占い師に国王への恋心を相談したら女装した本人でした!? 秘密の官能レッスンでとろとろに手なずけられてます 2
レティシアといくつか問答を交わしたアレクシスは、彼女がヴィレル伯爵令嬢だったこと、母は幼いころに、父は昨年亡くなったことや跡を継いだ叔父があまり頼りにならない人物だということ、そして彼女を妾にしようとしているのがフェアラート男爵であることを知った。
(ヴィレル伯爵家、確かに当主が病死し交代するという書類を認可した覚えがある……そうか、レティシアは彼の娘か。そして元凶のフェアラートと言えば画期的な輸送システムを構築したことで爵位を得た男だったな。やり手だと噂は聞いたことはあったが……誰にでも裏の顔はあるということか)
それに王家にわざわざ不利になるような生臭い話を口にする輩はいない。
自分でも少し調べてみようと心に留めたアレクシスは話題を転換する。
「それで、レティシアはわた、陛下のどんなところが好きなの?」
随分俗っぽい内容になってしまうが、アレクシスは自分がどう評価されているのか気になっていた。
王宮でそんなことを聞いてもおべっかしか聞こえてこないし、これまで言い寄ってきた相手はみんな『麗しい顔』を好いていたようだったからだ。
(でももしレティシアも私の顔しか好きじゃないと言われたら立ち直れないかもしれない)
いつの間にか自分がレティシアに絶大な信頼を置いていることに気付いていないアレクシスはテーブルの陰でこぶしを強く握った。
「アレクシス様の好きなところですか? たくさんありすぎて……まずとても繊細なところですね」
「せ、繊細……? どこが? 厳しいとか冷たいとかはよく言われ……ていたようだけれど」
意表を突く回答に声を作ることも忘れて質問を重ねるが、レティシアは気にしていないようだった。
「そんなことありませんわ。わたしのデビュタントのときのことなのですが、アレクシス様は当時王太子殿下でいらして……」
思い出すように視線を一度上に持ち上げたレティシアは、そこに幸せの種でも見つけたように微笑む。
「――っ!」
その表情に心臓がぎゅっと締め上げられたような心地になったアレクシスは思わず息を呑む。
(老獪な大臣に詰められても冷静さを失わない私が……レティシアの視線や表情でこんなにも動揺させられてしまうのか……?)
アレクシスの変化に気付かないのか、レティシアは肩を竦めた。
「――恥ずかしいから内緒にしてくださいね? 実はデビュタントのあと、どうしてもアレクシス様にお目にかかりたくて……わたし、王宮に突撃したことがありましたの」
「突撃……?」
嫋やかなレティシアの口から発せられることが信じられない単語に、アレクシスは素っ頓狂な声を漏らした。
「ええ、まだ存命であった父に忘れ物を届けるという口実を作り上げて王宮に入り込んだのです」
内緒話を打ち明けるように声を潜めたレティシアの瞳はキラキラと輝きを放っている。
アレクシスはベールがあってよかったと心の底から思いながら目を細めた。
このように女性の素の表情を目にするのはいつぶりだろうかと考える。
アレクシスは生まれたときから王族だったため、彼の目の前に現れる女性は誰もがそれを意識していた。
隙がないように装い、礼節で身を固め、心にもないおべっかを使い嘘を吐く。
そんな女性に、アレクシスは辟易していた。
ふとベール越しにレティシアを見る。
(私だと知らないからだろうが……レティシアからはまったく嫌なところを感じない)
なぜだろうかと思いながら、楽しげに話すレティシアを見つめるのだった。
「……陛下はご自分のおじいさまのような年の貴族の方に詰め寄られていらっしゃいました。若さゆえに考えが及ばないのだとか、自分たちのように経験豊富な者の言うことに耳を貸せとか」
レティシアの言葉にアレクシスは(あぁ……王太子時代にはそんなこともあったな)とぼんやり思い出す。
正直そんなことは数えきれないほどあり、いちいち覚えていないというのが本音だ。
情けないところを見られていたのかと気恥ずかしくなったアレクシスは目を逸らしそうになったが、彼女の表情に目を見張った。
情けないところを見て幻滅したのかと思いきや、想像に反してレティシアはキラキラとした瞳のままうっとりとしている。
「彼らの暴言のような忠言を聞いた陛下は、冷静かつ的確に発言の問題点に一つ一つ反論され、二の句を封じられました。わたしはそれを見てなんて痛快なんだろう! と誇らしい気持ちになったのですが……」
レティシアはそこで言葉を切ると、まるで甘い菓子でも口に含んだような顔をした。
「……陛下は人払いをなさっておひとりになってから、ちょっとだけ落ち込まれたようにため息をつかれたのです。それがとても素敵に思えたのですわ」
「――、あ、あぁ……そう、なのね」
まさかそんなところを見られていたとは思わなかったアレクシスは自分の未熟さを恥じ、そんなところを嬉々として話題にするレティシアに眉を寄せる。
「でもそれって、陛下のかっこ悪いところなのでは? 全然素敵でもないし……」
心の中でもっと何かいいエピソードがあるだろうとレティシアをけしかけるアレクシスだったが、彼女はそれが気に入らなかったらしく頬を膨らませる。
「マダム……考えてみてください。いつも素敵でかっこよく、一分の隙も見せない陛下がほんの僅かとはいえその尊いお心のうちを露出させたのですよ? これほど心を震わすことはありませんわ!」
レティシアは妙に力説をする。
「陛下は為政者として彼らを厳しく叱責しなければいけなかった。それは当然です。だから本来落ち込む必要なんてなかったのです。でも、陛下はそこで息をつかれた。もしかしたらため息ではなく、気持ちを切り替えるために少し大きく深呼吸をしただけかもしれない。でも、その数秒の間がわたしはとても愛しくて」
思い出したのかレティシアは、ほうとため息をつく。
「そんな陛下をお支えしたい……というのは大袈裟だしわたしにはできないことだとわかっているのですが、お慕いしていたという事実と、これからも応援していますとお伝えできればと思っているのです……自己満足ですが」
遠くを見る青い瞳は熱を帯びうっすらと涙の膜を張っている。
レティシアはアレクシスの国王としての資質を疑ったことはない。
実際にはまだ年若く、経験が浅いと軽んじられることもある。
だがその器は誰よりも大きく、また確かだと確信しているのだ。
「……とわたしなんかが応援したところで、なんのお力にもなれないのですけれど」
入りすぎた熱を照れ臭く思ったのか茶化すように肩を竦めたレティシアに、アレクシスの胸は熱くなった。
直接的な利害関係もないのに自分のことをこんなに肯定して、さらに純粋に応援してくれる人間が存在することが奇跡のようだった。
「……そう」
喜びを噛みしめるためにアレクシスは言葉少なに頷く。
レティシアはそんなアレクシスに、本人とは知らず追加で好きなところを話し始めることにした。
誰にも言えなかった『推し』のことを存分に語るチャンスを手に入れたオタクの話は暴走機関車さながらである。
「マダム・ノワリスはご存じですか? メルギン通りの補修の件!」
それはアレクシスが即位後初めて手を付けた事業だった。
メルギン通りは人通りが多いにもかかわらず道幅が狭く、慢性的な混雑ゆえのトラブルがたびたび起きていた。以前から拡張案は出ていたものの、工事によって一時的に通路がさらに狭くなるという懸念があった。
工事の遅れと苦情の発生が予想された他、安全面でも不安があった。
そこでアレクシスは先に迂回路を新しく作り、そのうえでメルギン通りの拡張工事に着手するよう命じた。
今では当然のように行われている手法だが、当時は画期的な方法だと絶賛された。
工事終了後も迂回路はそのまま維持され、混雑軽減に一役買っている。
みなが新国王の手腕を褒め称えメルギン通りを新たにアレクシス通りに改名しようとしたが、当の本人は混乱を招くからという理由で通りの名をそのままにし、新たにできた迂回路に工事責任者の名前を付けてしまった。
国王を褒め称えようとした国民は戸惑いを隠せなかったが、ただきついだけだと思っていた土木仕事が『地図に名が残る仕事』だと気付いた現場の職人たちが、大いに奮起し盛り上がった。
これによりクローネヴァルト王国の建築土木部門はかつてないほど活気づき、今も続く好景気を後押しする一因となっている。
「……このようにアレクシス陛下は自らの手柄にはなさいません。むしろどうすれば国民が輝くかを肌でわかっている素晴らしい為政者なのです……!」
瞳を輝かせてアレクシスをどこまでも持ち上げるレティシアを前に、アレクシスは滝のように浴びせられる無償の賛辞を受け止めることができずもぞもぞと身(み)動(じろ)ぎした。
(そんなことまで……なんかむず痒くなってきた)
メルギン通りの話が一段落すると、今度は王宮の不正を突き止め前王からの忠臣と言われていた高位貴族を更迭した話になりかけたため、慌てて手を振って止めた。
「わかったわかった。もういい、よくわかったわ。レティシアは陛下のことを……なんというか、敬愛、しているのね」
さすがに私に恋しているのだろうと口にすることはできずに言葉を濁すと、興奮状態にあるレティシアは「いいえ、お慕いしているのです!」と力強くこぶしを握る。
その勢いに押されるように、アレクシスはソファの背もたれに身体を預け胸を押さえた。
(なぜだか動悸が……)
過去の施策から立ち居振る舞いまで持ち上げられるのは正直面映ゆい。
だがレティシアの言葉にはフィルターがかかっていてもおべっかは感じられない。
そんな彼女の態度は、アレクシスの冷えた心の底にゆっくりと熱を生み出した。
その後もアレクシスがいかに素晴らしい人物なのかを熱弁したレティシアはふう、と息をついて肩の力を抜いた。
「――ということで、現在のわたしの心の中の八割はアレクシス様のものなので、このままではフェアラート男爵にお世話になるわけにはいかないと思うのです」
だからアレクシスに想いを告げて気持ちを整理したいのだと結んだ。
「――よく、よくわかったわ」
アレクシスはベールの色が濃いことに感謝し、こっそりため息をついた。
(だからといって、どうすればいいのか……)
顎に手を当てて考えるアレクシスに、レティシアは質問を重ねる。
「マダム、わたしは陛下の前に出ても恥ずかしくないレディになりたいのです」
彼女の言葉に思わず「そのままで素敵だ」と言いかけたアレクシスは、なんとかそれを呑み込む。彼女の行動にいつもの冷静さを欠いている自覚があった。
「重ねてのお願いで申し訳ないのですが……マダム、わたしに淑女レッスンをしていただけませんか?」
「淑女……レッスン?」
思いがけないレティシアの言葉にアレクシスは首を傾げる。
気持ちはわかるが、女性ではない自分に淑女のレッスンは難しいだろうと眉を顰める。
断りの言葉を告げようとしたが、見上げるレティシアの青い瞳に言葉を詰まらせた。
彼女の目には真剣な決意が滲んでいる。
しかしその奥には不安に揺れる感情がはっきりと見て取れた。
彼はまたしても不思議な感情に心を動かされ、そして頷いた。
「わかったわ、特別に引き受けましょう」
「あ、ありがとうございますマダム!」
感激に声を滲ませたレティシアは抱きつかんばかりの勢いでアレクシスの手を握った。
「ん、ごほ……私も陛下について情報を集めるわ。来週また、この時間においでなさい」
予約を入れておくから作戦会議をしましょうと告げると、レティシアは花が綻ぶような笑顔になった。
「ありがとうございます、マダム・ノワリス! ああ、あなたにご相談してよかった……!」
感激冷めやらぬまま『黒猫姫』を退店したレティシアは何度も振り返りお辞儀をしながら帰っていった。
それを見送ったアレクシスは「さて、どうしようかな……」と独り言ちた。
レティシアの力になろうと決めたのはいいが、彼女に嘘の身分を告げたのが心に蟠(わだかま)りを作っている。
嘘をついてはいけないと育てられ、嘘をつく人間を嫌悪して生きてきたのに、レティシアに対してその禁忌を犯していることが苦しい。
(本当のことを伝えようか……いや、しかし彼女は私に想いを伝えたいと思っているのだし、おかしなことになるのは避けられない)
アレクシスは眉間にしわを寄せる。
もし彼女に本当のことを告げたらどうなるか。
恐らくアレクシスが知っている一般的な女性のように、ここぞとばかりに迫ってくることはない。
レティシアは青褪めた顔で額ずき、謝罪の言葉を口にするだろう。
そしてもう二度と自分の前に現れず、フェアラート男爵の妾になる。
(それは避けたい……!)
アレクシスは自分でも驚くほどに拒絶感を覚えた。
レティシアが不幸になることを許容できなくて、胸を押さえる。
その痛みは嘘をつく罪悪感よりもずっと大きく、アレクシスを戸惑わせた。
(嘘はよくない……だが、ひとりの女性を助けるためならば呑み込めない苦さではない)
アレクシスは眉間にしわを寄せたまま唇を引き結んだ。
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「はぁ……っ、なんて素敵な方だったのかしら……!」
『黒猫姫』を後にしたレティシアは熱くなった頬を冷ますように手で扇ぐ。
よく当たるという人気占い師マダム・ノワリスにこんな場違いな相談を持ち掛けたのに叱りもせず、逆に親身になってもらえた。
「これで陛下に想いを告げたあとは、きっとすっきりした気持ちで……」
妾になることができる、とは口にしたくなくてレティシアは唇を引き結ぶ。
貧乏貴族が身を落とすなどよくある話すぎて殊更騒ぐものでもないのに、レティシアはまだ自分の境遇を消化できずにいた。
父が病で亡くならなければ。
叔父に領地経営の才能があれば。
自分が有能な男だったら。
どうしようもないことだけが頭の中をぐるぐると回り、ありもしない答えを求めていたレティシアにとって、今日のマダム・ノワリスとの時間は救いのようなものだった。
必要以上に自分を悲劇のヒロインだと思うつもりはないが、それでもやさぐれてしまう気持ちはいつもどこかに燻ぶっている。
しかしアレクシス陛下という天上人に等しい人物への拗らせまくった想いにも鼻で笑うことなく向き合い、力を貸してくれるマダムの存在が、奇跡のように感じられた。
「本当に……本当に素敵なお方」
マダム・ノワリスの人柄に感じ入ったレティシアはそっと手のひらを見つめる。
(マダムの手……大きくてあたたかかったわ)
占いをする女性だから、なんとなくすんなりとした手をしていると思っていたのに、想像よりも大きく、骨ばっていたと思い出す。
それに違和感を覚えるでもなく、手も人それぞれ、なにより安心できるあたたかさが素敵だと信じ切ってレティシアは屋敷への道を力強く歩き出した。
ヴィレル伯爵家は忠誠心が強く、気が利くと評判の家門だった。
主がそうだと部下や使用人も自然と同じような気質のものが集まり、争いとは無縁な家門だと言われていた。
しかしそれは一部の人間からしたら非常に扱いやすく、カモに見えたことだろう。
案の定レティシアの父が死に、フラフラしていた叔父のエルノートが爵位を継いだ途端に食い物にされてしまった。
変に頑張ろうとしてしまったエルノートの努力が空回りし、マイナスに働き、借金に気付くのが遅れたのは本当に不幸としか言いようがない。
「私は……良かれと思って……、申し訳ないレティシア……」
項垂れた叔父の人の良さを知っているレティシアはもう十分に反省している叔父を責めることなどできなかった。
気持ちも新たに協力し合って立て直していこうと前向きになったが、借財は楽観視できるものではなかった。
深刻な顔をするレティシアに発奮したエルノートは、またしても『良かれと思って』を発動した。
そうしてどこで目をつけられたのか不明だが、まったく親交がないフェアラート男爵と距離を縮めることになる。
フェアラートは巧みな話術でエルノートの心を擽(くすぐ)り、彼の提案が唯一かつ最善のものだと刷り込んだ。
エルノートは今のままでレティシアに満足な嫁ぎ先を準備できるか不安に思っていた。自分がレティシアの身分を奪ってしまったような罪悪感を抱いていたのも大きい。
それに対してフェアラート男爵は『没落貴族の娘として惨めな暮らしをするよりも、裕福な男爵家の庇護を受けて何不自由ない生活をした方が幸せではないか』と囁いた。エルノートは、すでに何人か囲っているというフェアラート男爵の妾がドレスや宝石に囲まれて豊かに暮らしている話を思い出し心が揺れた。
そして「姪御殿は由緒あるヴィレル伯爵家の令嬢……他の妾と違い、いずれ正妻になってもらうこともできる。だが同じような申し出は他の貴族家からもあって、早くしないと席が埋まってしまうかもしれないな」と意味深な流し目で見られ、エルノートは覚悟を決めた。
お陰でレティシアは他ならぬ叔父の口から「フェアラート男爵の妾になるなんて幸運だよ!」という最低な言葉を聞く羽目になった。
(確かに約束通り資金を融通してくれるなら借金が返せるし領地も助かる。でもだからと言って幸運ではないわ)
それに現段階でフェアラート男爵を心の底から信用するのも難しい。
彼の真意は掴めないが、もっと最低なことがレティシアの身に起きることも考えられるため、叔父の言葉は的外れと言える。
だがレティシアは代替案を出すことができない。
もうそれしかないかと諦めの気持ちがあるが、それでも想う人物がいるのに他人の妾になることを了承するのは、レティシアには辛かった。
(わたしにだって人並みに心がある……貴族としての矜持はあるけれど……でも)
レティシアは赤い唇を噛む。
胸に蟠る国王陛下への気持ちを伝えたら、それ以降は心が死んでもかまわない。
本気でそう思って、レティシアは暮れ始めた空を見上げた。
マダム・ノワリスと会える来週が、もうすでに待ち遠しかった。
2・淫らなレッスン
「謁見の申し込みはしたけれど、国王に会えるようにするには、まだ時間がかかるわ。だからその間にあなたも準備しておきましょう」
再びマダム・ノワリスに会うために『黒猫姫』にやってきたレティシアは、今日は貸し切りだと聞きギョッと目を見開いた。
「も、もしかしてわたしのせいですか?」
自分が妙な頼みごとをしたから、余計な迷惑をかけてしまったのかと尋ねる。
だが、マダム・ノワリスは静かに首を横に振ると、掛けるようにとソファを示す。
「いいえ、ただ邪魔が入らないようにという意味しかないわ。気にしないで」
今日もマダムは、ゆったりとした衣装に黒いベールをつけている。
それが彼女のいつものスタイルらしいが、レティシアはそれが少し不満だった。
(マダムは年齢不詳だけれど……とてもスタイルがよくて……脚も長いのよね……きっとお顔も美しいに違いないわ。仲良くなったらベールを取ってくださるかしら)
七日ぶりに顔を合わせたマダム・ノワリスは「知らない人を陛下に会わせるわけにはいかないのはわかるわね? だからまず私があなたをよく知りたいの。私とお話ししましょう」と言った。
ベールの奥で笑ったような気配を感じたレティシアは、嬉しくなって元気よく「はい!」と返事をした。
(マダムとお話しすると、なぜかとても心が浮き立つわ)
レティシアは一層笑みを深めた。
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(はあ……なんて無垢なのだろう)
貸し切りにするにあたってアレクシスはレティシアのことをマダム・ノワリスに白状しなくてはならなかった。きっと揶揄われるだろうと思っていたが、マダムはご多分に漏れず『にちゃあ』と表現できそうな笑顔をしたため、王族的表情でスルーした。
「あらあ? 私たちが必死にメテオルを探していたとき、あなたったらそんなことを……?」
不謹慎だわ、いやらしいわと身体をくねらせるマダムをアレクシスは眉間にしわを寄せて否定する。
「そんなわけなかろう。マダムが予約客をひとり忘れて飛び出していくから、私が相手をしていたまで……」
「それは悪かったけれど、でもまた会う約束をしちゃったんでしょう?」
目を三日月のように細めたマダムが人差し指でアレクシスをつつく素振りをする。
「それは……思わぬ個人的な事情を聞いてしまったからで、他意はない。国王として民に寄り添いたいと思ったまで……」
語尾を濁したが、マダムは執拗に問い詰める気はないらしく「あらそう」と軽い感じでアレクシスを解放した。
「いいわ、マルグリート様に免じてこのくらいにしておいてあげる。当日は一応アスターに茶を入れさせるわね」
これはレティシアは危険人物ではないかチェックをするという意味だろう。
当然必要な処置だろうと納得したアレクシスは頷いて了承した。