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こっそり夫(元勇者)の推し活をしていたら、いつの間にか執着溺愛されていました 3

第三話

 


 まず、ライバックは女性の機微に疎いだけあって未経験の童貞であった。当然、オフィーリアだって処女だ。
 二人の初夜は、ライバックの雄が一般的なモノより大きかったことにより、失敗に終わりそうだった。どうやっても挿入出来なかったのだ。
 そこで、ライバックが申し出た。
「ネアンが……、大魔導士が、得意の錬金術で作ってくれた薬があったんだ。使ってみても良いだろうか」
 緊張で身体が全くほぐれず、ライバックのたどたどしい愛撫では濡れずで、無理やりねじ込まれそうになって痛いと叫んだオフィーリアは、それで完遂出来るならと応じた。
 オフィーリアにとっては、薬に頼るより初夜を失敗する方が不名誉だと判断したのだ。
「はい。どのような薬でしょうか」
「潤滑剤で、処女でも痛くなくなると聞いた」
「それならば、是非お願いいたします」
 勇者パーティの天才魔術師、ネアンの噂はオフィーリアも聞いたことがあった。
 ただ、ものすごい魔力の持ち主で天才的な錬金術師かつ発明家という、表面上の噂しか耳にしたことがなかった。彼の人となりを知っていたら、オフィーリアもきっと断っていたのだがその時には知る術がない。
「では、直接塗り込む」
「はい……」
 オフィーリアは耐えた。今まで誰にも見せたことのない秘すべき女の花園を、彼は堂々と暴いてとろりとした粘着性のある液体を塗り込んでいく。恥ずかしいが、夫となる人を拒絶してはいけない。その一心で、敏感すぎて痛みを感じる突起に触れられるのも、狭い蜜孔に指を挿入されるのも我慢したのだ。
 異変はすぐに起こった。
「あっ!」
「どうした?」
「かゆいっ! かゆいわ、潤滑剤の影響なの……?」
 その言葉に、ライバックは瞬いた。
「かゆみについては、聞いていない。ただ、男を受け入れやすくなれるよう、とても悦くなれると」
「なんですって! そんな……、痛みがなくなると言っていたじゃないの」
 オフィーリアの追及に、ライバックは不思議そうに答える。
「だから、痛くなくなって感じるんだろ。同じことじゃないか」
「全然違うわっ! こんなの、もういいわ!」
 思わず己で取り除こうと、股間に手を伸ばすオフィーリアをライバックが止めた。
「女性が触れると、その触れた部分全部が敏感になるらしい。だから触れない方がいい」
「そんな! 早く取り除いてちょうだい!」
「……分かった」
 頷くと、ライバックは再びオフィーリアの脚の間に陣取って慎ましい襞を両側に割り開いた。
 そして先ほど潤滑剤……、まあ媚薬なのだが、それを塗った部分に舌を這わせたのだ。
「きゃうっ! なっ、何をしているの……っ」
「取り除くには、男の唾液が必要だ。それで中和されるからな。舐めとったら、かゆみも治まるだろ」
「なっ、舐め……っ! そんな……、不浄の場所を……」
 オフィーリアにとっては衝撃的な光景だった。元勇者で、王国を救った偉人が、己の股を舐めているのだから。あり得ない思いで目を見開くが、彼は特に嫌がる素振りも見せず言い放った。
「ちゃんと取ってやるから、我慢しろ」
 そして舌を伸ばし、丹念に女陰を舐めしゃぶっていく。普段は何も感じずに洗っている場所も、彼の舌で触れられると疼いて仕方がなかった。
 オフィーリアは知らず知らずのうちに腰を突き出しては下げるという無様な動きを繰り返していた。
「あっ、あーっ! いやぁっ、かゆいの、早く取ってぇ……っ」
「はぁ、そんなに動かれちゃたまんねぇな。だが、さっき触って痛かったとこは最後な。舌でも痛いかもしれん」
「はぁっ、はぁっ、いいから、早くして……っ」
 カクカクと腰を揺らして催促するオフィーリアの姿は、男なら欲情して仕方のない痴態なのだが本人には分からない。ただ、ライバックの舌が焦らすように一番疼く部分を避け、その周囲をゆっくりと舐めていくことに嬌声が止まらなかった。
「あっ、あっ、あんっ! もう、痛くないから、そこ、早く舐めてぇ……っ」
「クリ、さっきは指でそっと触っても痛がってたし、感じ方も分かってないみたいだったけど。今はもう大丈夫か」
「大丈夫、だから……っ」
 放置していると、疼きが更に酷くなって空気に触れるだけでかゆみが激しい。とにかく早く潤滑剤を除去してほしいと言っているのに、何故かライバックはまじまじと股間を見つめている。
「オフィーリアのクリ、さっきは小さすぎて摘まめない程だったが、すげーデカくなってる。ぷっくり膨れて、赤く腫れて美味そう」
「美味そうって、何……?」
「オフィーリア、見てろ」
 そう言うと、ライバックは舌を出してゆっくりとオフィーリアの秘所に近付けていく。そして、赤く膨れた敏感な突起にそっと舌先を当てたかと思うと、下から上へと舐め上げたのだ。
「あぁぁっ!」
 あまりの快感に、オフィーリアの身体がガクガク震える。それを押さえつけ、彼は突起に吸い付いた。ぱくりと口を開けて唇で食むと、ちゅうっと吸って舌先で転がしたのだ。
「あっ! ひぁっ! あーーーっ!」
 オフィーリアは瞬時に達してしまった。腰を突き上げ、びくびくと震えるがライバックは舐めるのを止めない。舌で舐められていると、敏感な突起の包皮が捲りあがって陰核が剥き出しになる。それも唇で挟まれ、吸われ、舐め回される。
「あぁぁっ! いやぁっ! もう、やめてぇっ!」
「まだ全部取れてない。もう少しだ」
 手足をジタバタと動かして逃れようとしても、力が入らない。それに、ライバックが伸し掛かっていて全く逃げられそうになかった。
 逃げられないオフィーリアの秘所全体を彼は舐め回したかと思うと、今度は舌の腹で陰核をゆっくり愛撫している。
「あっ、あっ! いやぁっ! あーーっ」
 オフィーリアは腰を揺らして、駄目だと思いながらもライバックの舌に感じる場所を押し付けていた。
「かゆいのは嫌なんだろう? だったら我慢しろ」
「っ、やめっ、あひっ、ひぃっ! あーーーっ……!」
 何度も達し、身体がガクガク震えているのに愛撫は続けられる。涙をぽろぽろ零しながら感じるオフィーリアを見て、ライバックは口角を上げながら告げる。
「イく時はイくって言ってほしいんだが」
 それで、オフィーリアはこれがイくという状況なのだと理解した。
「いやぁ、もう、イきたくない……っ」
「なら、イかないよう我慢してくれ」
 何故か、オフィーリアにはライバックのその言葉は嬉しそうに聞こえた。
 政略結婚の相手の股を舐めるだなんて、屈辱でしかないだろうに。
 それなのに、止めなければ彼はずっと舐め続ける勢いだ。早くやめさせなければ。
 快楽に濁った頭の中でそう考え、オフィーリアは何とか息を整え口を開いた。
「もう、そこは大丈夫。中が、かゆいの……」
「そうだな、中も塗ったからな」
 そう言うとライバックはもう一度、更に膨れてぽってりとした敏感な突起を口に含んで舐めしゃぶった。
「あっ、あぁっ! いやぁっ、イっちゃう……!」
「もう一回イったら、中を舐めよう」
「はぁっ、あぅっ……! あーっ! イくっ、イく……っ!」
 すぐに達すると、ライバックは名残惜しそうに何度も突起にキスをしてからようやく唇を離した。
「次は中だな。こっちはどうだ?」
「かゆいわ。早く取って……」
 オフィーリアは何も考えずにそう言ってしまった。するとライバックは舌を伸ばし、蜜孔の中に挿入したのだ。
「あひっ、ひん……っ」
 中を舐め回そうと、彼は顔を股間に密着してくる。その通った鼻梁が先ほどまで散々苛められた陰核に当たり、オフィーリアは身体をビクビクと震わせた。
「いやぁ、こんなの……」
「ふっ……」
 やっぱり、こんなのあり得ない。
 さっきも思ったが、救国の勇者が己の股の間に顔を埋めているのが耐えられない。オフィーリアはまた涙を零しながら嘆願したが、ライバックは止めなかった。
「やめて、お願い……っ」
「んー……」
 それに、疼きは治まらなかった。
 ライバックの舌より、指の方が長いからだ。
 舌では届かない奥まで媚薬が塗り込まれており、その部分が疼くとどうしようもない。
 また腰がカクカクと揺れ、自分から股間を彼の顔に押し付けてしまうことを恥じてオフィーリアは彼から離れようとした。
「もういいわ、だからやめて……っ、あっ、あーっ」
 聞き届けたライバックは、ゆっくりと舌を抜いた。その代わりにまた指を挿入する。
「大分ほぐれたし、後は直接するか」
「ふぅっ、う……っ、直接、って……」
「ああ、精液をかければ治まる」
「っ……」
 それはさっき、痛みのあまり耐えられなかった行為をもう一度試すということだ。
 だが、今は中が疼いて直接擦ってほしくて仕方がない。
 逡巡するオフィーリアに、彼は問いかけた。
「痛くはないか?」
「ええ、かゆいだけで、痛みはないわ」
「一応、もう少しほぐしておこう」
 そう言うなり、ライバックは無遠慮に指をもう一本、蜜孔へと挿入した。そのままずぼずぼと手を動かして二本の指の出し挿れを繰り返す。
「あひぃっ! あああっ!」
 のけ反ってビクンと反応するくらい、気持ちが良かった。かゆいところが擦られて、我を忘れるほど快楽を得てしまっている。
 オフィーリアは恐怖を覚えた。
 自分の身体が己の意思では制御出来ず、勝手に動いて喘いでしまうからだ。
 こんなに気持ちが良いなんて、絶対におかしい。とりあえず止めさせて、薬の効果を他の方法でなくさなければ。
「良さそうだな。この中にも感じる場所はあると聞いたが……」
 ライバックが蜜孔を探り、中のいいところを見つけ、そこを指の腹で押した瞬間、オフィーリアは潮を吹いて達してしまった。
「ひぎぃっ! あっ、あーーーっ!」
「あ、すげぇ。ここなんだな。即イキしてる」
「あーっ! やめっ、いやぁっ! あっ、あーっ!」
「こんなに感じてるのに。これなら、挿れられそうか」
「あひっ、あっ、やめてぇっ……!」
 達しながら腰をガクガク揺らし、潮を吹いているのに指を動かされ続け、オフィーリアは半狂乱になった。
「もう少しほぐした方がいいと思うんだが」
 そう言いながらようやく指を引き抜かれ、オフィーリアはホッとした。
「はーっ、はーっ……」
「少し、こっちにも触れておこう」
 そう言うと、ライバックはオフィーリアの豊満な胸を揉みながら乳頭を口に含んだ。そして先ほど、陰核にしたようにまた舐めしゃぶるのだ。
 それをされると、まだ媚薬の効果が治まっていない蜜孔がかゆくて疼いてたまらない。
 早く、中を擦ってほしい。もっと、硬く太いもので。
 気が付けば、オフィーリアは泣きながらお願いしていた。
「挿れてぇっ、早く……っ」
「痛みはもうほとんどないだろうが、いいのか?」
「うんっ……、挿れて、中をゴシゴシしてほしいの」
「はぁっ、たまんねぇな」
「え……?」
「いや、しっかり中をゴシゴシしような」
 ようやく、オフィーリアは脚を大きく広げられ、襞の間に彼の雄が擦り付けられた。
 大きくて硬いそれは、先ほどは痛くて怖い対象だった。
 だが、今はこれでかゆい奥の部分まで擦ってもらえるという期待でドキドキする。
 熱く重量の感じられる雄が、蜜孔に宛がわれた。そのままゆっくり腰を進められるが、気持ちの良い部分を擦られるだけで痛みは全くない。
「あっ、あぁっ……!」
「良さそうだな?」
「うんっ、気持ち、いい……っ」
 ライバックはニヤリと笑った。そして奥までゆっくり挿入し、疼いていた部分を雄の先端でズブンと突いた瞬間、オフィーリアは完全に理性を失ってしまった。
「おっ、おっ、おぉ……っ」
「痛くないよな? どうだ、オフィーリア」
「もっと、してぇっ……!」
「もっと。こうか?」
 ライバックがゆっくり引き抜いて、そしてまたゆっくり奥まで挿入する。
 それはオフィーリアにはもどかしすぎて耐え難いものだった。
「もっと、早くゴシゴシしてぇっ」
「いいんだな?」
「うん、うん……っ」
「はは、可愛いな」
 笑顔を見せると、ライバックは本気のガン突きを始めた。
 どちゅどちゅと肉がぶつかる音と水音が部屋に響くが、オフィーリアは痛がるどころか腰をくねらせてよがっていた。
「あーっ、イくっ、イく……っ!」
「気持ちいいか?」
「気持ちいいよぉ……っ、イくぅっ、あーーっ……!」
 甘えた口調で気持ちよさそうに喘いでいると、ライバックが我慢出来ないとばかりにガバッと覆いかぶさって口付けてきた。
 キスをして、舌を絡ませあいながら突かれると更に気持ちがいい。
「んっ、んーっ……!」
 二人はぴったり密着し、抱き合いながらキスをして交わる。
 オフィーリアは気持ちのいいことしか考えられなくなって、彼に抱きついて夢中でキスを交わして腰を揺らしていた。段々と、ライバックの息も荒くなっていく。
「はぁっ、奥まで挿れるぞ」
 上に伸し掛かった彼が腰をぐりぐりと押し当てると、最奥へとズプッと挿入されたのを感じた。
「ひぐっ! んひぃぃっ!」
 それは、明らかに入ってはいけない部分に雄の先端が侵入していた。オフィーリアの疼きの根源の部分が雄によって押し潰され、お漏らしをしながら知らない間に達していた。
 汚い喘ぎ声が口から勝手に出ている。
「ははっ、可愛いな」
「おっ、おっ、おーーっ……!」
「意識、飛びそうか? 薬が強かったか」
「ひっ、ひぃっ、はひぃっ……!」
「俺には薬が効かないから、濃度が分からなかったが。はぁっ、射精すぞ……っ」
「あひっ、あっ、あーーーっ!」
 中で欲望を放たれると、薬の効果かまたとんでもなく快感を得られて、オフィーリアは一緒に達して、そして意識を失った。
 再び気が付いた時にも、ライバックは挿入したままだった。止めてと言っても聞いてもらえず、何度もイかされ、そして中で出され、朝まで犯され続けたのだった。

 翌日、理性を取り戻したオフィーリアは激怒した。
 二度と怪しい薬を使うなと言い渡し、そしてライバックへの態度は硬化した。
 いつも理知的で威厳を保ちたいオフィーリアにとって、あの痴態は到底許せるものではなかったのだ。
 今のオフィーリアなら、その態度も大人げないし、ツンとする以外に何か出来るだろうと思う。
 でも、ライバックも悪気なく薬を使うにしろ、自分は薬が効かないからと効果が強すぎるものを適当に使用するのはいかがなものだろうか。それに、薬の効果が切れた後、オフィーリアが気絶したのにしつこくヤりすぎだ。
(やっぱ、どっちもどっちよね。さて、これからどうしようかな)
 今のオフィーリアは、前世の記憶分の人生経験があるので少し大人の振る舞いが出来る。
 それに、ライバックは前世の推しだ。彼が恥をかいたり失敗するところを見るのは耐えられない。
 最低限の礼儀作法だけは覚えてもらって、貴族社会の常識を知ってもらおう。
 そのうえで、やるやらないの取捨選択は本人にしてもらう。
 彼が恥をかいてもいいからやりたくないということを、無理にさせるわけにはいかない。
(よし。そうと決まれば、オフィーリアの礼儀作法についての記憶を辿るか)
 オフィーリアは起き上がってベッドから這い出て、よろよろと自室に戻ったのだった。

 

 

 

 その日から、オフィーリアはマニュアルの執筆に取り掛かった。
 最低限の礼儀作法を記したマナーブックだ。まず、書庫で本を探したり侍女に頼んで本屋に買いに行ってもらう。
 子ども用の本も集めた。それを読みながら、勇者に向けたものを取捨選択していく。
 平民出身者が貴族社会を理解する為に必要な知識に加え、地方出身者が王都に出てきて初めて知るであろうこともまとめておきたい。オフィーリアは、侍女にも話を聞くことにした。当然、侍女は怪訝な様子だった。
「あの、オフィーリアさま。何故そのようなことを私に尋ねられるのでしょう」
「貴女は王都から遠く離れた領地の男爵家で生まれ育ち、王都に勤めにきたのでしょう? 王都で初めて知ったことや、貴族の屋敷に特有の風習があるなら知りたいの」
「そうおっしゃいましても。どのようなことをお伝えすれば良いのか、私には分かりかねます……」
 目的が分からないので、何を言っていいのか分からないのだろう。
 とすれば、ライバックの為のマニュアルだと言えば良いのだろうが、それをこの侍女に伝えて良いものか。
(うーん、いきなり勇者ライさまの為って言ったら明らかにおかしいからなあ。怪しまれるのは避けたい)
 この侍女は、ライバックが伯爵となって新しい屋敷で侍女を募集した時にすぐ応募してきた、気の利く働き者だ。勇者が平民出身であることは知られていた為、当時募集してきた者は平民が大半を占めていた。既に他の屋敷で勤めたことのある経験者でかつ、男爵令嬢の彼女は重宝されている。そしてライバックが妻を迎えるとなった時に、一番優秀で身分があるからとオフィーリア付きにされたのだった。
 オフィーリアは、公爵家で仕えていた侍女たちを連れてこなかった。彼女たちは身分が高く、平民は自分たちとは違う存在だと悪気なく見下してしまうので、きっとトラブルになると予想したのだ。
 今のところ、そういった類のトラブルはないが普通に不仲な夫婦となっている。オフィーリアの気遣いは無駄になってしまった。周囲に置く人の数を少なくしている分、言動が変わっても怪しまれる確率が低いのは助かるが。
 しかしこの侍女に怪しまれ、魔族扱いされるのはゴメンだ。
 どう答えたものかと考えているうちに、オフィーリアはふと気付いた。
(この侍女、なんだか勇者ライさまのイメージカラーとモチーフを身につけてない……?)
 記憶を取り戻す前のオフィーリアは、侍女を「侍女」としてしか認識していなかった。だから侍女の名前も知らないし、言いつけた仕事をして出しゃばらなければそれでいいというスタンスだった。
 しかし、今は人として見ているし、彼女の名前がナタリーということも分かっている。
 オフィーリアは問いかけてみた。
「ところで話は変わるんだけれど。貴女のその髪留め、勇者の剣のモチーフではなくて?」
「……!」
「それに、編み込みのリボンも勇者カラーの水色でしょう」
 指摘すると、ナタリーはガタガタ震え出した。
 そして土下座せんばかりに頭を下げたのだ。
「もっ、申し訳ございません! 決して、邪な気持ちで身につけているわけではございません! ただ、この王国を救ってくださった勇者さまに感謝の念を抱いているだけで! 旦那さまに近付いてどうこうしようですとか、そういうことは考えておりません! 本当です!」
「……そうまで言われると、余計に怪しいわ。勇者のファンだから、この屋敷で働きたいと思って応募したのではなくて?」
 冷静に問いかけると、ナタリーは真っ青になった。
「いえっ、それはっ! そんな、そういう気持ちが、全くなかったというわけでもなかったりするのですが……、いえでも! 本当に、私ごときがどうこう出来るお方ではございませんので! 使用人としてここで働けることが、私の喜びでございます!」
 まあ、推しに近付ける仕事ならやりがいがあって良いのかもしれない。
 そして今、ナタリーの弱みを握った。これで動きやすくなるし、使い勝手の良い人物を得ることが出来たではないか。
 オフィーリアはニンマリとして口を開いた。
「あの方は、ご自分に妄信的な人物は苦手よ。そのような者は使用人として雇わないようにしているわ」
「そっ、それは! 勿論でございます。旦那さまに対しておかしな言動は、一切しません! 私は弁えた使用人です!」
 勇者の熱狂的なファンが屋敷に潜り込もうと、あの手この手を使ったことがあった。出入り業者に化けたり、付き人にしてほしいと直訴したりだ。ただただ勇者に憧れて、少しでもお近付きになりたいという人は少なくない。
 ただ、そのような人物は熱に浮かされたようになって現実を見ていない。己の憧れの勇者という虚像だけを妄信している。それに、嫌気がさしたライバックはファンとは関わらないようになった。使用人が彼の私物を漁っていることに気付いた時には、すぐにクビにしている。
 だからオフィーリアが彼に訴えたら、ナタリーはすぐ辞めさせられることになるだろう。
 フッと笑って震えたままのナタリーを見下ろす。
「そんなに怖がることはないわ。それより、そうね。市井ではその物品がどのように販売されているのか、教えてもらいたいわ」
「えっと。その物品とは、こういうグッズ類のことでしょうか?」
「ええ、そうよ」
 ナタリーは突然、めちゃくちゃ早口になって怒濤の語りを始めた。
「まず、勇者さまのグッズは王宮内で版権管理されていて、それで許可されているものが専用の店舗で売られるようになっています。以前は版権がなくて好き勝手に海賊版グッズが販売されている状態で。それで王宮内の部署で管理されるようになったんです。最初は王宮内で一般見学をした人だけが買える物販店舗で売っていたんですが、そうすると人々が押し掛けるようになってしまって。今ではたくさんの店舗が王都内に展開しています。それでも新商品が発売される日にはたくさんの人たちが行列を作るので、通信販売も展開されています」
「そ、そう……」
「やはり一番人気なのはブロマイドですね! 高名な画家が描いた肖像画を転写したものから、実写肖像を転写したものまで色々あります。実写肖像ですと、今現在の勇者さまのお姿を拝見することが出来ますので、最新版を見たい人々には大人気です。それから、勇者さまが実際に活躍した場面を描いた場面ブロマイドも未だに人気です。それと……」
(すごいオタク語りするじゃん!?)
 ナタリーが語り終えるまでにたくさんの時間を要した。
 オフィーリアはそれを聞きながら、これからの動きを考えるべく色々と計画する必要があるな、と考えつつもうずうずしてきた。
「……ねえ」
「ハッ! 申し訳ございません、お喋りが過ぎました」
「いいえ、構わないわ。それより貴女の今までのコレクション、見せてちょうだい」
「え……」
 戸惑うナタリーに、オフィーリアは毅然として命じた。
「今までに買ってきたものがあるんでしょう? それを見せなさいと言っているのよ」
「その、どうしてでしょうか……」
「見たいからに決まっているでしょう。ダブり……、複数購入して余剰分があるならわたくしが買い取るわ」
「えっと、その……」
「早くなさい」
 ピシャリと言うと、ナタリーは慌てて部屋を出て行った。
「では、取ってきます! 失礼いたします!」
「ええ、お行きなさい」
 しばらくすると、ナタリーが戻ってきた。
 手には綺麗な箱を持っている。きっと、彼女の宝箱なのだろう。
「失礼いたします。ただいま戻りました」
「ええ、ナタリー。こちらに座りなさい」
「えっ! そんな、恐れ多いことです……」
 ソファの隣に座るよう指示すると、侍女としてあり得ない待遇に彼女は立ちすくんだ。
 だが、今のオフィーリアにとっては侍女ではなく同担なのだ。それも、この世界では初めて会う推し活をしている先輩だ。色々話を聞きたいので、遠慮は要らない。
「それだと、説明を受ける時に遠くて不便でしょう。隣に座って、見せながら説明をしてちょうだい」
「は、はい。失礼いたします……」
 緊張した様子で座ったナタリーだったが、ブロマイドを見せながらいつどのように買ったかを教えているうちにまた早口のオタク語りを始めていた。
「このブロマイドは?」
「はい! それは勇者一行が魔王城近くの村で魔王軍幹部と戦った時の様子を切り取った一枚です」
「本当に、こんな敵とこういう風に戦ったのかしら?」
「そうらしいです! このシリーズは、勇者パーティのどなたかから直接聞き取ったものですから、全くの嘘ではないと思います!」
 多分そうらしい、というあやふやなものだが、こんな怪物を含む魔王軍と戦うなんて、やはり推しはすごい。
(でも原作にはない、見たことないシーンだな……)
 勿論、原作の『勇者伝』にも全てが描かれていたわけではないと思う。でも出来ることなら、本当にこの世界で勇者一行が旅をした記録、いわば本物の勇者の伝記を読んでみたいものだ。
 そう思いながら目についた、スクラップされた新聞記事について尋ねる。
「これは、インタビュー記事かしら」
「はい。勇者パーティについて、周囲の人や有識者にインタビューをしている新聞記事です。これ、シリーズ連載をしているんですが、私がお休みの日しか買いに行けなくて……」
「ああ、新聞を取ることは出来ないのね」
「はい、住み込みの侍女が新聞を取るなんて、聞いたこともありません。お仕事が終わってから買いに行っても、人気らしくてどこにも売っていませんし」
 オフィーリアは記事を読んでからふむと頷いて、事もなげに言い放った。
「では、これからはわたくしがこの新聞を取るわ」
「えっ! オフィーリアさまが、ですか」
「他にも良い記事が載っている新聞があれば、それを取るわ。貴女のお仕事は、勇者関連の記事を切り取ってスクラップすることよ」
「ええーっ! そんな、いいんですか? 私の役得になるようなことを……、信じられません」
 今までのオフィーリアの態度からは、考えられない変わりようだ。
 しかし、今のオフィーリアは違う。
「わたくしは、先のことまで考えることにしたの。嫌だ、嫌だとばかり言っても何も変わらないでしょう」
「先のことまで、とは一体……?」
「礼儀作法についてまとめるのは当然、旦那さまに覚えていただきたいからよ。その為には、勇者についても知るべきだと判断したの」
 ちょっと苦しい言い訳かと思ったが、ナタリーはすんなり納得した。
「なるほど、そういうわけだったのですね」
「ええ。ライバックさまには早く独り立ち、つまりわたくしの手助けが必要ない状況になっていただきたいものだわ」
「そ、それはオフィーリアさま、この屋敷から……」
「いいえ、それはまだ考える時期ではないわ」
 慌てて遮っておいた。離婚して出て行く意思ありと思われるのも現時点ではマイナスだろう。
「そう、ですよね……」
「ええ。ただ、わたくしがうるさく指示をせずとも、王宮で上手く立ち回りが出来るようにすることは急務だと考えているわ」
「そうと分かれば、私もお手伝いさせていただきます!」
「助かるわ」
 にっこり微笑みながら、オフィーリアは内心ガッツポーズをしていた。
(よしっ、これで手足となって働いてくれる人員ゲット。かつ、推しが同じ同志を得たわ。これからいっぱい推し活しようっと)

 

 

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ご愛読ありがとうございました!
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