ……っ」
 その締めつけに誘発されそうになったのか、キリルも短く声を漏らした。
「っ!」
 だが、それをどうにか耐え抜いたようだ。
 まだ中でそのたくましさを保っているのがわかったから、ポリーナは声が出るようになるなり、言ってみた。
「……っふ、……は…ぁ…っ、……ダメ、よ」
「ダメって、何が?」
「これ以上、続けちゃ、……ダメ。……もう、……死んじゃう、から」
 立て続けに達しすぎて、頭がぼうっとしている。それに、キリルとつながっている部分がぐちゃぐちゃで、なかなか痙攣と収縮が収まらない。股関節も軋むし、何より絶頂がこれ以上継続するのはキツい。
 だけど、キリルは乱れた髪をかき上げ、ゾクゾクするほど色っぽい顔を無自覚にさらしてみせた。
「だけど、ポリーナ。――あと少し」
 軽く中で動かされただけで、ひくりと襞が反応する。
「……無理……」
 それなりに武人として鍛えているキリルと、ひたすら引きこもって書物ばかり読んでいるポリーナは身体のつくりが違う。頭脳労働中心だから、体力がないのは自覚があった。
「困ったな。……そうだ」
 キリルがポリーナの腰に腕を回し、上体を抱き起こした。
 キリルは優男に見えるのだが、脱げばしっかりと筋肉がついた身体の持ち主だ。抱き合っているときには、ことさらキリルとの身体つきの違いを思い知る。
 キリルの腰に座らされたことで、ポリーナは自分の体重で深々と入ってくる彼のものをやたらと意識せずにはいられなくなった。
 キリルのなすがままにされているのは、感じすぎて身体に力が入らないからだ。それに、下手に動いたら、まだ快感が収まっていない身体に再び火をつけられそうだ。
 だが、キリルの腰に座っているだけでもマズかった。
 身体の中に息づくそれを、呼吸のたびに感じ取る。蕩けきった中がすぐにうずうずしてきて、ぎゅっとそれを締めつけてみたくなる。
 気持ちが良すぎるところに当たっている気がして、さりげなくずらそうとしてみたものの、何もかも見越した様子のキリルにごりっと突き上げられた。それだけで、息を呑むほどの痺れが湧き上がる。
 ――ダメ……だわ……っ。
「君の中は、本当にたまらないな」
 そんな言葉とともに、いきなり下から突き上げられた。
 気持ちよすぎて腰が浮いたが、体勢がキツかったのでそろそろと沈めていく。それを了承だと見なされたのか、腰にしっかりと腕を回され、下から立て続けに突き上げられる。こんなときの、キリルの硬さときたらなかった。
「っんぁ! ぁ、あああ……っ!」
 ポリーナがこれ以上文句を言わないうちに、快楽に巻きこもうとしているのかもしれない。腰を固定されて、下から闇雲に腰を使われる。
 今までとは、当たる角度がまるで違っていた。
「っう、ぁ、あ、あ……っ」
 キリルはポリーナをまたがらせて、激情のままに突き上げてくる。くたくただったはずなのに、そんなふうにされるとたまらない劣情に煽られて、ポリーナのほうからも腰を揺らさずにはいられない。
「んぁ、……あ、……んぁ、……あ……っ」
 キリルの硬いものが、熱くどろどろに溶けた襞を強烈に掻き回しては抜け、また入ってくる。
 気持ちよさに、視界がかすんだ。
 だが、まだキリルにとっての夜は、始まったばかりらしい。
 その後もさんざんやりかたを変えて、むさぼられたのだ。