戻る

モテすぎ伯爵様(夫)と私の悩ましい溺愛結婚生活 3

第三話

 

「はぁああああ」
 深いため息を漏らすキリルを、セルゲイが先ほどから鬱陶しそうに眺めているのはわかっている。
 だけど、キリルには他に行き場がなかった。
 宮廷内では、神王直属の最高諮問機関である評議会の構成員にふさわしく、それなりに気を張って過ごしている。だが、兵ばかりのこの近衛詰め所なら、ご婦人がたの前では見せられない姿で落ちこめるし、愚痴もこぼせる。背中がちょっぴり丸まっていようが、表情に精彩がなかろうが、気にすることはない。
「寝室を分けようって言われたんだぞ。これが、……どういう意味か、わかるか?」
 すでに何度も言ったことだから、セルゲイがどうでもよさそうに応じた。
「ああ。離婚の危機だな」
 この年上の武人には、どんな姿でも見せてきた。キリルがまだまだ未熟だった若いころから、鍛えてもらっているからだ。
 セルゲイの向かいに座ったキリルは頭を抱え、長い銀色の髪に指を差しこんだ。
「もう終わりだ。……本当は最初から終わってたけど、強引に結婚にまでこぎ着けたんだ。だけど、……嬉しくて、浮かれすぎて、……やりすぎた」
 何でもやりすぎるのが、自分の悪い癖だ。その自覚はある。
 昔からポリーナのことが大好きだったが、彼女は恋愛感情が希薄だとわかっていた。だけど、そこをどうにか押して押して押しまくって、結婚までこぎ着けたのだ。
 だが、空回りしたあげくに、こんな結末に帰着してしまった。ポリーナに捨てられたら、この先の人生、真っ暗だ。こんなことになるぐらいなら、ずっと「いいお友達」のままでいればよかったのではないかとさえ思ってしまう。
 だけど、今さら友達には戻れない。
 近衛詰め所の隊長室に暗い顔で押しかけて、小一時間、そのようなことをひたすらこぼしていた。
 だが、もはやどうすればいいのかわからない。
 なりふりなどかまってはいられない。朝食前にポリーナに寝室を分けると宣言され、パンを一つだけ手にしたポリーナが、一人でとっとと馬車に乗って出発しようとするのにどうにか同乗させてもらって、気持ちを変えてくれるようにひたすらお願いしたのだが、かなわなかった。
『あなたに合わせようと、努力してみたの。だけど、結論としては無駄が多いわ。このままだと大爆発しそうだから、そうなる前に、私は自分のペースで生活するわね』
 馬車を降りて別れる間際に、そんなふうに宣言された。
 それがキリルにとっての致命傷だった。夕方すぎまでどうしても外せない仕事があったから、どうにか表面上は平静を装ってこなしたものの、それがすむなりこうして近衛隊の隊長室に駆けこんで、勤務後のセルゲイに付き合ってもらっている。
「どうもこうも」
 新婚ほやほやのセルゲイは、近衛隊長としての黒い軍服を身につけた太い腕をぐっと組んで、何度も繰り返した言葉をまた口にした。
「だけど、週に三日は許してもらえたんだろ? 完全に拒まれているわけではないから、悲観するほどのことはない」
 前向きに考えろと、セルゲイに何度も励まされた。
 その顔に、キリルは恨みがましい視線を向ける。
 セルゲイのことを、ずっと恋愛には無縁の朴念仁だと思っていた。だが、この無骨な武人は、この春にずっと年の離れた若い妻を娶っている。
 幸せいっぱいのこの男に、言うべき愚痴ではないとわかっている。だが、キリルが完全に心を許している友人は、そう多くはなかった。
 社交的ではあるし、話術も巧みだ。誰とでも親しく話せるが、広く浅くが基本で、信頼できる友人は少ない。広く浅くは学問においても武術においてもそうであって、どれか一つの道を究めているポリーナやセルゲイにはかなわない。
 無骨な武人の言葉には、説得力があった。自分は気にしすぎているのかと、すがるようにセルゲイを見る。
「だったら、ポリーナのあの言葉を、あまり気にせずに過ごせと?」
 だが、セルゲイは考えこむように少し視線を泳がせた後で、「いや」と否定した。
「ポリーナが言い出したからには、大いに気にすべきことだと思う。ご婦人というのは本当に繊細で、些細な言動がその心を傷つける。何をやらかしたのか、一度、思い返したほうがいいかもしれない」
 その言葉が、キリルにとどめを刺した。
 拒まれた原因はわかっていた。
 おそらく、“やりすぎた”のだ。
『私にはやらなければならないことがあるの。あなたがいると、気が散るわ。それに体力をこんなに奪われたら、私の日常生活に支障をきたすの。だから、これからは週に三日だけ!』
 ――だけど、君に触れたいだろ……! 毎日毎時間毎分……!
 キリルはその思いに押しつぶされそうになって、机に突っ伏した。
 ポリーナのことが大好きだ。一緒にいれば口づけたくなるし、それ以上のこともしたくなる。ふわふわで華奢な身体は抱き心地がいいから、ずっと抱きしめていたくなる。ベッドでポリーナの髪の匂いを嗅ぎながら、ずっとおしゃべりしていたい。
 色事には無縁でいたポリーナだったからこそ、その無垢な身体に全てを教えこみたかった。
 感じきった顔が愛おしくてたまらず、すがりつくようにキリルの首の後ろに回した腕に力がこもるのがたまらなくて、やたらと抱かずにはいられなかった。
 ポリーナの心を見抜けず、無理をさせていたのかもしれない。感じるところを探し出しより気持ちよくなれるようにしていたつもりだったのだが、彼女が望まない余計なことまでしていた可能性があった。
 このままさらに続けていたら、ポリーナに決定的に嫌われていたかと思うと、この時点で宣言されたことは、よかったはずだ。
 頭を抱えて、キリルは地を這うような低い声で言った。
「知ってるか、セルゲイ。……ご婦人がたは、一度相手のことを嫌いになると、もはや生理的に受けつけられなくなるそうだ。男は何かと未練を引きずらずにはいられないのに、ご婦人は一切引きずることなく、ゴミを捨てるように綺麗さっぱり切り捨てられる。心だけの問題ではなく、肉体的にも嫌悪感を覚えて、手を握られるのも嫌になるんだと」
 それは、いろいろな女性から恋愛相談を持ちかけられた中で、思い知ったことだった。
 女性の心が冷えきってしまったら、修復が利かない。少し嫌悪感を覚え始めたと思ったら、どうにもならなくなるまでまっしぐらだそうだ。
「そう、なのか」
 セルゲイが怯えたように肩を揺らした。
「ああ」
 キリルは顔を上げないまま、続ける。
「――何がきっかけで、大好きが大嫌いになるのかわからないところが、とても恐ろしいな」
 キリルにとって、ポリーナは人生の全てだ。
 彼女に嫌われたら、生きる意味を失い、キリルは屍となる。
 今はまだ寝室を分けられただけだが、これ以上嫌われてはならないと、キリルは自分に言い聞かせた。だけど、関係修復のためにはどうすればいいのか、わからずにいるのだ。
「もともと強引に、結婚したようなものなんだ。ポリーナは恋愛感情に疎いし、彼女の人生に必要なのは『世界の謎を解き明かすこと』であって、そこには私も、恋愛も含まれていない」
 キリルは愚痴を繰り返す。
 ポリーナは男に興味はなかったのに、どうにか騙くらかして無理やり結婚した。それがキリルの認識だ。彼女を心まで夢中にさせている自信がなかったからこそ、身体だけでも自分の虜にできないかと、無理に無理を重ねたのではなかったか。
 ――その卑劣さが、見透かされたということか。
 キリルはますます頭を抱えてしまう。
 愚痴をさんざんこぼし終えたころ、隊長室に近衛の兵がやってきて、セルゲイに何か報告をしたがっているのが見えた。仕方がないので、キリルはふらりと立ち上がった。セルゲイも多忙な男だ。一応気はすんだのだから、これ以上時間を奪ってはいけない。
「すまない。おまえと話ができて、ずいぶんと楽になった」
「ああ。……いいのか? 何だったら、これから酒を――」
「いや。用事がある」
 こんな状態で酒を飲んだら、泥酔してろくでもない醜態をさらしてしまいそうな予感があった。
 近衛の詰め所から出て、キリルはオステルツェフ伯爵邸まで帰ることにする。
 退出する際に、王城の立派なエントランスを馬車の窓越しに仰ぎ見た。
 神聖ゴッドルフ王国では、十一年前に悲劇が起きた。当時の宰相が、今のミハイロ神王の父である前神王を弑逆したのだ。
 前神王だけでなく、その血を継ぐ一族もことごとく殺された。そのときにたった一人生き残ったのが、今のミハイロ神王だ。彼を逃がすにあたって、忠臣であったキリルの父が力を尽くし、キリルも少なからずその任に関わった。そのときに神王の血を絶やさずにすんでよかったと、キリルは深く思っている。
 それは、ゴッドルフの民のほとんどが持っている認識だろう。
 何故なら、宰相がこのゴッドルフの王の座に納まっていた四年の間、エウロパ大陸の北に位置するこの地は、かつてない寒さに見舞われたのだ。もとより冬は寒さの厳しい地ではあったが、元宰相が神王位にあったあの四年間は、後世に語り継がれるほどの凍える日々が続いた。
 冬が厳しいだけではない。短い夏の間も、作物はことごとく実を結ばなかった。寒さに強い森の木々も芯まで凍りつき、倒壊が相次いだ。穀物の貯蔵は底をつき、餓えた人々が王都に押しかけた。
 このゴッドルフには、創国神話がある。
 かつてゴッドルフは、人の住める土地ではなかった。だが、地の神と初代神王が契約を結び、その極寒の地を人が住める土地にしたのだと。
 それは『神王の契約』と呼ばれ、地の神への信仰とともに、このゴッドルフに長く言い伝えられた。代々の神王は欠かさず『神王の契約』を結んで、神王位についた。
 だが、新しい一神教がエウロパ大陸から広く布教されたのもあって、土着の宗教である地の神への信仰は薄まっていった。
 だから、『神王の契約』も形だけのものとされ、元宰相が神王位を奪い取るまでは、キリルを始め、おそらくはミハイロ本人ですら、『神王の契約』が今もなお効果を発揮しているとは信じていなかったはずだ。
 だが、元宰相の治政下で骨まで染みる凍てつく寒さの中、人々はその『神王の契約』を思い出した。このままではいつまでも春は訪れず、我々は餓えて死ぬ。
 それが宰相の治世を終わらせる決定的打となった。キリルたちの密かに率いる反乱軍が餓えた人々を上手に組織したことによって、宰相の短い治世は終わった。
 遠い地に隠れていたミハイロが王都に呼び寄せられて王の座につき、地の神を鎮める儀式を行った途端、あれほどまでに荒れ狂っていた吹雪は収まった。次の夏から、ゴッドルフの地は実りをもたらすようになった。
 骨まで凍りつくほどの極寒と餓えを味わったことで、ゴッドルフにおいて地の神への信仰心は高まった。評議会の構成員のそれぞれにとっても、地の神は無視できない存在だ。
 ――ポリーナは、地の神への信仰心は全くないものの、その契約のあり方とか、そもそも地の神とは何なのかが気になって仕方がない感じだけどな。
 だが、誰よりもミハイロ神王のそばに仕え、忠義心なら誰にも負けないと自負するキリルにとっては、仕組みなどはどうでもいい話だ。『神王の契約』が、ミハイロ神王の正統性を補強する材料になっていれば、それでいい。
 そもそもすでに、伝説や言い伝えが力を持つ時代は終わりつつある。
 新しい技術や科学が幅を利かせるようになり、エウロパ大陸の諸国では、不可思議な力というのは無知蒙昧なものとして退けられつつある。魔法使いや魔女は物語の中だけの存在となり、代わりに蒸気機関による鉄道が綿織物の材料や製品を運ぶために大地を走り始めていた。
 だが、ゴッドルフは今まで他国からの侵略を受けずにきた古い国家だった。それもあって地の神の伝説も残っているし、その地の神と契約した神王一族が支配を続けている。
 そのミハイロ神王が王の座について、今年で七年目だ。
 最初の数年間は、国を立て直すだけで精一杯だった。
 だが、国内の治安も落ち着きつつある。
 これから、若き神王がその力をふるうときだ。評議会はまだ始まったばかりだが、選ばれた者たちは国を豊かにしようという気概にあふれている。
 キリルも評議会の構成員なのだから、私的なことに心を奪われてばかりはいられない。
 そう思ってはいるのだが、心にのしかかってくるのは、やはりポリーナのことだった。
 ――ポリーナ……。
 彼女のことを考えただけでも、心は深く沈んでいく。
 ポリーナはおそらく、自分のことなどまるで思い出すことなく、今頃は何らかの関心事に没頭しているに違いないと思うと、より気持ちが沈むのだった。


  ◇ ◇ ◆ ◇ ◇


「おい」
 セルゲイの声に、キリルはハッとして顔を上げた。
 幼いころのポリーナのことを、懐かしく思い出していたところだった。当時のポリーナは、こまっしゃくれた物言いをするところがとても可愛らしくて、幼いキリルはいつまでも彼女と話をしていたいと願っていた。
 そんな幼子の顔と、自分をのぞきこんでいるセルゲイの無骨な顔が、あまりにも違いすぎて、キリルは内心で飛び上がらずにはいられなかった。
 自分が今、どこにいるのかも、一瞬わからなかったほどだ。
 だが、大広間に集う大勢の盛装の男女や、天井から下がる見事なシャンデリア。まばゆいばかりの室内装飾を見れば、ここは王城の大広間だとすぐに思い出す。
 外交を担当するキリルは、今日、外国からの使節団を歓迎する宴に出席していた。
 ゴッドルフの社交の季節は短い。
 冬となれば各都市は深い雪に閉ざされて、完全に外界との接触は途絶える。だからこそ、短い社交の季節であるこの時期は、さまざまな企画が目白押しだ。
 キリルは自分が担当する外交関係だけではなく、あちらこちらの宴に誘われることが多かった。それをいいことに、可能なかぎりの情報収集をする役割を自分に課している。
 貴族たちの間でどのような噂があるのか、常に確認しておきたい。
 先の宰相の反乱のときにも、以前から噂があったそうだ。宰相は神王に、謀反心を抱いているのだと。
 その話を聞いたとき、キリルはゾッとした。当時、その内容をきちんと精査していれば、あの悲劇は起こらなかったのではないだろうかと。
 それからキリルは、今のミハイロ神王に対する不穏な噂がないかどうか、常に耳をそばだてるようになった。
 セルゲイはぼうっとしていたキリルが持っていた火酒のグラスを取り上げ、代わりに香り水の入ったグラスを手渡した。
「飲み過ぎだ。そろそろ、酒の入っていないものに変えたほうがいい」
 そんなふうにセルゲイから忠告されるほど酔っ払っていたのかと、キリルはだらしなく寝そべりそうだった自分の姿を顧みて、姿勢を正した。
 ポリーナに寝室を別にする、と宣言されてから、今日でちょうど二週間だ。何をしても心は浮き立たず、鬱々とした気持ちにとらわれたままだ。
 だが、オステルツェフ伯爵邸ではポリーナがこれ以上自分を煩わしく思うことがないように、全く何も気にしていない体でふるまってきた。
 ポリーナが夫婦の寝室で眠ると言っていた曜日でも、ポリーナには手を出さず、彼女が寝ついてから同じベッドに入ることにしたのは、今が大切な時期だと思ったからだ。
 ここで『今日は許された曜日だから』としつこく抱いたりしたら、キリルに対する嫌悪感がポリーナの中で跳ね上がり、下手をしたら『大嫌い』まで一気に振り切れてしまうかもしれない。そうなったら、全てが終わりだ。
 だから、一定の冷却期間が必要だと、キリルは判断していた。
 それでも、ポリーナが恋しい。恋しくてたまらない。彼女が夫婦の寝室に来てくれない曜日には、キリルは彼女のことを思いながら、ベッドで独り寝する。その寂しさを思えば、同じベッドで眠れるだけでも幸せだ。
 そう思って、ポリーナを抱かないまま、我慢し続けて二週間だ。
 途中で一度だけ、ポリーナから問いかけられた。
『キリル? ――一切、触るなってわけでもないのよ?』
 だが、ここまで我慢してきたのだ。ここで手を出したら、久しぶりのポリーナの感触に理性を制御できなくなり、後々恨まれるほどしつこくその身体をむさぼってしまうに決まっている。
 だからこそ、そんな誘いを受けてもキリルはすごく眠そうなフリをして寝返りを打ち、身じろぎしないまま寝たふりを続けて、悶々と眠れぬ夜を過ごした。
 ポリーナに好きなだけ触れられないことが、こんなにも心身を蝕むとは知らなかった。月、水、金は禁じられていないのだから、そのときにせめてポリーナを抱きしめて眠りたい。だが、下手に我慢したからこそ、今さら修正できなかった。この状態で解禁されたら、おそらくポリーナを抱き潰してしまう。
 ――嫌われたくない。
 慎重になりすぎるあまり、最悪な予想を自分で立て、それにとらわれて身動きが取れなくなることが、キリルにはあった。その対象が大切であればあるほど、自縄自縛に陥っていく。
 かつてはミハイロ神王を大切に思うあまり、その居場所を宰相の一味に知られてはならないと、一切様子を見に出かけられなくなった。そのせいで、ミハイロ神王にはずっと嫌われて、避けられていたような気がする。
 他人からは社交的に見えるらしいが、人との距離感がいまいちつかめない。ほどほど、というのができないのだ。
 ポリーナ相手には、特にそうだった。
 幼いころからポリーナが大好きだったにもかかわらず、好きすぎて思いを伝えられなかった。告白して嫌われるぐらいなら親友としてそばにいたいと思い詰め、互いに二十代も後半になるまで、告白すらほど遠い関係だった。
「は……」
 キリルは深いため息をついて、片手で頭を覆う。
 ポリーナのことばかり考えてしまったが、ここは社交の場だ。セルゲイに渡された香り水をどうにか飲み干し、キリルは酔いを払おうと周囲をぐるりと見回す。
 二人がいるのは、宴席の端の席だった。軽食もあり、椅子が壁沿いにずらりと並べられている。その一番端の席に、キリルはいた。
 いつもならば、キリルは各国の使節団と親しく会話を交わし、ゴッドルフを売りこんだり、逆にその国の情報を聞きこんだりすることに余念がない。だが、今日は通り一遍の挨拶しかこなせていない。
 気がつけば各国の使節団から離れて、こんな会場の端で座りこんでいた。
 ――まぁ、今日は単なる春の花の宴。神王妃の母国であるカテリーナ王国から寄贈された果樹が、美しく花を咲かせたのを眺めて、親睦を深めるだけの会だから。
 とはいえ、この宴には各国の使節や役人が出席している。
 ゴッドルフの各港に出入りする貿易船の数は飛躍的に伸びており、それに付随して新規に貿易を求める国の数も増えてきた。かつては国内向けの宴が多かったが、外国の使節との交流を目的とした宴も頻繁に開催されるようになっている。
 ――情報収集をしたいのは、やまやまなんだが。
 さすがに今日は、いつものように気力が湧かない。ポリーナに触れられないことが、ここまで自分から気力をごっそり奪い去るとは思わなかった。

 

------

ご愛読ありがとうございました!

この続きは12月16日発売のティアラ文庫『モテすぎ伯爵様(夫)と私の悩ましい溺愛結婚生活』でお楽しみください!