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おしごと大好き令嬢ですが、仕立てたランジェリーごと敏腕王子に愛されています

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本価格:770(税込)

電子書籍価格:--円(税込)

  • 本販売日:
    2022/08/18
    ISBN:
    978-4-8296-6964-8
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書籍紹介

今夜も私が気持ちよくさせてやる

王都で噂の服飾店を経営する伯爵令嬢メロディア。
興味を持ったベリル王子がやってきて、服を買ってくれるように。
すっかり親しくなったある日、
新作の下着を「着て見せてくれ」と頼まれてしまい!?
「本当に美しいな。君も、その下着も」
羞恥に火照る肌をいやらしく撫でられ、淫らな蜜が溢れる。
初心な身体の奥まで甘い情熱でいっぱいになり――。
私自身も仕事も、丸ごと愛されて!

ジャンル:
西洋 | ファンタジー
キャラ属性:
王子・王族・貴族
シチュエーション:
玉の輿・身分差 | 甘々・溺愛
登場人物紹介

ベリル

バルツァー王国の第一王子。まばゆい美貌で「微笑みの太陽」と渾名されている。なかなか婚約者を決めないでいたが……。

メロディア

フィオレッティ伯爵家令嬢。突然婚約破棄されたため、結婚はもういいから仕事に生きたいと思い、夢だった服飾店を立ち上げ経営している。

立ち読み

 

 

 


「おい、あれは何だ?」
 バルツァー王国第一王子、ベリル・ルカ・バルツァーは、視察の帰り道に街を一望できる小高い丘の上から不思議な光景を目にし、側近であるジェットに問うた。
「あれは……、私にもわかりかねますね。ガーデンパーティー、でしょうか。ただ、あそこはフィオレッティ伯爵家の屋敷だと存じております」
「フィオレッティか。しかし、ガーデンパーティーにしては妙だな」
 ベリルが疑問に思うのも無理はなかった。
 ガーデンパーティーというのは普通、庭にテーブルと椅子を置いて、料理や菓子を振る舞うものだ。けれどなぜかフィオレッティ伯爵家の庭の小道では、ドレスを着た少女や紳士たちが等間隔に歩いては引き返すという奇妙な行動を繰り返していたのだ。
 しかも、そのドレスというのがまた一風変わっていた。
 上流階級のパーティーでは見たことのない奇抜なものから葬式にでも行くのかという真っ黒でシックなものまで様々で、頭にも派手な鳥の羽根がついた帽子を被っていたり、棒のようなもので髪をひとまとめにしていたりした。
「楽団の音楽も流れているようだし、何かの催しだろうか」
「さあ……。皆目見当もつきませんね。儀式、でもなさそうですし」
 しかし馬車を停めて双眼鏡でしばらく覗いていると、だんだんとその奇妙な行動の目的が見えてきた。
「あれは、服を見せびらかしているのか……?」
 一定のペースで歩く少女たちとは別に、その周りを貴族の令嬢たちが取り囲むように座っていて、そちらは優雅にお茶を飲んで観ているだけらしい。時折、奇抜な少女を指差して、あれこれと意見を交わしている様子が窺えた。
 そしてその中にひとりだけ、少し離れた場所でそれを見守っている少女がいた。いや、少女というには大人びた服装をしていて、おそらくはもう成人した貴族女性なのだろう。
 プラチナシルバーの長い髪を編み込んで、それを後ろに丸くまとめており、瞳は美しいサファイアブルー。唇にはピンク色の紅が引いてあり、頬にも薄く紅が刷かれ、色白の肌を健康的に見せている。まるで人形のような整った顔立ちだ。
 滅多に人を美しいと思わないベリルだったが、彼女の容姿には目を瞠るものがあった。
 彼女は歩く少女たちにあれこれ指示を出しているように見える。それに従って、歩き終わった少女が屋敷の中へと入っていく。そしてまた現れたかと思えば、まったく別のドレスを着ていた。
 やはり、ドレスを見せびらかすのが目的らしい。
 ──しかし、何のため……?
 ベリルが顔をしかめて悩んでいると、ジェットが言った。
「殿下、あちらの銀髪の女性がフィオレッティ伯爵家のご令嬢、メロディア・ジャンヌ・フィオレッティ嬢です」
「そうか、彼女が……」
 しかしジェットが伯爵令嬢の顔を知っているとは驚いた。
 ベリルも一応名前こそ知ってはいたが、社交パーティーで見かけた記憶がなく、今初めてその美貌を目の当たりにした。
「可哀想ですよね、メロディア嬢も」
「何がだ?」
 ジェットの唐突なつぶやきに、ベリルは訊き返した。
「あれ? ご存じありませんか」
「だから何をだ」
 意味深な顔をしたジェットに、ベリルは苛立って催促した。すると、ジェットは馬車の中にも拘らず、密談でもするかのように声を潜めて話し出す。
「メロディア嬢は、デビュタントを迎えたばかりの十六歳のとき、婚約者だったスタックス侯爵家のご長男、ネルフィス卿に一方的な婚約破棄を告げられているんです。そのせいで悪い噂が立ち、パーティーにも呼ばれなくなったとか」
「なるほど、だから私も顔を知らなかったのか」
「はい。メロディア嬢の結婚は絶望的だという噂を小耳に挟みまして、だから可哀想だなと……」
「あれだけの美貌を持っておきながら、勿体ないな」
 ベリルがそう零すと、ジェットはおかしなものでも見たかのように、ぽかんと口を開けた。
「なんだ?」
「──いえ。まさか数多の女性を袖にしてきた殿下が、ご令嬢にそのような感想を洩らすとは思いませんでしたので」
「美しいものを美しいと言って何が悪い」
 自分はただ率直な意見を言ったまでだ。
 ふんっとベリルが鼻を鳴らすと、
「なるほど。殿下の好みはああいう系統のお顔立ちなのですね」
 ジェットが手帳にメモをし出す。
「おい、何を書き込んでいる」
「二十五歳にもなるのに、婚約者も見つけずお世継ぎをつくられない殿下のために、少しでも好みのご令嬢を探してくるヒントになるかと思いまして」
 チクチクと嫌味を籠めてジェットが言う。
 本来なら側近がこんな口の利き方をすれば懲罰ものだが、側近と言っても、ロンベルト公爵家の次男であるジェットはベリルの唯一の幼馴染で、職務を離れればよき友人だ。たまにこうして不敬な態度を取ってくるが、ベリルは気にしない。
 嫌味に対して、ベリルは幾度となく伝えた自分の意向を、改めて伝え直す。
「顔だけで王太子妃が務まるわけがないだろう。私が探しているのは、私と同じく頭脳明晰で国のために尽くす覚悟のある女だ。容姿はある程度マシならそれでいい」
「そうは言っても、王太子妃ともなれば、国民の憧れですからね。容姿は大切です」
「着飾って化粧をすればどんな女でもいくらかはマシになるだろう」
 フィオレッティ伯爵家の庭を歩く少女たちを見ながら、ベリルは言う。
 派手な衣装に、派手な化粧、大仰な歩き方。まるで舞台上の役者だ。
「……それにしても、一体何をしているんだ? 演劇というわけでもなさそうだし……。──おい、ジェット、調べてきてくれ。……いや、直接乗り込んだほうが早いか」
 聞く耳を持たない主に、ジェットはやれやれと肩をすくめた。
「しかし殿下、そろそろお戻りにならないと、次の会議に間に合いません」
「どうせ私は座っているだけだろう。あとで結果を聞ければそれでいい。おい、フィオレッティ伯爵家に向かってくれ」
 馭者に伝えると、馬車が静かに動き出す。
「説得しても無駄なようですね」
 勝手に予定を変えたベリルに、「やれやれ」と不遜な部下はため息をついて頷いた。

 

 

 

「メロディア社長の発想は本当に天才的よね! この店のコンセプトを初めて聞いたとき、私、目から鱗だったもん」
 私──メロディア・ジャンヌ・フィオレッティは、十八歳の誕生日に、王都の隅に念願の服飾店『メリー・ブルー』を開店させた。
「そうそう。俺もびっくりした」
 先程から私を褒めているのは、弱冠十八歳という若き双子デザイナー、お喋りで笑顔のかわいい姉のフレンジーと、明るく軟派そうに見えてかなり几帳面な弟のスティンガーだ。
 彼らの生家は仕立屋を営んでおり、主に裕福な商人たちの服を作っていた。だが、ふたりの上には腹違いの兄がおり、その兄とは折り合いが悪く、彼が家を継ぐのなら一緒には働きたくないと就職口を探していたところを、商会を通してデザイナーを探していた私が偶然拾ったのだ。
 若すぎて経験もあまりなさそうで最初は不安だったのだけれど、双子の奔放なデザインスケッチを見て、私は彼らを雇うことに決めた。
 むしろ若いほうが発想が柔軟で、今までの慣例に囚われない自由なデザインをしてくれるかもしれない、という期待があったからだ。歳も同じなら、きっと話も合うだろうという気持ちもあった。
「そう? でも既製品をサイズ別にいくつも作って置いておくなんて、ちょっと考えれば思いつくことじゃないの」
「いやあ、服はサイズを測ってから作るものだっていう固定観念がなあ……」
 スティンガーが唸り、「うんうん」とフレンジーも頷いた。そのあいだにも、ふたりの手は紙の上を忙しなく動いていて、様々な形の服とデザインが描かれていく。
 今それぞれが練っているのは、夏に向けた薄いシャツの模様と、スカートの形状らしい。スティンガーの手元には、よくわからない蔦のようなものが現れていた。
「その場ですぐ持って帰れるっていうのは、やっぱり大きいですよ。私なんて、一週間待っていられずに古着ばかりでしたし。社長は慧眼ですね」
 つい先程までお客様の相手をしていた接客スタッフ、ショーティが振り返って言った。どうやらお客様はショーティが勧めたワンピースを購入して、満足してお帰りになったらしい。
 ショーティは二十四歳のすらりと背の高い金髪の麗人だ。偶然お忍びで入った街の料理店で働いていたのを、「立ち居振る舞いも素敵だし、看板娘としても使えそう」と口説き落として引き抜いてきた。
 本人がかわいらしいものが苦手というのもあって、シャツにベスト、それからスラックスを着せたところ、美しい所作も相俟って、そこらへんの男たちよりもかっこよく華やかで、看板娘というよりは、まさに女性の憧れの王子様的な存在になってしまった。しかし彼女を目当てに店にやって来る若い女性も大勢いるようなので、結果オーライだ。
 基本的には私を含めたこの四人が店に常駐していて、お針子は店の裏手の工場で働いてもらっている。工場を近くに設けたのは、フレンジーとスティンガーがデザインを描き起こしたらすぐに試作に入れるようにという配慮だ。
 実家が仕立屋なだけあって、双子には裁縫の知識もあり、指示を出しながらのほうが仕事もしやすいという。
「私がやったことなんてそれを思いついたくらいで、あとはみんなの力でしょ。フレンジーとスティンガーのデザインは最高だし、ショーティの接客も女性をメロメロにしてるしね。お針子さんたちも丁寧に仕事をしてくれるから、着心地も耐久性もバツグンだし、怖いものなしだわ」
「でも、デザインに関しては社長のアイデアもすごいと思うよ」
 スティンガーがペンを置き、顔を上げて言う。
「店のロゴを作って、それを大胆にも服に刺繍するなんて、俺だったら思いつかない」
「我ながらいい考えだったわ」
 そうなのだ。私の店、『メリー・ブルー』の成功は、ブランドへの憧れを増幅するという画期的なアイデアがあってこそだった。
 基本的なデザインは双子に任せるとして、その服が一目で『メリー・ブルー』のものだとわかるように、メロディアはまず店の象徴となるロゴをいくつか用意した。そしてそれをシャツの胸の部分に、ワンポイントの柄として刺繍することにしたのだ。
「その服かわいいね。どこのお店で作ったの?」
「これ? ふふふ、実はこのブランドのお店なの」
 と、こんなふうに、訊かれたら即座に胸の刺繍を指差して、自慢と宣伝ができるというわけだ。顧客がタダで歩く広告塔になってくれるという優れもので、私のこのアイデアは王都の流通を取り仕切る商会にも絶賛された。
 もちろん、それだけではいつか飽きられてしまうため、常に新しいデザインの服を用意しなければならなかった。流行が収束する前に次の流行を自ら作り出す。そうして常に最先端を『メリー・ブルー』が駆け抜けていく。
 そうして一年もすれば、敏腕社長である私と、奇才の双子デザイナー・フレンジー&スティンガー、青薔薇の麗人ショーティの名は王都では揺るがぬものとなった。
「この三年、私、本当によくがんばったわよね……」
 これまでの道のりを考えれば、自然とため息が出てくる。
 思い返せば、本当に本当に、私にとっては大変な二年間だったのだ。


「メロディア・ジャンヌ・フィオレッティは婚約者がいるにも拘らず、男遊びをしている」というありもしない噂が立ったのは、私が十六歳の誕生日を迎えてひと月も経たない頃だった。
 つい先日デビュタントを迎え、華々しく社交界デビューしたばかりだったというのに、「男遊びをしている」なんて寝耳に水だった私は、「何かの間違いじゃありません?」と言い訳すらせず笑い飛ばし、真相を訊きに来た者すべてを追い返していた。
 けれど、どうやらそれがいけなかったようだ。
 誤解を解こうともしない態度に、不遜だなんだと文句を言われ、ついには背びれや尾ひれがついて、噂は瞬く間に広がってしまった。
 そして、一週間も経たないうちに、婚約相手のスタックス侯爵家から婚約破棄の申し出がきてしまったのだ。
「うちの娘はそんなはしたないことはしない」
 と両親は庇ってくれたけれど、こちらは伯爵で、向こうは侯爵だ。身分の高い者の言い分のほうが正しいとされる貴族社会では、いくら身の潔癖を叫ぼうが、受け入れられることはなかった。
 そもそも、浮気をしていない証拠を提示しろ、だなんて、悪魔の証明にも等しかった。
 ないものはないのだから、出しようがない。
 そのわりに一体だれが言ったのか、私が男と歩いていたという目撃証言は多数あるのだ。それをひとつひとつ論破するだけの証拠も訊き出すための権力も、私にはもちろんなかった。だれが私を陥れたのかも、わからないままだ。
 結局、スタックス侯爵の申し出を受け入れるしかなく、私とネルフィス・スタックスの婚約は破談となった。
 せっかく格上の良家との婚約だったのに、と両親は嘆いたが、当の本人である私は、むしろ安堵していた。
「大丈夫よ、お父様、お母様。ほかにいい男性はいくらでもいるわ。正直、ネルフィス卿とはお話が合いませんでしたし……」
(というか、十歳も年上だし、見た目だけで中身はスカスカなうえ男尊女卑の思考が強かったのよね……。あんな男と結婚したら、絶対に自由を満喫できないだろうし、私の夢だって叶えられそうにないもの)
 そう心の中で付け加え、スタックス侯爵家の使者が帰ったあと、私は笑ってみせた。
 心からの笑いだったのだが、そう言い放った娘を、両親はひどく心配した。
「可哀想に、メロディア。余程ショックだったんだろう」
「強がらなくていいのよ。必ずいい方との縁談を持ってきますからね」
 よよよ、と同情して泣き崩れる母に、私はもうそれ以上言葉をかけられなかった。
(本当に、婚約破棄に傷ついてなんかいないのに──)
 私が気丈で芯が強いと知っているはずなのに、可哀想な娘として両親が扱いたいのなら、そう扱うことで気が晴れるのなら、そうすればいい。
 しかし私は、今度こそ自分らしくいられる相手を見つけて、結婚したいのだ。
 だから今回のように両親に言われるまま婚約するのではなく、社交パーティーに出て、自ら相応しい相手を選ばなければ。
 私はそう決心して、次に開かれるパーティーを心待ちにしていた……──のだけれど。
 いざパーティーに出席してみると、私の周囲にはぽっかりと空間が出来上がってしまった。
 だれもが私を遠巻きにして、くすくすと笑い合っている。
 時折、「あれが例のはしたない女ね」とか、「顔はなかなかだな。遊び相手にいいんじゃないか」とか、屈辱的な言葉が聞こえてきて、私は自分の表情がだんだんと引き攣っていくのを感じた。
 このままでは、さらに笑い者になってしまう。早くだれかと親しくなって、誤解を解かないと。
 しかし、深呼吸をして近くにいた令嬢に近寄り、挨拶をしようとするものの、噂のメロディアとわかると挨拶もそこそこにそそくさと逃げられてしまった。
 遊び人の噂が付き纏う私と一緒にいたら、自分まで遊び人だと思われてしまう。きっとそう考えて、話さえもしたくないのだろう。
 あんなのは、真っ赤な嘘だ。
 そう言いたいのに、だれも耳を傾けてくれない。弁明の機会さえ与えてくれない。
「私は……」
 ──浮気なんてしていないし、遊び人でもない!
 そう叫びたかった。
 でも、できなかった。そんなことをしたら、ますます変人扱いされ、腫れ物としての噂がまた広がってしまうに違いなかった。
 このとき、私はまだたったの十六歳だった。
 大人として認められる年齢だったとしても、抗う術も、後ろ盾も持たない、まだまだ未熟な子どもだったのだ。
 いくら芯が強くても、嘲笑の中、ひとりで耐えられるほどに心は成長しきってはいなかった。
 結局、恥をかかされたまま、私はパーティーをあとにした。家に帰ってからひとり隠れてわんわんと泣き、でも泣いたことによって負けた気がして、ますます自分を責めたりもした。
 そしてそれ以降、私は社交界に顔を出すのをやめた。
 心配した両親が見合い相手を探してこようとしたけれど、私はそれらをすべて頑なに断った。
 あんな悪い噂がついた娘を嫁にしようなんて考える男は、きっと私の若さに目が眩んだ老人か、伯爵という爵位にしか興味のない野心家に違いない。そんな男に嫁ぐことになったら、人生終わりだ。
「──だったらもう、ひとりで生きていくしかないわ」
 婚約破棄から一年。私は決意した。
 しかしもちろん(兄のラズヴェルトがいるから跡取り問題はないとしても)、伯爵家の令嬢として、結婚して嫁ぐという責務を放り出すのは、なかなかに大変なことだった。
 まずは両親を説得しなければならない。
 普通、結婚しない選択をした貴族の令嬢は、修道院へ行くのが今の時代の一般的なモデルケースだ。だが、私はそんなところへ行く気は毛頭なかった。
 何を隠そう、私には夢がある。
 そしてそれは、服飾店を開く、というものだった。それも、貴族だけでなく、庶民のための店を。
 私は昔から、ドレスを着るのが好きだった。母親に連れていってもらうお茶会で色とりどりのドレスや紳士服を見るのもとても楽しくて、いつからか自然と自分も服を作りたいと思うようになっていた。
 私が初めて服を作ったのは、十歳の頃だった。家庭教師に服の作り方を教えてとせがんで、お気に入りの人形用の小さな服を作ってみた。
 けれど子どもの私にはドレスはまだ難しく、結果、寸胴のワンピースもどきが出来上がった。
「こんなの、服じゃないわ……っ」
 がっかりして落ち込む私に、しかし家庭教師は言った。
「あら、お嬢様。でも庶民はこういう形のワンピースを好んで着ておりますよ」
「ほんと?」
「ええ。本当です。いつか街に行ったら、確かめてみるといいですよ」
 そのとき、私は初めて庶民の服というものに興味を持った。きっと家庭教師は慰めに適当なことを言ったのだろうけれど、貴族たちの着るドレスとは違う服がどんなものなのか、この目で見てみたくなったのだ。
 そして、自由に街に行ける年齢になって(当然警護付きだ)、私は煌びやかなドレスしか観察してこなかった自分を後悔することになった。
 街を歩く庶民は、シンプルな服を思い思いにアレンジして、楽しげに着飾っていた。庶民の中でも流行があるらしく、ある年は黄色のワンピースが、またある年はモノトーンの上下のセットアップが流行ったりしていた。
 自分をいかに美しく派手に見せるかに重きを置いた貴族のドレスとは違って、どれも動きやすそうな服ばかりで、生活のことを考えて作られているのがよくわかった。庶民はその制約の中で、おしゃれを楽しんでいた。
 すごいと思うのと同時に、しかし私は、少しだけもったいなくも感じてしまった。
「……私だったら、庶民の服でももっとかわいらしいものを考えるのに」
 そこから、私の夢は膨らんでいったのだ。
 貴族のためだけでなく、庶民の服を作る、という夢が。そして私の作る服で、多くの人を笑顔にさせたい。
 その夢を叶えるべく、いろいろと庶民の服について調べているうちに、わかったことがあった。
 まずひとつ。私には発想力や決断力はあっても、創造力はないということ。イメージはできても、それをいまいちうまく形にできない。だから早々に自分自身で一からデザインすることは諦めた。できないのならデザイナーを雇えばいいと割り切るのも早かった。
 そしてもうひとつは、貴族の服は、同じものがひとつとないオーダーメイド方式で作られるが、実は庶民のあいだでも、服はほとんどがセミオーダーだということだ。
 店頭に置いてあるサンプルを見て、採寸してから同じものを一から作り上げるため、手元に届くのは最短でも一週間はかかってしまう。もしくは着られなくなった服がフリーマーケットに出され、それを購入するかの二択だった。
 家具や装飾品には既製品があるのに、服にはないのはどうしてだろうと、私はふと疑問に思った。そして、ないのならば自分が作ってしまえばいい、と。
 だから、いずれ結婚したら、家政をしっかり執り行ったうえで、夫に頼んで出資してもらって商売をするつもりだった。
 ゆくゆくは、貴族にも通用するフルオーダーのドレスや装飾品を引き受けたり、王族にも愛用されるものを作ったりと、手広く事業を展開していき、最終的にファッション業界を牛耳る、という壮大なストーリーの第一歩でもあった。
 しかし、まともな結婚が絶望的になった今、後ろ盾は実家であるフィオレッティ伯爵家しかない。
 独身の貴族令嬢が商売するのは前例もないし、世間体が悪いと渋る両親と兄にしつこく粘ってプレゼンし、説得すること数ヶ月。
 私の熱意に圧されてとうとう両親は資金提供を承諾してくれたのだった。
 ちなみに兄は、婚約者であるシャロンが私の服作りに興味を持っているからと、毎回新作を献上することを条件に、もう口出ししないと納得してくれたようだ。
 それからさらに一年かけて、私は会社を立ち上げるべく奔走した。
 経理関係は自分でやるとして(花嫁修業の賜物だ)、まずは私の意向をできるだけ汲み取ってくれる柔軟かつ優秀なデザイナーの登用、真面目で細かな作業もきちんとこなせるお針子や、接客専門のスタッフの募集。
 材料の仕入れ先の確保、建築屋との店舗の外観や内装の相談。
 それらが決まれば次は売り出す商品の製作が待っていた。
 次から次へとやることが降ってきて、私は寝る間も惜しんで仕事に情熱を注いだ。
 働きすぎて体調を崩したこともあったが、それでも十分に楽しかった。そのぶんやり甲斐もあった。
 ただの伯爵令嬢として生きていたら、きっと味わえない疲労と達成感だっただろうなと思う。
 それに何より僥倖だったのは、ブランドの仲間として起用した庶民出身のスタッフたちが優秀なばかりでなく、みんな私を慕ってくれたことだ。
 貴族だからと壁一枚隔てて遠巻きにするのではなく、同じ会社で働く者として(もちろん上下関係はあるが)、忌憚のない意見を言い合い、笑い合えることが、私にとっては一番の収穫だった。
(貴族のあいだでは、私はすっかり不埒な女扱いだものね……。こんなふうに気にせず話してくれる人なんていないもの。スタッフとは言っても、お友達ができたみたいで、喜ばずにはいられないわ)
 そして婚約破棄から二年弱かかってようやく、私は既製服店『メリー・ブルー』を開店させたのだった。
 滑り出しは思った以上に好調で、既製服という新しい発想は、庶民たちにすぐに受け入れられることとなった。
 開店直後ということもあって、少々値が張ってしまったものの、王都に住んでいるのはそこそこ裕福な人も多く、価格は大した問題にはならなかった。
 物珍しさに店に入れば、待たずに服を手に入れられると知り、おまけに今までにないような目新しいデザインを見て、嬉々として買っていく──という流れが出来上がると、あっという間に『メリー・ブルー』の噂は王都中に広がっていった。
 そして開店から一ヶ月も経つ頃には、王都には『メリー・ブルー』を知らぬ者はいないという有名店にまで成り上がった。
 だが、それにも限界はある。
 王都の庶民のほとんどの心を鷲掴みにしたのはいいものの、そこで高止まりしてしまったのだ。これ以上の伸びしろを見いだせないまま、私は十九歳の誕生日を迎えることとなってしまった。

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