塩対応の美形魔術師の溺愛が本気すぎる 嘘告なのに囲い込まれて逃げられません!? 1
王都を訪れるのは初めてだった。
地図を片手に道行く人に場所を訊ね、ようやく目的地に到着する。
ホッとして地図を鞄にしまい、門を潜ったときだ。
「好きです。ずっと、あなたのことが好きでした。お試しでもいいので、私と付き合ってくれませんか?」
若い女の上擦った声が聞こえてきた。
ラリサ・アルバは足を止め、声のほうへと視線を向ける。
十歩ほど先にある雄大な広葉樹の下に、ラリサと同年代らしき若い男女の姿があった。
二人とも王立魔術学校の生徒のようだ。ラリサと同じ制服を着ていた。
十日後に始まる新年度から、ラリサはこの王立魔術学校に通い始める。
今日、ラリサがひと足早く学校を訪れたのは、入学と入寮の手続きのためだった。
ちなみに王立魔術学校の生徒は原則的に十二歳で入学し、十八歳で卒業する。ラリサのように十五歳から通い始める『特別入学』は珍しかった。
(休みに入る前に告っちゃえ、ってやつかしら)
全課程を修了した卒業生は、すでに学校を去っていた。在校生は、今日から十日間の休暇に入ると聞いている。
休みの間を恋人として過ごしたい。もしくは振られても休暇を挟めば気まずくないから……と、この時期に告白をしているのだろう。
(青春ねえ)
ラリサは目を細め、若い男女を眺めた。
ラリサも彼らと同じ年頃で、うら若き乙女だった。
人並みに異性に興味はあるし、恋に憧れも抱いている。
告白したりされたりしてみたいし、ドキドキしたりキュンキュンしたい。
キラキラの学生生活を送ってみたかった。けれど――。
ラリサはふわふわした甘い幻想を振り払うように、頭をブンブンと振った。
いつかは身を焦がすような恋愛をしてみたい。けれど、それは今ではない。
ラリサが窮屈な馬車の中で二日間も揺られ、遙々王都まで来たのは恋愛をするためではないのだ。
この二年間、睡眠時間を削って勉強したのは王立魔術学校に通うため。
十歳のときから品行方正な優等生を演じ続けたのは、奨学金をもらうためだった。
(そう! みんなから付き合いが悪いと言われても、勉強を優先してきたのも! 見栄っ張りだと陰口を叩かれても、進んでお手伝いをしていたのも! すべては魔術師になって、将来お金をたくさん、ガッポリ稼ぐため。恋人、男なんて二の次だわ……友達くらいはほしいけれども)
恋愛にのぼせて、勉強を疎かにはしない。けれども勉学だけに熱中して、友達も仲間も作らず一人ぼっちの暗い学生生活を送るつもりもなかった。
学生時代に得た友達は一生の友達だというし、仲間は人生において財産だ。
悩み事を相談して励まし合って、時には喧嘩もして。切磋琢磨し成長をしていける友達、仲間を作りたい。
ラリサはわりと物怖じしない性格をしているので、難しくはないはずだ。
努力家で要領も良いし、自慢ではないが容姿も整っている。
長い金髪は艶やかで、長い睫に彩られた緑色の目はぱっちりしたアーモンド型だ。鼻はほどほどに高く、唇は紅をささずとも血色が良い。
手足はすらりと長く、背も平均より高い。
幼い頃から、利発そうだと言われてきた。
ラリサ自身は美醜にこだわりはない。けれども多くの人にとって、容姿が優れている人のほうが第一印象がよくなる。
ラリサのこの容姿も友達作りに役立つだろう。
「これ……受け取ってください。いらないなら、捨ててもいいですから」
今後の学生生活に思いを馳せていたラリサは、女子生徒の不安げな声に我に返る。
(盗み見はよくないわね)
女子生徒が赤いリボンで装飾された小箱を、男子生徒に差し出している。
その姿を横目に、ラリサは学舎へと足を進めようとした。しかし続いた低い声に驚いて、再び足が止まってしまう。
「いらないので、ご自分でゴミ箱に捨ててください」
失笑交じりの声だった。
冷ややかな言葉に、ラリサは唖然とする。
「そ、そんなっ……うっ……ひっ、うう……」
少しの間のあと、嗚咽が聞こえてきた。
女子生徒が両手を顔に当て、肩を震わせている。
まったく関係のないラリサですら、ギョッとしたのだ。
想いを告げた相手に、あんな冷たい言葉でプレゼントを突き返されたら泣いてしまって当然だ。
「用件はそれだけですか? では、失礼します」
泣きじゃくる女子生徒を慰めるどころか鬱陶しげにそう言い放ち、男子生徒はラリサのほうへと歩いてきた。
すらりとした長身の男子生徒の顔を直視したラリサは、思わず息を呑む。
薄茶色の髪に、切れ長の琥珀色の瞳。
高く整った鼻梁に、薄い唇。染みひとつない滑らかな肌。
男子生徒は少し酷薄そうな印象があるものの理知的で、外見の美醜に興味のないラリサでも見入ってしまうほどの美形だった。
ここまで美形なのだから、かなりモテるに違いない。
告白は日常茶飯事。
プレゼントなど、飽きるくらいもらっている。だから、ありがたみがない。
掃いて捨てるほど女性が寄ってくるから、あんな冷たい言動ができるのだろう。
(モテるから、いい気になってるんだわ)
母のことを思い出したせいか、胃がだんだんとムカムカしてくる。
ラリサの母は、ラリサが八歳のときに亡くなっていた。
優しかったけれど、可哀想で愚かな女だった。
母はそこそこ裕福な商家の娘だった。
しかし妻子持ちの男と恋仲になり、世間体を気にした両親から家を追い出された。
そして妊娠が発覚。帰る家を失った母を、男はあっさり捨てて妻子の元へと戻った。
『あなたのお父様はね、それはもうひと目で恋に落ちてしまうほど、素敵だったの。捨てられたのは、私が悪いの。あの人と私では、そもそも釣り合わなかったのだから。こうしてあの人の子どもを産めた。それだけで幸せなの』
捨てられたというのに、母は男を恨んでいなかった。
それどころかまるでまだ恋をしているかのごとく頬を赤らめ、男を庇った。
『あんなに素敵な人を独り占めしようとした私が間違っていた。あの人は誰にでも優しいのに、私だけを愛してくれていると勘違いしてしまった私が悪いの』
不貞を犯したあげく、若い女を妊娠させ捨てた男のほうが悪人だ。幼いラリサにだって、わかることだった。
なのに、母は自分が悪いのだと言う。
そんな愚かな母を弄んで捨てた父を、ラリサは憎々しく思っていた。
そして母が父の容姿を誉め称えていたせいもあって、ラリサは美形な男に対して少々偏見があった。
美形な男を見ると、好色で軽薄で薄情なのでは……と疑ってしまう。
女子生徒への冷淡な態度からして、目の前の男子生徒はラリサの父とは違い、女を弄ぶような不誠実な男ではないのかもしれない。
(でも、それにしたってあの態度は……)
思いやりや優しさがなく、酷すぎである。
凝視していたせいで、男子生徒の琥珀色の瞳と目が合う。
彼は興味なさそうにラリサを一瞥すると、速度を緩めることなく颯爽とラリサの隣を通り過ぎていく。
言うべきか言わぬべきか……迷うよりも先に、口が開いていた。
「振るにしたって、相手を傷つけない言い方っていうのがあるでしょうに」
ぽつりと零した呟きは思っていたよりも大きく、男子生徒の耳にも届いてしまったようだ。
男子生徒は足を止めて振り返り、ラリサを見下ろした。
「言い方ですか……。たとえば、どのような言い方ならば相手を傷つけずにすむのか、教えていただいてもよろしいですか?」
目を細め、皮肉げに訊いてくる。
嫌味な口調と仕草にイラッとする。しかしラリサの呟きも嫌味っぽかったので、お互い様である。
「学業を優先したいとか、他に好きな人がいるとか。いろいろあるでしょ」
ラリサは挑むように男子生徒を見返した。
男子生徒は一度大きく瞬いたあと、ニッと笑みを深くした。
見も知らぬ通りすがりの無関係の女が、口を出してきたのだ。怒るのはわかる。なのになぜ微笑むのか。
怖いというか、嫌な予感がした。
身構えていると、男子生徒は笑みを浮かべたままラリサのほうへと近づいてくる。
ラリサの背に手を回した。
「……ちょっ」
「ちょうどよかった。紹介します。俺の恋人です」
ラリサの文句を遮り、彼はよく通る声で言った。
「…………は?」
あんぐりと口を開けるラリサに構わず、広葉樹の下に立っている女子生徒に視線を向けて男子生徒は続けた。
「彼女と交際しているので、あなたの想いには応えられません」
先ほどまで顔を覆って泣いていた女子生徒が、カッと目を見開いてこちらを見る。
「そんな……嘘よ……。あなたに恋人がいるなんて、聞いたことないわ。いつから……?」
「つい最近、交際を始めたのです」
驚いた様子で問いかけてくる女子生徒に、男子生徒は言ってのけた。
「俺は彼女を愛しています。彼女以外の女性に興味はないんです。ぜひ周りのお友達方にも、俺が彼女に夢中なことを広めてください」
男子生徒の発言に、女子生徒の顔が徐々に強張っていく。
そして顔をこれ以上ないほど歪め、ギロリとラリサを睨めつけながら、ドスドスと足を踏みならし向かって来た。
「……っ」
女子生徒はたじろいでいるラリサにわざと肩をぶつけ、速度を緩めぬまま通り過ぎていった。
呆然としていたラリサは我に返り、男子生徒を見上げた。
「……ち、ちょっとっ……! 交際って? なに!? どういうこと? あなたとは今、ここで初めて会ったんだけど!」
「初めて見る顔ですね。新入生ですか?」
いったい何のつもりだと声を荒らげるラリサに構わず、男子生徒は平然とした表情で訊いてくる。
「ええ、そうよ。そうだけど……」
「特別入学ですか?」
「そうよ。そうだけど、そうじゃなくて」
「違うんですか?」
「違わないわ。特別入学よ! だから今は……そういう話をしているんじゃなくて。さっきの発言は何なのかって訊いてるの」
「あなたがおっしゃったんでしょう? 振るにしても相手を傷つけないような言い方があると。あなたの助言に従っただけですよ」
彼はさらりと、至極当然のように言う。
「助言って……」
確かに助言はした。
けれど、あくまで例をあげただけだ。
それに人を巻き込んだ嘘を吐くくらいなら『学業を優先したい』のほうを理由にすべきである。
「自己紹介がまだでしたね。俺はレオニート・ファレフ。あなたは? お名前をお伺いしても?」
「私はラリサ・アルバ。……って、暢気に自己紹介してる場合じゃなくて」
「俺は今は十五歳です。夏に十六歳になります。あなたは?」
高身長だし、妙に落ち着いているのでラリサより年上に見えたが、数か月の年齢差しかないようだ。
「私は秋に十六歳になるわ。だからね、あの」
「でしたら同じクラスになりそうですね。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。ラリサ」
レオニートが左手を差し出してくる。
「あなた……人の話を聞かないって、よく言われない?」
「いえ。初めて言われました」
レオニートはフッと鼻で笑い、肩を竦めてみせた。
ラリサは、はあと大きく溜め息を吐く。
(何なのよ、いったい……。わけのわかんない男……)
ムカついたので、ラリサはレオニートの手を力いっぱい握り返した。
「こちらこそ、どうぞ、よろしく」
とにかく、こういうわけのわからない輩とは関わらないに限る。
よろしくと口にしながらも、たとえ同じクラスだったとしても近づかないようにしようとラリサは心に誓った。
この出会いが長い付き合いの始まりになるなど、そのときは思いもしなかったのだ。
◇ ◇ ◇
任務を終え、ラリサは報告と報酬を受け取るために組合本部へと立ち寄った。
報告書に記入を済ませ、依頼主のサインの入った任務完了承認書と一緒に窓口へ提出する。
「問題ないみたいですね。お疲れ様です」
それらを確認し、馴染みの受付嬢は舌っ足らずの声音でラリサを労い、報酬金をカウンターの上に置いた。
「ありがとう」
滅多にないけれど、たまに金額に間違いがある。
念のためラリサは、きちんと数えてから報酬金を布袋に入れた。
今回の任務は商団の護衛だった。
盗賊だけでなく魔獣も出没する危険な経路を通るので、報酬はよい。
けれども危険な任務のため、雇われた護衛の数も十人と多かった。なので一人当たりの報酬は少ない。
(今月はあと三、四件は受けないと厳しいわね。最近、高額任務を逃しまくっているのが痛いわ)
早い者勝ちなので、割のいい任務はすぐに同業者に取られてしまう。
今月は特にタイミングが悪くて、例月より稼げていなかった。
(魔術師になれば、将来安泰だと思ってたんだけど……)
働いても、なかなか暮らしは楽にならない。
ラリサは生活の厳しさを噛みしめ、心の中で溜め息を吐いた。
母を早くに亡くしたラリサは、十五歳まで孤児院で育った。
孤児院は国からの給付金と寄付金により運営されていたのだが、院長や職員の横領が日常的に行われていたため、生活環境はあまりよろしくなかった。
施設は古く、酷い雨漏りと隙間風。
食事は一応、三食提供されてはいたが質素。
生活用品は安物で、衣服は年長者のお古であった。
劣悪というほどではないものの、快適では決してなかった。
しかしそういう環境とはうらはらに、教育には力を入れていて、高水準な授業を受けることができた。
孤児院で育った子が立身出世すれば、実績のある孤児院としてより多くの寄付金を集められると考えていたからだろう。
勉強を嫌がる子どもたちばかりだったが、ラリサは自ら進んで学んだ。
母と暮らしていた頃から、ラリサの生活は貧しかった。
だいたいいつもお腹をすかせていたし、着る服はつぎはぎだらけ。
家賃を滞納していたので、家を追い出されたらどうしよう、明日を無事に迎えられるかと不安だった。
そんなラリサの夢は、不安のない日々を送ること。
つまり、お金持ちになることだった。
雨漏りのしない家で暮らしたい。美味しいものをお腹いっぱい食べてみたい。
柔らかなベッドの上で眠り、新品の服を着てみたかった。
女が手っ取り早く稼げる職業に娼婦がある。
娼婦という職業に偏見は抱いていなかったが、ラリサは気が強い。
男に媚びる職業は向いていない気がした。
それに娼婦は、年齢を重ねるごとに稼ぎが減っていく。
ラリサは安定した職業に就き、老後も豊かに暮らしたかった。
後ろ盾のない孤児であるラリサがまともな職に就くには実力、すなわち学びが必要だった。
最初は、医療関係の仕事を目標にしていた。けれど魔術の素質があったため、魔術師を目指すようになった。
人はみな、大なり小なり魔力が備わっている。
しかし、その魔力を魔術として扱うには才能と鍛錬が必要で、誰しもが簡単に扱えるものではなかった。
教師から一度教わっただけで初級魔術が使えたラリサは、生まれつき魔術の才能に恵まれていたようだ。
魔術師はどの国でも引く手あまたで、食いっぱぐれる心配はない。
経験を積めば積むほど重宝されるので、年をとっても仕事を続けられる。
目標を魔術師一本に定めたラリサは、魔術の勉強に勤しんだ。
向上心があり、物覚えと要領がよいのもあって、ラリサは水を得た魚のように知識を吸収していった。
けれどもいくら才能と知識があり努力をしても、越えられぬ壁があった。
よりお金を稼げる優秀な魔術師になるには、国家資格である魔術師資格を取得せねばならない。
そしてその魔術師資格は、王立魔術学校に通わねば取得できなかった。
そこで問題が立ちはだかった。
王立魔術学校の学費は、孤児院の一年の寄付金に匹敵するくらい高額だったのだ。
もちろん孤児院は払ってくれない。ラリサを援助してくれる人もいなかった。
妥協して無資格魔術師としてやっていくか、それとも別の道を目指すか。
自分の進むべき将来に思い悩んでいたラリサに、院長が奨学金を利用したらどうかと薦めてきた。
奨学金は、貧困層にも平等に学ぶ機会を与えるべきという理念の元、国が推し進めている支援制度だ。
学費や生活費を国が貸与してくれ、職に就き給金が入るようになってから返済をする。いわゆる出世払い的なものであった。
ラリサは院長の案に飛びついた。
しかし――飛びついたのはよいが、奨学金は誰しも望めば受けられる制度ではないため、そこからもなかなかに大変だった。
試験で基準値以上の成績を残さねば奨学金は得られない。
それだけでなく、普段の生活態度も審査された。
ラリサは必死に勉学に励み、日常生活でも模範的とされる子どもを演じ続けた。
他の子どもたちと遊ぶのを止め、大人たちに気に入られようと、はしゃいでいる彼らを窘める側に回った。
そうして、周りから煙たがられ浮いた存在になったのと引き換えに、ラリサは奨学金を貸与される権利を得た。王立魔術学校の試験にも、無事合格した。
けれども王立魔術学校に入学して、終わりというわけではない。
入学は目的ではなく過程だ。
魔術師資格を取得するには、さらなる努力が必要だった。
ラリサ以外の生徒たちは、十二歳の頃から魔術学校に通っている者たちばかり。
ラリサのように十五歳で、中途に入学する生徒は『特別入学』と呼ばれるほど珍しかった。
授業についていくため、ラリサは学生時代の三年間、必死で勉強に励んだ。
その頑張りのおかげで落ちぶれることなく、ラリサは次席の成績で王立魔術学校を卒業した。もちろん魔術師資格も取得している。
(本当はもっとちゃんとした……安定して、保障とかもしっかりしてて、給金の良いところで働きたかったんだけど……)
優秀な成績を残し、念願だった魔術師資格も難なく取得したものの、ラリサの就職活動は上手くいかなかった。
優良な職場であればあるほど、身元保証人が必要になる。
孤児であるラリサは、本来ならば孤児院が身元の保証をしてくれるはずだった。
だがラリサが卒業する半年ほど前。院長たちの不正、使い込みが明らかになってしまった。
孤児院は解体。子どもたちは設備が行き届いた別の孤児院に引き取られた。
子どもたちにとっては幸運な出来事だったが、ラリサには時期が悪かった。
身元の保証先がなくなっただけでなく、悪名高い孤児院出身だということが重く見られ、優良なところからはことごとく不採用をくらい、希望していた職に就けなかったのだ。
少ないけれど、月給がもらえるところで働くか。
月給はないが、働いたら働いただけ給金をもらえるところで働くか。
悩んだ結果、ラリサは後者を選び、魔術師組合(ギルド)に入ることを決めた。
組合は、依頼者と魔術師の仲介所である。
任務の紹介だけでなく、不払いや不履行などの問題が発生したときは間に入って解決してくれる。
任務中に、事故で器物を破損したり怪我をしたりした場合は補償金も出た。
歩合制なので安定はしていないものの、自分の頑張り次第でお金を稼ぐことができた。
そうしてラリサが王立魔術学校を卒業し、魔術師組合所属の魔術師として働き始めて六年が経った。
長期の休みは取らず、淡々と任務をこなしている。
しかし今も尚、ラリサはわりと貧乏な生活を送っていた。
ラリサの生活が厳しい理由は、奨学金の返済だ。
毎月結構な額を返済していたが、莫大な学費は六年経っても返せていない。
予定どおり支払いを進められたら、来年の後半には返し終えているはずである。
(それまでは切り詰めて、バリバリ働かないと……)
奨学金を返し終えたら、あとは貯まっていく一方だ。
(貯金はもちろん大事だけれど……今まで頑張ったんだから、ちょっとぐらい贅沢をしたっていいわよね)
ずっと切り詰めた生活をしてきたのだ。
頑張ってきたご褒美に、お高めの服を何着か新調したい。
記念として、アクセサリーを買うのもいい。
分厚い肉を、お腹いっぱい食べたい。任務をお休みして、一か月くらい気ままに旅をするのも悪くない。
ラリサは奨学金を払い終えたあとの妄想をしながら窓口を離れ、任務提示所へと足を向けた。
「ラリサ!」
貼り出されている任務に目を通していると、背後から名前を呼ばれた。
振り返った先には、何度か任務で顔を合わせたことのある中年の魔術師が立っていた。
「ちょうどよかった。あんたを探してる奴がいる」
「……私を?」
「ああ。昨日も来ていたみたいだ。今日なら任務終わりで、ここに立ち寄るんじゃないかと、誰かが伝えたみたいだな。東入り口にいる」
「心当たりがないんだけど……誰かしら」
「二人連れの男女だ。変装しているが、女のほうは喋り方からしていいところのお貴族様だな。男は護衛といったところか」
知り合いに、ラリサを訪ねて来るような貴族女性などいない。
過去に任務で出会った誰かだろうか。
首を捻り、ラリサは中年の魔術師に礼を言い、東入り口へと向かった。
東入り口はこの時間は特に人通りが少なく、閑散としている。
それもあって、すぐにラリサを探しているという二人組を発見した。
二人とも茶色いマント姿で、目深にフードを被っている。
片方は小柄。もう片方はずいぶんと体格がよく、確かに護衛といった感じだった。
「こんにちは。私を探しているのは、あなたたち?」
ラリサは門の傍にいる二人組に近づき、怪しんでいるのを気取らせぬよう微笑んで声をかけた。