イゼル=レマンの完璧な人生計画 不運な年上騎士と結婚したら想定外の溺愛に困惑しています! 2
「ふえ?」
イゼルが真顔で考え込んだ瞬間、レイスは今まで見た中で一番間の抜けた声と顔を返す。
だが間が抜けていればいるだけ、「ありだな」という気持ちは強まる。
「レイスさんは、今までに三回離婚していますよね」
「まあ、な……」
「どれも、奥さんに逃げられたというのは本当ですか?」
「あっちから出てったのは事実だけど……」
「あと、勃起不全ですよね?」
答えはなかったが、事実だとすぐわかった。
物言わぬレイスの顔は、とんでもなく酸っぱい果実を食べた直後のような、情けないものだったからだ。
「やっぱり、ありですね」
魅力がないイゼルと、欠点が多いレイス。釣り合いがとれるのではと、このときついに気づいてしまったのだ。
そして更にもう一つ、相手にふさわしい点もある。
「レイスさん、来週の五の日はおやすみですよね」
「休みだが」
「よし、結婚しましょう」
「全然『よし』じゃねぇけど!! あとなんで、俺の休みで決めんだよ!」
「教会の予定をキャンセルしないでいいので」
とにかく事情を説明しようと決めて、イゼルは手帳を開き、彼の前に示した。
「私の価値は日々目減りしていますし、子供を作るなら来週の五の曜日までに結婚しなきゃいけないんです。その計画だけはずらせないため、先に教会を押さえました」
「お前さん、本気か?」
「もちろんです。ドレスと会場の手配はすませましたし、遠くにすむ知人には招待状も送りました」
「……これは、本気か」
「相手が決まっていないのでタキシードは用意していませんが、今週末に採寸の予約は入れています」
我ながら完璧な計画だと胸を張れば、レイスの大きな手がイゼルの手と重なる。
突然の触れあいに驚いていると、彼は重ねた手で手帳をパタンと閉じさせた。
「頼むから、人生をそう簡単に決めるな。俺を見りゃわかると思うが、いくら計画通りにしようと思っても、ままならないのが世の常だぞ」
レイスの主張は一理ある。ただ、だからといって素直に納得もできないが。
「簡単ではありません。熟考した結果です」
たしかにレイスという可能性を見つけたのは今この瞬間だが、そこに至る結婚の計画は長い時間をかけて構築したものだ。
故に来週までに結婚することだけは、イゼルの人生において外せない。
「レイスさんに断られても、他の誰かと絶対に結婚します」
これ以上ない相手が浮かんでしまった以上、そのほかの相手は皆同じに見える。実際同じに違いないと直感し、目に入った写真を一枚選ぶ。
「この人とします」
「この男、離婚歴七で賭博趣味のマザコンだが?」
「でも女好きなようなので、私のような相手でも結婚してくださるかと」
「絶対幸せになれないぞ」
確かに、夫としての矜恃を持ってくれるかどうかはわからない。でもそれを言えば、自分だって夫を幸せにできる妻になれる自信はない。
こうして計画を立てているのだって、元はと言えば自分が家庭を持ち、維持することに自信がないからだ。
イゼルは、完璧ではない。
むしろ人としての欠点が多く、普通に生きているだけではよりよい人生など歩めない。
(本当のお母さんに捨てられたのも、きっと私が至らなかったせいだろうし……)
頭をよぎった暗い考えに、ほんのわずかだがイゼルの表情が重くなる。
普通の人にはわからぬ変化だが、わずかに引きつった頬にレイスは気づいたようだ。
「悪い、少し言い過ぎた」
「いえ、事実ですから」
それに……と、イゼルは慌てて表情を元に戻す。
「幸せになれないのも織り込み済みです。最悪な夫に嫁いでしまったときの計画書も、制作しました」
「最悪じゃない夫を探す、という選択肢は?」
「ないですね。来週はもう結婚しますし」
あと、諸々の支払いも終わっているのでと言うと、レイスが大きく肩を落とす。
「……こんなことなら、もっと早く覚悟決めとくんだった」
ため息と共にこぼれた言葉は小さくて、よく聞き取れない。
(でももしかして、断りの文句だった?)
誰でも良いと言っていたくせに、彼が断るかもしれないと思っただけで、なぜか胸が不快に騒ぐ。
「やっぱり、嫌ですか?」
重なったままの手をギュッと握ると、レイスがようやく顔を上げた。
「その言葉、そっくりそのままお前さんに返すよ。俺は不運しか取り柄のない男だが、いいのか?」
「取り柄、もっとたくさんあると思います」
それに運が悪いところも、イゼルは嫌いではない。
「どんなにひどい目に遭っても、絶対に仕事を遂行するところ、尊敬しています」
彼は英雄で、運さえあれば今頃騎士団長にだってなれていた人だ。
なのにおごることもなく、困っている人がいれば、分け隔てなく手を差し伸べる。
だからみんなから頼りにされ、ニワトリの捕獲のような雑事さえ気軽に頼まれるのだ。
そして当人も、絶対にひどい目に遭うとわかっていながら「まあ、どうせやってもやらなくてもひどいことになるからな」などと笑って引き受けてしまう。
そういう彼の明るさと前向きさに、イゼルも昔助けられたことがある。
「私には断る理由がひとつもありません」
「でも、なにか懸念のひとつくらいはあるだろう」
教えて欲しいと訴える眼差しに、イゼルは少し考え込む。
「強いて言うなら、実家を出ることが少し不安です」
「俺への懸念じゃないのか」
「先ほども言いましたが、レイスさんは相手として完璧です」
なので唯一あるのは、生活環境の変化くらいである。
「ずっと実家暮らしでしたし、枕を変えると眠れないたちなので」
あと、誰よりも仲が良い母や兄たちと喋る機会が減ってしまうのは寂しい。
実際それが嫌だから、王都暮らしの独身貴族を結婚相手の条件に入れていたくらいだ。
そんなことを言えば、レイスがふっと優しく笑う。
「お前さんは、家族が本当に大好きだな」
「大好きです」
だからこそ、家族が誇れる自分になれるようにとイゼルは日々努力している。
「適切な時期に結婚し、家族を喜ばせ、可能なら母に孫を見せてあげたいんです」
「心がけは良いが、相手が俺じゃ逆に嫌がらないか?」
レイスは苦笑するが、むしろ喜ぶだろうとイゼルは思っている。
「大丈夫ですよ。母はもちろん、特にブライト兄様とか泣いて喜ぶと思います」
「同い年の男がいきなり『妹と結婚する』とか言い出したら、俺なら殴るけどな」
たぶん一発ではすまないだろうとレイスが言ったとき、不意に背後でドサッと妙な音がする。
「おいっ、今結婚って言ったか!?」
振り返ると、そこにいたのは今し方話題に出ていたイゼルの兄ブライトだった。
落としたのは昼食のサンドイッチが入った袋のようだが、拾い上げる気配はない。
それどころか、彼が最初に掴んだのは、袋ではなくイゼルの肩だ。
「イゼル、今結婚がどうのと、話していなかった?」
「はい。レイスさんと結婚の話をしていました」
「結婚って、まさかお前……」
「兄様喜んでください。レイスさんが私と結婚してくれることになりました」
てっきり泣いて喜ばれるかと思ったのに、次の瞬間レイスの身体が勢いよく吹き飛ぶ。
「お前、やっぱり俺の妹をおおおおおおお!」
ブライトの突き出された拳を見た限り、レイスは本当に殴られたらしい。
「……だから、言っただろうが……」
ぐったりしているレイスに、ブライトが更に馬乗りになる。
止めた方が良いかと思いつつ、手を出さなかったのはあえて殴られていると気づいたからだ。これは多分、威力もちゃんと殺している。
(黒獅子とまで呼ばれているレイスさんが、ボコボコにされるわけないか)
ニワトリと猫にはボロボロにされても、対人にはめっぽう強いレイスである。
故にイゼルは「これなら大丈夫だ」と判断を下した。
(結婚できる……レイスさんと……)
そして式の予定も延期しなくてすむ。
兄の怒号も耳に入らず、イゼルはいつになくウキウキと心を跳ねさせていた。
そして結婚の準備をするためにも、まず目の前の仕事を片付けようと机に戻ったのだった。
◇◇◇ ◇◇◇
レイス=ヴァルツの人生は『不運』の連続だった。
すべての始まりは、まさに生まれたその瞬間。
レイスは一度、その命を落としかけた。かろうじて息を吹き返したが、あと少し遅ければ墓に入れられていただろう。
そんな出生にもかかわらずレイスは健康に育ったが、逆にそれを気味悪がられ、故郷の古い言葉で亡霊を表すレイスという名前をつけられた。
そして不吉な名前のせいか、レイスはとにかく運が悪い。
死にかけた赤子は縁起が悪いと家族から愛されず、わずか四つで奉公に出されたときには、自分は幸運の星に見放されているのだと確信していた。
とはいえ欠片も運がないというわけではない。むしろ『後の不運につながる幸運』には、見舞われることがある。
レイスの人生における数少ない幸運の一つは、奉公先が騎士の名家ヴァルツ伯爵家であったこと。
そしてそこで天賦の才を見いだされて、ヴァルツ伯爵の養子になれたことだ。
特にレイスの才能を生かそうと尽力してくれた義父との出会いは、レイスの人生に大きな意味を与えた。
ただその幸運も、相対的に見れば不運の始まりにすぎない。
義父のすすめもあり、レイスは十歳で士官学校に入った。だがその翌月に、海の向こうの帝国が侵略を始め、子供にもかかわらず彼は前線に送られたのだ。
当時、ヴィルガータを中心としたタルガ大陸の国々にとって、破格の軍事力を持つ西方の帝国は脅威であった。
侵略が本格化すれば帝国に蹂躙される未来しかない。
故に大陸の国々は手を取り、連合国軍を作ることとなったのである。
ヴァルツ伯爵家はそれを率いる立場にあったため、養子となったレイスも戦場に駆り出された。
死を回避する運だけはあったが、裏を返せば生きている限り戦場からは帰れない。
結果、それから約十年もの間、レイスは歴史に名を残すこととなる激戦区を渡り歩く羽目になった。
そこで手柄を立て、戦争が終わった頃には多くの名誉も得たが、それもまた苦労の種となるという生粋の不運さだった。
『武勲をいくら立てても、卑しい出自の者を英雄とは呼ばぬ』
長い戦争がようやく終わり、戦場から帰ってきたレイスを迎えたのは、家族の冷遇だったのだ。
元々レイスを養子にすることを、家族の殆どが反対していた。
義理の父だけは『この子は我が家に名誉をもたらす』と確信していたが、その父は戦争で亡くなり、家督を継いだ一番上の兄は特にレイスを疎ましく思っていたのだ。
六人いる子供たちの誰も、レイスほどの武勲を上げることができず、むしろ期待外れだと周囲から言われていたことも我慢ならなかったようだ。
結果レイスへの妬みをつのらせた兄たちは結託し、ようやく戦場から帰ってきた末の弟を冷遇した。
家に居場所がないだけなら良いが、騎士団にさえ就職できなかったのは困った。
連合軍解体と共にヴィルガータの騎士団が新設され、戦争で手柄を上げた騎士たちはそこに所属できるはずだったのに、上層部に兄たちがついたことが災いし、戦争の英雄ながらレイスにふさわしい席が用意されなかったのである。
『お前の仕事はない』と言われたときの衝撃と脱力感を、レイスは未だ忘れられない。
英雄とまで呼ばれたのに、いきなり無職である。
自分の不運は永遠に続くのだと、レイスが完全に人生を諦めたのもこの頃だ。
未来への期待を捨て、起きたことに抗うのはやめ、流れるまま、生きているだけ幸せだと思おう。
英雄とまで呼ばれた男が至った結論は、あまりにも寂しいものだった。
そうして無職を受け入れたものの、戦場とは真逆の生活に慣れるのも容易ではない。
戦争での功績を称えられ、多額の報奨金をもらったので働く必要はなかったものの、やることがないのは大変落ち着かない。
更にその時期、レイスは一度目の離婚を経験した。
そしてそれを、家族から揶揄され、肩身も狭くなった。
『仕事も家族もないままフラフラしているのは外聞が悪い』と言われたときは腹が立ったが、抗ったところでまた何か違う不運に見舞われるだけだと思ったレイスは、理不尽さえも受け入れたのだ。
見かねた友人のブライトが助け船を出してくれなければ、今もレイスは無職だったかもしれない。
ブライトの働きかけにより、レイスの不遇は王に伝えられ、結果『獅子侯爵』の爵位を得ることでレイスは事実上ヴァルツ家との縁を切った。
そして末端ではあるが騎士団に所属が決まり、無事無職を脱却したのである。
ただそれもまた兄たちは面白くなかったようで、常日頃から嫌がらせは絶えず、レイスの身分は小隊の隊長に留まっている。
レイス自身はもはや何かに期待することはやめていたので、「仕事につけただけいい!」と本気で喜んだ。
しかしレイスが受け入れても、周りの者たちはそうはいかない。
騎士団の中にはヴィルガータの黒獅子を英雄視し、神のように敬う者も多くいたのである。
英雄であるレイスが小隊長なのはおかしいと言う者と、出世させたくない者の間で板挟みになり、その後三年ほど、レイスは人生の中で一番胃が痛い日々を過ごした。
ちなみに何度か昇進試験を受ける機会は得たが、試験の日はほぼ確実に病気の老人と鉢合わせするため、会場に着くことさえできないという有様である。
そんな何をやっても上手くいかないレイスは、もちろん私生活も散々だった。
特に散々だったのは、結婚だ。「お前には慰めが必要だ!」と言い出したブライトが強引に見つけてきた相手と二度目の結婚をしたが、わずか二日で妻が去るという結末に終わった。
どうやら、結婚前から愛し合っていた男がいたらしく、「あなたは優しいけど、私にはあの人だけなの!」と言って出て行ったのである。
結婚したからには、愛し愛されるようになりたいと思っていたのに、実行する間もなく逃げられたときは、もはや笑うしかなかった。
そうして仕事でも私生活でもろくな目に遭わない日々の中、まったく同じ流れでもう一度結婚と離婚をくり返した。
違うのは、妻が出て行くまでが二日から三日に延びたことくらいである。
でもやはり次の妻も別に恋人がおり、「あなたは優しいけど、私にはふさわしくないの!」などと言われて去られた。まるで悲劇のヒロインだった。
四度目の見合いの話は、さすがに断った。
自分もブライトも女を見る目がないと察したのである。
そんなくり返しの中、「すぐ離婚するのはレイスに原因がある」と言われるのも無理からぬことだろう。
面倒だったので詳しい回答を控えているうち、気がつけば「勃起不全」という根も葉もない噂が真実のように広がってしまった。
それを否定したら、今度はもっとひどい誹謗中傷を受けかねないのは、これまでの人生が物語っている。
だから噂を否定することもなく、むしろ結婚話が来なくなるため、勃起不全上等だと思っていたくらいだ。
──そしてそんな頃、レイスはイゼルと出会ったのである。
(勃起不全上等だと思っていた自分を、殴ってやりてぇな)
あの噂を否定していれば、こんなとんでもない状況にはなっていなかっただろうとレイスはため息をこぼす。
ブライトに散々殴られた後、ようやく手渡された氷嚢をレイスは顔に当てていた。
「おいっ、俺の話を聞いてるのか!? 俺が妹を託したのは、手を出さないと思ったからだぞ!」
一旦落ち着いたかに見えたが、今もまだブライトはグチグチと文句を言っている。
「まだ手は出してねぇだろ」
「まだ!?」
殴られた頬を冷やすための氷嚢を奪い、ブライトがレイスを睨む。
そんなやりとりの間も、机にかじりついて仕事をしているイゼルはこちらにまったく注意を払っていない。
(週の三日目だから仕方ないか……)
イゼルはとんでもなく真面目で、今日の仕事は今日中に終わらせる、という確固たる意志が働くと、相棒であるレイスのことさえ目に入らないのはざらだ。
そんなイゼルを変人だと揶揄する者もいるが、絶対に仕事の手を抜かず、日々きっちりと職務をこなす彼女を、レイスは好ましく思っていた。
(まあ、今みたいなときはもう少し構って欲しいが……)
そんなことを考えていると、氷嚢で頭をバシッとはたかれる。
「妹に、卑しい目を向けるな」
「普通に見ていただけだし、けが人は労れよ」
「ケガをするほどは、殴ってない」
「ニワトリと猫のせいで、殴られる前から重症だったんだよ!」
「ヴィルガータの黒獅子がなんてざまだ」
「その言葉、今のお前にそっくりお返ししてやるよ」
先ほどまでは怒り心頭だったブライトだが、ふと見れば、厳つい顔からチラリと覗く瞳に涙がたまっている。
「泣くほど、俺が弟になるのが嫌か?」
「お前が相手だと思うと心中は複雑だが、これはうれし涙だ。あの子がようやく相手を見つけたと思うと、突然感動してきた」
絶対に、とんでもない男を紹介しに来ると思ったのに! などと鼻を啜り出した友から氷嚢を奪い返し、レイスはため息をつく。
「イゼルの結婚に関して、俺たち家族がどれほど心配したかわかるか!? どれだけ止めても、来週までに結婚すると言って聞かず、とんでもない相手と見合いしまくる妹だぞ!」
イゼルを知る者としては、ブライトの心中を察するのはむしろ容易だった。
「やむなく、見合いが破談になるように裏で手を尽くしてきたが、それもいつバレるかとヒヤヒヤしていたのだ」
声を潜めながら、ブライトは涙を拭う。その様子を見て、レイスはこれまでなかなか結婚相手が見つからなかった理由を、正しく理解した。
「見合いがたち消えになるのは、お前のせいか」
普通に考えれば、家族とは言えひどい仕打ちだ。
だがレイスでさえ心配していたのだから、ブライトや家族がどれほど不安を抱いていたかはわかるし、咎める気持ちにはなれない。
何せイゼルは無意識に自分を卑下し、結婚を打診するのはろくでなしばかりである。
「俺たちの話を聞かないし、『それ以上結婚に反対するなら、兄様を嫌いになります』などと言われたら、もうっ……もう……っ!」
シスコンであるブライトにとっては、きっと死の宣告に等しい言葉だったに違いない。
「だから家族皆で協力し、なんとか結婚させない方法を探していたんだが……」
ブライトは、改まった顔でレイスを見つめる。
「複雑な気持ちもあるが、よくよく考えればこれ以上ない選択だ。お前は、運以外は金も名誉も甲斐性もある」
「その運のなさが、大問題なんだが?」
「まあその点については、大いに不安だ」
ブライトは、正直だった。
「だが、可愛い妹の夫になれるなんてこれ以上ない幸運だ! それを掴んだんだから、人生が上向くかもしれないぞ」
シスコンらしい大げさな言葉だが、不思議とレイスは「なるほど」と思ってしまった。
「それにお前は、運がないことを受け入れすぎだ。抗ってみれば、意外と幸運の星が輝くかもしれない」
「さすがに、そこまで上手くいくとは思えんがね」
「いくさ。我が家は結婚すると運が上向くとされている。そしてお前もイゼルと結婚するならレマン家の一員となる」
そう言うと、ブライトがおずおずと拳を突き出す。
「お前を殴った手だが、兄の手だと思ってくれるか?」
「今後、二度と俺を殴らないなら」
「約束はしない。イゼルを泣かせれば、今日の五倍殴る」
返事に苦笑していると、半ば強引にレイスの拳に拳をたたきつける。
(まあ、何かあったとき泣くのは俺の方だろうけどな)
これまでの結婚は、すべてあっけなく終わりを迎えた。
生真面目なイゼルが別の恋人を作るというのは考えづらいが、この結婚も長くは続かないだろうと思っている。
そしてそうなったとき、自分は少なからず悲しむだろう。
表には出してこなかったが、イゼルに抱く感情は友情だけではない。
だからこそ、レイスは結婚の話を受け入れたのだ。
ただ自分にどんな気持ちがあろうとも、不運は突然やってくる。
そんな人生に疲れ果てていたレイスは、遅かれ早かれくるであろう「離婚」の二文字を意識せざるを得なかった。