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愛が重いです、王子様!
麗しの男装令嬢はじわじわとオとされる

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書籍紹介

君なしでは生きられない

男装して舞踏会に参加する公爵令嬢ミーシャ。
友人の令嬢達と過ごす方が楽しいと男性陣を遠ざけていたけれど、
超絶美形の王太子ヴィンセントに気に入られてずっとつきまとわれ!?
夜会で話すだけの関係だったのに、ついには家にまで押しかけてきた!!
「逃がす気なんてないよ?」
デートの帰り際に突然キスされ、想いを告げられて。
骨の髄まで愛する王子と変わり者令嬢の結婚物語!

ジャンル:
西洋 | ファンタジー
キャラ属性:
王子・王族・貴族
シチュエーション:
幼馴染・初恋の人 | 甘々・溺愛
登場人物紹介

ヴィンセント

留学から帰ってきた王太子。好奇心旺盛で男装するミーシャに並々ならぬ興味を示す。家に訪問するまで男装姿のミーシャしか見たことがなかったが、ドレス姿を目撃して……?

ミーシャ

女の子とイチャイチャするのが趣味。夜会では、男性陣を差し置いての人気ぶりをみせる。普段は非常に美人で醜女。実は結構な天然娘。

立ち読み

「~♪」
 上機嫌で背中まである真っ直ぐな金髪を組紐でひとつに束ねる。数日前、仕立て上がったばかりのジャケットに袖を通せば、更に気分は上がった。薄い布を使って胸を潰しているので多少呼吸は苦しいが、それもまあ慣れたもの。あとは白手袋を嵌めて、インヒールのシークレットブーツを履き、身長を嵩増しすれば完成。
 鏡を覗き込めば、中性的で華奢な身体つきではあるが、甘いマスクが魅力的な男性が映っていた。
「ふむ」
 軽く前髪を掻き上げる。少し垂れた紫色の瞳が露になった。
 母譲りの瞳の色は自分でもかなり気に入っているパーツのひとつだ。左目の下には泣きぼくろがあり、なんとも言えぬ色香を放っている。
「──ああ、今日も私は完璧だな」
 自画自賛する。ナルシストと言われようが、そんな自分が好きなのだからしょうがない。
 少し低めの声は、最初は意識して出していたが、今は男装すれば自然に切り替わる。
 男装。
 そう、私はれっきとした女性なのだ。とてもそうは見えないだろうけど。
 ステッキを持ち、帽子を被りながら口の端を吊り上げる。
「さて、今日もお嬢様方とイチャイチャするために、夜会へ出掛けるとしますか」
 足取りも軽く、馬車へと乗り込む。他人が聞けばおかしいと言うのかもしれないけれど、これが私の日常で、そして幸せな日々なのだ。

◇◇◇

「こんばんは。良い夜だね、ご令嬢方」
 知り合いの公爵邸で開かれた今夜の夜会。
 ダンスホールに顔を出すと、すぐに顔見知りの令嬢たちに囲まれた。着飾った女性たちはそれぞれがまるで宝石のように美しく、見ているだけで楽しい気持ちになってくる。
「アレク様、お待ちしておりましたわ! あなたにお会いするのを楽しみにしていたんです!」
「はあ……いつ見ても麗しいお姿。心が浄化されるようですわ。あら、アレク様。もしかして燕尾服を新調なさいましたの? とてもよくお似合いですわ」
「ああ、実はそうなんだ」
 黄色い声を上げてうっとりとこちらを見つめる令嬢たちにとっておきの笑みを浮かべる。褒めてもらえるのは嬉しいし、自尊心が擽られる。全くもって最高だ。
「お褒めの言葉ありがとう。……おや、リザ嬢は少し前髪を切ったのかな。とてもよく似合っているよ。レイラ嬢は……ああ、化粧を変えたのか。そのアイシャドウの色、君の大人っぽい雰囲気にぴったりだ。更に魅力的になって、困ってしまうな」
 声を掛けてくれたふたりの女性、それぞれに目を合わせ、前回夜会で見た時とは違う点を告げる。私が気づいたことが嬉しかったのか、ふたりの令嬢は頬を染めた。
 前髪のことを指摘した令嬢──リザ嬢が潤んだ目で私を見る。私が元々身長が高めなのと、インヒールの靴を履いているため、かなり見上げる形となった。
「あ、ありがとうございます。そ、その……前髪を切ったのはほんの少しですのに、よくお気づきになられましたわね……嬉しい……」
「当たり前だよ。気づかない方がおかしいくらいだ。──ほら、全然違うじゃないか」
「そんな風に言って下さるのは、アレク様だけですわ。……私の婚約者は全く気づいてくれませんでしたのに……」
 その時のことを思い出したのか、リザ嬢が表情を曇らせる。彼女を元気づけようと、すっと顎を指で掬った。キャアという声が周囲から上がる。
「そんな悲しいことを言わないで。君の婚約者、もしかしたら気づいていたけど恥ずかしくて口にできなかっただけかもしれないじゃないか。だって君はとても魅力的な女性だからね。見惚れて何も言えなくなる気持ちもよく分かるんだ。だからあまり気に病まない方がいい。可愛い顔が愁いに沈むのは見たくないな」
「アレク様……」
「笑って? ね、リザ嬢」
 目を合わせ、優しく微笑めば、リザ嬢は顔をリンゴのように赤くして頷いた。
「は、はい……その……アレク様、ありがとうございます」
「うん? どうしてお礼を言うのかな。私はただ当たり前のことを言っただけだよ」
「……素敵」
 リザ嬢だけでなく、レイラ嬢も、そしていつの間にか集まってきていた他の大勢の令嬢たちもうっとりとしたため息を吐く。
 皆から陶酔しきった様子で見つめられ、心地よさに全身がゾクゾクした。
 ──ああ、これだから止められない。
 少し離れた場所から男性たちが親の敵でも見るような目を向けてきたが、華麗に無視した。
 どうせ女性たちに囲まれ、チヤホヤされる私のことが羨ましいだけだと分かっている。
 悔しいのなら、私と同じようにすればいいのに。
 何もしない自分のことを棚に上げて人を妬むような男に興味はない。
 興が乗ったので、私を睨む男性たちに煽ることは承知の上で余裕たっぷりに笑ってみせた。より一層強く睨めつけられたが、構うものか。男の嫉妬になど付き合っていられない。見苦しいだけだ。
「アレク様?」
「いや、なんでもない」
 可愛いドレスを着た令嬢が、不思議そうに私の名前を呼ぶ。
 アレクというのは、私のミドルネームで、男装している時はそう呼んでもらっているのだ。
 声を掛けてきた令嬢が、今まで見たことがないドレスを着ていることに気づき、反射で口を開いた。
「おや、君、ドレスを新調したのかな? 淡い色合いがとても良いな。それにその首飾りの宝石は深い海を思い出す。まるで君の瞳のようだよ」
 瞳と同色の首飾りも一緒に褒めれば、令嬢は頬を染めて喜んだ。可愛らしい反応にこちらも嬉しくなる。
 性愛対象というわけではないが、とにかく私は昔から女性が好きなのだ。いつだって自分や好きな人のために可愛くなろう、綺麗になろうとする女性が愛おしく思えて仕方ない。
 チヤホヤしたいし、されたい。そしてそのために、この男装はとても役に立っていた。
 何せ私に男装姿はよく似合うから。
 元々私は、男か女か分かりにくい中性的で綺麗系の顔立ちだった。女性にしては背も高めで胸は控えめ。シークレットブーツを履き、胸は布か何かで巻いて潰してしまえば誤魔化せる。髪は背中まで伸ばしているが、長髪の男性だって少なくない。ひとつに纏めてしまえば殆ど違和感もないのだ。
 そんな私が男性用の燕尾服に身を包み、ちょっと笑顔を見せればどうなるか。
 ミステリアスさが魅力の、綺麗系でスマートな貴族令息があっという間にできあがる。
 そして男装した私は、それはもう女性たちにモテた。
 当たり前だろう。だって私は女性なのだ。彼女たちが何を褒めて欲しいのか、どこに気づいて欲しいのか、全部分かっている。
 更にこの外見だ。男装した私は彼女たちにはとても魅力的に映るようで、ありがたいことに毎回大勢の女性に囲まれている。
 あと、私が本当は女性だということも、彼女たちにとってはプラス要素になるらしい。
 本物の男性ではないから、貞操の危機を感じる必要もない。恋人や夫がいる女性だって、浮気、なんて言われる心配もないので遠慮なくキャアキャア言い放題だ。更に私は彼女たちの恋バナを聞くのも好きだった。つまりは、恋愛相談ができるのも彼女たちにはポイントが高かったのだ。
 実際に女性たちから相談を受けて助言をしたのも一度や二度のことではない。
 恋をする女性たちは皆可愛らしく、その手助けをするのは私の楽しみのひとつでもある。だから彼女たちの悩みにはいつだって快く応じてきた。
 女性たちに囲まれ、楽しく過ごす毎日。それを私はこよなく愛している。
 ──ああ、やっぱり男装は止められない。
 男装姿は自分にピタリと嵌まるように似合うし、令嬢たちにはチヤホヤされるしで、止める理由が見つからない。
 嫌々? とんでもない。積極的に男装生活を送っているに決まっているではないか。
 もう、ずっとこのままで良いかなと思うくらいには、今の生活が馴染んでいるのだ。
 まあ、両親は嘆いているけれども。
 毎度男装して夜会に出向くせいで、恋人どころか婚約者のひとりもできない私を、両親は心から案じている。だが、私としては別に、というところだ。
 私には兄がいるし、その兄はすでに結婚して子供もいる。公爵家の跡取り問題は解決しているのだ。私が嫁がなくても問題ない。
 だからどうか今の日々が続くようにというのが、私の切なる願いだ。

 ミーシャ・アレク・フィリング、二十歳。
 性別、女。
 趣味は男装。そして、可愛い女の子とイチャイチャすること。
 本来なら公爵令嬢として華々しく夜会で輝くはずの私は、社交界にデビューしておよそ二年。
 なんと一度も皆にドレス姿を見せることなく、それどころか毎回夜会に趣味の男装姿で現れては女性を侍らせる女として、いつの間にかとても有名になっていた。







「やあ、ご令嬢方、こんばんは。今日も皆、可愛いな」
 ある日の侯爵邸で開かれた夜会。そこに私はいつも通り男装姿で出席していた。
 光沢のある黒のジャケットは着慣れたものだ。背筋を伸ばした方が見栄えがするので、姿勢に気をつけつつ、女性たちと話す。
 綺麗に着飾った女性たちは満開の花の上で踊る蝶のように魅力的で、実に目の保養になる。
 ──はー……皆、可愛い。
 流行のドレスや靴に身を包み、大胆に髪を結い上げた女性たちを楽しく眺める。最近はキラキラしたメイクが流行なのか、首元や胸元に光の加減で輝くパウダーを落としている子たちが多い。ウエストをキュッと締める今の流行は女性たちには大変だろうが、皆、可能な限り細く見えるよう頑張っている。そういうお洒落に一生懸命な子を眺めるのが私は大好きなのだ。
「アレク様こそ、今日もとても麗しいですわ」
「ありがとう。でも、君たちには負けるよ」
「あの……私と踊っていただいても?」
 もじもじと恥ずかしがりながらも期待の目を向けてくる令嬢に、自然と笑みが零れる。
「もちろんだとも。光栄だな……あ、いや、失礼。こちらから誘うべきだった。ご令嬢、よろしければ私と一曲踊っていただけますか?」
 作法に則り、手を差し出すと、令嬢は耳まで真っ赤にしながら私の手を取った。
 可愛い。
 女性のこういう素直で可愛らしいところを見ると、心がキュンとする。元気がもらえる気がするのだ。
 一曲、しっかりエスコートさせてもらってから、彼女の手を離す。壁際に下がると、すぐに別の令嬢たちが私を取り囲んだ。
「アレク様。つ、次は是非私と踊って下さいませ……!」
「いいえ、私と」
 必死にアピールしてくる女性たちに快く頷く。女性をエスコートするのは楽しいし、そのためにダンスの男性パートだって完璧に覚えた。私に隙はないのだ。
 踊りたいと言った女性たちと一曲ずつ相手をしてから、ワイングラスを手に、近くの柱にもたれかかった。先ほどとは違う令嬢たちが近づいてくる。困ったような顔をしていることに気づき、こちらから声を掛けた。
「どうしたのかな? 愁い顔を浮かべて。可愛い君たちにそんな顔は似合わない。何か心配事があるのなら、私に話してごらん」
 優しく告げると、彼女たちはあからさまにホッとした顔をした。
「あ、あの……アレク様、じ、実は私たち、ご相談したいことがあるのですけど……話を聞いていただいても?」
「もちろん大歓迎だ。君たちの話を是非聞かせて欲しい」
「そ、その……私、付き合っている人がいるのですけど……」
「へえ、それは素晴らしい。それで?」
 どうやら今度は恋愛相談らしい。楽しくなりそうだと思いながら、令嬢たちの話に耳を傾ける。彼女たちは、相手との出会いから仲良くなった経緯などを話し始めた。
 女性の長い話が苦手という男性も中にはいるが、私は全く気にならない。それは私も女性というところもあるし、可愛い女の子が一生懸命話している姿を見ていれば退屈になんてならないからだ。相談者の話に時折相槌を打ちながら、私はニコニコと可愛い女の子たちを眺めていた。

◇◇◇

「──ねえ」
 夜会に参加して二時間ほどが過ぎた頃だろうか。恋愛相談も終わり、女の子たちと気楽なお喋りを楽しんでいたところに、突然声を掛けられた。
 男性の声音だと気づき、そちらを向く。
 珍しいこともあるものだと思っていた。
 何せ基本、男性は私には近づかない。女が男装して女を侍らせているというのが気に入らないらしく、遠巻きにしていることが殆どなのだ。たまに文句を言ってくるような小物もいるけど、そういうのは相手にしないことにしている。時間の無駄だからだ。
 最近はその手の男性も減ってきて、平和な日々を送っていたのに、難儀なものだ。いや、それだけ私がモテているという証拠。スマートに追い返せばいいだけのことと気を取り直した。
「はい、何かご用でしょうか」
 我ながら完璧と思える笑みを浮かべながら、返事をした。もちろん男性モードは崩さない。男装している時に『女性』を見せるような真似はしたくないからだ。中途半端は格好悪い。やるのなら徹底的に。それが私のモットーなのだ。
「?」
 声を掛けてきたのは、初めて見る人だった。
 琥珀色の瞳にまず目がいく。柔らかくウェーブしたアッシュ色の髪が美しかった。襟足と前髪が少し長めだが、だらしない感じはしない。むしろその人物をより魅力的に見せる手助けとなっていた。
 整った男らしい容貌に目を見張る。浮かべられた表情には絶対の自信が漲っており、彼が自己肯定力の高い人物であることが窺えた。シークレットブーツを履いた私よりも背が高い。身体つきは男性としては平均的ではあるが、立ち姿が非常に美しい人だった。私も日頃から気をつけているだけにその姿勢の良さに惚れ惚れしてしまう。
 着ている燕尾服の生地を見た。パッと見て分かるほどの高級品が使われている。ちらりと靴に目を向けると、こちらもちょっとやそっとでは手が出ない、希少動物の皮が使われたものだった。しかも王家と公爵家としか付き合いのない靴屋の製品だ。刻印が入っているから間違いない。これで少なくとも彼が公爵家以上の家柄であることが分かった。
「あの……」
「ヴィンセント・ニコル・ウォーレニア。この国の王太子だよ。二週間ほど前、隣国から帰ってきたばかりなんだけど、知らない?」
「……失礼致しました、ヴィンセント殿下」
 名前を聞き、即座に頭を下げた。
 ヴィンセント王子のことはもちろん知っている。
 我が国、ウォーレニア王国の王太子。
 今年、二十五歳となる彼は、二年ほど前に外国文化を学ぶためにと隣国へ旅立ったのだ。ウォーレニアは平和な国で、ここ数百年は戦争もない。今は武よりも学問に重きを置いていて、王子の留学は見聞を広めるためという理由もあった。
 彼が留学したのは、私が社交界デビューする直前。今の今まで出会う機会もなかったので、恥ずかしながら顔を見ても分からなかったのだ。
「顔を上げていいよ」
 許しが出たので、頭を上げる。ヴィンセント王子がしげしげと私の顔を見つめてきた。
「殿下?」
「いや、君の顔、見たことないと思ってね。……うーん、私よりも女性を侍らせている男がいるからどんな奴なのか顔を見てやろうと思ったんだけど……記憶にないなあ」
 柔らかな話し方には好感が持てる。キツい物言いをする男性は実は苦手だったから、ホッとした。
 王国の王子に対して失礼にならないよう気をつけながら口を開く。
「なるほど。ですがそれは当然かと。私が社交界にデビューしたのは二年前で、殿下が留学された直後ですから。殿下にはお初にお目にかかります」
「そうなの? ……ってことは君、二十歳?」
「はい」
「へえ、見えないなあ。もう少し上かと思ったよ。で、君の名前は?」
「申し遅れました。私、ミーシャ・アレク・フィリングと申します」
 いくら男装しているとはいえ、初対面の王子相手に『アレク』と名乗るような無礼な真似はしない。
 それに私が男装を好む女であることは、王子以外のほぼ全員が知っているのだ。今更隠すようなことでもないと、私は大人しくフルネームを告げた。
 王子がキョトンとした顔で私を見る。
「……ミーシャ? 今、君、ミーシャって名乗った?」
「はい」
 そういう反応をされるだろうなと思ったので驚きはしない。笑みを浮かべて頷くと、王子は目を大きく見開いた。そうして確かめるように聞いてくる。
「あのさ……一応確認だけど、ミーシャって女性の名前だよね。ええと、『アレク・ミーシャ・フィリング』の間違いじゃないの?」
「違いますね」
 苦笑しつつ否定する。
 我が国ウォーレニアの王侯貴族には、皆、ミドルネームをつける決まりがある。それも女性なら男性の名前。男性なら女性の名前をつけるという風に決まっているのだ。
 それは昔からの風習で、どうしてそういう名付けをするようになったかはすでに忘れ去られているのだが、ミドルネームの慣習だけは長く現在まで残っていた。
 つまり、私が男装時に名乗っている『アレク』は男性の名前で間違っていないし、それが私の名前だということに嘘はないのだ。
「……」
 ヴィンセント王子が絶句し、私を凝視する。そうして恐る恐る尋ねてきた。
「もしかしなくても……君、女性?」
「はい。フィリング公爵家の娘です」
 肯定すると、王子は目を瞬かせ、信じられないという風に首を横に振った。
「嘘でしょ。男性に見えるんだけど……!」
「それは光栄ですね」
 女性に対して、男性に見えると言えば完全な侮辱発言になるが、それは私には当てはまらない。何せ私は日々、完璧な男性であろうと努力しているのだ。彼の今の発言はその努力が認められたことを意味するわけで、むしろ私は上機嫌になった。
 だが王子は信じられないようで、更に私に聞いてくる。
「えっ……なんで……女性なのに男装? ……誰かに強制されてるとか……? フィリング公爵ってそういう人だったっけ?」
「いいえ、これはれっきとした私の趣味です。誰かに無理やり……なんて話はありませんのでご心配なく」
「そ、そう……それなら良かった……って、全然よくないんだけど!?」
「ふふ、殿下は面白い方なんですね」
 目を見開き叫ぶ王子にそう告げると、彼は憮然とした顔をした。
「そんなこと初めて言われたよ」
「そうですか?」
「うん。それに誰が見ても、君の方が面白いからね? 趣味で男装なんて……しかもものすごく似合っているし……ええ? 女性だって分かっても、男性に見えるんだけど……どういうこと? 何かのトリック?」
 目をゴシゴシと擦る王子に私は悠然と答えた。
「そう見えるよう努力していますから。男に見えないと困ります」
 返事をすると、それまで傍観していた令嬢たちが口々に私を援護し始めた。
「ヴィンセント殿下、アレク様はとても素敵な方ですのよ。私たち、皆、この方のファンなのです」
「アレク様は男とか女とか、そんなくだらない括りで縛られるような御方ではないのです」
「ええ、その通りですわ」
「アレク様は私たちの癒やしで、生きる活力。アレク様と共に過ごすこの時間を、私たちはとても楽しみにしておりますの」
 告げてくれる言葉はどれも私にとって嬉しいものばかりで、自然と口角が上がっていく。私は目を細めて彼女たちに言った。
「ありがとう。私も皆とこうして過ごせる時間を、とても愛おしく思っているよ」
「……あのさ、その歯が浮きそうな台詞、なんなの」
 心から告げた言葉だったのだが、何故か王子は己の身体を抱きしめ、震え上がった。その様子に首を傾げる。
「何かおかしいですか?」
「……うわあ、おかしいって自覚がないんだ。こわっ」
「失礼な方ですね。これが私の平常運転ですけど」
「えっ……それ、本気で言ってる?」
「はい」
 嘘だろ、みたいな目で私を見てくる王子。とても失礼である。
 しかしいつまで経っても王子はこの場を去ろうとしない。私を見にくるという用事は終わったのだからさっさと元いた場所に戻ってくれればいいのに、帰る気配すら見えなかった。
「……他にご用件でも?」
「うん? いや、別にないけど。え、私がここにいては駄目?」
「いえ……それは構わないのですが……」
 嘘だ。本当はすごく構うし、できれば今すぐどこかへ行って欲しい。
 だって王子はとても顔が良いのだ。格好良いという言葉がぴったり嵌まる彼に、先ほどから私の周囲にいる令嬢たちは見惚れまくっている。
 気持ちは分かるが、こちらとしてはせっかく築き上げたハーレムに水を差された気分である。
 ──せっかく、女の子たちと楽しく過ごしていたのに……!
 邪魔をしないで欲しい。
 だが王子相手にそんなことを言えるはずもない。どうぞどうぞいくらでもいて下さいと答えるしかないのだ。
 顔を引き攣らせる私の心も知らず、王子がにこやかに言う。
「良かった。いや、俄然君に興味が湧いてね。女性なのに男装をして楽しんでいるという君。その素顔を見てみたいなって思ったんだよ」
「……そうですか。私の素顔など見たところで何も面白くないと思いますが」
 どうやら王子の興味を引いてしまったと気づき、舌打ちをしたくなった。
 物好きな男装令嬢など放っておけば良いのに、私みたいなのが珍しいのかグイグイくる。
 実に鬱陶しい。
「君のその『男』の仮面を剥いだら、どんな姿を見せてくれるのかな。君みたいな女性は、隣国にもいなかったよ。君のような楽しい女性がいるって知ってたら、きっと私は留学なんてしなかっただろうな。二年も君という存在を知らなかったなんて損をした気分だよ」
「……そうですか」
 心底残念そうに言われ、脱力した。
 別に彼が厭味で言っているわけではないと気づいたからである。悪意や揶揄いで言われたのならもう少し何か返してやろうかとも思ったが、彼は私を揶揄うつもりも、馬鹿にするつもりもない。本心から言っている。それが彼の言葉から伝わってくる。
 ──調子狂うなあ。
 こんな時、どう対処すればいいのか分からない。
 分からないまま時間は過ぎ、結局最後まで王子から離れられず夜会は終わった。

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