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呪われ王の執着愛 孤独な陛下は追放聖女だけが欲しくてたまらない 3

第三話

 

 


「ウィリアム……」
「触らないでくれ……っ」
「一体どうしたの?」
 心配そうに眉根を寄せたヴァイオレットが、馬車のなかで跪(ひざまず)き、ウィリアムを見上げた。
 腰のそばに彼女の手と顔があることに気づいて──その先、ウィリアムは自分の行動を制御できなくなった。
 自分のことなのに、俯瞰して、見下ろしているような。
 ヴァイオレットの手を掴み、そのまま体ごと引きずりあげる。「え」と短い声をあげたヴァイオレットを膝の上に、向かい合わせに座らせる。
 口の中は唾液で満ちていた。まるで浅ましい獣だ。
(やめろ、やめてくれ、彼女を汚すな!)
 噛みたい。彼女の肌を直接味わいたい。そう思えば、疼きはどこか甘美さを持つ。
(……だめだ!)
 大きく口を開けている自分に叫ぶ。
 ふっと、少しだけ、体が言うことを聞いてくれた。急いでウィリアムは顔を背け、自分の手を噛んだ。
 ぶつり、と大きな音を立てて、皮膚に犬歯が刺さる。
 痛いはずなのに、疼きのほうが体を蝕んでいる。正気に戻れない。
(こんなことがしたいわけじゃない……)
 ヴァイオレットは呆然と、ウィリアムを見つめている。
 彼女からすれば、あまりにも異様で恐怖する光景だ。突然苦しみはじめ、自分の手に牙を立てている男なんて、尋常ではない。
「……君、まだ呪いが解けていないの……? 記憶が戻らないだけじゃなく……」
 呪い?
 ヴァイオレットの言葉は聞こえるが、うまく考えられない。脳に靄(もや)がかかっているようだ。ただ、その中に強烈に「ヴァイオレットを自らのものにしたい」という感情がある。
 それ以外は、分からない。
 時々、夜に抑えきれない衝動が発作的に巻き起こることはあったが、ここまでひどくはなかった。
「あっ」
 馬車が石をはねたのか、大きく揺れた。
 その拍子に、ヴァイオレットとウィリアムの体も密着する。痛いほどに張り詰めたウィリアムのそれと、ヴァイオレットの太ももがこすれ合った。
 ヴァイオレットは、普段は伏し目がちな目をまん丸に見開いて、さぁっと顔を赤らめた。
 ──ほら、彼女もその気になっている。
 ──あの赤い頬は、お前を誘っているんだ。
 そんな訳がない、彼女は『聖女』だ。女神に選ばれた存在。聖なる処女(おとめ)。
 甘い匂いが、する。熟れた果実のような──……そう、これは……熟れた、熟れた、『わたしの女』の匂いだ。

「……下、……陛下! リアム!!」
 轟く太い声に怒鳴られて、ウィリアムは我に返った。
 気づけば馬車は停まっていて、襟首を掴まれた自分は馬車の外に引きずり出されていた。
「失礼を。大きく馬車が揺れましたので、御者に無理を言って停めさせました」
 ウィリアムは、ヴァイオレットに会いたかった。どうしても、彼女に会いに行って、王都に連れて帰りたかった。
 でも、同時に、怖かった。自分に何が起きるか分からなくて。
 だからこそ、事情をよく知るギルバートに「何かあったらすぐに止めてくれ」と頼んでいた。忠義者のギルバートにはつらい頼みだっただろうに、彼は実行してくれたのだ。
 つまりは、自分は『しでかした』と言うことだ。
「ヴァイオレット……!」
 馬車の中を振り向くと、座面に腰掛けた、ヴァイオレットが俯いていた。
 胸元のボタンがいくつか外れていて、そこから覗くふっくらとした乳房に、血が付いている。
 視線を感じたのか、ヴァイオレットは手を当てて開いた胸元を隠す。
「ご、ごめんなさい……傷つけるつもりじゃ……」
 ヴァイオレットを迎えに行くと決めたその時から、ちゃんと備えておくべきだった。
 はじめは、もっと小さな衝動だった。森から王都に戻ってすぐ、暴れた。気がついた時には、椅子が壊れていて、その前に呆然と立ち尽くしていた。
 衝動に支配される回数が増えていくと同時に、それは暴力的なものになり、時間も長くなっていった。
 やはりしかるべきところに頼るべきだったのではないか。
 それを怠ったせいで、一番大事にしたかったヴァイオレットの前で、最悪な形で発露してしまった。
「……ウィリアム、私は傷ついていないよ」
「え……? でも、胸元に傷が。僕が噛みついたんだよね」
 ヴァイオレットは静かに顔を上げて、それから馬車を降りた。凜として、動揺のひとつも見せない。
 ずくりと、腹の底で何かがうごめこうとする気配を感じて、ウィリアムはたじろぐ。
 先ほどのような強烈な衝動ではないが、あまりにもはっきりとした慾がある。
「何か事情があるんでしょう? さっきは、今とは違う目をしていたから」
「……目?」
「はっきり聞くけれど、まだ昔の記憶は戻っていないのよね……?」
「うん。覚えているのは、あの森でヴァイオレットと暮らしてからのことだけだよ」
 ギルバートが申し訳なさそうに言葉を継いだ。
「手を尽くしましたが、当代の『聖女』も、占い師も、呪(まじな)い師も、陛下の状況を変えることはできませんでした。医師に診せてもお体には問題はないと」
「記憶がないところから、よく王にまで……。私には想像できないほどの苦労があったでしょうね」
 ウィリアムのすぐそばでヴァイオレットは足を止める。
 ああ、自分は随分と背が伸びたのだと気づく。森に戻ったときは、懐かしさと、ヴァイオレットに会えた喜びで分かっていなかった。
 見た目が変わらないヴァイオレットだが、彼女はすでにウィリアムを見上げないと目線が合わない。かつては逆だった。
 あの日々では、ウィリアムがヴァイオレットを見上げていた。
「お慶び申し上げます。陛下。女神のご加護があらんことを、あまねく光に、土地が栄えますよう」
 彼女は目を伏せ、胸元で両手を重ねる。そして、左足を後ろについて膝をつくようにして跪いた。
『聖女』の王への礼賛だ。
 ヴァイオレットに会いたかった。
 彼女に会えるのなら、なんでもよかった。
 どれだけ苦しくとも、耐えられた。記憶が戻らなくてもいい、ヴァイオレットは自分のすべてだ。
 だが、それを言葉にしてはいけないことも理解していた。
 静かに静かに準備したのだ。この日のために、王となって、ヴァイオレットを迎え入れるために。
「ありがとう、ヴァイオレット。僕の『聖女』」
 当代の『聖女』はもちろん教会に在位している。ヴァイオレットは追放された身であり、すでに『聖女』ではない。
 教会では『聖女』は位階だ。そして、ひとりしかその位にはつけない。
 でも、ずっと。
 ずっと、ウィリアムにとっては、彼女だけが『聖女』だった。
「そろそろ出発しましょう。まもなく王都へつきます。明るいうちに入城して、おやすみください」
 ギルバートの声に、ウィリアムは頷いた。

  *

 最果ての森に追放されてから、正確な月日を数えることをヴァイオレットはやめていた。
女神は彼女から体の中の時間を奪い去った。
(……随分、変わっている……)
 馬車の窓から街並みを見て、ヴァイオレットは驚いた。
 ウィリアムの父が、若き日に即位した時と王都の光景は大きく変わっていた。
(……街が暗い……?)
 夕暮れ時だからという理由だけではないだろう。
 昔はもっと、色が溢れていた。民家はそれぞれ出窓に花を、扉にリースを飾っていたし、店も活気に満ち、客引きの若い男性が道ゆく人々に声をかけていた。
(人が少ないし、なんだか活気がない)
「戦争がね、あったんだ」
「え……?」
「叔父はあなたを森に追放した翌年、隣国の港を陥落させた。何年ものあいだ、戦争を続けていたから、国力が落ちたんだ」
「そんな……知らなかった」
「叔父を追い落とす時、隣国が手を貸してくれた。おかげで思った以上に早く、王位を取り戻せたよ」
 戦争、その言葉を、ヴァイオレットは小さくつぶやいた。
 あの森の近くに海はない。港は西側にかなり離れていたし、日々の暮らしに変化はなかった。捨て置かれていた彼女には、国の状況を知らせる手紙のひとつだってこない。
「──……本当にがんばったのね」
「え?」
「だって、君は記憶を失っていたのに、すべきことを正しく行った、ってことでしょう?」
 ウィリアムは何も言わなかった。
「時間がかかる、元に戻るには。でも、きっと大丈夫、女神はお守りくださる」
「それなら、いいんだけれど」
「きっと、そう」
「あなたが言うと、説得力があるね。あ、見て、ヴァイオレット」
 ウィリアムが指す方を見て、息をのんだ。
「教会……」
 こみ上げてきた涙を堪えていると、ウィリアムが微笑んだ。
「はは、そうか、あなたにとっては教会の方が馴染み深いよね」
 王都の奥、白亜の城と並ぶように、三つの尖塔を戴く教会が見えた。
 尖塔のステンドグラスは、左右に月と太陽が描かれ、真ん中には腕を広げた白(びやく)衣(え)の女神が目を伏せ、王都の人々を慈愛深く見守っている。
 その姿は、以前と全く変わっていなかった。
「あなたを連れて行きたいところがあるんだ」

 ウィリアムとヴァイオレットが乗った馬車を見て、王城の門衛たちはラッパを吹き、王の入城を知らせた。
 不意に記憶が戻る。かつては教会の鐘と、城から響いてくる門衛や近衛騎士のラッパをよく聞いていた。
 懐かしい。
 ようやくそう感じることができた。城や教会はなにひとつ変わっていなくて安心する。
 馬車は城ではなく、さらに奥へと向かった。
「……?」
 不思議に感じて外を見るヴァイオレットを、にこにこ笑いつつウィリアムが眺める。
 城は空から見るとロの字の形をしている。その城の奥の方にむかって、木々が鬱蒼と茂っていた。
(中庭の方……? あそこに木立なんてあったかな……)
 森と呼んでもいいくらいの木立に違和感がある。レンガを敷いた道が延びているので、元々あった森ではないだろう。
「あ……」
 馬車が速度を落とした時、目の前に現れた小屋に驚いて声を上げる。
 ウィリアムはいたずらっぽく目を細めていた。
「驚いた?」
「あの森の小屋……?」
「僕の覚えている範囲で再現させたんだ。どうかな、似てると思うけれど。ヴァイオレットを迎えに行った時、自分でも驚いた」
「……どうして?」
 正確に覚えてはいないが、確か、中庭には温室があったはずだ。
 王妃たちが代々そこで、様々な花を育て、王は王妃や子と憩いの場を持っていた。
「ヴァイオレットに、ここにいてほしいから」
「だとしても、同じように作る必要なんて……」
「僕には記憶がない。もしかして、城に戻れば思い出せるかもって思ってたけど、そんなこともなかった。だから少しでも落ち着ける場所がほしかった」
「陛下」
 胸が痛んで、うまく言葉が出てこなかった。
 彼の両親は、政変で殺されてしまっている。この城を取り返したとしても、心安まる場所かと言われたら、とてもそうとは言えないはずだ。
「もう、ヴァイオレットを追い出した叔父はいない。僕が王だ」
「…………」
「ごめんね、弱くて。でも、あなたをここに迎え入れることだけを目標にしてきた。だから、ここに住んでもらうからね」
 驚かなかったと言えば、嘘になる。
 成長したウィリアムが迎えにきてくれたとき、正統な王が即位を果たしたことに、深く安堵した。
 それに、気づいてしまった。
 胸がほのかに温かいことに。
(私は寂しかったんだ、ウィリアムが去ってずっとひとりだったから)
 ウィリアムと過ごした何倍もの時間をひとりで暮らしてきたのに、ほんの短い間のぬくもりを驚くほどに覚えていた。
「ありがとうございます、陛下」
 ヴァイオレットは軽く膝を折り、頭を下げる。
「ヴァイオレット、昔のように呼んで。敬語じゃなく、あの頃みたいに」
「それは出来かねます。陛下」
「だめ。命令だよ、僕は王だからね」
 命令と言われて、ヴァイオレットは驚いた。
 軽やかな声音とは似つかわしくない、硬い単語に思わず顔を上げる。
 ウィリアムは、目が合うとにこっと笑った。
「でも、それでは陛下のお立場が」
「大丈夫。全部済ませてあるよ」
「どういうこと……?」
「言葉の通り。叔父上の時の臣下はみんな投獄されてる。今王城にいるのは、かつて父に仕えていて、僕が王位につくことを望んだ人たちだけ。みんな、ヴァイオレットを覚えているよ」
「当代の『聖女』がいるのに……」
「だって、あなたは、叔父上を拒んだんでしょう? だからこそ、叔父上はあなたを追放した。殺されるかもしれないからって、みんなが黙って従っていたときに、あなただけがはっきりと『王ではない』と抗った」
 それがヴァイオレットの職務だ。そう言いかけたが、ウィリアムの様子を見て黙った。
 特別なことをしたわけではない。政治のことはよくわからない、ただ、女神の祝福を受けない王の即位を認めるわけにはいかなかった。
「当代の『聖女』も拒んだけれど、叔父上は最終的にはそれを無視した。そして、殺し損ねた僕を探して、とどめを刺そうとした。僕が生きていることは当代の『聖女』は気づいていたみたいだけど。彼女も、ほかの臣下たちもあなたが戻ることを喜んでる。僕らはどちらも不当に追い出されたんだから」
 ウィリアムは、そっとヴァイオレットの手を取り、両手で包み込んだ。
 すっぽりと隠せてしまうほど、大きな手だ。
「ヴァイオレット。僕を名前で呼んで。そして、あの頃みたいに気楽に話しかけて」
 切なる願いなのだろう。
 ヴァイオレットは目を伏せる。
「分かった……ウィリアム、これからよろしく」
「よかった! ありがとう」
 ヴァイオレットの言葉に、ウィリアムはほっと目を細めて、頷いた。

 小屋の中は、確かにヴァイオレットが暮らしたあの家に似ていた。
 ただ、うち捨てられたあの森の中の小屋とは違い、それぞれの品質がとてつもなくよく、暮らしやすい。
 王城に来ても、ヴァイオレットの生活はほとんど変わらなかった。森が再現されているので、そこで淡々と暮らした。違いがあるとすれば、小麦や食糧が差し入れられ、服なども定期的にウィリアムから贈られてくることだろうか。
(……どれだけのお金がかかっているのかな)
 シルクのナイトドレスに着替えながら、ヴァイオレットはため息を吐いた。
 すべてを一流の品に囲まれていることが、落ち着かない。もったいないと反射的に思ってしまう。
「あ、満月」
 窓の外、美しい月が空に浮いていた。
 月の光が強くて星は見えない。
 窓辺に立ってしばらく月を眺めていると、小屋の扉を開ける音がした。
 この小屋を訪ねてくるのは、ウィリアムしかいない。振り向けば、寝室にウィリアムが現れた。
(眠れないとき、よく、私の部屋に来ていたっけ)
 どうしても、咄嗟に思い浮かぶのは森で助けた少年のウィリアムだ。
 王城に招かれても、ウィリアムは政務に忙しく、ここには頻繁に顔を出せるわけではない。その上、周囲には記憶を失っていることを隠しているため、精神的にも摩耗しやすい。
「ウィリアム? どうしたの、眠れないの……?」
 そう問いかけて、ヴァイオレットは凍り付いた。
 寝室に入ってきたウィリアムの様子が、おかしい。
 それこそ、馬車の中で見たあの異様な目をしている。
 ガタン、とヴァイオレットは窓枠に体をぶつけた。ウィリアムが大股で、真っ直ぐこちらに向かって歩いてくる。
 怖い。
 じっと見つめてくる目は瞬きすらしないし、荒い息を繰り返す肩は強ばっている。
 普段の朗らかでニコニコしているウィリアムとは違う、獰猛な男がそこにいる。
「ウィリアム……」
 名前を呼んだと同時に、ヴァイオレットは手首を強く掴まれ、引き寄せられた。
 ウィリアムはヴァイオレットを抱き締め、閉じ込めた。
 ウィリアムの体は燃えるように熱い。苦しそうに息をして、何かを必死で堪えている。
「ウィリアム……?」
「……」
 返事も出来ずに、うめき声に似た声をあげるだけのウィリアムの背を、そっと撫ぜた。
「…………僕の……、僕のものだ」
「え?」
 小さな小さな声は、聞き取れなかった。
 ウィリアムは、ヴァイオレットを抱え上げて移動させ、ベッドに押し倒した。スプリングが、大きな音を立てて軋む。
 彼の手が、ヴァイオレットのナイトドレスの裾をたくし上げる。
「だ、だめ! 何をするの」
「……僕のヴァイオレット……」
「ウィリアム、落ち着いて」
 声は届いていないようだ。
 ウィリアムは体を起こし、ヴァイオレットの足の間に移動した。むき出しになった自分の太ももの間にいるそのさまに、心臓が破れてしまうのではないかと思うほど、早鐘を打ち始めた。
 止めなくては、怖い、こんなことウィリアムは望んでいない、正気じゃない。
 ウィリアムの大きな手がヴァイオレットの足首から、膝までを指先でなぞりあげる。
「……あっ」
 撫でられた感触に肌がざわめき、微かに声が漏れる。
 あの日、馬車の中でもウィリアムに襲われかけた。自分の手に歯を立ててまで耐えた彼の姿をはっきりと覚えている。
「んんっ……、あ、だ、だめ……」
 膝裏に手を入れられ、大きく足を開かれた。
 行為の意味を全く知らないわけじゃない。分かっている、男女がまぐわい、子は生まれてくる。女の股から生まれるのだ、誰だって。
 でも、自分はそういう行為とは無縁に生きてきた。ずっとひとりで、清貧を守り続けてきた。
 ウィリアムが下着の上から、ヴァイオレットの秘裂に口づける。
 その刹那、雷が走ったように体が強ばった。
(な、なに……こ、これ……)
 ちゅう、ちゅうと何度も口づけられ、ヴァイオレットは唇を噛んだ。
 声が、出てしまう。おかしい、こんな、こんなことは……。
 ウィリアムの息を感じるだけで、体の奥に熱が灯る。
「濡れてきた」
 ぽつりと呟いたかと思えば、ウィリアムは下着を取り去り、遠慮なく誰も触れたことのないそこに舌を這わせた。
 熱く、ぬめった別の生き物のような舌が、ヴァイオレットの花びらをもてあそぶ。
 びちゃびちゃと、粘り気のある水音がする。彼の舌が上下し、好き放題に舐めると、更に体の奥から何かが溢れていく。
 息がうまく出来ない。
 ウィリアムが与える強い感覚から逃れようとシーツを蹴っても、まったく動けなかった。
 逃がさないとでも言いたげに、両手で足を掴み直された。
「あっ、う、ウィリアム……だ、だめ……」
 制止の声は、自分でも分かるほど、甘ったるくかすれていた。
 ふ、と彼が笑う気配がして、その息に、濡れたソコがひくついた。だめだと思っても、ソコは奥から蜜を溢れさせ、喜びを隠そうともしない。
 ウィリアムはその整った顔を、ヴァイオレットの蜜で濡らして、一心に舐めている。
 恥ずかしい、こんなこと、したこともないのに、気持ちがいい。
 震える手で口を押さえて、目を伏せる。
 ──逆効果だと気づいたのは、まぶたを伏せたあとだった。
「ひゃんっ、……ぁっ、んんっ、や……っ」
 見えるものがなくなった途端、ウィリアムの手の熱さと、舌のざらつきを余計に際立って感じた。
 彼の舌は、花びらをそれぞれ丹念に舐め取り、貪る。
 もう、だめだ。震える体は、抵抗をやめようとしている。ウィリアムが与えてくれるその感覚があまりにも圧倒的で、あまりにも甘美で、考えるべき頭はうまく回ってくれない。
 もっと。
 もっと、違うところが、うずいている。その理由も、その先も分からないのに、体は知っている。
 びくんびくんと腿が震えはじめた。

 

 


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